軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恐竜の咆哮と天使のおねだり

イルヴァレーノがカインの侍従になってから半年ほどが過ぎた。その間にそれぞれが誕生日を迎え、カインとイルヴァレーノは7歳。ディアーナは4歳になっていた。

「ぎゃわああああああ」

恐竜の遠吠えみたいな泣き声が廊下に突然響き渡った。

ディアーナの声だ。

カインは家庭教師に断りをいれて廊下に顔を出すと、火が付いたように泣いているディアーナと、困り顔でおろおろしているハウスメイドが立っているのが見えた。

「どうしたの?」

「デリナが羽ペンくれないー!!!」

「羽ペン?」

そばまで行って、ハウスメイドに話を聞こうとするとメイドが口を開く前にディアーナが訴えかけて来た。

見れば、ハウスメイドのデリナの手にはきれいな青い羽を使った羽ペンが握られていた。

どうも、ディアーナが欲しがったがデリナが断ったようだ。

「デリナ。それは大事なもの?」

見上げながら聞けば、コクコクと頭を上下に振ってこたえる。ディアーナを泣かせてしまったせいか顔が真っ青になってしまっていた。

大事なものを無理やり取り上げるようなことはしたくないし、それはしてはいけない事だとディアーナに教えないといけない。

ディアーナを悪役令嬢にしないためにも、ちゃんと理屈から理解してもらわないといけないとカインは考えた。

「…デリナ、それはどこで買えるのか教えてくれないだろうか?」

「これは、息子が作ってくれたもので…」

なるほど、非売品だ。そりゃ人にホイホイあげられるものではない。

カインは膝をついて、ディアーナと視線を合わせて顔をのぞき込むと、ディアーナはスンスンと鼻をすすりながらも泣きやんだ。

「ディアーナ。あの羽ペンはデリナの大切なものなんだって。家族からのプレゼントだそうだよ」

「うん…」

「ディアーナは、 僕(・) から貰った物を『ちょうだい』って言われたら、人にあげられる?」

「イヤ!にーさまから貰った物は宝物だもの!」

(聞きました?ねぇ、聞きました?俺から貰った物は宝物だって! 何この天使!マジ天使!あああああもう、ディアーナマジ可愛い)

後ろに付き従っていたイルヴァレーノに視線で訴えかけるカインを、相手は視線を逸らして無視した。

にやけそうになる顔を引き締めながら、カインはディアーナの頭を優しくなでる。

「ディアーナが、宝物を人にあげられないように、デリナも宝物は人にあげられないんだよ」

カインが諭すように言うと、ハッとしたような顔をしてディアーナはデリナの顔を見上げた。

「デリナのたからもの?」

小さな指を伸ばして、青い羽ペンを指さすディアーナはマジ可愛い。

「わたくしの、宝物でございます」

デリナは、そっと青い羽ペンを胸に抱いている。

それを見たディアーナはしょんもりしながら「ごめんなさい」と謝った。

(見ました!?ねぇ、見ました!!?うちのディアーナはちゃんと謝れるいい子なんですよ!!)

やはり、カインの視線による訴えは侍従から無視されるのだった。

「えらいねぇえええ。ディアーナはちゃんと謝れてえらい!」

ぐりぐりとディアーナの頭を撫でてやり、そのあとぎゅうと抱きしめる。

ちゃんと言えば理解してくれる。まだ4歳なのに悪いと思ったら謝れる!

賢いでしょう!?うちのディアーナは!マジ天使だよね!

「ディアーナ、お耳をかして」

顔を覗き込みながらそう言うと、くりんと首を傾けて耳を向けてくる。 アーもうほんとかわいい。

ディアーナの耳に口を近づけて、お願いの仕方を教えてあげる。

そうすると、ディアーナはもじもじしながらデリナのそばまで歩いていき、かわいらしく見上げておねだりをする。

「デリナ…その、わたしのぶんも作ってくださいと…ごしそくにおねがいしたいわ」

(んんんんんんんんっ。尊死するっ。可愛すぎる。こんなおねだりされたら断れない。ある意味反則ワザ)

ディアーナの可愛らしさに悶絶しそうになるカインの背中を支えて、イルヴァレーノが「カイン様、顔」と小さな声で注意していた。

デリナも、ポッと頬を染めてもじもじしている。

先ほど息子が作ってくれたものと言っていたので、お願いしてディアーナの分を新しく作ってもらえるんじゃないかとカインは考えたのだ。

ディアーナが欲しいのは、デリナの羽ペンじゃなくて、青い羽の綺麗な羽ペンなだけだろうから。

「デリナ、僕からもお願いするよ。材料費や手間賃は僕のお小遣いからちゃんと払うから」

新しく作ってもらうにしたって、ただでもらうんじゃやっぱり強奪だ。職場である邸の子息からねだられたら、使用人はなかなか断れない。

ちゃんとフォローを入れておかないとね。

「これは、孫が庭で綺麗な羽を拾ったので、息子が羽ペンに加工してくれたものなのです。材料費などというものもありませんが、羽がいつでもあるというわけではありませんので…」

困ったわ、という顔をしてデリナが眉を下げてしまう。

思ったよりもお宝度が高い代物だった。孫の戦利品を息子が実用品にしてくれたものと言われてしまえば、そりゃあなかなか手放せるものでは無いだろう。

カインの目の届かないところでディアーナがねだらなくて良かった。下位貴族で使用人のデリナでは、泣いてねだるディアーナに最後は負けて譲ってしまっていただろう。

それでは、ディアーナが「地位が下の者からは、泣いてねだれば欲しい物が手に入る」事を覚えてしまう。

「じゃあ、羽があればペンに加工してもらえる?」

そう聞けば「ええ」とデリナがうなずいた。

「ディアーナ。兄さまとお庭に行って羽を探しに行こうか。自分で見つけた羽でペンを作ってもらったら、きっと素敵な宝物になるよ」

「ディアーナのペン!」

ディアーナは、にっこりと笑うと早く行こうとカインの手を握ってきた。

小っちゃい手で指三本を握りこむの、マジ萌え。子供体温であったかいし柔らかいしで心がジワジワする。

はぁ。マジ尊い。

「カイン様、お顔が崩れています」

イルヴァレーノの注意に顔を引き締め、改めてハウスメイドに向き合うカイン。

「デリナ。羽が見つかったらまた声を掛けさせて。今日は行っていいよ」

デリナを下がらせると、ディアーナの手を引いて庭に向かう。

泣いたカラスがもう笑うっていうんだっけ? ディアーナはご機嫌で歌を歌いながらカインの手を引いて元気に歩き出した。

その後を、ため息をつきながらイルヴァレーノが付いて歩いていく。