軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こんなにちっちゃいのに爪とかちゃんと生えてるとか奇跡じゃない?

カインとディアーナが場所を開けて、かわりにキールズとコーディリアがゆりかごを覗き込む。「わぁ」とか「ちっちゃーい」とかをささやくような小声でいいながら、一通り眺めると起こさないようにそっとゆりかごから離れた。

「一応、ティルノーア様が天蓋の回りに防音魔法をかけてくださっていますのでゆりかごから離れれば多少の音は赤ん坊たちには届きません。ですが、大騒ぎすれば雰囲気は伝わりますからね。なるべくお静かに」

エルグランダークの子ども四人はゆりかごから離れたが、アルンディラーノがまだ天蓋の中でゆりかごの中を覗き込んでいた。

困った顔で振り向いて、助けを求めるように口をパクパクと動かしていたのでカインが様子を見に行けば、人差し指が小さな手にギュッと握りしめられていた。

「剥がせばいいじゃないですか。起こさないように、そっとですよ」

「やだやだこわい。こんなちいさいの剥がしたら壊れちゃうよ!」

カインはニッコリと微笑んで、さわさわとアルンディラーノの頭をなでるとその場を離れてイルヴァレーノに何事かを言いつけた。

イルヴァレーノが椅子を持ってアルンディラーノに声をかけるのを見守ったあと、カインは乳母と何某か相談をしているアルディに声をかけた。

「ティアニア様の、ご実母はどちらにいらっしゃいますか?」

「……カイン」

アルディが困ったような顔をした。片手で頬を支えるようなポーズをとって眉尻をさげてみせる。

「ちょっと、お顔に怪我をされていてね。女の子だし、あまり人に見せたくないと思うの。手当はしているし、もう少し時間を置いてから紹介したいと思うのだけどいいかしら?」

アルディがそう言って、すっとカインの右前に立った。

カインは、そもそも実母は来ていない可能性もあると考えていた。しかし、今の言い方なら城に来ているのは確実で、その上であまり人前に出したくない状態のようだということがわかる。

本当に怪我をしてしまっているのか、実母から情報が漏れるのを嫌っての方便なのか。

「イルヴァレーノ、ちょっとこっち」

カインは、後ろに控えていたイルヴァレーノを手招きした。目線でいいか? 問うと、イルヴァレーノは静かに頷いた。

「叔母様。イルヴァレーノは治癒魔法が使えます。女性が顔に怪我をしているのなら痕が残っては大変です。治療させてもらえませんか?」

「あらあら……。そうなの?」

目を少しひらいて、アルディがイルヴァレーノを見る。イルヴァレーノは今度はアルディに向かって静かに頷いた。

「そうね……。では、ひとまずカインとイルヴァレーノだけね。カインは部屋に入った所で一旦待機よ」

「はい」

アルディは、ゆりかごの右奥にある扉まで歩いて静かに戸を開けると、一旦カインとイルヴァレーノをその場に残して入っていった。

先程、立ち位置をかえてカインの視線から隠した場所に扉はあった。無意識か意識的にかはわからないが、カインから彼女を隠したかったのだろう。

「今は落ち着いているから、入っていいわ」

もう一度戸が開いて、顔だけぴょこっと出したアルディが手招きをする。カインとイルヴァレーノが入っていくと、カインはアルディに手振りでその場待機を命じられた。

ティアニアの大きさからして、産後からそれほど日を置いていないうちに移動したんだと思われた。カインは、無茶な移動日程に若干胸がムカムカしたのだが、おそらくその為にティルノーアが連れてこられていたんだろうと想像できた。

赤ん坊の方は、馬車の揺れや気温や騒音からティルノーアの魔法で守ったのかもしれないが、母親の方までもしかして気が回っておらず、体調を崩していたのかもしれない。

そうであれば、他人と顔をあわせるのは辛いのかも知れなかった。

「リベルティ。治癒魔法が使える人がいるのだけど、その傷をみてもらいましょう?」

部屋の中ほどに、衝立が立てられていた。リベルティと呼ばれた人はその向こうに居るらしかった。アルディが衝立の向こうを覗き込みながら声をかけている。イルヴァレーノはその後ろに立っていたのだが。

「リベルティ?」

とつぶやいて、首をかしげた。

アルディがいくつかの言葉を交わしたあと、衝立の隣から一歩さがって道を開けた。

「イルヴァレーノ、お願いするわね」

「はい、ご期待に添えるといいのですが」

アルディと衝立の間をするりと抜けて、イルヴァレーノが衝立の向こうに消えていく。カインは、ティアニアを王家の子として引き取って育てる事になった経緯を知りたくて彼女に会いたいと申し出たものの、調子が悪いようならまたにしてもらってもいいかと考えていた。

そんな、考え事をしていたカインの耳に、すこし高い女性の声が飛び込んできた。

「イル坊!? もしかして、イル坊なの?」

「……リベルティ姉ちゃん……」

「その、赤い髪! 泣き虫みたいにタレた赤い目! イル坊なのね?」

「……泣き虫じゃない」

「ああ、大きくなって。こっちおいで、イル坊、ほら、よしよしよしよしよし」

「やめて。……やめてよ!」

産後間もない馬車移動や、色々諸々な事情から体力や精神的疲労を考慮して遠慮しておこうと思っていたカインだが。

なんだかとっても衝立の向こうが見たくて仕方がなくなってきた。