軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カツ丼くうか? 3

「ディスマイヤ、カイン。あなたたちもお座りなさい」

王妃殿下からそう命じられ、カインはなぜか王妃殿下の隣に座らされた。ディスマイヤは扉を背にして一人用のソファーに座っている。

「たくさん話して、喉が渇きましたわ」

「侍女を置いて来たのは王妃殿下でしょう」

王妃がお茶を所望し、淹れる人がいないとディスマイヤが呆れ顔で答えた。マクシミリアンが腰を浮かせて「じゃあ私が……」といったのだが、「あなたは座っていなさい」と王妃に叱られた。

「はなし疲れてしまったわね。ディスマイヤ、あとはあなたが話を進めてくださるかしら」

「……」

ディスマイヤは「はぁ」とわざとらしくため息をつくと、座ったばかりのソファーに深く座り直し、脚を組んでその上に組んだ手をおいた。

「マクシミリアン・サージェスタ。君の罪深さは先程王妃殿下がおっしゃったとおりだ」

「……」

ディスマイヤの言葉に、マクシミリアンはもう言葉がでないようだった。姿勢を正して座っているが、目線はテーブルの何もないところを見つめている。

「君を処刑し、サージェスタ侯爵家を降爵もしくは廃爵にする。そういう処分を実際にした場合にどんなことが起こるかわかるかね」

「父上や家族に……迷惑がかかります」

ディスマイヤの問いかけに、マクシミリアンが元気のない声で答えた。目線は相変わらずテーブルの上にあり、会話の相手と目を合わせる気力はないようだった。

「マクシミリアン。君は、サージェスタ侯爵子息とはいうが現当主はまだ君のお祖父様だね」

「はい」

「サージェスタ家は元老院七家ではないが、由緒ある古き家系であるし西南の国境に接する辺境地を領地として保有している。ここは、君のお父様であるサージェスタ子爵が現在取り仕切っているね」

「あ!」

「なんだい、カイン」

「あ、いいえ何でもありません」

カインは慌てて手で口を塞ぐと、ブンブンと首を横に振った。

貴族の家では、複数の爵位を持つ家というのがまれにある。特に、古くからある家に多い。過去に叙爵に値する功績があったり、爵位持ちの家が没落するときに吸収していたりすると複数爵位を持っていたりする。

エルグランダーク家も、公爵と侯爵と子爵を持っていて、現在はディスマイヤが公爵で、弟のエクスマクスが子爵である。カインも成人後は公爵を継ぐまでは侯爵の肩書をもらう予定になっている。エクスマクスの子爵位はそのままキールズが受け継ぎ、それ以降はエルグランダーク子爵家として分家として独立する事になるだろう。

ちなみに、爵位をたくさん持っていればその分貴族税を払わなくてはならないので、ディスマイヤは常々侯爵いらないんだがなぁとこぼしている。

マクシミリアンが登場してから、カインが疑問に思っていた「マクシミリアンの爵位がゲームと違う」疑問がここで解決した。サージェスタは家としては侯爵家だが、現当主が祖父で、マクシミリアンの父親がまだ子爵ということであれば、マクシミリアンは「子爵家の三男」で間違いないのだ。

思わず声を上げてしまったカインを訝しげに見ながらも、なんでもないと言われてマクシミリアンに視線をもどしたディスマイヤ。

「君の上のお兄さんは現在アイスティア領の実質管理をしている。こちらは、現領主が退かれたあとはそのままお兄さんが引き継ぐことになっているのは知っていたかね」

「……いいえ。知りませんでした」

アイスティアといえば、王兄殿下の隠遁地である。ティアニア様を幸せにする会でティルノーア先生から教えてもらった話で、確かにサージェスタ家が管理運営していると言っていた。しかし、王兄殿下が引退したらサージェスタ家がそのまま引き継ぐというのはあまりにも破格な待遇な気もした。

「では、その際に兄君には新たに伯爵の爵位が与えられる約束になっているということも知らないのだろうね」

「そんな話が?」

マクシミリアンが驚いて目を開いている。それはそうだろう。

祖父が侯爵で父が子爵ということは、爵位を二つ持っている家ということだ。それとは別に兄が伯爵の位をもらう予定ということであれば、何もしなければいずれマクシミリアンにも子爵の爵位が巡ってくる可能性があったのだ。

兄のスキャンダルを暴いて失脚させる必要なんかなかったことになる。……子爵位の分家を作る気が当主になければ、爵位をもらえないという可能性もあるが、身内を失脚させるよりは「子爵ください!」とアピールするほうが健全である。

「そんな……」

「ご当主やお父上から、そういった話は聞いていなかったかね?」

「……聞いていなかったと……思います」

マクシミリアンの声が震えている。

うつむいて、小さな声で答えるマクシミリアンを困った顔で眺めながらディスマイヤは聞こえないようにゆっくりと息を吐き出していた。本当は盛大にため息を吐きたいところだろう。

「まぁいい。サージェスタ侯爵家は歴史の古い家で、過去の王家への貢献度は計り知れない。現侯爵は王宮で財務省の顧問をなさっておいでだし、子爵は国境に接する領地を順調に運営なさっておられる。長兄はアイスティアの実質的な運営をまかされていて、まずまずな成果をあげていると聞いている」

ディスマイヤが、指を折りながらサージェスタ家の現状を告げていく。

「現当主、つまり君のお祖父様のお母様は当時の第三王女殿下だ。それは知っていたかね?」

「それは、はい。知っています。お祖父様がいつも言い聞かせてきましたので」

サージェスタ侯爵がマクシミリアンの祖父で、そのお母さんが王女様ということは、マクシミリアンの曾祖母が元王族ということである。侯爵家へ降嫁されたということだ。

ディスマイヤの問いに、今度は肯定するマクシミリアンだ。マクシミリアンの返事をうけて、ディスマイヤも頷く。

「王家の縁戚にあたり、王兄殿下の実質上の後見もしていて、国境を接する領地を持っている。さらに、今は外交的にも内政的にも平和な時代であるといえる」

「今の所、王家の跡継ぎはアルンディラーノしか居ないから派閥による表立った争いもないわ。……まぁ、仲の悪いお家同士なんかは、あるけれどもね。陛下が即位される前にくらべたらとても平和だわ」

ディスマイヤの「平和」という言葉に続いて、王妃殿下も平和であることを重ねて言葉にした。隣に座るアルンディラーノの頭をゆっくりとなでながら。

「軽い怪我人ぐらいしか出ていなくって、表立っては『兄の恋人を取り戻しに来た』という理由があったと言われてしまえば、重い処罰は却って王家の威信を傷つけかねないのよね。困ったことだわ」

「古い家だけあってサージェスタ家を頼りにしている中位下位の貴族も多い。爵位が低くとも、数多くの家からの反感を買うのはあまり得策とは言えない」

「そもそも、あの子たちがここにいることは内密なのよね。居ない子をさらいに来たと言われても困ってしまうわ」

なんとなく、お咎めなしか?という空気が流れ始める。カインは、なるべく表情を変えないように、父の顔も王妃の顔も見ないようにまっすぐ前を向いていた。向かいのソファーに座っているマクシミリアンは、顔を上げて少し希望を持つような表情をしていた。

「かといって、我が領城を壊されているし、うちの子に怖い思いもさせている。結果として怪我がなかったとはいえ、カインもディアーナも怪我をしていたかもしれないんだ。お咎めなしというわけにはいかない」

「居ないはずの子がここに居たという事を知っていることが、そもそもまずいのよねぇ。どうしましょう?」

「そもそも、サージェスタ家のご子息がここに来なかった。そんな存在は 居(・) な(・) か(・) っ(・) た(・) ということにしてはどうだろうか」

「そうね。お兄様の想い人がそもそもここには居ないのだもの。ここに来るはずがないのよね。そんな人は居なかった事にするのが一番かんたんかしら?」

「ひっ」

ディスマイヤと王妃殿下が、交互にマクシミリアンを居なかったことにしようかと言い出した。それを受けて、一度は希望を持ったマクシミリアンの顔がまた真っ青になっていく。

先程、サージェスタ家と揉めるのはよろしくないと話をしていたばかりなので、そんな野蛮な事をするわけないというのはすぐにわかる。これはディスマイヤと王妃殿下がそろってマクシミリアンを脅しているだけであるとわかりそうなものなのだが、マクシミリアンは気づいていないのかどんどん顔色が悪くなっていく。

「貴族子息はいるか? と聞いたときに君以外だれも手を挙げなかったがね、どうせサージェスタ家に連なる子爵家だの男爵家だのの子息たちだろう。それらに対しても同じように罰していたらリムートブレイクの貴族家が半分になってしまうよ」

ディスマイヤはそういうと、片手で顔をおおうと「あーやだやだ」と愚痴めいた口調で言ってため息を吐いた。

王妃殿下も閉じていた扇を再度広げて、口元を隠すと目を細めて「やだやだ」と呆れたような口調で言った。

「えーと。母上? つまりどうなさるのですか?」

なんとなく、大人二人から投げやりな空気が出てきたことで発言しやすくなったのか、アルンディラーノが王妃の顔をみあげながら口を開いた。

扇で口元を隠したまま、王妃はアルンディラーノの方に顔をむけるとにこりと微笑んだ。

「各方面との調整が必要なので今すぐには決められないけれども、ただでは済まされないわよ、ということですよ、アルンディラーノ」

「……ただではすまされない」

アルンディラーノは真剣な顔をして復唱したが、結局どういうことなのかわかっていないようだった。

カインがちらりと向かいのソファーを見れば、「ただではすまされない…」とマクシミリアンも復唱しながら顔を真っ青にしていたのだった。