軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

241.進化ラッシュ

「あ、そうだ」

『お父さん、どうしたんですか?』

ペオニー(仮)をおんぶしながら、ふと気づいた。

そう言えば、まだこの子に名前つけてないな、と。

『名前、ですか……?』

「ああ、これから一緒に暮らすんだし、何か名前が無いと不便だろ? 何か希望はあるか?」

『んー、お父さんが付けてくれる名前なら何でもいいです』

「そうか? それなら樹だし、キーぼ――」

『あ、それは駄目です。なんかとっても危険な気がします』

そうか……駄目か。

ペオニー……は流石に不味いよな。ふとした拍子に記憶が戻るかもしれないし、これも却下だ。

となれば、やっぱ今までの仲間みたいに色とかだけど、『ミドリ』だと五所川原さんの奥さんと被るしなぁ……。

「じゃあ、『 翆(スイ) 』はどうだ? 鮮やかな緑って意味なんだけど、これから成長していくお前にぴったりだと思うんだ」

『スイ、ですか。うん、良いです。僕は今日からスイですっ』

喜んでくれたようだ。

という訳で、ペオニー(仮)の新たな名前はスイに決まった。

パーティーメンバーがもう埋まっているので新たに加えられないのは残念だけど、今後の成長に期待しよう。

スイは基本的には人懐っこく、リベルさん以外の人とは割とすぐに仲良くなる。

その中でも一番仲がいいのはキキとシロだ。

シロの足に掴まって空を飛んだり、キキの背中に乗って地面を駆けたりしている時は本当に楽しそうで見ているこっちが癒された。

あとリベルさんは会ったら必ず石を投げられるので、なるべく近づかないようにしているらしい。……哀れだ。

日光を浴びながら、キキ達とボール遊びをしていると、不意にスイが震える。

『――あ、今『光合成』と『葉飛ばし』ってスキルを取得しました』

「おお、そうか。本当に成長速いな……」

生まれて僅か一日なのに、スイは『擬人化』、『光合成』、『葉飛ばし』と三つもスキルを取得した。

レベルをあげたり、モンスターと戦わなくても、条件さえ満たせばスキルは取得出来る。

おそらくスイの場合、成長に合わせてペオニーだった頃のスキルを『思い出してる』のだろう。

少なくとも数百近いスキルを取得してたみたいだし、その中に比較的緩い条件で取得出来るスキルがあってもおかしくはない。

ちなみに『光合成』は昼間のHP及びMP、肉体の回復効果アップ、『葉飛ばし』は自分の葉っぱを手裏剣のように飛ばすスキルだ。

どちらもペオニーだった頃に見たことがあるスキルだな。

『葉飛ばし』に至っては、もはやマップ兵器レベルだったけど……。

まあ、そんな感じでスイは順調に成長を続けている。

「成長と言えば、そろそろ二条たちも進化するって言ってたな……」

気配を探れば、訓練場の方に二条、清水チーフ、藤田さん、自衛隊の十和田さん、それに五所川原さんの気配がする。……あ、爆発した。

リベルさんに今後の訓練の内容も確認したいし、ちょっと行ってみるか。

『あ、僕も行きます』

「きゅー♪」

『いっしょにいくー』

ぺたっと張り付いてくるモンスター三匹。

……君達、自分で歩きなさい。

でも最近、くっつくメンバーにモモとアカが居ないのが寂しい。

二匹は今日も海王様のところだ。

早く帰ってきてモフモフ、プニプニさせてほしい。

――クレーターの中心には、複数の男女がボロ雑巾のように倒れていた。

「あ、カズト。来たのね」

「……相変わらず酷い有様ですね」

「厳しくなきゃ訓練にならないでしょ。まあ、その甲斐あって、全員LV30に上がったわよ」

「おお、それは凄いですね」

地面に倒れてる二条に近づき、 回復薬(ポーション) を飲ませる。

「……あれ、先輩? なんで先輩がここに……? 幻覚?」

「幻覚じゃねーよ。ほら、ちゃんと飲め」

「んぐ……うへ、えへへへ……先輩が、先輩が私に飲ませてくれてる。なにこれ、天国……?」

「んなわけないだろ……おい、手をどけ――はな、離せっ」

なかなか手を離そうとしない二条を引っぺがし、清水チーフたちにも 回復薬(ポーション) を配っていく。

全員の意識がはっきりしたところで確認すると、リベルさんの言う通りLV30に上がっていたようだ。

「進化かぁ……。クドウ君たちの話を聞いてる時は、俺には縁がねぇ話だと思ってたがなぁ……」

「だがこれでより多くの人々を守る事が出来る。それに大人である我々がいつまでも守られていては示しがつかんからな」

「うーん、どれがいいんだろうねぇ。妻と娘にも聞いてみるかな……」

藤田さん、十和田さん、五所川原さんと進化に関しては割と抵抗はないみたいだ。

「これ、本当に大丈夫なのよね? 人間じゃなくなるわけじゃないのよね?」

「チーフ、それをいったらカズト先輩にも失礼ですよ。大丈夫ですって」

一方で清水チーフはやはり進化には不安があるようだ。

自分の進化先を何度も見ながら、藤田さんらに意見を求めている。

「今まで進化先の候補にあったのは紙に記録してるから参考にしてちょうだい。リストにない先があったらすぐに教えて。私とカズトで調べるから」

「ああ、気になる事があったら何でも聞いてくれ」

「あ、それじゃあ、先輩。今日の夕飯――」

「進化に関係無い質問は却下」

「……ぶぅ」

二条たちに出た進化先の候補は俺達に出たものとほとんど一緒だったらしく、新しい種族は無かった。

色々と話し合いを進めた末に、それぞれの進化先が決まった。

二条かもめ 『 新人(アラビト) 』

清水チーフ 『 猫人(キャット・ピ-プル) 』

藤田さん 『 上人(ハイ・ヒューマン) 』

十和田さん 『 黒森人(ダーク・エルフ) 』

五所川原さん『 岩掘人(ドワーフ) 』

二条の進化先に俺と同じ『新人』があったのは意外だったな。

他の皆は自分の戦闘スタイルと合った進化先にしたらしい。

五所川原さんが『 岩堀人(ドワーフ) 』に進化するって聞いた時は驚いたが、確かにこの人丸太が武器だもんな……。ぴったりといえばぴったりである。岩堀人の特性である『背丈が小さくなる』って部分が気になったけど、リベルさん曰く『ちょっと背が縮む』程度で済むらしい。なんでもオッサンは元々 岩堀人(ドワーフ) 体型だかららしい……。酷くない?

清水チーフが 猫人(キャット・ピ-プル) を選んだのも意外だったが、職業の『槍使い』との相性も良く、上人よりもこっちを選択したらしい。

猫耳上司……うん、ありだと思います。でもあざとかわいいけど、独身アラサーなんだよなぁ……。本人は藤田さんにアピールしてるっぽいけど全然気づいてもらえてないし。色々頑張ってください。

「待ってて下さいね、先輩。進化して、もっと強くなって必ず先輩やあの子に追いつきますからっ」

「おう、頑張れよ」

あの子――てのは一之瀬さんの事か?

進化するために、二条たちは一旦自分達の部屋に戻って行った。

それを見届けた後、リベルさんが口を開く。

「そう言えば、ナツはまだ進化してないみたいだけど、どうしたの?」

「ちょっと考えがあって保留にしてます」

「保留? それぞれの進化先の情報は教えたでしょう? あの中では『半女神』が一番良い進化先よ。常世人や高位機械人も悪くはないけど、半女神に比べれば一歩劣るわ」

「いえ、実は――」

俺は昨日、一之瀬さんと話し合った内容をリベルさんに話す。

話を聞き終えるとリベルさんは驚いた表情を浮かべた。

「正気? ……とんでもない事を考えるわね。どんな脳みそしてたらそんなとんでもない考えが浮かぶのよ……」

「アイディアは一之瀬さんです。正直、俺も最初に聞いた時は驚かされました」

だがある意味では一之瀬さんらしいともいえるアイディアだった。

リベルさんは半ば呆れたような表情を浮かべている。

「まあ、確かにそれが成功すれば先遣隊との戦いであの神樹と同じくらいの『切り札』になるかもしれないけど……。私はやっぱり反対よ。失敗した時のリスクが高すぎるわ」

「俺も同じことを言ったんですけどね……。一之瀬さん、こういう時は妙に頑固になるんですよね……」

とはいえ、一之瀬さんの言い分もわかるのだ。

――このままじゃ、いつまで経ってもクドウさんには追いつけませんから。

一之瀬さんはそう言っていた。

俺達と対等で居たい。足手まといにはなりたくないのだ、と。

正直、今までも十分に戦力になってくれていたし、俺は一之瀬さんを足手まといだと思った事なんて一度も無い。

それでも一之瀬さん自身は納得していなかったのだ。

「……なので俺は一之瀬さんを信じる事にしました」

「そこまで言うなら、私からは何も言わないわ。好きにしなさい」

リベルさんは理解はしたけど、納得はしていないって感じだった。

その後、雑談を交わしながら、今後の訓練について確認する。

話し合いの最中、リベルさんは何度かスイに近づこうとして、やっぱり石を投げられていた。……可哀そうに。

リベルさんの元から離れた後、俺は西野君や五十嵐さんの元に向かった。

柴田君をはじめとした学生メンバーももうすぐ進化可能らしい。

その中で、西野君、五十嵐さんに次いで、既に進化を果たしたのは大野君だ。

と言っても彼の場合は人ではなくモンスターなので、通常の進化とは異なる。

彼が進化した種族は『 下位(レッサー) 吸血鬼(ヴァンパイア) 』。

高位(ハイ) 屍鬼(グール) だった頃に比べ、ステータスが強化され、種族固有のスキルをいくつか使えるようになったらしい。

「元々持ってた『嫉妬』と相性のいいスキルで良かったよ。い、今の僕ならどんな相手だって簡単に勝てるかもね……ふふふ」

「え、マジ? じゃあ、私とやってみる?」

その数分後、彼は六花ちゃんにボコボコにされた。

……うん、相手が悪い。けど慢心は良くないからね。調子に乗らないよう気を付けよう。

それと五十嵐さんから、彼女の妹弟も進化したと教えられた。

妹の方が『 森人(エルフ) 』、弟の方が『 黒森人(ダーク・エルフ) 』に進化したそうだ。

魔法メインの戦闘スタイルだったし、あの二人にはぴったりの進化先だろう。

「ただ最近、ますますイタズラに磨きがかかってきて……。本当に誰に似たんだか」

そう言って五十嵐さんは深い溜息をついた。

あの双子、最近会う機会はめっきり減ってしまったが、相変わらずあの調子で周りを巻き込んでいるようだ。

(……主だったメンバーはほぼ進化を果たし、順調に戦力は整いつつある)

探索班からの報告では、他の町からも戦力となる人材が少しずつ集まっているらしい。

特に少し遠いが、東京からこちらに向かっている人物がかなり強い固有スキルや職業を持っているとの事なので、これは期待できそうだ。

「……先遣隊が来るまであと四か月か……」

決戦までにあとどれぐらい戦力を整えられるだろうか?

向こう側がどういう動きをしているのか気になるけど、こればっかりは確認のしようがないから仕方ない。

残された時間で可能な限り力を高める。

俺達にはそれしか出来ないのだから。