軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

208.再戦

全身の細胞が震える。

汗が吹きだし、寒気が止まらない。

本能とスキルが全力で警鐘を鳴らしている。

その叫びを聞いたのは久しぶりだ。

忘れない……忘れるはずもない。

俺のトラウマにして、最凶のモンスター。

「……ハイ・オーク」

「ゥゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」

叫びと共に、ハイ・オークは跳躍する。

太陽を背に猛スピードで迫る様はまるで巨大な隕石のようだ。

「ッ!」

咄嗟に大地を蹴り、後ろに飛ぶ。

直後、目の前で爆発が起こった。

土が吹き飛び、巨大なクレーターが出来上がる。

その中心で、ハイ・オークは体の調子を確かめるかのように首を鳴らす。

準備運動のつもりか? 相変わらず馬鹿げてやがる。

(そもそもなんでコイツがここに居る……?)

気配は全く感じなかった。

コイツは本当に突然ここに現れたのだ。

別個体?

いや、質問権を使って、モンスターの事は調べるだけ調べた。

その結果、オークの上位種はジェネラル・オークと呼ばれており、その肌は通常のオークよりも『青い』ということが分かった。

赤銅色の肌を持つオークは、俺がハイ・オークと呼ぶコイツただ一体のみ。

別個体という可能性は無い。

ならば考えられる可能性は一つ。

「……『再現』」

それ以外に考えられない。

相葉さんの持つスキル『再現』。

それが人だけでなく、モンスターにも有効なのであれば、コイツが突然この場に現れた事にも説明がつく。

だが、同時に疑問もわき出す。

何故、相葉さんがモンスターを『再現』するのかという疑問。

――私の目的は、この世界の人々を皆殺しにする事ですよ

先程の言葉が頭の中でリフレインする。

まさか裏切ったのか?

五所川原さんの話も、その言葉に込められた気持ちも出まかせには思えなかった。

それすらも俺たちの隙を作るための演技だったとでも言うのか?

「ッ……! どうしてっ」

リベルさんと同じ、俺たちの味方をしてくれる異世界人だと信じたかったのに。

相葉さんの方を見る。

「……なんなんだこれは? ど、どういう事だ?」

「え……?」

相葉さんは茫然としていた。

目の前の光景が理解出来ないとでも言うように。

その表情はとても演技には見えなかった。

(……相葉さんの仕業じゃないのか?)

だが彼のスキル以外に、こんな事が出来るとは思えない。

一体どういう事だ?

「――――ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」

「ッ!」

だが状況は待ってはくれない。

ハイ・オークは再び大地を蹴り、俺へ襲い掛かる。

凄まじいスピードだ。

振り上げた大剣が俺に迫る。

「でも――俺だって、もうあの時のままの俺じゃない!」

確かにハイ・オークのステータスは高い。

『影真似』によって、判明したヤツのステータスは今の俺より高く、単純な肉弾戦ならソラとも互角以上に渡り合える程だ。

でも今の俺なら戦える。

全身に『影』を纏わせ、迫りくるハイ・オークの攻撃を避ける。

そのまま両手を合わせ、『超級忍術』を発動する。

「――水遁の術!」

次の瞬間、俺を中心に大量の水が発生する。

生み出された水はそれ自身が生き物のように唸り、濁流となってハイ・オークへと襲い掛かる。

更に俺は同時にアイテムボックスも展開。

奴の上空に大量のペットボトルを解放する。

全てを覆い尽くす水の結界だ。

「お前の弱点はもう分かってるんだよ!」

ハイ・オークの弱点。

それは『水』だ。

全身をずぶぬれにすれば、ヤツの身体能力は極端に落ち、大ダメージを受ける。

これで仕留める。

「――ゴァゥ」

だがヤツは、嗤った。

すぅっと息を吸い、

「―――ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

叫びが木霊する。

それは物理的な『壁』となって、奴に迫る水を全て弾き飛ばした。

「なっ――!?」

嘘だろ?

何で防げるんだよ?

前回の時はこれで上手く行っただろう?

「ゴァァ!」

更にハイ・オークの瞳が赤く光り、全身が赤黒く変色する。

六花ちゃんと同じスキル――『狂化』だ。

水を防がれただけでなく、その瞬間に『狂化』を発動し、自身を強化する。

これではまるで奴も『前回の戦闘』を学習しているようではないか。

「まさか……覚えてるのか? 俺の事も、あの時の戦いも?」

「……」

ハイ・オークは答えない。

だがヤツは再び嗤った。

嬉しそうに、楽しそうに。

無邪気に、お祭りにはしゃぐ子供のように。

それは何よりも雄弁に答えを語っていた。

ふざけんな。

強くてニューゲームなんてモンスターのやる事じゃないだろうが。

「ゴアァア!」

「ちっ」

咄嗟にアカにオークの包丁に擬態して貰い、ヤツの攻撃を捌く。

アイテムボックスで水の雨を――避けやがった。

「キキ! 俺のタイミングに合わせて、ヤツの攻撃を『反射』してくれ」

「きゅー!」

『影』の中に潜むキキが了解だとばかりに声を上げる。

「一之瀬さんはソラと一緒に、最寄りの座標から外へ! そのまま援護を!」

「了解です」

『……ふん』

ソラと一之瀬さんからも返事がくる。

ハイ・オークと戦ってるこの状況で、俺の足元から彼らを出すわけにはいかない。

一之瀬さんやソラの間合いを考えれば、キャンプ場の外に設置した座標から出るのが一番いいだろう。

(それにこの状況じゃ、ソラの力を活かせない……)

ソラの一番の強みは、上空からの一方的な攻撃だ。

高火力の長距離攻撃をほぼ一方的に叩き込めるが、それは敵の周囲に味方がいない事が大前提。

「ゴァァアアアアア!」

「くそっ!」

『分身の術』を発動させる。

同時に『絶影』でハイ・オークの動きを拘束して――避けやがった。

ふざけんな。お前、攻撃避けすぎだろうが!

前回のようにただ正面から突っ込んでくるだけじゃない。

俺との戦闘に集中していながらも、周囲の警戒も怠っていない。

なんて厄介な。

(でもまだ大丈夫だ。例え『狂化』してても、まだ奴の動きには反応できる)

もうすぐモモや一之瀬さんのサポートも加わる。

そうすれば隙も作れるし、水も確実に当てられる。

俺たちの勝ちだ。

「―――ルォ……」

だが、不意に背後から聞こえた声に、スキルが反応する。

小さな声、だがはっきりと耳に届いた。

「おい……嘘だろ?」

ざわざわと背筋に悪寒が走る。

ハイ・オークの背後に居た分身が愕然とした表情になる。

ハイ・オーク自身も面白そうな表情を浮かべている、

『獲物』が増えた、とでも思っていそうだ。

「――ォォオ……」

次の瞬間、周囲が暗くなった。

まるで巨大な何かの『影』に覆われたように。

「―――ルォ……ルルルルルゥゥゥゥウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」

嫌な予感は的中した。

ボコボコと背後の地面がせり上がり、やがて一体の巨大なゴーレムを形作った。

「……ティタン」

今度はお前かよ。

どうやら『再現』されたのはハイ・オークだけではないらしい。

「キシッ」

「キシシシシ」

「キシャ」「キシャヤヤ」「キシッ」

更にゴーレムの足元から無数の黒蟻が湧き出してくる。

某エジプト映画に出てきたスカラベの大軍のようだ。

「「「~~~~~~~~~~~」」」

それだけで終わらない。

今度は周囲の木々がざわめきだす。

巨大な木々が次々と生み出され、その枝に真っ赤な花を咲かせた。

――花付きのトレント。

これも俺が倒したモンスターだった。

「なんだこりゃ、総集編か何かか……?」

まるでヒーロー映画だ。

それまで倒されたモンスターが一斉に蘇る。

フィクションならとても盛り上がるかもしれないが、やられる方としては堪ったもんじゃない。クソ喰らえだ。

悪い冗談にも程がある。

「まさかペオニーやダーク・ウルフまで再現されないよな……?」

最悪の事態が頭をよぎる。

いや、この状況も十分最悪だが、もしペオニーやダーク・ウルフまで現れれば、もはや勝ち目などない。

だがその予想だけは外れてくれたらしい。

これ以上はモンスターが『再現』される気配は無かった。

(とはいえ、ヤバい状況なのは間違いないか……)

ハイ・オークにティタン、それに黒蟻に花付きトレントの大軍ときたもんだ。

これらが全て相葉さんのスキルによって再現されたなら、彼にスキルをオフにしてもらえばそれで収まるんだが……。

「相葉さん! 今すぐスキルを解いて下さい!」

俺は相葉さんに向かって叫ぶ、

だが、彼は首を横に振った。

「む、無理だ……出来ない! さっきからずっとスキルを解こうとしてるのに出来ないんだ!」

「なっ……!?」

「そ、それどころか……どんどん力が溢れて止められない……! どうなってるんだ、これは!」

なんだそりゃ?

まさかスキルが暴走してるとでも言うのか?

一体どうして?

「――『抜け駆け』の代償、かもしれないわね」

すると相葉さんの隣でモンスターを処理していたリベルさんがそう呟いた。

「システムの隙を突いた転移ですもの。何かしらの代償があるとは思ってたけど、まさかこんな形で発現するなんてね」

「そ、そんな……わ、私はこんな事望んでは……」

相葉さんは愕然とする。

「アンタの意思は関係ないわよ。本当ならすぐにでも調べたいところだけど、とりあえずこのモンスターたちを処理するのが先ね……」

リベルさんは小枝を高く掲げる。

すると足元に幾何学的な模様が浮かび上がった。

「召喚・イフリート」

現れたのは二メートルを超える炎を纏った巨人だった。

アレが前に教えて貰った召喚スキルってやつか。

西野君たちの訓練用に使ってたみたいだけど、実物を見るのは初めてだな。

「さあ、イフリート。今回は全力で戦いなさい。この場に居るモンスター、全てを焼き尽くしなさい!」

「――ゥゥウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

炎を滾らせ、イフリートは目の前に居るモンスターたちに襲い掛かる。

瞬く間に黒蟻やトレントたちが消滅し、数を減らしてゆく。

「カズト! 私はこの馬鹿を連れてキャンプ場の方に向かうわ。あの馬鹿でかいゴーレムやメタルリザードは私が何とかするから、ソレはアンタに任せる。良いわね?」

「……ああ、分かった」

周辺の雑魚はイフリートが引き受けてくれるようだ。

となれば俺はコイツとの戦いに専念できる。

俺は改めてハイ・オークに向き合った。

「なんで攻撃してこなかった? もしかして待っててくれたのか?」

「……ゴァゥ」

俺たちが話してる間、ハイ・オークはずっとその場で仁王立ちしたまま動こうとしなかった。

もういいのか? というようにハイ・オークは武器を構える。

全く変なところで律儀な奴だ。本当に戦いが好きなんだな。

俺も武器を構え、奴と向き合う。

「待ってもらって悪いが、さっさと片付けて皐月さんたちの救助に向かわせてもらうぞ?」

「ゴァ……」

やれるものならやってみろ、とハイ・オークは凶悪に笑う。

上等だ。

同時に大地を蹴る。

ハイ・オークとの再戦が始まった。