軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

258.VS先遣隊 神槍ベルド その1

分断された結界の一つにて――。

カズトたちに相葉と名乗った異世界人アイヴァーは、先遣隊のメンバーと対峙していた。

名をベルド・レイブン。

『神槍』の二つ名を持つ槍使いであり、アイヴァーの実の弟でもある男だ。

「久しぶりだね、ベルド。しばらく見ない内に随分と逞しく――」

「死ね」

アイヴァーが何かを言うよりも先に、ベルドの槍が飛ぶ。

音速を超える速度で打ち出された投槍をアイヴァーは紙一重で躱す。

「おっと、危ないじゃないですか」

「ちっ」

投げた槍は一瞬でベルドの手元へ戻る。

「いや、ちょっと……ベルド! 少しは話を――」

「黙れ裏切り者が!」

ベルドは更に連続で投槍をするが、アイヴァーは全て紙一重で躱してゆく。

一向に当たらない攻撃にベルドの苛立ちは募ってゆく。

(……おかしい。何故当たらない? 情報によれば、奴の力はリベル様の『神威』によってスキルだけでなく、全ての能力が弱体化しているはず。なのに何故、俺の攻撃をこうも躱す事が出来る?)

アイヴァーがこの世界に来てから、リベルによって監視術式が破壊されるまで、その経緯は把握している。

それによれば、アイヴァーは現地の住民たちを『再現』で疑似的に復活させ、それをランドルによって暴走、更にリベルの『神威』によって抑えられ何とか力を抑え込んでいる状態になっていたはず。

つまり本来なら戦える状態ではないのだ。

こうしてベルドの目の前に立つこと自体あり得ないのである。

(その理由……そうか、そういう事か)

その理由を推測し、ベルドは一つの結論に達する。

そして不敵な笑みを浮かべた。

「なんだ、結局お前はまた捨てたんじゃないか」

「……?」

「その身体能力、リベル様の『神威』で弱体化してる状態ではあり得ない。ならば答えは一つだ。お前は『再現』した人々を全てリセットし、スキルを元の状態に戻したんだ。再び『再現』を使わない限り暴走する心配はない」

「……」

ベルドは槍を振るう。

音速を遥かに超える速度。

今度は僅かにアイヴァーの肩を掠った。

「我々を裏切ってまで守りたいと思った奴らをお前は消したんだろう?」

「……」

「はっ! 滑稽だな! 我々を裏切り、この世界の人々も裏切り、結局お前は何も得られていないではないか! つくづく無意味な人生だな!」

ベルドは槍の速度を上げる。

今度は確実に心臓を穿つつもりで、渾身の一撃をたたき込んだ。

「残念ですが、ハズレです」

だがその一撃を、アイヴァーは片手で掴んだ。

躱すのではなく、しっかりとその手で槍を掴んでみせたのだ。

「なっ……!?」

ベルドは信じられないといった表情を浮かべる。

いかに力を取り戻したとはいえ、アイヴァーの本来の力はベルドに遠く及ばない。

先程までの手加減をしていた攻撃ならまだしも、今の一撃を止める事など到底不可能だ。

「貴様、何をした……?」

「……私は何もしてませんよ」

アイヴァーは足に力を込める。

一瞬で地面を蹴って、ベルドに肉薄、そのみぞおちに拳をたたき込む。

「がはっ……」

「これは全て――この世界の人々に頂いた力です」

アイヴァーは更に何発も拳をたたき込む。

その一撃、一撃がソラのブレスに匹敵する程の威力。

ベルドはますます混乱した。

この力はベルドが知っているアイヴァーとはまるで違う。

それを遥かに凌駕している。

(どういう事だ……いや、それよりもこれ以上のダメージはマズイ。一旦、距離を取らねば!)

ベルドは槍を手放して後ろに飛ぶ。

アイヴァーに掴まれた槍は一瞬で消えると、ベルドの手元に戻った。

ベルドの持つ槍は伸縮自在であり、どんなに距離が離れていても一瞬で手元に戻ってくるという特性がある。『魔槍』と呼ばれる特殊な武器だ。

「ハァ……ハァ……ちっ」

ベルドは自身のアイテムボックスから液体の入った瓶を取り出すと、中身を一気に呷った。

するとアイヴァーに殴られた傷が瞬く間に再生してゆく。

どんな傷でも治す 最上級回復薬(エクストラ・ポーション) と呼ばれるベルドの秘蔵の一品だ。

超希少なアイテムであり、先遣隊でもこれを持つ者はベルドとオリオンの二人だけ。

仲間にすらその存在は秘匿にしていたアイテムだ。もし持っていると申告すれば、確実にランドルに接収されるからだ。

だが万が一の為に温存しておいたアイテムを、まさかこんなところで使う羽目になるとは思わなかった。

予定外の事態に、ベルドの苛立ちはますます大きくなっていく。

「貴様……なんだその力は?」

「言ったでしょう。これはこの世界の人々に頂いた力だと」

刹那、アイヴァーの姿が消える。

一瞬でベルドの背後に回り込み、その背中を思いっきり殴り飛ばした。

「がはっ……!」

「種族、職業、レベル、スキル、ステータス……この世界に新たに生まれた法則は我々の世界を 基準(ベース) にしながらも、この世界の特徴、特性を色濃く反映している。例えば同じスキルでも、種族、職業、レベルが違えば当然精度も違ってくる。スキルと職業やスキルの特性が一致していれば、よりその効果は高まるのです。当然、その逆も然り」

吹き飛んだベルドを、アイヴァーは先回りして、更に殴りつける。

何度も、何度も、何度も、何度も。

先遣隊――異世界における最強の英雄であるはずのベルドが、遥かに弱いアイヴァーに一方的に殴られ続ける矛盾。

「上杉市長や五所川原さんには感謝しなければいけませんね。彼らのおかげで私はこうして戦える。君を止める事が出来る」

アイヴァーは渾身の一撃をたたき込む。

相当なダメージを受けたが、それでもベルドを仕留めるには足りなかったようだ。

ベルドはすぐに体勢を立て直し、反撃をしてくる。

「この世界の人間達が何だというんだ……! 力を得てたった数か月の連中だろう? そんな雑魚共の力が俺たちに通用するわけ――」

「ベルド」

ベルドの言葉を遮るように、アイヴァーは怒気を孕んだ声を出す。

「――この世界の人々は、君が思っているほど弱くない」

その余りの迫力に、ベルドは思わず後ろに飛び退いだ。

それ程に、先程のアイヴァーの気迫は凄まじかった。

「なにより君は誤解している。君が私の力を知っているように、私も君の力を誰よりも理解している。なのにどうして私が――君よりも弱い私がたった一人で君に戦いを挑むと思っていたんだ?」

「……?」

すっとアイヴァーは手を上げる。

「――五所川原さん、今です」

次の瞬間、周囲が暗くなった。

「は――?」

一体何が起きたのか?

訳が分からず、ベルドは空を見上げた。

そして唖然とした。

――空を覆い尽くす程の巨大な丸太が落下してきたのだ。

……小太りのオッサンと共に。

「うぉぉおおおおおおおお! 必殺・丸太落としいいいいいいいいい!」

凄まじい轟音と共に、巨大な丸太がベルドを押し潰した。