作品タイトル不明
220.束の間の休息と、意外な訪問者
リベルさんと修行を始めて二週間ほどが経過した。
「ほらほら、まだまだ反応が遅いっ!」
「ッ……! このっ」
俺はリベルさんの魔術による攻撃をなんとか躱せるようになってきた。
とはいえ、躱せるようになっただけだ。
炎や氷の弾丸、雷の矢に、泥沼による足止めなど、その余りの手数の多さに驚かされる。
(攻撃できる隙が無い――)
何度か接近する事は出来たが、そもそもステータスもリベルさんの方が上だ。
体術でもあっという間に組み伏せられて、ゲームオーバーとなってしまう。
「わんっ」
『おのレェ!』
モモとソラが地上と空中から挟撃を仕掛ける。
地面からは影が、空からはブレスがそれぞれ襲い掛かる。
「無駄、無駄、無駄ァ!」
だがリベルさんはどこぞのスタ◯ド使いのような掛け声と共に、モモの影を弾き、ソラのブレスを相殺する。
「っと、良いわね、今の攻撃」
その一瞬の攻防を縫って、一之瀬さんが遠距離から狙撃を行うが、一体どういう反射神経をしているのか、まるで当たらない。
おかしいだろ、なんで避けれるんだよ。
「だって銃弾よりも私の方が速いから」
「ッ――!?」
一瞬にして背後に忍び寄ったリベルさんに、俺は気付けなかった。
というか、ナチュラルに思考を読まないでほしい。
「はい、終わり」
「がはっ……」
俺は頭を杖で思いっきりド突かれ気絶する。
≪経験値を獲得しました≫
≪クドウ カズトのLVが26から27に上がりました≫
≪熟練度が一定に達しました≫
≪スキル予測がLV8から9に上がりました≫
その直前、頭の中にレベルアップを告げるアナウンスが鳴り響いた――。
――目が覚めると、いつもの天井だった。
「あ、おはようございます、クドウさん」
「……一之瀬さん、おはようございます」
むくりと起き上れば、一之瀬さんが部屋の隅で漫画を読んでいた。
エンジンをふかす主人公が悪魔と戦う奴だ。
「俺、どれくらい気絶してました?」
「一時間くらいですね」
一時間か……。
最初の頃は半日くらい寝込んでたから、かなり短くなったな。
回復にかかる時間も短くなってきた。
「にしても、本当にリベルさんと戦ってるだけでレベルって上がるんですね」
「ええ、驚きました」
この仕組みに関しては本当に驚かされた。
俺たちは今までレベルアップの為の経験値はモンスターを殺すことでしか得られないと考えていたが、どうやらそれは厳密には違っていたらしい。
経験値を得る方法はモンスターを倒すだけじゃない。
モンスターと戦う『だけ』でも得られるらしいのだ。
「でもよくよく思い出せば、今までもそうでしたもんね」
「そうですね……」
考えてみれば今までもモンスターと戦った際に同じ現象が起こっていた。
ティタンやペオニー戦の時だって、戦いに参加していた人達全員に経験値が入っていたし、レベルも上がっていた。
てっきり倒したモンスターの経験値が、参加者に割り当てられていただけかと思い込んでいたので深く考えていなかったが、思った以上に経験値を得る仕組みは複雑なようだ。
「何はともあれ、モンスターと戦わずにレベルアップできるのだから、それに越したことはないですよ」
「ですです」
一之瀬さんは笑顔で相槌を打つと、再び漫画を読み始めた。
あれ、九巻か。……後で貸してもらおう。
何はともあれ、安全にレベルアップできるこの状況は俺たちにとって願ったり叶ったりだ。
(とはいえ、これはあくまでリベルさんが相手だからこそ成立する方法――)
戦うだけでも経験値は得られる。
だがその経験値は、モンスターを倒した時よりもずっと少なく効率が悪い。
リベルさん曰く、『ゴブリン百匹と戦うより、一匹殺した方が得られる経験値は多い』とのこと。
だからこれは、リベルさんが俺たちよりもはるかに格上の『今』だからこそ可能な方法なのだ。
(リベルさんは『最低限』と言った。多分、このままこれを半年間続けるつもりはないだろう)
俺たちのレベルが頭打ちになれば、次の訓練に進むはず。
今ですら毎回ボコボコにされて、気絶させられているのだ。
一体どんな訓練が待っているのか、今から震えが止まらない。
「そう言えば、西野君と相坂さんは?」
「えーっと、西野君は気絶したのでもう上がりましたね。リッちゃんはまだリベルさんと訓練を続けてます」
「タフですね、相坂さん……」
「ですです。ここ最近、リッちゃんのレベルの上がりっぷり凄いですよ。もうすぐLV10になるって言っていました」
「そりゃ凄い……」
いや、マジで凄いな。
下手すりゃ半年後までに抜かれるかもしれない勢いだ。
リベルさんの威圧に慣れてからは、一番訓練に意欲的だからな。
「ただ毎回訓練終わる度に服がボロボロになるって愚痴ってました」
「あー……確かに……」
六花ちゃんの戦闘はゴリゴリの近接型だ。
それも鬼人の固有スキル『血装術』で肉体、武器を強化してひたすら敵を押し切る戦闘スタイルである。
強化された鉈はリベルさんの魔術でも威力を押さえたモノなら弾く事が出来るのだが、その余波で大体服が弾け飛ぶ。
(リベルさんは『血装術』のレベルが上がれば、その内服も強化されるって言ってたけど……)
逆を言えば、それまでは毎回服が弾けると言う事である。
六花ちゃんは全然気にしてない風だったが、俺や西野君の身にもなってほしい。
だって揺れるんだぜ? それはもうすっごく。
正直、刺激が強いです。ありがとうございます。
「むー……」
「……な、なんですか、一之瀬さん?」
「今、クドウさんがふしだらな事を考えてた気がします。そんなにリッちゃんのおっぱいが魅力的なんですか?」
「き、気のせいです」
勘が鋭い一之瀬さんであった。
「あー、その、俺シャワー浴びて来るんで、それじゃ」
「あっ……ま――」
逃げ出すように俺は部屋を後にする。
すいません、一之瀬さん。こればっかりは仕方ないんです。
アイテムボックスからバスタオルを取り出し、風呂場へ向かうと、既に先客がいた。
「あ、クドウさん、お疲れ様です」
「西野君……」
バスタオルで頭を拭きながら、西野君はこちらを見る。ほかほかだ。
「すいません。先に頂きました」
「あ、それはお構いなく」
西野君は俺の脇を抜けて、廊下へ出る。
西野君のレベルもだいぶ上がってきた。
確か今はLV29だったはず。
おそらく明日の訓練で彼も『進化』できるだろう。
「あ、洗濯もうすぐ終わるので、乾燥回しておいてもらっていいですか?」
「あ、了解です」
現在、ここは俺、西野君、六花ちゃん、一之瀬さんの四人で暮らすシェアハウス状態なのだが、基本的に炊事、洗濯は西野君が率先してやってくれてる。
最初は交代制にしようと提案したのだが、西野君が頑として譲らなかった。
(……手際も良いし、料理も美味い……)
家事のスキルがあるなら、きっと西野君は全てカンストしているに違いない。
彼ならきっといいお嫁さんになるだろう。
ついそんな事を考えてしまった俺は悪くないと思う。
あとシャワーを浴びるついでに、久々にモモも丸洗いしてやった。
モモはお風呂が嫌いなので、いつもこの時だけはめっちゃ不機嫌になる。
影に引き籠ってストライキするのだ。徹底抗戦の構えだったが、ドッグフードとおもちゃを盾に影から引きずり出すことに成功した俺は、モモを滅茶苦茶丸洗いしてやった。
「……わふんっ」
乾かした後、体を丸めて不機嫌になったモモはとても可愛かったです。
「あ、そう言えば今日は海王様からアカの分身体を受け取る日か……」
現在、アカは海王様から力を譲渡して貰ってる最中だ。
アカの分身体に海王様の力を少し注ぎこんで、それをアカが吸収して力を馴染ませるというサイクルを繰り返している。
見た目はほぼ変化はないが、アカのステータスはぐんぐん成長している。
「モモ、頼む」
「わんっ」
モモの『影渡り』を使い、俺たちは海岸へと向かった。
――海岸に辿り着くと、既に海王様が居た。
風と波に転がされながら、砂浜をコロコロ転がっている姿はとても最強のモンスターと呼ばれる六王の一角には思えない。
これでその気になったら、一瞬で俺たちの町を壊滅出来るんだから凄いよなぁ……。
『おお、来たか』
海王様は水きり石みたいにチャプチャプと水面を跳ねながら俺たちの足元へと近づいてきた。
「すいません、遅くなりました」
『時間通りではないか。謝罪は不要だ』
おおらかに震える海王様。実に寛容である。
俺の会社の上司なんて、どれだけ早く来ようが、自分より遅ければ問答無用でお説教なのに。
海王様はぷるぷると震えると、ぽんっとアカの分身体を吐きだした。
『今回の分だ。以前よりも多めに力を分け与えているが、その子ならまたすぐに馴染むことが出来るだろう』
「……アカ」
「……♪(ふるふる)」
アカは分身体を吸収すると、嬉しそうに体を震わせた、
これでまたアカは一段と強くなることだろう。
『……ところで話は変わるのだが、ヤツはそれなりに成長したか?』
「あー、あの子ですか。とりあえず相葉さんやパーティーメンバーとは多少打ち解けてきましたけど」
『……まだその段階なのか。全く、あやつめ……』
海王様は溜息代わりにぷるぷると震える。
奴とは海王様から預かっているスライムクラゲ――通称赤クラゲの事だ。
海王様からの連絡は基本、赤クラゲを通じて行われる。
だがそれとは別に、赤クラゲには海王様から見聞を広めるように言われているのだ。
「ま、まあ相葉さんはパーティーの防衛の要だって褒めてましたし、本人もまんざらじゃない様子でしたよ」
赤クラゲは相葉さんのパーティーに加入しており、現在彼らと共にレベル上げの真っ最中だ。
相葉さん以外のメンバー、特に五所川原さん(娘)や五所川原さん(妻)からの評判はかなりいい。マスコットみたいなのに、防御面がぴか一なので、そのギャップがまた堪らないそうだ。
『まあ、それならいいが……リベルの方はどうだ? 何か変わったことはなかったか?』
「いえ、リベルさんは特に……。まあ、いつも通りですかね」
『そうか……。今後も頼んだぞ』
「はい、勿論です」
そうして他愛ない雑談をすると、海王様は再び海へと戻って行った。
「さて、俺たちも戻るか」
「わんっ」
「……(ふるふる)♪」
モモは影を広げるが、俺は待ったをかける。
「せっかくのいい天気なんだし、少し歩かないか? 久々にお散歩しようぜ、モモ」
「~~~~ッッ! わんっ! わんわんっ」
俺の提案にモモは元気よく頷いた。
砂浜を元気よく走り回り、俺もその後に続く。
まあ、まだ時間もあるしこのくらいは大丈夫だろう。
「はぁーいい天気だなぁ……」
なんだかここ最近は、こんな感じで比較的穏やかな日々が続いている。
五か月後に迫った異世界人との戦いに備えての準備期間ではあるが、それでも今までの地獄の様な日々に比べれば何十倍もマシだと思う。
――こういうのがずっと続けばいいのにな……。
みんなで頑張って、生活できる基盤を作って。
それで戦いなんか始まらなくていいのに……。
どうしてもそんな風に思ってしまう。
「―――ッ」
そんな風に感傷に浸っているのが駄目だったのかもしれない。
索敵に反応があった。モンスターの気配だ。
(強い……それもかなり)
こんな大きな気配は久々だ。
しかもこの気配、真っ直ぐこちらに向かってきている。
「俺たちと戦うつもりか……?」
「わんっ、わんわんっ」
「……(ふるふる)!」
モモとアカは既にやる気満々だ。
「よし、モモ、アカ――狩るぞ」
「わんっ」
「……(ふるふる)!」
一之瀬さんやキキ、ソラ、シロは居ないが問題ない。
この気配ならば、俺たちだけでも十分に戦える。
「来るぞ――ッ!」
気配が近づき、俺たちの前に姿を見せる。
そして――、
「え……?」
俺たちは動きを止めた。
そこに居たのは一匹の黒蟻のモンスターだった。
見た目は、以前市役所で戦った 女王蟻(クイーンアント) に近いがサイズが随分小さかった。人間と同程度だ。
だが感じる気配は遥かに大きい。
女王蟻(クイーンアント) の上位種? もしくはハイオークのような変異種か?
だがそれ以上に気になるのは、ヤツの状態だ。
「キシ……ギィ……」
満身創痍。
既にボロボロの状態だった。
甲殻の至る所にヒビが入り、腕が変な方向に曲がり、全身が傷だらけであった。
「……ギィ……」
黒蟻がこちらを見つめる。
そして次の瞬間、ヤツは驚くべき行動に出た。
「……ギィ……」
膝を屈し、両手を差し出したのだ。
それはまるで降伏のポーズの様だった。
「は……?」
「くぅーん?」
当然、戦う気満々だった俺やモモは首をかしげる。
だが次の瞬間、バチッと頭の中で何かが繋がる音がした。
「ッ……! なんだ?」
この感覚は覚えがあった。
確か、ソラと出会った時だ。
ソラが俺たちと会話をするために思念を繋げた時の感覚。
これってもしかして――、
『――クダ――ィ……』
頭の中に声が響いた。
これって……もしかして目の前の黒蟻か?
コイツも念話が使えるのか?
黒蟻の方を見れば、ヤツは懇願するように俺たちを見上げた。
『オ願イシマス、『早熟』ノ所有者ヨ……。我ラガ王ヲ――シュヴァルツ様ヲ救ッテ下サイ……』