軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おしゃれなディアーナ

ネルグランディ城の庭にテーブルとパラソルが用意され、お茶会の準備が滞りなく整った。

客人が来てから運び込まれる予定のティーワゴンにボウルを用意し、カインが魔法でゴロゴロと氷を作って入れていく。

「お茶を濃い目に出して、氷を一杯いれたグラスに注いでください。冷静なお話し合いをしたいので、冷たいお茶を出したほうがいいかなって」

「まぁまぁ。カイン様は風と水の複合まで修めてらっしゃるのですか」

厨房の軽食係のメイドに冷茶のお願いをして、ペコリと頭を下げて一度城に戻るカイン。

非公式でほぼ身内でのお茶会だが、アーニーにプレッシャーをかけるためにもカインは半礼装といえる服に着替えていた。自分の着替えは一着しか無いので、キールズのお下がりだが。

アーニーが来ましたよという声が掛かるまで、玄関ホールをプラプラ歩く。二階までの吹き抜けになっているホールの高い壁には、歴代のエルグランダーク公爵家当主の絵が掛かっている。一番新しいのは父であるディスマイヤの絵で、並んでいる絵のなかで飛び抜けて若い。

カインは曽祖父には一度だけ会ったことがあるが、祖父母はカインの生まれる前に儚くなっているので会ったことがない。

祖父母は、父ディスマイヤと母エリゼの結婚と前後した時期に亡くなったと誰かから聞いた覚えがある。誰だったかは忘れたが、父や母から直接聞いたのではなかったと思う。

若くして公爵を継ぐことになって、父は苦労したのだとその時に合わせて聞かされた。

曽祖父はまだ生きていて、領地のどっかにいるらしい。叔父も「爺さんは何処にいるかわからんが、領民から生存報告が上がってくるからまぁ生きてるんだろ」と言っていた。たくましい爺さんだ。

壁に掛かっている曽祖父の絵は、父よりは叔父に似ていた。がっしりとした肉体派といえる体つきだ。

「いつか、カイン様もここに並ぶんですね」

「どうだろうね。平民と恋に落ちて駆け落ちするかも知れないよ?」

後ろについて歩いていたイルヴァレーノが一緒に絵画をみながら言うのに対して、カインは自分にしかわからない冗談を言ってみた。

ゲームのド魔学でのカインルートのエンディングである。

振り向いて、自虐的な笑顔をみせたカインにイルヴァレーノが眉をひそめた。

「お兄様!準備ができました〜」

玄関ホールの階上の手すりから身を乗り出してディアーナが手を振っている。後ろから来たサッシャに注意されて、いったんさがってディアーナの姿が見えなくなった。その後、階段の上に現れたディアーナを見てカインは膝から崩れ落ちた。

お茶会用にフリルが多めのワンピースに着替えたディアーナは、外でのお茶会ということでワンピースとおそろいのボンネット帽をかぶっている。

いつもどおりに可愛いディアーナだが、カインがショックを受けたのは別のところにあった。

ディアーナの髪が巻かれているのだ。サラサラまっすぐストレートヘアで、毛先だけすこし巻いていたディアーナの髪の毛が、肩の高さからくるりくるりと巻かれているのだ。

(ゲームパッケージのディアーナだ!!まだちょっと小さいし幼い顔だけど、アレはゲームパッケージのディアーナだ!!!)

階段をタンタンとリズミカルに降りてくるディアーナの、巻き髪がリズムに合わせてポンポンと跳ねて揺れる。

可愛く着飾ったのを、カインに褒めてもらおうと満面の笑みで駆け寄ってくる。両手を前にのばして、カインに手を取ってもらおうと寄ってくる。

よろよろと立ち上がり、駆け寄ってきたディアーナを受け止めるカイン。ディアーナの両手を取り、膝をついて目線を合わせて笑ってみせる。

「素敵だよディアーナ。まるでお姫様みたいだ」

「サッシャがね、髪の毛くるくるにしてくれたの。可愛い?」

カインはディアーナの手を持ち上げて軽く唇を当てると、髪の毛を一房とってそちらにも口を寄せる。

きっちり巻かれて癖がついている髪は、持ち上げて、そして落としたぐらいではびくともしなかった。

「可愛いよ。とっても可愛いね。歩くたびにポンポンと揺れるのも楽しそうで良いね」

「そうなの!歩くとね、揺れるの!」

ディアーナが目の前でくるりと一回転してみせる。巻かれて塊になっている髪の毛は、サラサラの時とはまた違う動きで広がって体に付いていく。ニコーっと笑ってみせるディアーナに、カインはぎゅうと抱きついた。

「可愛い可愛い。ディアーナは可愛い良い子だね。大丈夫。とっても可愛いよ」

「お兄様もかっこいいよ!」

ボンネットをかぶっているので頭の天辺は撫でられない。後頭からなでて、手で髪を梳こうとして巻いているんだったと思いだして手を離した。

その時、玄関からお茶会の配膳をお願いしてたメイドが声を掛けてきた。

「アーニー様がいらっしゃいました」

「わかりました。ありがとう」

カインは立ち上がって、ディアーナの肩をポンポンと優しく叩くとニコリと笑ってみせた。

「さ、行こうか。世を忍ぶ仮の姿で行くんだよ。大丈夫?」

「まかせて!」

フンムー!と鼻息荒くディアーナが請け負うのをみて、カインは苦笑した。

「カイン、私もいるの忘れないでほしいのだけど」

「もちろん、コーディリアも可愛いよ。そのレースたっぷりのワンピースドレスとっても似合ってる。サイドに流したヘアスタイルも良いね。お嬢様っぽさ百億倍だよ」

「いつもがお嬢様っぽくないみたいじゃないの、その言い方」

「あはははー」

「ひどいお兄さんは置いていこ、ディアーナ」

「コーディ可愛いよ?」

「ありがとう、ディアーナも可愛いよ」

女の子二人が先行して玄関ドアへと向かって歩き出した。カインが小さくため息を吐いてその後を追いかけようとした。

「大丈夫か?」

カインの腕を掴んで、イルヴァレーノが声をかける。その顔は真剣だった。カインは「なにが?」とごまかそうとして笑ってみせたが、イルヴァレーノは誤魔化されなかった。

「見たこと無い髪型でディアーナ様が現れて、お前の態度があんなもんで済むわけがないだろ。初めて見る服を着てるディアーナ様を見たお前が、あんな程度の感動で済むわけがないだろ。体調が悪いんじゃないのか?」

さすが付き合いが長いだけのことはあるなと感心したカインだが、自分に対するこの評価はちょっとどうだろうかと苦笑するしかなかった。