軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

271.VS先遣隊 総力戦 その12

その変化を、ガシュマシュは即座に感じ取っていた。

(体に異常は……ないな。剣聖の野郎、自分だけ一抜けしやがって。どうせなら俺達の自爆装置も無効化してくれりゃあ良かったのに)

とはいえ、ランドルが死んだのは紛れもない事実だ。

これで自分は晴れて自由の身である。

「おーい、リアルドの旦那―。もう戦わなくてもいいみたいだぜー。ランドルのクソ野郎はもう死んじまったみてーだ」

さっそくガシュマシュは、同じくこの世界の戦士と戦っているもう一人の先遣隊リアルドに声を掛ける。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うりゃあああああああああああああああああ!」

「ルォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

しかしリアルドたちは戦いを止める気配はない。

(あ、これ駄目だ。ふつーに戦いを楽しんじまってるわ……)

ガシュマシュと違い、リアルドは強者と戦いたくて先遣隊に名乗りを上げた生粋のバトルジャンキーだ。もう目の前の戦いが楽しくて、楽しくて仕方がないのだろう。

そしてそれは多かれ少なかれ、相手も同じ様子だ。

ハイオーク『ルーフェン』は言わずもがな。六花も『鬼化』の影響で気分が高揚しまくっているのだ。もはや全員、ただ戦いたいから戦っているという状態だろう。

「ったく、勘弁してくれよ。――『部分氷結』」

ガシュマシュが手をかざすと、六花、ルーフェン、リアルドの手足が凍りついた。

「えっ」

「ゴァ……?」

「ぬぅ!?」

三人の動きが止まる。

手足を完全に凍結させ、地面と連結までしているため、完全に動きを封じられた形だ。

最高の戦いに水を差されたリアルドは、憤怒の形相で仲間を睨み付ける。

「ガシュマシュ! テメェ、俺の戦いに手を出すったぁどういう了見だ! ぶっ殺すぞ!」

「そりゃ、こっちの台詞だっての旦那。今なら気付けるだろ? ランドルの馬鹿が死んだんだよ。もう俺達があのクソボケに従う理由は無くなったんだ」

「なんだと……?」

リアルドは一瞬、ぽかんとなるが、気配を探ってみると、ガシュマシュの言葉が嘘ではないことを理解する。

「……確かにヤツの気配がないな。代わりになにか別の気配を感じるが……」

「ランドルってあんたらのリーダーだよね? てことは、おにーさんが勝ったってこと?」

すると西野が結界の境界付近まで近づいてくる。

「六花、ソイツの言っていることは本当だ。今、クドウさんから連絡があった」

「マジ?」

目をぱちくりする六花に、西野は頷く。

一方でリアルドは笑みを深めた。

「……成程。てぇことは――こっからはあのクソ野郎に指図されることもなく俺の自由に戦って良いって事だよなぁ! さあ、続きをしようぜぇ!」

「ルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「いや、なんでそうなる!? つーか、なんでそっちのオークもノリノリなんだよ!?」

それは勿論、戦いが大好きだから。それ以外に理由なんてない。

ガシュマシュの拘束を自力で解き、勝手に戦いだしたリアルドとルーフェンをしばし呆然と見つめたあと、彼は深いため息をつきながら、結界の外に居る西野へと視線を移す。

「えーっと、あれだ……。ずっと言ってるけど俺は戦うつもりはまったくない。ひとまずこっちの話を聞いてくれないか?」

「……ならまず六花の拘束を解け」

「勿論」

パチンと指を鳴らすと、六花の手足の氷が解ける。

そのまま結界の外に出るように促すと、六花は結界の外へと出た。

「これでいいかい?」

「……分かった」

ひとまず話し合いに応じてくれた事に、ガシュマシュは胸をなでおろすのだった。

――黒い赤ん坊はランドルの肉体を元に構成された化物だ。

だからだろう。動きがランドルとよく似ていた。

「――『火遁の術・極』」

『英雄賛歌』の効果によって、極限まで威力を強化された火遁の術。

その威力は、リベルさんの召喚したイフリートの火力すら凌ぐ。

「オギャアアアアアアアアアアアアアア!」

「ッ……殆ど無傷かよ」

だがそれでも表面を僅かに焦がす程度。

すると上空からソラたちが急降下する。

『下がれカズト!』

『ソラ! 我らのブレスは『反射装甲』の適用外だ。範囲を圧縮させて放つぞ! 合せろ!』

『ッ……は、はいアナタ!』

ソラの旦那――フランメにソラは動きをぴったりと併せる。……尻尾がすっごく揺れてる。

『『――ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』』

超圧縮されたブレスは、極太のレーザーのような軌道を描きながら黒い赤ん坊へと命中する。

まるでロボットアニメなんかで見る衛星砲みたいだ。

見た目に違わず、その凄まじい攻撃は、黒い赤ん坊の体を貫通し、穴をあけた。

『――やったか?』

『いや、まだだ。ソラよ、油断するな』

『ッ……は、はいアナタ! ……ねえもう一回、名前呼んで?』

『? ソラ……?』

『~~~~~~~~ッ! はい、アナタ!』

……ソラさんや、アンタいくら嬉しいからって、時と場所は考えようよ。

旦那に名前を呼ばれるたびに目がハートマークになってるし。

いや、死に別れた夫に再会出来たんだし、それも仕方ないかもしれないけど。

と思っていると、アロガンツが隣に立っていた。

『いやはや、とんでもない化物だな。あの黒い赤ん坊は』

「見た目は変わってもあの黒い赤ん坊はランドルの肉体を元に作られた。強さもランドルと同等以上ってことで間違いないだろうな」

つまり単純に強く、硬く、早い。

おまけに厄介なのはあの赤ん坊の手だ。おそらく、奴の手はスキルを無効化する。

「でも、それだけだ。ランドルに比べて動きも思考も単純すぎる。リベルさんが言った通り、アレは俺達の手で倒せる。問題は、それまで『英雄賛歌』の効果が持つかどうかだな」

『あと何分だい?』

「二十分」

『ふっ、十分だ。のろけ竜たちと同じく動きを合わせよう。いけるかい?』

「当たり前だ!」

『おい! 誰がのろけ竜だ! わ、我は別にのろけてなぞおらぬっ』

ソラの抗議を無視して、俺達は黒い赤ん坊へ攻撃を仕掛ける。

「――『落日領域』」

『――『鮮血領域』』

「――『神聖領域』」

三人の声が重なる。

リベルさんも俺達の動きに合わせてくれるようだ。

俺の超スピードによる斬撃と忍術、アロガンツによる魔剣と血液による全方位攻撃、リベルさんによる魔術の連打と、召喚獣による攻撃の畳み掛け。

ピキッと、ソラたちがブレスで空けた穴を中心に黒い赤子にヒビが入る。

「オギャッ……ギィギャァァア……」

すると黒い赤子は体を丸めたかと思うと、全身から巨大な針を生やし、全方位へ解き放つ。

その攻撃に、俺は全身が粟立つのを感じた。

「ッ……躱せ! 絶対に当たるな!」

『言われなくとも!』

「―― 座標交換(チェンジ) !」

刹那、リベルさんの位置替えが発動。

後方に控えていた三匹の召喚獣と俺達の位置が入れ替わる。

彼らの体の一部に黒い針が突き刺さる。

「――ァ……」

断末魔を上げることすら出来ず、三匹の召喚獣は消滅した。

『肉体の消滅……。手はスキルの無効化、黒い棘は物質の無効化――消滅といったところだろうね』

「……マジで化物だな」

『接近しての攻撃は控えた方が良さそうだ。おそらく掠っただけでも消滅すると考えた方がいい』

「となると、やっぱ決め手はソラとフランメさんの合体ブレスか……」

俺達の中での最大火力は、竜二体による特大の圧縮ブレス。

だがそれでもあの黒い赤ん坊には致命傷には至らなかった。

「弱点でもあればな……」

『……あれが倒せる存在なのだとしたら、どこかに我々モンスターと同じ『核』があると見るべきだ。そこに攻撃を集中するしかないだろう』

「予想は?」

『心臓は穴が空いているから、あるとすれば首か頭、かな?』

「同意だな。そこに攻撃を集中させ、て――……」

ボコボコボコボコボコ、と。

黒い赤子の頭から無数の『手』が、髪の毛のように生えてきた。

『……』

アロガンツが斬撃を放つ。

頭から生えた手の一つに当たると、霧のように霧散した。

『……生えた手もスキルを無効化するようだね』

「くそがっ」

『だが確定だね。弱点は頭だ。しかしスキルが無効化されるとなると攻撃方法は限られる』

あれだけ大量の手が邪魔をするとなれば、ソラたちのブレスでも厳しいだろう。

頭を貫通する前に無効化させられる。

「でもスキルに依らない攻撃手段なんて限られてるわよ? ステータスにモノを言わせた接近戦じゃ、あの黒い棘にやられちゃうし……もどかしいわね」

確かにリベルさんの言う通りだ。

「スキルに依らない攻撃手段。それも相応の火力が求められる遠距離攻撃なんて……」

「――あるだろ。そういうことなら俺達に任せてくれ」

声が聞こえた。

同時に、影から無数の気配があふれ出し、俺達の周りを取り囲む。

「――撃てぇええええええええええええええええええ!」

掛け声と同時に放たれるのは無数の銃弾。

それは吸いこまれるように、黒い赤子へと命中し、頭部から生えていた無数の手を飛散させた。

「ふ、藤田さん……? それに十和田さんたちまで!?」

「おう、安心したぜ。俺達でも役に立てる場面があるとはな」

「ミサイルや爆撃機は全て最初の爆撃で使ってしまったが、小銃はまだ弾が残っている。微力ながら、力になろう」

自衛隊の面々は次々に持てる銃火器を黒い赤子へと撃ちこんでゆく。

確かに彼らの使用する装備はスキルに依らない、この世界の純粋な技術で作られた代物だ。十和田さんの言うように、俺もてっきり序盤で、彼らの持つ兵器は全て出しきったと思っていたから、これは思わぬ誤算だった。

「おぎゃぁ……ァァア――」

「ッ――全体、撃ち方やめ! 退避!」

黒い赤子から再びあの黒い棘が発射されようとした瞬間、藤田さんたちは影の中へと避難した。影の中で俺達の戦闘を事前に見ていたのだろう。

俺やアロガンツも、すでにこの攻撃は見ている為、今度はリベルさんの座標移動を使わずともよけきることが出来た。

「あぁ……あぎゃぁぉ……」

自衛隊の銃火器によって、黒い赤子の頭から生えた手はボロボロになっていた。

再生は……どうやらしないようだ。

予想通り、あの手はスキルによる攻撃は無効化するが、それ以外の攻撃手段には脆いらしい。

「――俺達の持ってる武器はこれで完全に弾切れだ。悪いが、後は任せたぜ」

「ええ、ありがとうございます」

ありがとうございます、藤田さん、十和田さん、自衛隊の皆さん。

最高の仕事です。

彼らのおかげで、黒い赤子を守る手はもう使えない。今なら頭部を狙えるはずだ。

藤田さん達だけじゃない。影の中に新たな 気配(・・) が増えている。

これは――。

「おぎゃぁぁおおおおおお!」

すると今度は黒い赤ん坊は自分の両手を肥大化させ、頭を守るように手で覆い尽くした。

「――だったら腕ごとたたっ斬るだけじゃん!」

ずぼっと、俺の影から勢いよく飛び出したのは六花ちゃんだった。

『面白い、合せようか』

更にその動きに合せるようにアロガンツも動く。

当然、黒い赤ん坊は二人を迎撃しようと、黒い棘を生み出そうとする。

「――『動くな』ッ!」

「ッ……!」

その声を聴いた瞬間、黒い赤ん坊の動きが一瞬、阻害される。

「――む、『無抵抗で……攻撃を受けろ』ッ!」

更に両手の肥大化が止まり、気配が弱くなる。

その隙に、六花ちゃんとアロガンツは黒い赤子の両手首を大きく切り裂いた。

「西野君!」

「げほっ……ず、ずいまぜん。せっかく『天人』に進化した際に保留にしておいたスキルアップまで使ったのに、こんなすぐに限界、なんて……」

いいや、そんなことはない。

西野君は『天人』に進化した際に、上位スキルへ変換できる権利をずっと使わずに保留にしておいた。

それをおそらくは俺の『英雄賛歌』で発生した固有スキル『絶対遵守』に使ったのだろう。

本来、固有スキルに種族特性のレベルアップは使えない。しかし今の俺達は上杉市長の固有スキル『上下一心』でパーティーメンバーの上限が無くなり、非戦闘メンバーも含め百人以上がパーティーメンバーに加入し、全員が固有スキルに目覚めている。

その中に、西野君の種族特性の制限を取り払う固有スキル持ちが居たのだろう。『幸運』なことこの上ない。

「げほっ、げほっ……まだだ。あの アイテム(・・・・) を使えばもう一回くらいは……」

「いや、西野君、もう充分です。下がって下さい」

西野君、六花ちゃんが影に避難すると同時に、黒い赤ん坊の両手が地面に落ちる。

その瞬間、落ちた両手を青白い結界が包み込んだ。

両手は黒い赤子に戻ろうとするが、その結界に阻まれて戻れない。

『……どうやら一度、肉体から切り離されれば、スキル無効の能力は使えないようだな』

「か、海王様!?」

「シュラム、アンタ大丈夫なの?」

いつの間にか足元にいたスライム――海王シュラムに俺とリベルさんは面食らう。

『……万全とはいかぬが、僅かばかりの結界を張るくらいは出来る。この局面で、何もせずにいられるわけがなかろう』

「ッ……ありがとうございます!」

皆が作ってくれたこのチャンスを逃すわけにはいかない。

「全火力をアイツの頭にありったけぶち込め!」

「ええっ!」『うむっ!』『いくぞ!』

俺、リベルさん、ソラ、フランメさんが同時に攻撃を仕掛ける。

「……おぎぁ」

流石にこれはマズイと思ったのか、黒い赤ん坊は再びあの棘を生み出そうとする。

しかし、次の瞬間、おかしなことが起こった。

生み出された黒い棘が、一瞬引っ込んだかと思うと、奴自身を貫いたのだ。

「おぎょぉ……?」

「これは……?」

まるで西野君の命令のように、奴自身の意に反して行われたかのようような光景。

「――『比翼転輪』。どうやら私の固有スキルは対象の行動をあべこべにするスキルのようですね」

ぼそりと、影の中から声が聞こえた。

ボロボロの体で上半身だけを影から出してきたのは――。

「……い、五十嵐さん?」

「何故、疑問形なんですか?」

「いや、だってその姿……」

申し訳ないが、一瞬、本当に誰か分からなかったからだ。

彼女はグレンの自爆に巻き込まれる形で重傷を負った。

全身に包帯を巻き、長かった黒髪は焼け落ち短くなっている。動けるのが不思議な重傷のはずだ。

「問題ありません……と言えば、嘘になりますがね。ですが、一矢報いることも出来ずに、ただ影の中で大人しくしているわけにはいきません。私も…… 彼も(・・) 」

「……彼? それって――」

俺がそいつの名を口にするよりも先に、黒い赤子の足元から無数の影が――いや、『闇』が溢れ出した。

『ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!』

威厳と風格に満ちた咆哮。

闇の中から現れたのは『狼王』シュヴァルツ。

五十嵐さんと同じボロボロの傷だらけだったが、その鋭い眼光は些かも衰えていない。

『ガルォォオオオオオオオオオオオオオ!』

シュヴァルツの咆哮に呼応するように、闇が黒い赤子の全身をずたずたに切り裂いてゆく。

いや、シュヴァルツだけじゃない。

アイツの眷属達が同じように闇の中から攻撃を繰り出してる。

シャドウ・ウルフたちや、キラー・アント、他のモンスターの姿もある。

彼らの一斉攻撃を受け、黒い赤子は全身がボロボロになっていた。

「……ガルォ……」

シュヴァルツの瞳が俺を見据える。

――後は譲ってやる。

そう言っているように見えた。

ああ、ありがとうよ。

「今だ! 全員、最大火力を撃ちこむんだ!」

シュヴァルツが影に戻ると同時に、全員が動く。

「――超級忍術・炎遁・雷遁付与! 斬撃最大強化!」

『――鮮血領域・魔剣集約・月光血染』

「――神聖領域・神威・太極流転」

『『――ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

俺、リベルさん、ソラ、フランメさんの最大火力が一気に叩きこまれる。

凄まじい爆発と共に、黒い赤子の頭が風船のようにはじけ飛び、中に在った『核』を露出させた。

「そうか……それがお前の核か」

黒い赤子の核――それは巨大な頭部に不釣り合いな程に小さい『脳みそ』だった。

おそらくは、元になったランドルのものだろう。

――ドクンッ、と。

その核を見た瞬間、俺の体の内側で何かが脈打つのを感じた。

これは……システムの力?

同時に俺の持つ武器が淡い光を放っているのに気付いた。

青白い光。マスターキーと同じ輝きだ。

「……これで斬れってことか?」

――随分と作為的なモノを感じるね。

アロガンツの言葉が脳裏をよぎる。

ここにきて俺も確信めいた予感がした。

――システムは俺達にアイツを倒させたがっている。

あの白い少女が授けた管理者権限といい、この展開といい、明らかにそうだ。

そこにどんな思惑があるかは分からない。

だが乗るしかない。

直感で理解した。

あれは、あの核だけは、俺でなければ壊せないと。

あれはバグの集合体だ。バグとは言え、システム側の存在。それを壊せるのが、システムに干渉できる者だけだ。

この『力』で、あの核を砕く。

それでこの戦いを終わらせてやる。

『――クドウ、カズトォ……』

すると核が声を上げた。

それはランドルの声だった。

『お前が……お前さえ居なければ……私ハ……私ハァァ……』

核が、脳みそが小さな口を創りだす。

そうか、黒い赤ん坊はランドルの肉体を元に構成されている。

それらが削られ、核が剥き出しになったことでヤツの意識が戻ったのだろう。

「……哀れだな」

そんな姿になってもまだ生きてるなんて。

いや、死ねないのか。

俺の言葉が聞こえているのだろう。

脳みそと口だけになったランドルは恨めしそうにギリギリと歯を噛んだ。

『黙レエエエ! 死ネ! 死んでしまエ! コノ猿ガァアアアアアアアア!』

ランドルはもごもごと小さな口を動かす。

ぷっと、まるで唾を吐きかけるように、小さな『歯』が恐るべき速度を伴って放たれた。

「わぉんっ!」「~~~~~(ぷるぷる)!」「きゅー!」『させないよー』

だがモモの影が、アカの肉体が、キキの反射が、シロのスキルよって強化され、ランドルの攻撃を防ぐ。

本当に頼りになる仲間たちだ。

「――ありがとな、みんな」

『来ルナ……来ルナ……近寄ルナァアアアアアアアアアアアアアアア!』

うるさい声だ。

おそらくさっきの攻撃がランドルの最期の抵抗だったのだろう。

もうここまでくれば――。

「カズト! 油断しちゃ駄目!」

リベルさんの声。

「えっ――」

『――……ァッハ』

刹那、ランドルの声に気を取られていた俺は気付くのが遅れた。

崩れた肉体から一本の黒い棘が俺に向けて、死角から放たれていたのだ。

「ッ――!」

そうか、この野郎。さっきの攻撃も、やかましく騒いでいたのも、これを悟らせないためか。

最後の最後までクソッ垂れな野郎だ。

黒い棘が迫るのを感じる。ああ、マズイ。これは当たる――。

「――させませんっ」

パァンッ! と黒い棘が砕け、遅れて聞こえてくる発砲音。

見えなくても、感じなくても、どれだけ距離が離れていても分かる。

一之瀬さんの狙撃だ。

彼女の放った銃弾が、俺に迫っていた黒い棘を射抜いたのだ。

俺と違い離れていたからこそ、ランドルの奇襲もしっかり見えていたのだろう。

『グッ……ギィィ……』

今度こそ、ランドルは本当に悔しそうな声を上げた。

今のが正真正銘、ヤツの最後の抵抗だったのだろう。

手に持った忍刀を振り上げる。

『ヤ、ヤダ……ヤメロ、ヤメテクレエエエエエエエエ!』

「――終わりだ、ランドル!」

『――ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

全ての想いを、力を、これまでの全てを乗せた渾身の一撃は、核を――ランドルの脳みそを、奴の野望を――その全てを完全に真っ二つに切り裂いた。

――ドクンッと。

その瞬間、何かが頭の中に流れ込んできた。

『――愚かな。何故、リベルもルリエルもあんなにも楽観視出来る。理解出来ん』

ここではないどこか。

そこで一人の男が頭を抱えていた。

『話せばわかり合えるだと? 馬鹿な。我々は向こうの世界の人々から見れば侵略者も同然なのだぞ? どうあっても争いは避けられん。お前らの言う手を取り分かり合うまで、いったいどれほどの血と犠牲が生まれると思っている』

これは……ランドルの記憶?

『……向こうの世界の人間はどんな姿をしている? いや、そもそも言葉は通じるのか? もしも我々を超える力や技術を持っていたとしたら……どれほどの犠牲が』

思いつめるように呟く男から流れてきた感情は―― 恐怖(・・) だった。

「……そういうことか」

なんてことはない。ランドルはただ怖かったのだ。

知らない世界、知らない人々がただ怖かった。

だからこそ、少しでも自分達の知る世界に近づけたい、自分達に有利な世界にしたいと思ったのだろう。

俺達を猿だなんだと謗ったのも、あの傲慢さも、根底にあったのは恐怖と強がりでしかなかったのだ。

あれだけの強さがあっても……。

いや、逆か。

強いからこそ、 知らないこと(・・・・・・) が何よりも恐ろしかった。

『……君だったらどうしていた? クドウカズト』

不意に、記憶の中の男がこちらを見た。

不思議と驚きはしなかった。

『君が私の立場だったら、きっと同じことを思ったはずだ。知らぬ世界、未知の世界に恐怖を抱き、怯えたはずだ。そして、それを変えられる手段が手元にあったなら、使わないはずはない。少しでも自分たちに住みよい世界にする為に、他者を犠牲にする。それは歴史が証明してきたはずだ』

……そうだな。自分の利益の為に、守る為に、他者と戦う。

それは多かれ少なかれ、誰もがしていることだ。

『――だったら』

だとしても、お前の選択は間違いだよ。

大間違いだ。

『……何故そう言い切れる?』

当たり前じゃないか。

だってお前は自分の仲間も、誰も信じていなかっただろ?

『――――』

リベルさんも、相葉さんも、先遣隊のメンバーも。

お前は誰一人として、信じていなかった。信じようとしなかった。

どんな大義名分を抱えたところで、そこから間違えてちゃお終いだろ?

仲間を切り捨てる、駒としか考えてないような奴が何を言ったところで、誰の心にも響かない。

先遣隊のメンバーを――仲間をもっと信じていれば、結果は変わってたかもしれないのに。

「……俺は信じてるよ」

一之瀬さんも、モモも、仲間を、皆を信じてる。

これまで一緒に戦い続けてきた仲間を俺は絶対に裏切らない。

それだけは断言できる。

俺の答えにランドルは少しだけふてくされたような表情を浮かべた。

まるで気に入らないとでも言うように。

『……愚かだな。青臭く見るに堪えない。他者を信じること。それがどれほどに難しいか、君はまだ気付いていないだけだ。私にもそんな時期があったがすぐに気付かされたよ。そんなものは幻想でしかないとね』

何かがあったのだろう。

その何かがきっかけで、ランドルは他者を信じられなくなった。

その結果が、今に繋がった。

「……出来る事なら、その頃のお前と会いたかったよ……」

そうなればきっと結果は変わっていただろう。

もっと違う未来が待っていたかもしれない。

『少し残念だよクドウカズト。君が私と同じ道を歩むかどうかが見られないのはね……』

「……だからならねぇって」

『――なら精々足掻いてみるがいいこの先の未来を。この戦いは……君達の勝ちだ』

パリンッと。

ランドルの記憶が砕ける。

戦いが――終わった。