軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

237.互いに成長を

ベヒモス、リヴァイアサン、ガルーダ、オーディン。

新たに召喚された四体の召喚獣が俺の往く手を阻む。

「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

最初に動いたのはベヒモスだった。

その巨体を揺らしながら、俺目掛けて突っ込んでくる。

恐るべきはその巨体に見合わぬ 速度(スピード) 。

ベヒモスは瞬時に俺の眼前まで迫る!

(おいおい、この巨体でこのスピードは反則だろ……)

四体のステータスとスキルは既に『下位神眼』で確認済みだ。

まずベヒモス――コイツはステータス自体もかなり高いが、それ以上に注意すべきは、コイツの持つ二つの種族固有スキル。『巨獣礼賛』と『巨獣防壁』だ。

『巨獣礼賛』

一度限り肉体の傷を全快にし、『肥大化』『硬化』、『狂化』の三つのスキルを発動させる。

『巨獣防壁』

外部からの攻撃を完全防御する水晶を発生させる。この水晶はあらゆる攻撃を防ぐ力があるが、その間、ベヒモスはその場を動くことも攻撃することも出来ない。また巨獣防壁は一度発動すると、再発動まで発動時間の倍のインターバルを必要とする。

『下位神眼』で分かったスキル効果はこんな感じだ。

どちらも肉体が傷つくほどに強力な効果を発揮するカウンター系のスキル。

鑑定系のスキルが無ければ、対処が難しい完全に初見殺しのスキルだ。

(つまりコイツの突進はダメージを受けることが前提……)

玉砕覚悟で敵にダメージを与え、自身は受けたダメージを回復し更にパワーアップする。

嫌らしい戦法だ。

でも『知っていれば』その戦法は通じない。避ければいいだけだ。

(リベルさんもコイツらを召喚した瞬間、俺が『下位神眼』を使ったのは気付いてるはず……)

俺に召喚獣たちの情報を教えて尚、ベヒモスを突進させたって事は――、

「シャアアアアアアアアアアッ!」

「カアアアアアアアアアアアアアアッ!」

刹那、ベヒモスの背後からガルーダとリヴァイアサンの二体が姿を現した。

「こういう事だよなっ!」

ベヒモスの突進は目くらまし。

その巨体で俺の視界を強制的に塞ぎ、その死角を利用し、二体の召喚獣を俺に接近させるのが目的か!

「索敵スキルで分かってたっつーの!」

即座に俺は忍術を発動させる。

「煙遁の術!」

瞬く間に大量の煙が周囲を覆い尽くす。

(ベヒモスは鼻、リヴァイアサンは耳、ガルーダは眼がそれぞれ優れている)

『下位神眼』で分かったそれぞれの特徴。

ベヒモスは嗅覚、リヴァイアサンは聴覚、ガルーダは視覚がそれぞれ発達している。

なので先ずはこの煙で視覚を塞ぐ。

ガルーダも索敵系のスキルは持っているが、『視力強化』や『暗視』といった視覚に依存したものが殆どだ。

この煙では俺を捉えられない。

(お次はコイツだッ!)

俺はアイテムボックスから取り出したソレをベヒモスの額にある角目掛けて投げつける。

煙の中であっても、スキルを併用した投擲は寸分違わず、ベヒモスの角に命中した。

硬い角に当たったソレは衝撃に耐えきれず、プシュッ! と中身をぶちまけ、ベヒモスの顔や 鼻(・) に命中する。

「ァ――……? ~~~~~~~~~~~ッッ! ゴァァアアアアアアアアアアッ!? アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

その衝撃が凄まじかったのか、ベヒモスは堪らずその場で転げまわる。

やっぱモンスターでも臭いんだな、ソレ……。

投げつけたのは世界一臭いと評判の缶詰シュールストレミングである。

どこでこんなものを手に入れたのかと言えば、『ネット通販』でだ。

以前、一之瀬さんが『引き籠り』をレベルアップした際に手に入れたスキル『ネット』。

レベルが低いうちは、世界融合前のインターネットを検索したり、限られたホームページにアクセスするくらいしか出来なかったが、レベルが上がるにつれて、グーグ◯マップやネット通販と言った様々な機能が拡張されたのである。

今のところ『ネット通販』で手に入るのは食品や日用品のみ。

でもそのおかげで安全地帯の食糧事情は大きく改善された。……ついでにたくさんの人から感謝され、一之瀬さんのコミュ症も悪化した。

ネット通販の代金は魔石。極小の魔石一つで十万円くらいの買い物ができるのでかなりお得と言えるだろう。

(珍しい物も買えるってんで、試しに買ってみたけど正解だったな)

これ、モンスターじゃなくても異世界人にも通じるかもしれない。

匂いに対する警戒って割と軽視しがちだし。

最初に開けた状態でアイテムボックスに収納しておけば、今みたいな手間も必要ない訳だし。……収納時に滅茶苦茶臭くなるのが欠点だけど。モモとか近寄ってくれなくなるし。

(ともかく、これで残るはリヴァイアサンのみ)

コイツの場合は聴覚だが、聴覚を封じる手段は今のところない。

でもわざわざ潰さなくても、他の方法がある。

「――土遁の術」

足元が水面のように波打ち、俺は地面に潜る。

土遁の術で地中を移動する際、音は発生しない。無音の移動が可能なのだ。

そして隠密系のスキルも併せれば、リヴァイアサンに俺を捉える事は出来ない。

――これで一気に本丸へ接近する。

高速で地中を移動し、一気に距離を詰める。

「――およ?」

「ッ!?」

地上へ出ると、目の前にはリベルさんとオーディンの驚いた表情。

瞬時に、背後に控えたオーディンが槍を構えるが、俺が次の忍術を発動させる方が速い!

「雷遁の術!」

「「ッ――!?」」

顕現する青白い閃光。

今まで武器に付与させていた雷遁と違い、今回は純粋に攻撃として発動させる。

発生した雷は、リベルさんとオーディンの体を一瞬硬直させた。

「――『神力解放』ッ」

その瞬間、ステータスが一気に上昇し、肉体を全能感が包み込む。

「――『落日領域』ッ!」

更にその状態で、領域スキルを発動。

強制的に周囲を夜に変え、スキルの効果を更に底上げする。

「オオオオオオオオオオオッッ!」

するとリベルさんを守らんと、オーディンが無理やり硬直を破って前に出る。

凄まじい気迫。主を守ろうとするその忠誠心は見事だ。

「でも――邪魔だッ!」

俺はアイテムボックスから取り出した忍刀でオーディンを細切れにした。

『下位神眼』によれば、オーディンの能力は『先読み』と『軌道修正』。

数秒先の未来を予知し、その未来に合せて槍を投擲するという反則的な戦法。

(――でも未来は見えても、体が『反応』出来なきゃ意味ないよな)

神力解放した俺の敏捷は4000を超える。

オーディンのステータスは1000を少し超える程度。加えて、『先読み』以外に肉体速度、反応速度を強化するスキルは持っていない。

オーディンの眼には、斬られる瞬間まで何が起きたのか分からないといった表情が浮かんでいた。

「キィィイイイイイッ!」

「カァァァアアアアアアアアアッ!」

ようやくこちらに気付いたリヴァイアサンとガルーダがこちらに向かって来るが、もう遅い。

(これで残るはリベルさん一人)

ベヒモスが動いてから、わずか十秒にも満たない戦闘。

だがその中で、俺は確実に自分の力が以前とは比べ物にならない程に強くなったと確信していた。

確かな成長の実感。

確かな強さの証明。

だからこそ、

「――合格よ、カズト」

リベルさんは、笑った。

それは俺を認めたからこその笑み。

守るべき存在ではなく、並び立つ存在として認められた証。

極限まで加速した思考、そして五感の中でゆっくりとリベルさんが杖をかざすのが見えた。

「―― 座標交換(チェンジ) 」

刹那、リベルさんが視界から消える。

同時に、ズンッ!!!!! と凄まじい重量と圧迫感が肉体を襲った。

視界が真っ黒に染まり、襲い掛かる凄まじい『重み』に肉体が悲鳴を上げる。

「がっ、は……!?」

何だ?

何が起こった。

体が地面と黒い塊に挟まれ、まともに動く事が出来ない。

この黒い塊は何だ……?

リベルさんは一体何をした?

(この気配……それにこの 匂い(・・) ……まさかっ)

ようやく俺は自分に圧し掛かるソレの正体に気付いた。

「ゴァ……ゴァァ……」

「――ベヒモスッ!」

「正解」

少し離れたところからリベルさんの声が聞こえる。

そこは先ほどまでベヒモスが居た位置。

つまり――、

「召喚、獣と……自分の位置を……」

「そ、『交換』したの。アナタ達が面白い戦法考えたから、私も自分なりにアレンジしてみたって訳」

そうか、モモの『影渡り』とアカの『 座標(ポイント) 』による瞬間移動。

それをリベルさんは自分の召喚獣を使う事で再現したのだ。

くそ、体が動かせない……忍術を発動できない。

「学習し、成長したのは私も一緒」

リベルさんの声が聞こえる。

視界は完全に塞がれているが、おそらく杖を構えているのだろう。

莫大なエネルギーの収束を感じる。

「今までは召喚獣を盾に、後方から魔術をぶっ放すだけだったんだけどね。貴方たちを見て、狼王と戦って、考えを改めたのよ。 先遣隊(アイツら) と戦う以上、私も今までのままではいられない。もっと強くならないといけないってね」

狼王との戦いで、リベルさんは力を制御した状態で戦う事を強いられた。

その経験が彼女を変えたらしい。

「座標交換は召喚獣が居る限り何回でも可能よ。つまり私に攻撃を当てるには、全ての召喚獣を倒すか、全ての召喚獣ごと私を攻撃するかしないと無理って事」

「……そ、それって実質不可能じゃ――」

パーティーを組んで戦うならまだしも、一対一なら絶対に不可能だ。

「さあ、それはこれから頑張りなさいな。楽しかったわよ、カズト」

ああ、畜生……結構良い所まで行けたと思ったのに、まだリベルさんは届かないか。

でもまだ時間はある。

一之瀬さんや、モモやアカ、キキ――皆と一緒に必ず彼女の強さに追いついてみせる。

そして先遣隊に勝ち、俺たちの未来を掴むんだ。

「どーん」

「ふべらっ!?」

爆発、そして衝撃。

俺を押しつぶすベヒモスごと、リベルさんは魔術で吹き飛ばす。

『カズトーーーーー!?』

「きゅーーーっ!?」

キキとシロの叫び声が聞こえる。

だ、大丈夫だよ、今の俺ならこれくらいじゃ死なないから……多分。

成長の喜びと、悔しさをかみしめながら、俺の意識は暗転した。