軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62.彼女の経緯

「すいませんでした」

着替えを終えた後、イチノセさんは俺に土下座して謝った。

「あ、いや、いいですよ。過ぎた事ですし……」

美少女にゲロかけられるとか、一部の業界ではご褒美かもしれないが、あいにくと俺にはそんな特殊性癖は無い。

だが、まあこれからパーティー組むんだし、些細な事は気にしないでおこう。

……多分、忘れる事は出来ないだろうけど。

ちなみに彼女のゲロだが、アカが全部食べた。

アカ的には、美少女のゲロはご褒美だったらしい。主に食事と言う意味で。

ゲロが掛かった大部分が、アカが擬態していた部分でよかった。

一応、着替えたけどね。

……内心、ちょっとだけアカの擬態した服を着たくないと思ったのは秘密だ。

イチノセさんは目を逸らしながら、申し訳なさそうに俯く。

「ごめんなさい……こんな時、どんな顔すればいいのか分からないの」

「ですよね」

ゲロぶっかけた相手に、どんな顔すればいいのかなんて、俺にも分かんねーよ。

「……そこはあのセリフを言って欲しかったです」

「ご期待に添えず、申し訳ありませんね」

曖昧な笑みなら浮かべてやるけどね。

というか、この子、意外といい性格してるな。

とても引き籠りには思えない。

「まあ、この話はここまでにしましょう。それで、これからの事なんですが―――」

「あ、そうですね。えっと……とりあえず、一狩り行きます?」

モン◯ンみたいに言うなよ……。

とりあえずで狩りって、この子、物騒だな。

「わん!」

しかもモモがちょっと乗り気!

駄目です、モモ!いけません!

「……くぅーん?」

そ、そんなウルウルした目で見たって駄目!

安全重視。これ、絶対。

しょぼーんとなったモモを撫でる。

可愛い、癒される。

「あ、いえ、その前にお互いのスキルや職業について確認しておきたいのですが?」

これからパーティーを組むのだ。

お互いのスキルについては知っておいた方がいいだろう。

ちらりとイチノセさんの担いだ銃に視線をやる。

一般人にはとても入手する事など出来なさそうな長大なライフル。

彼女は一体どこでこの銃を手に入れたのだろう?

「ああ、それもそうですね」

納得したという感じで、彼女は己の武器を撫でた。

「……やっぱりこれ、気になりますよね?」

「気にならないと言えば嘘になりますね」

彼女は自分の職業を『引き籠り』だと言った。

その職業には余りに不釣り合いな武器だ。

彼女の答えを待っていると、イチノセさんの顔色はどんどん青くなってゆく。

お、おい、ちょっと待てよ……。

「……うっぷ。すいません。少し待って下さい」

口元を押さえ、彼女はモモを手招きする。

「くぅーん?」

なになにー?と、モモはとてとてと彼女に寄っていく。

モモのヤツ、意外と彼女に懐いているよな。ちょっと嫉妬。

「ふぅ……こうしていると、心が落ち着きます」

モモを膝の上に乗せ、モフモフを堪能するイチノセさん。

凄く幸せそうな表情だ。

分かる。その気持ちは凄くよく分かるぞ。

モモのモフモフ癒し効果は、最新の癒しグッズなどはるかに凌駕している。

彼女の手つきが心地いいのか、モモも嬉しそうに目を細める。

やがて落ち着いた彼女は、口を開いた。

「実は私の職業は、二つあるんです。一つは先ほどお話した『引き籠り』。もう一つは『狙撃手』と言う職業です」

「へぇ……」

その言葉に俺は少なからず驚きを受けた。

職業が二つ。

つまり彼女は『引き籠り』をカンストさせたという事だろうか?

いや、彼女のレベルは20だった。

西野君の仲間の話では、普通の人が一回レベルが上がるごとに得られるJPは1ポイント。

レベル20では、カンストさせるには足りない筈。

……いや、スキルの様に熟練度をあげれば可能か?

それとも最初の職業をカンストさせる以外にも、二つ目の職業を得る手段があるとか……?

「最初に私が選んだのは『引き籠り』でした」

「あの……失礼かもしれませんが、どうしてそんなネタ職を?」

俺がそう聞くと、彼女は気まずそうに目を逸ら―――元から逸らしてたか。

「……これが現実だと思わなくて」

あー成程。

確かに最初はこんな世界、夢かなんかだと思うよな。

「あれは四日前の事でした―――」

モモをモスモフしながら、彼女は自分がレベルを上げた経緯を説明してくれた。

最初にレベルが上がったのは四日前。

俺がシャドウ・ウルフをひき殺したあの日だ。

彼女はその日、マンションの自室でネトゲをしていたらしい。

三徹目に突入し、流石にきつくなってきた彼女は、一旦休憩しシャワーを浴びた。

そして、風呂から上がって部屋へ戻ると、窓が開いていたそうだ。

鍵を閉め忘れていたらしい。不用心な事だ。

そして、耳を澄ますと、不気味な羽音が聞こえてきたらしい。

なんだろうかと、視線を向けると、そこにはこぶし大程もある巨大なハエが居たという。

成程、虫型のモンスターか。

そう言うのも居るんだな。

そのデカいハエを見て、彼女は驚き、そして怯えた。

だが、彼女は逃げるのではなく、近くにあった雑誌を丸め、思いっきり叩きつけてやったそうだ。……凄いな、この子。

そしてハエが潰れた瞬間、彼女の頭の中にレベルアップの声が響いたのだと言う。

『……レベルが、上がった?』

だが当初、彼女はそれを幻聴だと思ったそうだ。

ハエの死体も消えていた。

きっと三徹ゆえのありもしない幻を見たのだろうと、彼女は結論付けた。

だが、ネトゲを再開しようと、画面の己のキャラのステータスを確認しようとした瞬間、それは現れた。

自分の目の前に、己のステータス画面が現れたのだ。

『……なに、これ?職業を選択……?』

そして、彼女はつい『引き籠り』を選択してしまったそうだ。

その瞬間、彼女のステータスは大幅に減少した。

だが、代わりに面白いスキルを得たという。

それが『認識阻害』と『ガチャ』。

『ガチャ』とは、SPと引き換えに、様々な便利グッズが手に入るスキルらしい。確かに引き籠りっぽいスキルだな。

「一回目のガチャで、私は運よく『狙撃手セット』というのを手に入れたんです」

そのガチャをひいた瞬間、彼女の職業には『狙撃手』が追加されたらしい。

狙撃手には、付属するスキル、そして銃が一緒に特典で付いてきたそうだ。

へぇ……スキルで手に入れたジョブは、そのまま追加されるのか。

ギャンブル性が高そうなスキルだが、運さえよければ相当便利な能力も手に入れる事が出来そうだな。

彼女はどうせ夢ならばと、その銃でモンスターを狩りまくったそうだ。

狩って、狩って、狩りまくって、やがて彼女はこれが夢ではなく現実である事に気付いた。

吐いて、吐いて、吐きまくって、やがて彼女は生き延びるためには如何すればいいか考えた。

そして、俺と同じような結論に達したらしい。

レベルを上げて、強くなる。

可能であれば、誰か協力体制の取れそうな人を探す。

俺たちに出会い、今に至る。

「―――以上です」

彼女の説明はたどたどしくも一生懸命さが伝わってきた。

吐き気と戦いながらも、懸命に自分の事を説明するその姿に、俺は思わず感動してしまった。……ついでに、吐かれても大丈夫なように少しだけ距離をとった。

「そうか……大変だったんですね」

「はい……」

こくりと、彼女は頷く。

「あの、でも良かったんですか?自分で聞いておいてなんですが、そんな簡単に自分のジョブやスキルを教えてしまって……」

今の世界において、自分のレベルやスキル、ジョブがどれ程重要な情報かは、彼女も十分理解している筈だ。

なのにどうしてこんな簡単に話してくれるのか。

「問題ない……です」

そこで、彼女は初めて少しだけ俺の方を向いた。

「……わ、私はその……カ…クドウさんやモモちゃんの事を……信じてますので」

はっきりとそう言われた。

「ッ……あ、はい。その……ありがとう、ございます」

気恥ずかしくなり、思わず俺の方が目をそらしてしまった。

本当に、この子はどうして引き籠りなんてしてたんだろう?

おかげで少しだけ体が熱っぽい。

しかもイチノセさんの方も、言った後で自分の発言に気付いたのか、バッと顔を逸らして俯いてしまう。

「……」

「……」

き、気まずい。

何とも言えない微妙な空気。

なんでそんなに信頼してくれてるのとか、これからの方針とか、色々聞きたいことがあるのに、口から言葉が出てこない。

むしろさっきのゲロの時より微妙な空気だぞ、これ。

だが、そんな気まずさは、次の瞬間消え去る。

『索敵』に反応があったのだ。

モンスターの気配だ。

「……イチノセさん、すいません。話は一旦ここまでにしましょう」

「え?」

きょとんとするイチノセさんを横目に、俺はモモの方を見る。

「うぅー……!」

モモも彼女の膝の上から降りて、既に臨戦態勢だ。

この気配……この数、間違いない。

気持ちを切り替え、俺は真面目な表情になる。

「シャドウ・ウルフの群れがこちらに近づいています。一先ず、この場を離れましょう」

ちくしょう、空気読めよ、モンスター。