軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

似てない兄弟

アンリミテッド魔法学園〜愛に限界はありません!〜 というゲームの、年上の先輩ルートはカインが攻略対象である。

ゲーム主人公がカインと両思いになると、カインは公爵家の後継という立場を捨てて平民になる。そして、ヒロインとその両親と一緒に暮らして『真の家族愛』というものを手に入れて幸せになる。……というシナリオになっている。

実際のカインは、ディアーナを守る力である『公爵家の権力』を手放す気は無い。少なくとも、ディアーナの幸せが確実になるまでは。

さて、後継ぎがいなくなったエルグランダーク家はディアーナに婿を取ることになるのだが、その時に白羽の矢が立つのがエルグランダーク子爵家嫡男であるキールズなのだ。

ディアーナが女公爵になって婿を取るのではなく、入ってきた婿が公爵となるため無関係の血筋を入れたくなかったというのが主な理由ではないかとカインは推測しているが、ゲームでは語られていない部分なので詳細は分からない。

問題は、ディアーナと結婚して公爵家に婿入りが決まったキールズには恋人が居たということだ。まだ婚約などの公式的な約束をしていなかったので婿入りを断ることができなかったのだ。

恋人と引裂かれ、住み慣れた領地から王都へと移動させられたキールズは、当然ディアーナの事など愛せなかった。

キールズは王都での最低限の仕事をこなすと領地へ行き、恋人と過ごす。王都での仕事があればその時だけ王都に滞在し、ディアーナとは形だけの夫婦として過ごすのだ。

「そんな事、させるわけないだろっての」

「なんだ?なんか言ったか?」

カインの独り言に、キールズが反応したがカインは何でも無いと首を振った。

「キールズは恋人とかいないの?」

カインの直球すぎる質問に、キールズはずるりと椅子からずり落ちた。椅子との摩擦で上着がめくれて背中と腹が出てしまう。腹を出したまま肩だけで椅子に乗っかっている姿勢のまま、キールズはみるみるうちに真っ赤になっていく。その出しっぱなしの腹を隣に座っていたコーディリアがペチリと叩いた。

「いるんだね」

「居ないよ。好きな人がいるだけでまだ恋人じゃないんだよ」

キールズの代わりにコーディリアが答えた。コーディリアはペチペチとキールズの腹を叩き続けていたが、ディアーナが真似して叩こうとしたところでガバリとキールズが立ち上がった。

「俺、用事があったから行くわ!カイン、ディアーナ、また夕飯でな!!」

「その慌てぶり、もしかして好きな人ってディアーナじゃないだろうな」

「冗談じゃないぞ!カインが兄になるとか死んでもごめんだからな!じゃあな!」

言い捨ててキールズは部屋を出ていってしまった。

「逃げられたな」

「兄さんはオクテだからねー」

コーディリアがケラケラと笑ってキールズの出ていったドアに向かって手を振っている。もうキールズの姿はなかった。

カインは公爵家を捨てて平民になる気はないし、そもそもヒロインと恋仲になる気もない。ディアーナの幸せのために力は持てるだけ持っておきたい。

それでも、万が一のためにも可能性は潰しておきたかった。好きな人が居るのであれば仲を取り持ってさっさと婚約させてしまいたい。一応12年間息子として過ごした両親について、甥っ子の婚約を破棄させてまで婿入りさせる程に非道な人間だとは思っていなかった。

「キールズの好きな人って誰だろ?全然可能性ない感じなの?」

「キー君の好きな人はねぇ、スティリッツだよ。ねー?」

カインの腕の中から身を乗り出したディアーナがそう言いながらコーディリアに同意を求めた。「ねー」と言いながら首をかしげてニーっと笑うディアーナは小悪魔といった風情で非常に可愛かった。

「カイン様、お顔が弛緩してますよ」

「おっと」

荷物の運び込みが終わり、イルヴァレーノがカインのそばに戻ってきた。イルヴァレーノがポケットからハンカチを取り出してカインの口元を拭った。

「え。うそ。いまよだれ垂れてた?さすがにそれはなくない?」

「たれそうでしたよ。留学して色々あちこちゆるくなられたのではないですか?」

「タレてなかったよ。イル君うそつき!」

カインの腕の中からディアーナがイルヴァレーノを指差し、その指をそっと手のひらで下に降ろしながらイルヴァレーノはニヤリと笑いつつ片側の眉をクイッと上げてみせた。

「ディアーナ達は仲がいいねぇ。カインが来たらディアーナはカインに取られちゃったしつまんない」

「そうだ、ココからサディスまでの往復6日の間、ディアーナはココにいたんだよね。コーディリアに遊んでもらってたの?」

「うん!キー君とコーディと遊んでた!おじ様とおば様も遊んでくれたのよ!騎士団の人もね、遊んでくれた!騎士ごっこしたよ!」

ディアーナがニッコニコと超ご機嫌で話し出す。領地に来てからの数日がよっぽど楽しかったのだろう。ニコニコしているディアーナを見ているだけでカインは幸せである。

「ところで、カイン様。そろそろディアーナ様を解放しませんと、汗疹ができてしまいますよ」

そういってイルヴァレーノがカインの前に跪いてカインに抱っこされっぱなしのディアーナを心配そうに覗き込んだ。その、イルヴァレーノの心配そうな顔をキョトンとした顔でみかえし、ディアーナが首を傾げた。

「お兄様涼しいよ?」

ディアーナのその不思議そうにしている顔をみて、そのまま視線を首筋や手首に移動させて、たしかに汗を掻いていないことを確認すると、イルヴァレーノは立ち上がってカインの後ろに回り込む。

そのままカインの肩に両手を置いて、その後背中から抱きついた。

「涼しい…」

「涼しいね!」

「え、涼しいの?」

コーディリアも脇から乗り出してカインの腕に抱きついた。

「涼しい!」

窓を全開にした風通しの良い部屋とはいえ、夏なので暑い物は暑い。そんな中でディアーナを膝の上に乗せっぱなしのカインと腕の中にすっぽり収まりっぱなしのディアーナを見て暑そうと思っていたが、カインに抱きついてみると涼しい。

コーディリアは従兄弟とはいえ異性であることを忘れ、イルヴァレーノはコーディリアや他の使用人の目がある事と自分とカインが主従関係であることを忘れ、子ども四人でひっついて涼しい涼しいと言っていた。

カインは、魔法で自分の周りに冷たい風を巡らせていたのだった。もちろん、ディアーナのために。

「何をなさっておいでですか、カイン様」

カインの巡らせている冷風よりも冷たい視線と共に、氷の様な声が部屋の入り口から聞こえてきた。

カインがディアーナの可愛らしくて愛らしいつむじから目を上げてそちらを観ると、涼やかな藍色のワンピースを着たサッシャが立っていた。

「サッシャ……いたの」

「おりましたとも。ディアーナ様の侍女でございますから、ディアーナ様のおいでになるところには、私も当然おりますとも。今まで、次から次から次から次へと届くカイン様からの贈り物を仕分けしておりました」

こころなしか、サッシャのこめかみに青筋が浮かんでいるように見える。

カインは、子ども三人をひっつけたまま眉尻をへにゃっと下げてサッシャに頭を下げた。

「なんか、ごめんね」

サッシャは大げさに大きくため息をついて、自分の眉間のシワを親指で伸ばすように揉んだのだった。