軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

185.ペオニー攻略戦 その3

「撃て、撃て! 撃ちまくれえええええ!」

轟音が鳴り響く。

市役所の『安全地帯』境界ラインに布陣した戦車やヘリ――自衛隊の持つ現代兵器が絶え間なく砲撃を繰り返していた。

「全くとんでもねぇ光景だな、こりゃ……」

冷や汗をかきながら藤田は目の前の光景を見つめる。

それはまさしく圧巻の光景だった。

山よりも長大な樹木の化け物。それに立ち向かう自衛隊と 竜(ドラゴン) 。

怪獣映画――なんてチープな表現かもしれないが、目の前で繰り広げられる光景はまさしくそれだ。

猛威を振るう現代兵器。

一発一発は、 竜(ドラゴン) のブレスには及ばずとも、ペオニーに『自動防御』を発動させるに足る十分な火力を備えていた。

それは元々持っていた性能だけではない。

一之瀬の『武器職人』による『改造』が施されたからこその結果だ。

(本当にスキルってのはトンデモねぇな……)

影を移動するスキルがあったからこそ、安全に隣町まで移動出来た。

アイテムボックス持ちが居たからこそ、隣町からこれらの兵器を持ち込むことが出来た。

その兵器を修理、改良するスキルがあったからこそ、自分たちは戦えるようになった。

しかもこの作戦を考えたのは一介の高校生だ。

まったく優秀すぎて大人の立つ瀬がないではないか。

(まあ、だからこそ、その頑張りを俺たちが無駄にしちゃいけねぇわな)

彼らの頑張りに応えるべく、自分達も頑張らねばいけない。

そう気付いたからこそ、十和田ら自衛隊員もトラウマを克服してこうして立ち上がったのだ。

「攻撃の手を緩めるな! とにかく撃ちまくるんだ!」

「「「了解」」」

気合を入れ直し、藤田は再び指示を飛ばすのだった。

同時刻、市役所内にて――。

「慌てないで下さい! 列を乱さず、落ち着いて行動して下さい!」

カズトの同僚、清水と二条は避難民の誘導に当たっていた。

五十嵐十香の『魅了』がある程度効いているとはいえ、それでも多少の混乱は生じる。

それを鎮めて、住民たちを特定の場所に誘導するのが彼女達に与えられた仕事だった。

「清水さん、こっちは全員揃いました」

「こっちもよ。あとは向こうの準備が整うのを待つだけだけど……」

断続的に響いてくる爆発音が肌を刺す。

大音量で響くペオニーの奇声や爆発音に、清水は思わず身震いしてしまう。

「本当に……上手くいくんでしょうか?」

「大丈夫よ、きっと……」

不安そうに震える二条の肩を抱き、清水はそう言い聞かせる。

とはいえ、内心は穏やかではない。

正直、今回の作戦の全貌を聞いた時は、正気を疑った。

(それだけの事をしなければ勝てない相手……それは分かるけど……)

西野の考えた作戦を聞いた時、真っ先に反対したのは彼女と市長だ。

なにせ、その作戦はこれまで積み上げてきた全てを捨てねばできない作戦だったからだ。

余りにも高すぎるリスク。だが、他の方法が無いのも事実だった。

最終的に彼女も市長も折れ、こうして作戦は決行されている。

(……力の無い自分が悔しいわね……)

自分達にもっと力があれば、別の方法もあったかもしれない。

だがそれは意味の無いたらればだ。

いくら考えてもしょうがないとはいえ、どうしても頭の片隅に残ってしまう。

「――クドウ君、西野君、藤田さん、みんな……どうか」

どうか無事に生き残ってほしい。

誰一人死なずに、犠牲も出さずに生き延びて欲しい。

絵空事と分かっていても、思わずそう祈らずにはいられない清水であった。

そして上空にて――。

――よし、藤田さんたちも本格的に参戦した。

俺たちも次の行動に移ろう。

「ソラ、一旦下に降りてくれ」

『ガソリントヤラハ、モウ撒キ終ワッタノカ?』

「いや、まだタンクは残ってるけど、それは下に降りてから使う」

回収した燃料タンクはまだ残ってるが、それを今全部使い切るわけにはいかない。

今後はソラのブレスと併用しつつ使って行こう。

「下に降りたらまたペオニーとの空中戦だ。頼んだぞ」

『フンッ、分カッテイル。貴様ラコソ、振リ落トサレルナヨッ!』

「ああ、分かってるよ」

「は、はいっ」

頷く俺と、やや怯えながら西野君も返事をする。

そして再びの急降下。

ふわっと内臓が浮くような感覚が俺たちを襲う。

超高速のフリーフォールだ。

懸命に意識を繋ぎながら、目の前の光景に集中する。

「――来るぞっ」

『分カッテイル!』

ある程度急降下すると、すぐにペオニーの触手が襲い掛かってきた。

「ギュアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

即座にソラがブレスで応戦する。

俺や西野君もアイテムボックスや『命令』でソラの攻撃を全力でサポートする。

(……戦闘が始まっておよそ二十分ほどか)

まだペオニーに『変化』は見られない。

一之瀬さんや六花ちゃんからのメールも無い。

やっぱり、まだ足りないか……。

「ソラ、接近してくれ」

『分カッタ』

ソラは俺の指示に従い、ペオニーへと接近する。

襲い掛かる根や蔦の数が先程よりも多い。

(明確に俺たち『だけ』を狙ってきているな……)

自衛隊の砲撃を喰らいながらも、ペオニーの『意識』は俺たちだけに向けられている。

まあ、そうだよな。ペオニーにとって明確なダメージになるのはソラのブレスのみ。

そもそも、自衛隊は『安全地帯』の中から攻撃してるから、ペオニーにとっては攻撃する手段が無い。

俺たちだけに攻撃を集中するのは当然だろう。

だが、

「――『巨大化の術』」

攻撃が届こうとするその瞬間、俺は忍術を発動させる。

俺たちに襲い掛かろうとしたペオニーの触手はガクンッと動きを急停止し、俺たちの頭上に出現した巨大な分身体へと目標を変えた。

(この状況でも、敵よりも分身体を取るか……)

分身体をいくら食べても、満たされる事など無いというのに。

その行動が自分の首を絞めているのも分からないのか?

いや、分からないのだろうな。

どちらにしても俺たちにとっては好都合だ。

「ソラ、今だ!」

『アア!』

俺の合図でソラはブレスを放つ。

同時に、俺はペオニーの前方に『ある物』を放った。

ソレはアイテムボックスから解放された瞬間、ペオニーの『自動防御』によって握り潰される。

その瞬間、ブシュゥゥゥと中の『気体』が溢れ出した。

「ギュアアアアアアアアアアアッッ!」

ソラのブレスが炸裂する。

それはペオニーへ届く前に、周囲に溢れた『ガス』に引火し、大爆発を引き起こした。

『~~~~~~~~~ッッ!?』

巨大な火の玉が具現化する。

今ペオニーが握り潰したのは、俺が港で回収した『ガスタンク』だ。

燃料タンクと同じく、火力抜群の超危険物である。

『ヌォ……!』

その爆風と黒煙は凄まじく、ペオニーの居た郊外周辺を瞬く間に覆い尽くしてしまった。その光景に俺たちは息を吞む。

「と、とんでもない威力ですね……」

「ええ、まさか、これ程とは……」

数百メートル以上離れていても、この熱風だ。

アカのスーツが無ければ、火傷していただろう。

「し、市役所の方は大丈夫でしょうか?」

「問題ありませんよ」

市役所を中心とした『安全地帯』はペオニーの居る郊外からはかなり離れているし、風上に位置している。熱風や煙も届いていない筈だ。

「それよりも、今は目の前に集中しましょう」

俺の言葉にハッとなり、黒煙の方向を向く西野君。

煙は晴れないが、まだペオニーの気配ははっきりと伝わってくる。

やっぱあの爆発でもまだ仕留めきれてはいないか。

だが――

「ッ――! これは……?」

黒煙の中から感じるペオニーの気配。

そこには明確な『変化』があった。

それは俺たちがようやく待ち望んだ瞬間でもあった。

一方その頃、相坂六花は自衛隊とは少し離れた位置に居た。

「柴っち、そっちに変化はあったー?」

「いや、全然。切っても切ってもすぐに再生しやがる」

六花たちは、『安全地帯』の見えない壁に張り付いたペオニーの末端を斬る作業を黙々と続けていた。

それは準備期間の三日間だけでなく、この戦いが始まってからもずっとだ。

(本当にこんなこと続けてて大丈夫なのかなー……?)

六花は考えるのが苦手だ。

西野の立てた作戦に不満などないが、こうしてずっと変化の無い作業を続けていると些か不安になってくる。

本当にこれでいいのか?

このまま作業を続けていて、本当にいいのかという焦りが少しずつ湧き出てくる。

(――いや、そんな事を考えちゃ駄目だ。信じるんだ)

湧き上がる疑念や不安を打ち消し、六花は手を動かす。

自分達が信じなくて、誰が西野を信じると言うのか。

今までもずっとそうしてきたではないか。

切る、伐る、斬る。

とにかく六花たちはペオニーの末端を切り続ける。

そして――『その時』は訪れた。

ズドンッ!! と一際大きな爆発音が鳴り響いたのだ。

「な、なんだ!? 今の爆発!?」

「自衛隊のミサイルじゃないの?」

「いや……違うよ。多分今の、おにーさんとソラの攻撃だよ」

自衛隊の攻撃にしては威力が高すぎる。

おそらく事前に聞いていた可燃ガスとブレスのコンボ攻撃だろう。

(ニッシー、大丈夫かなー)

ここからは流石に見えないが、西野はクドウと共にソラの背中に乗っている筈だ。

ある意味、一番安全で一番危険ともいえる場所。

自分達に被害が及ばないよう配慮しているとは思うが、それでもこれだけの爆発を目にすると不安になってくる。

「――ん?」

その時、不意に六花は切りつけた蔦の『変化』に気付いた。

「……治ってない?」

六花が切った断面。

それがそのままになっている。

今までなら切ってもすぐに再生を始めていたのに、その兆候が見られない。

それは今までとは違う明らかな『変化』だった。

「これって……まさか」

六花はすぐに別の蔦を切り裂いた。

すると反応は先程と同じ。

――再生しない。

それだけではない。

見えない壁に張り付いていたペオニーの末端は次々に枯れて、剥がれてゆくではないか。

その光景に、彼女だけでなく、その場に居る全員が息を飲む。

「柴っち、これって――」

「ああ、西野さんの予想通りだ。おい、誰か早く『メール』を! 西野さんに連絡するんだ!」

「りょ、了解!」

すぐに手の空いている者が『メール』を送信する。

その知らせはすぐに、彼らのもとに届くことになる。

――六花ちゃんたちから連絡があった。

「クドウさん、これは――」

「ええ、間違いありません」

やはり俺たちの予想は正しかった。

六花ちゃん達からのメール、そして煙の向こうから感じるペオニーの気配。

それは何よりも雄弁にペオニーの現状を物語っていた。

『――……ッ』

所々が炭化し、樹冠部分は燃え続け、焼け焦げた枝が次々に地面に落下してゆく。

かつてない大打撃。

そして何よりも明確な変化――『再生』が起きていない。

「ようやく見えてきたな、突破口が……」

ソラのブレス、自衛隊の現代兵器、燃料タンクやガスタンクによる誘爆。

それらをこの短時間に集中的に叩き込むことでようやく辿り着いたみたいだ。

――ペオニーの『再生限界』に。

ペオニーの『再生』だって無限じゃない。

脅威的ではあるが、それがスキルである以上、相応の『何か』を消費している筈なんだ。

それがMPなのか、外部から摂取する栄養なのか、はたまた太陽の光や大地の養分なのかは分からなかったが、これまでの奴の行動、そして異常な食欲から、俺たちは『捕食』による外部摂取が『再生』のエネルギー源になっていると予想した。

だからこそ俺たちはこの戦闘が始まってから、『巨大化の術』やソラのブレスでペオニーの『捕食』を徹底的に妨害し続けた。

相手のエネルギー源を断ち、その間に全力で攻撃をたたき込み、ペオニーに『再生』を使わせ続けた。

その結果、ヤツは『再生』に必要なエネルギーを枯渇させてしまったのだ。

――短期集中決戦。

脅威的な再生力と防御力を誇るペオニー相手に長期戦は勝ち目がない。

圧倒的な火力をごく短時間に集中砲火させることで、ヤツの再生エネルギーを一時的に枯渇させる。

それが俺たちの狙い。

その読みは見事に的中した。

そして『再生』が限界を迎えた事で、もう一つペオニーの『弱点』があらわになる。

それは生物――いや、モンスターにおける最大の急所『核』の位置だ。

再生速度のムラ、そして今までの攻防でペオニーが優先的に守っていた位置。

「――根本、その中央部分だ」

そこにペオニーの『核』がある。

場所が分かれば、あとはそこを集中的に狙うだけ。

それにそろそろ最初の『仕込み』も頃合いだ。

「ソラ、頼んだぞ!」

『応トモッ!』

駆ける。

舞い上がる黒煙の中、ソラはペオニーへ向けて全速力で飛行する。

集中しろ。

「右だッ!」

『――ッ』

僅かに黒煙が揺らめく。

次の瞬間、右から煙を突き破ってペオニーの触手が俺たちへ襲い掛かる。

間一髪のところでソラはこれを回避する。

「左! 上、右! 正面! 右斜め後方!」

『チィィ!!』

回避、回避、回避。

絶え間なく襲い掛かるペオニーの攻撃をソラは避け続ける。

「――『動くな』!」

「きゅー!」

西野君の命令、キキの『反射』。

その間隙を縫って、ソラはペオニーへ接近する。

(もう少し……あともう少しだ)

集中しろ。

ソラのブレスが最大の威力を発揮する間合い。

そこまで接近すれば今なら届くはずだ――ペオニーの『核』に。

その瞬間まで、絶対に気を抜くな。

あと数十メートル……あと少し――ここだ!

「――ソラ! 今だッ!」

『アアッ』

届いた。

ソラの間合いに。ブレスの最大攻撃射程に。

間髪入れず、ソラもブレスを放つ。

「ギュアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

予め力を溜めこんでいたのだろう。

ソラの放ったブレスは今までで最大級の威力を誇っていた。

それはペオニーの『自動防御』を突き破り、威力を弱めること無く根元へ到達する。

いけ! そのままヤツの核を貫いて――

『――――ダ』

ん?

なんだ? 今、何か――

『――イヤ、ダ』

これは……声?

まさかペオニーの?

『――嫌ダ、嫌ダ、嫌ダ、嫌ダ、嫌ダ、嫌ダ、嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

「――ッ!?」

ぞわりと、寒気がした。

何だ? 何かが来るッ!

とんでもなくヤバい何かが!

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

次の瞬間、無数の『何か』がペオニーから放たれた。