軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87.戦いが終わって

「―――ん?」

ゆっくりと意識が覚醒する。

あれ?俺、どうしたんだっけ?

確か……そうだ、ダーク・ウルフと戦って、気を失って―――。

「ッ―――そうだ、モモッ!」

「あがッ……!」

起き上がると、ゴツンと頭に何かがぶつかった。

「あれ……?イチノセ、さん……?」

「あ、よ、良かった。目が覚めたんですね……」

鼻を押さえながら、イチノセさんは顔を逸らす。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫で……あ、ちょっ、ち、近い!近いです!」

「あ、す、すいません……」

鼻を押さえていた手で俺を押しのける。

でもなんで離れないのかとおもったら、もう片方の手が俺の手を掴んでいた。やわらかい。

「その……こ、こうしてないとスキルの効果が伝播しないので……」

顔を逸らしながら、真っ赤になってイチノセさんは説明する。

いや、別に手を繋がなくても適当に触っとけば問題はないだろうに……いや、このままでいいですね。イチノセさんの手、凄く柔らかいし、少し汗ばんでるのがむしろグッド。これはこれで良い。

ていうか、ちょっと待て。

どういう状況だ、これ?

「……イチノセさん」

「はい」

「何があったんですか?俺が気を失った後に」

俺がそう問うと、イチノセさんは表情を暗くして俯いた。

「……正直、私にもよく分からないんです。どうして、アイツが私達を見逃がしたのか……」

「見逃した?」

一瞬、俺は聞き間違えをしたのかと思った。

「はい。あのダーク・ウルフは私達に止めを刺さずにどこかへ消えてしまったんです」

「…………は?」

なんだそれは?訳が分からない。

あの場で俺たちを見逃す理由があるか?

イチノセさんも自分で言って困惑しているのだろう。

「……あっ、そうだ!じゃあモモは!?モモは無事なんですか!?」

「あ、モモちゃんなら―――」

「わんっ」

イチノセさんが言い終えるよりも早く、俺の『影』からモモが姿を現した。

「モモッ!」

「くぅーん」

モモは出て来るなり、俺に体を擦り付けて、ぺろぺろと顔を舐めてくる。

尻尾も物凄い振り様だ。

俺も空いた方の手でモモを撫でる。

うん、この撫で心地、本物だ。本物のモモだ。

「ああ、モモ、良かった……本当に良かった……」

「くぅーん……」

片腕でその小さな体を抱きしめると、自然と涙が出た。

無事でよかったと、心の底から安堵した。

でも、そうなると疑問も出てくる。

「モモも見逃されたってことですか?」

「そうみたいです……」

ますます訳が分からなくなった。

あのダーク・ウルフは一体何がしたかったんだ?

俺を殺さなかった理由。モモを連れ去らなかった理由。

様々な推測が頭の中を駆け巡るが答えは出ない。

モンスターの思考回路など分かるわけがないからだ。

「ダーク・ウルフが去った後、モモちゃんも目が覚めたんです。それで、モモちゃんやアカちゃんに協力して貰ってここに運びました」

「ここ……?」

そう言われて、改めて俺は周囲を見た。

壁と天井、それに視界の隅に見えるのは、階段と渡り廊下。

ここは……校舎の中か?

にしてはやけに人の気配が随分少ないような……。

「……(ふるふる)」

「アカっ」

ふと見れば、アカも俺の足元にくっついていた。

「……っ!(ふるふる)」

アカはしんぱいしたんだよー!と体を揺らしながら張り付いてくる。

まだ完全に回復していないのか、その体は普段よりも二回りほど小さい。

「ごめんな、アカにも心配かけちまったな……」

「~~♪(ふるふる)」

半透明の赤色ボディを優しく撫でると、アカは嬉しそうに体を震わせた。

「あれ?そう言えば……」

俺は自分の身体を確認する。

傷が……ない?

服は破れ血がにじんでいるが、その下にある体は傷一つなかった。

多少の倦怠感や眩暈はするが、それだけだ。

「これは……もしかしてイチノセさんが?」

「あ、ですです。…… 回復薬(ポーション) を使いました。また『ガチャ』で引き当てて……」

スキル『ガチャ』。

イチノセさんの職業『引き籠り』の持つスキルで、確かSP1と引き換えに、三回ガチャを回し、さまざまなアイテムをゲットできるってヤツだったよな。

ハイ・オークとの戦いで傷付いた俺を治したのも、彼女がガチャで当てたポーションだったはずだ。

「3ポイントほど消費しましたが、運よく当てる事が出来て良かったです……」

心底ほっとした様子でイチノセさんは空になったガラス瓶を見せる。

どうやって飲ませてくれたんだろうか?めっちゃ気になる。でも、聞いたら駄目なんだろうな。

「すいません、俺の為に貴重なスキルポイントを……」

SP3ポイント。

十倍ボーナスを持つ俺からすれば、そうたいしたポイントではないが、イチノセさんにすれば、少なくない出費のはずだ。

「あ、いや、別にいいです。結構いい感じのスキルやジョブも手に入りましたし。……それに元々は私の我儘から始まった事ですし……」

最後の部分はしりすぼみになり、イチノセさんは再び暗い顔をした。

今回の騒動の一端は自分にあると思っているのだろう。

確かに、それは間違いじゃないのかもしれない。

イチノセさんの提案を無視して、この学校を素通りしていれば、こんな事態にはならなかったのかもしれない。

でも、それはすべて意味の無いたらればだ。

時間は戻らないのだから。

「イチノセさん、気にしないで下さい。俺だって反対しなかったですし、もっと上手くやれた場面はいくらでもあったんです。色々迷って、間違えて、責められるのならむしろ、上手く事を運べなかった俺の方ですよ」

「いや、でも……そもそも私が言い出さなければ」

「いやいや、俺がもっと上手く行動すれば」

「いや、私が―――」

「俺が―――」

なぜかお互いに自分が悪いと言い合いになり、お互いに同時に頭を下げたところで、ぷっと噴き出してしまった。

そのおかげで、イチノセさんの表情も少し明るくなった。……目は合せないけど。

「―――それで、イチノセさん、もう一度、現状の確認がしたいのですが」

「あ、はいです」

「ここは学校の中で、間違いないんですよね?」

イチノセさんは頷く。

「それにしては、妙に人の気配が少ない気がするんですが……」

そう、静かすぎるのだ。

俺たちが侵入した時のあの喧騒がまるでない。

それに、よく見れば……いやよく見なくても分かるんだけど、壁や天井の一部が崩壊している。

これは俺たちの戦いの余波だろうか?

戦いに集中して気が回らなかったが、ダーク・ウルフの攻撃は相当範囲が広かったし巻き込まれていたとしても不思議じゃない。

だとしたら、ここに居た人たちは逃げたのか?

そう問うと、イチノセさんは首を横に振る。

「……分かりません。ただダーク・ウルフは去る際に、『遠吠え』をしました。それでかなりの数のモンスターがここに引き寄せられたみたいです」

……何だって。

そういえば、シャドウ・ウルフやレッサー・ウルフも同じように叫んで仲間や他のモンスターを呼び寄せてたな。

アイツらの『遠吠え』にはそういう効果があるのかもしれない。

「それで……その間、悲鳴とか悲鳴とか、あと悲鳴とかいろいろ聞こえて」

悲鳴しか聞こえてませんね。

いや、そりゃそうだよな。

あの魔物使いが従えたモンスターの軍勢だけでも、彼らにしてみたら相当な脅威だったはずだ。

その上、ダーク・ウルフによって校舎が破壊され、更に駄目押しの『遠吠え』によるモンスターの引き寄せ。

まさしく阿鼻叫喚の地獄になったのだろう。

「でも校内の接近戦じゃ、私に勝ち目はないですし、クドウさんが目覚めるまで、ずっとここに、みんなで隠れてたんです。動くわけにもいきませんし、『認識阻害』のおかげで気づかれることは無かったので。それで、しばらくしたら何も聞こえなくなって……」

となれば、散り散りになって逃げたと考えるべきだろうな……。

モンスターの気配も少ないのは、そうやって逃げた人たちを追っていったからか。

「そうだったんですか……」

果たしてどれだけの人が生き延びたのか……。

今の世界ホント、人類に厳しいよな。くそったれ。

「えっと、すいません。ちなみに俺ってどれくらいの間、気を失ってたんですか?」

「一時間くらいです」

一時間か……。

あれだけの傷を負ったのに、それ位で済んだと考えるべきだろうな。

そういえば、HPはどれくらい回復してるだろうか。

ステータス画面を開き確認してみる。

HP :180/180

MP :35/35

HP、MP共に満タンになってた。

イチノセさんの回復薬の効果だろうな。

凄いな、傷だけでなくMPも回復する効果があるのだろう。エリクサーかよ。

「そう言えば、イチノセさん。お友達の方はどうなったんですか?」

何気なくそう問うと、イチノセさんはびくりと肩を震わせた。

「……分かりません。あの後、もう一回だけ『メール』を送ったんですが、返事が無くて」

なんだと。あのザ・迷惑スパムメールのイチノセさんがたった一回だけだと……?

そんな常識的な判断をするなんて。熱でもあるんじゃないか?

「あの……なにか凄く失礼な事を考えてませんか?」

「気のせいです」

顔を逸らして、自分の身体の具合を確かめる。

……うん、普通に動く分には問題なさそうだ。

「とりあえず、移動しましょうか。もうここに留まる意味も無いですし」

「そう……ですよね」

西野君や六花ちゃんがどうなったのかは気になるが、メールを送れているという事は、少なくとも死んではいない筈だ。

ならいずれ機会は廻ってくるだろう。

といっても、彼らの近くにはあの生徒会長や双子も居るかもしれない。

モンスターは脅威だが、あの会長のスキルも別の意味で厄介だからな。

あと、双子。アイツら絶対許さん。次会ったら、遠くからアイテムボックスでげんこつ(石)喰らわせてやる。

まあ真面目な話、仮に接触するとしても、十分な注意が必要だろう。

俺も行動可能になった今、ここに留まるのは危険だ。

さっさと別の場所へ移動すべきだろう。

『索敵』を発動させる。

『職業強化』の影響で、スキルも強化されて、効果範囲もかなり広くなった。

強そうなモンスターの気配はないな。

それに生きている人間も……ん、多少は居るな。逃げ遅れた連中か?

でも、動かずにその場に留まってるってことは、隠れているのか、怪我で動けないのかのどっちかだろうな。

「わんっ」

そう思考に耽っていると、モモが突然走り出した。

「お、おいどうしたんだモモ!?」

「モモちゃん!?」

俺はイチノセさんを担いで、すぐにモモの後を追う。

薄暗い校内には、あっちこっちに血や肉片が飛び散っており、死体が転がっており、何があったのかを容易に想像させた。

「わんっ」

そして、しばらく走ったあと、モモの足が止まる。

その視線の先には、誰かが壁にもたれかかって倒れていた。

周囲には他に人の気配はない。

「あれは……」

倒れている人物には見覚えがあった。

サイドテールに結んだ派手な色の髪とミニスカート。

制服は着崩した、いかにもギャルっぽい感じの少女。

その足元にはかなりの数の魔石が転がっていた。

イチノセさんも俺の横から顔を逸らして彼女を見る。

「―――うそ……リっちゃん?」

そこに血まみれで倒れていたのは、イチノセさんの探し人、相坂六花その人だった。