軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ディアーナの執筆

「えぇー。書き直すの?」

ディアーナはイルヴァレーノの提案に思いっきり嫌そうな顔をした。

机の端に手をつき、押し出して椅子をシーソーのようにギコギコと揺らしている。

一度それで後ろに倒れて頭を打っているはずなのに懲りてない。仕方がないのでイルヴァレーノはそっと背もたれに手を添えて角度が倒れすぎないように押さえている。

「サッシャは思ったよりも本や演劇の影響を受けやすいみたいなので、もうそのまんまなお話にした方が良いんじゃないかと思ったんですよ」

「そのまんまって~?公爵令嬢が実は騎士で悪人を倒す旅にでるとか~?」

イルヴァレーノの説明に、ティルノーアがちゃちゃをいれる。

今は、魔法の授業中である。

イルヴァレーノはいくつかの勉強をディアーナと一緒にさせてもらっている。カインの嘆願による公爵家の好意で始まった事だが、結果的にディアーナの成績向上に繋がっているので今でも続けられている。

魔法の授業では時々瞑想をする。体内の魔力を練って密度を上げる訓練をするためだ。

静かに座って目をつぶり、意識を体内に向けている最中に……書きかけの本がティルノーアに見つかってバレた。

面白そうなことしてるじゃ~んとティルノーアはノリノリで話に混ざってきて、ティルノーア自身も今『落ちこぼれ魔導師は世を忍ぶ仮の姿、その実体はドラゴンの幼生態だった!』という話を書いているらしい。

雨降りなどで実技練習ができない日などはこうして家庭教師の仕事を放棄して子どもの悪巧みに参加している。

一応授業中なので、サッシャは自由時間と言うことにしている。使用人休憩室で休憩してるか、図書室で侍女としての勉強をしていると言っていた。

「領地の悪代官とか悪辺境伯を懲らしめるのに、ただの令嬢だと言うこと聞いてもらえないんじゃないかなぁ?引退した元宰相とかだからははー!ってなるんでしょう?」

「正義の味方の少女魔導師がさぁ~、悪人をバッタバッタと倒していく話にしたら~?」

「それでは、少女騎士ニーナと同じでは?」

「騎士と魔導師は全然違うよぉ」

ティルノーアは、パラパラと書きかけのショコクマンユウ物語を眺めている。

「ここまで書いてあってさぁ。無かったことにするのももったいないよねぇ。これはこれで完成させれば良いんじゃなぁい?」

書かれている最後のページとまだ白紙のページをペラペラとめくったり戻したりしながら、ティルノーアは話を続けた。

「人気作ってさぁ。フォロワー作品がいっぱい出てくるんだよねぇ。まずおじさんが世直しするお話書いてさぁ、それをまねて書いた感じの女の子が主役のお話をまた新しく書けば良くない~?」

ティルノーアの提案にイルヴァレーノは渋い顔をして、ディアーナは明るい顔をした。

「別のお話も書くの?」

「似たお話がいっぱいあると、人気の作品なんだなぁって思っちゃうし、こんなに話題になるなら、世の中にはそういうこともあるのかなって勘違いしちゃう人も出てくるんだよねぇ」

だから、類似の物語がいくつかあった方が良いとティルノーアは言う。

「でも、世を忍ぶ仮の姿と正義のために戦う真の姿があるって話にしなくてはいけないんですよ。女の子が単に男の子みたいに活躍するだけではだめなんです」

だから、サッシャに少女騎士ニーナを勧めるだけではダメなのだ。

仮の姿で世の中をごまかし、真の姿があるのは格好いいのだと思ってもらわなければならない。

「逆はどうかなぁ?普段はお淑やかな…ぷぷっ。お淑やかな令嬢なんだけど、王都の平和を守るときは変装して仮面付けて正体隠すとかさぁ」

ディアーナの顔を見ながら、お淑やかな令嬢という言葉で吹き出したティルノーア。

イルヴァレーノが軽く咳払いをして難しい顔をした。笑いをこらえてるのを表に出さないように努力しているのが透けて見える。

ディアーナはプゥとほっぺたを膨らませて抗議した。

「お父様やお母様の前ではしっかり淑女してるもん!おしとやかだもん!」

バシバシと椅子の背もたれを支えているイルヴァレーノの背中を叩き、ゲシゲシと向かいに座るティルノーアの椅子の足を蹴った。

「あっはっはっはぁ。ディアーナ様はやはり元気な方がよろしいねぇ~!」

ティルノーアは身を乗り出してふくれっ面のディアーナの頭を軽くなでると、勢いを付けて椅子の背もたれに背を預けた。その勢いのまま、ティルノーアまで椅子の前脚二本を浮かせてシーソーのように揺らしだした。

「真の姿を知るのが一部の人だけなら、真の姿を隠して人前にでるのも一緒だよねぇ~。楽しそうだし、ボクが正体不明の正義の魔導師少女のお話を書いてあげよう~!」

「ホント!?」

「でも、魔導師なんですね…」

ティルノーアは椅子から立ち上がると、部屋の真ん中でくるりと回転した。花びらのようにギザギザになっている魔法使いのローブがふわりと広がった。

「マントをひらめかせて剣を振るうのも格好いいけどさぁ~?ローブをなびかせて魔法を使うのも格好いいとおもわなぁい?」

「かっこいい!ディ、白が良い!」

「白かぁ~」

椅子から立ってティルノーアの隣に行き、一緒になってくるくる回っているディアーナは楽しそうだ。

「あわよくば、ディアーナ様の将来の選択肢に騎士の他に魔法使いも入るんじゃないかなーって下心があるからねぇ。イルビーノ君はそうにらみなさんなよ~」

つーかまーえた。と言いながら、ティルノーアはローブを広げて隣で回っていたディアーナを包み込んだ。

「ほら、ディアーナ様にも藍色が似合うよぉ。カイン様とおそろいだもの」

ティルノーアの言葉にハッとするディアーナ。少女騎士ニーナが白い騎士服に白いマントだったのでローブも白!と言ったのだが、カインとお揃いと言われて悩みだした。

「濃い青と白……どっちが良いもんっぽいかな……」

ティルノーアのローブを頭からかぶったままで、ディアーナが悩み始めた。

真剣な顔で悩むディアーナを笑いながら眺めて、ローブの上からまた頭をなでた。

「カイン様は全然頼ってくれなかったからねぇ……」

ディアーナの頭を撫でながら、ティルノーアはイルヴァレーノの顔を見た。

「君たちの悪巧みに、参加させてもらって本当に嬉しいんだよ。ボクを仲間に入れてくれてありがとうね、イルヴァレーノ君」

ティルノーアからの礼の言葉に、イルヴァレーノは何て返して良いかわからなかったのでとりあえず小さく会釈した。