軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法使い式お茶の入れ方

「うぅーん」

カインは上体を起こして伸びをする。

魔力減少が原因の眠気は、魔力が回復すればなくなるので寝起きはスッキリとしている。毛布一枚を体に巻いて寝ていたので、体のあちこちが固まってしまっている方が辛かった。頭をぐるぐる回して首をほぐし、腕を伸ばしたり背中を伸ばしてほぐしている。

「カイン。おはようございます」

先に起きていたジャンルーカが声をかけてきた。カインは隣をみて吹き出した。

「おはようございます、ジャンルーカ様。お顔に床の痕がついていますよ」

ジャンルーカのほっぺたに、テントの粗い布目の痕がついていた。頭まで毛布をすっぽりかぶって寝ていたはずだが、寝ているうちに毛布がぬげてしまっていたようだ。

ジャンルーカは右手のひらをほっぺたに添えて撫でている。

「カインもほっぺたに痕がついていますよ」

ジャンルーカに言われて、カインも自分のほっぺたを撫でる。ザリザリとした細かいでこぼこがほっぺたにできているのがわかった。

「こういうのを治す魔法はないんですか?」

「治癒魔法という、怪我を治せる魔法はあるんですが…こういうのはどうでしょうね?」

「試してみますか?」

「残念ながら、僕は治癒魔法が使えないんです。試してみたかったですね」

二人は毛布を簡単に畳んでテントの端によせて置くとテントを出た。

日はだいぶ傾いており、テント群から少し離れたところで焚き火が起こされていた。

「起きたのか、魔法使い二人よ。まもなく肉が焼けるから、思う存分食べて英気を養うが良い」

焚き火のそばにはジュリアンが座って居た。騎士たちは三分の一ほどが歩哨にたっており、残りは火を囲んで解体した魔獣の肉を焼いたり煮たりしていた。一部の大人はどうやら酒も飲んでいるようだった。

「私達はまだ酒を飲むわけには行かぬからな。火が空けば湯を沸かして茶を淹れさせよう」

「お茶を持ってきているのですか?」

ジュリアンに勧められて、置いてあった折りたたみの椅子を広げて座る。ジュリアンの座る前に置いてある組み立て式の低いテーブルには、皿とカトラリー、それとカップなどの食器と、瓶詰めの琥珀色の物がおいてあった。

「普通の茶は、茶殻が出るのでな。果物の皮を刻んではちみつに漬けた物を湯で溶いた物を便宜上茶と言っているだけだが、コレがなかなか甘くて美味いのだ」

「なるほど」

留学前に、ティルノーアから出されたお茶と同じようなものらしい。カインはカップをジュリアンの前のテーブルに三つ置くと、瓶を開けて中身をカップに入れていく。

「こんなくらいですか?」

「もうちょっと入れるが良い。ケチると薄くてまずいのだ」

「じゃあ、このくらい」

準備が出来ると、カインはカップに向けて手を差し向ける。眉間にシワを寄せて、んむーとカインが唸る。

「な、何をしているのだ?カイン」

「集中力がいるので、少し黙っててください」

「……」

やがて、三つのカップの上に握りこぶし大の水のたまが現れた。カインが差し向けていた手をグッと握ると水の玉もわずかに小さくなった。そして、すぐに湯気が出始める。

「水の玉のなかが、ボコボコ言い始めましたよ。兄上」

「う、うむ。湯を沸かしているのか?これは」

「でりゃ!」

カインが気合を入れるように声をだすと、カップの上に浮いていた湯気を上げる水の玉はボチャンと音を立ててカップに落っこちた。

勢いを付けて落ちたので、水が跳ねてテーブルの上にびちゃびちゃとこぼれた。

「…便利だとは思うが、もう少し丁寧に出来ぬものか」

「これも魔法なんですね。すごいです、カイン」

カインは自分の手のひらをグッパグッパと握ったり開いたりして眺めている。ティルノーアに茶を入れてもらったときには、雑だなぁと思ったカインだったが、いざ自分でやってみるとコントロールが難しい事がわかった。

カップの口というのは、思った以上に小さかった。テーブルの上をフキンで拭き、スプーンでカップの中をぐるぐるとかき混ぜると、ジュリアンとジャンルーカにカップを渡した。最後に自分のカップを手に持つと椅子に座ってふぅふぅと息を吹きかけて冷ましている。

「これは、水と風の複合魔法ですね。系統だって整理されている魔法では無いんですけどね」

「水と風なんですか?水をお湯にするのだから、火の魔法かと思いました」

「水と火は相性が悪いのですよ。合わせて使うのはとても難しいですし、失敗しやすいんです」

王都より北にあるこの呪われた土地は、日が暮れると気温がさがってだいぶ肌寒くなってくる。手の中でほかほかと温かい果物茶は心をホッとさせてほぐしていく。

やがて肉を焼いていた騎士が焼き上がった肉を山盛りに盛った皿を持って来た。カインとジャンルーカとジュリアンでもりもりと肉を食べて果物茶を飲み、飛竜の乗り心地や魔法を使ってみた感想、花祭りのダンスについて会話をして寝るまでを過ごした。