作品タイトル不明
170.それは山を割る巨大な柱の様で
「――ということがありました」
拠点に戻った俺は、一之瀬さんたちに事の次第を説明した。
蔦のモンスター『ペオニー』の事や、五十嵐会長と遭遇した事など。
『メール』でもある程度は伝えていたが、その衝撃は大きかったらしい。
西野君も六花ちゃんも絶句していた。
(……というか、みんな普通に起きてるんだな……)
時刻は既に朝の四時過ぎ。
深夜どころか早朝の時間帯なのだが、みんな普通に起きていた。
むしろ一之瀬さんにいたっては、『引き籠りにとっては、むしろ今が活動時間ですが、なにか?』なんて笑いながら言っていた。
隣にいる六花ちゃんは若干眠そうだったけど。
「しかし、よくまあ次から次にそんなモンスターに遭遇しますね。……クドウさん、実はモンスターを引き寄せるスキルでも持ってるんですか? あ、どうぞ」
「はは、返す言葉もありませんね……。頂きます」
西野君が淹れてくれたコーヒーを飲む。
あ、美味しい。インスタントなのに妙に香りや味が際立ってる。なんか工夫があるのだろうか? 後で聞いてみよう。
「しかし巨大な蔦のモンスターですか……」
「ええ、名前は『ペオニー』。おそらくはトレントの上位種、もしくは変異種だと思いますが、その強さは通常のトレントや『花付き』とは段違いです」
正直、アレは反則に近い強さだった。
モモの『影渡り』がなければ、おそらく逃げ切れなかっただろう。
思い出すだけでもぞっとする。
「つーか、私達まだ普通のトレントとも戦ってないから、いまいち強さが分からないんだけど? いや、名前持ちだし、すげーヤバい奴だってのは伝わったけどさー」
と、コーヒーをすすりながら六花ちゃん。苦かったのか、砂糖とミルクを付け足している。
「そうですね……例えるなら『今の俺とほぼ同じかそれ以上の速度で、一本一本が 破城鎚(パイルバンカー) 並みの破壊力があり、それを何十本も同時に攻撃できる』って感じですかね」
「なにそれチートじゃん」
加えてその攻撃範囲もめっちゃ広い。
なにせ数十キロ離れた隣町からここまでその蔦を伸ばしているのだから。
(もしかしてあの 竜(ドラゴン) もアイツから逃げてきたのか……?)
思い返してみれば、あの 竜(ドラゴン) も現れたのは隣町の方角からだった。
もしかしたら隣町であの蔦のモンスター――ペオニーに遭遇し、こちらへ逃げてきたのかもしれない。
もしそうだとすれば、その戦闘力はあの 竜(ドラゴン) 以上という事になる。
「わぁー、ないわー」
六花ちゃんの言葉は、その場にいる全員の総意だろう。
沈黙がその場を支配し、しばらくコーヒーをすする音だけが響く。
「それで……そのモンスターがここを襲撃してくる可能性は?」
沈黙を破って西野君が本題を切り出す。
正直答えは予想しているだろうが、それでも確認したかったのだろう。
「……十分に考えられます」
「ですよね……」
はぁーと西野君は大きくため息をつく。
なんか最近ほんと疲れた表情が板についてきたね。
元社蓄の俺よりも表情が死んできてる気がする。慣れちゃ駄目だよ、その表情。
「つかさ、そのスーパートレントも気になるけど、五十嵐会長の方は大丈夫なわけ? あの子と一緒に逃げてきたわけでしょ? なんか変な事されなかったの?」
六花ちゃんの言葉に西野君がぴくっと反応する。
この反応、やっぱりなにか接触があったんだな。
「大丈夫です。それに関してはもう問題ありませんよ」
「へ? どゆこと?」
「モンスターに襲われる前にちょっと『話し合い』をしましてね。私達にちょっかいを出さないように約束して貰いました」
だから西野君、安心していい。彼女はもう君の脅威にはなりえない。
出来る限り笑顔でそう伝えると、何故か三人とも訝しげな表情を浮かべる。
「……おにーさん、なにしたん?」
「ですから、『話し合い』です」
「……(ふるふる)」
服に擬態したアカが「アカもがんばったんだよー」と震えて伝えてくる。
うん、そうだな。アカのおかげだ。
「……気になります」
じぃーっとこっちを見てくる一之瀬さん。
「……い、いや、別に大したことはしてないですよ?」
「……」じー
「あー、えっと……」
なにやら興味以外の色が混じっている様なきもするが……うーん、正直に言っていいものか。
(……いや、別にいいか。隠す事でもないし)
それにモモや一之瀬さんには出来るだけ隠し事はしたくない。
俺は『外』で五十嵐会長に何をしたのかを伝えた。
――そして、盛大に引かれた。
「うわぁー、おにーさん鬼畜だねー」
「エロゲ主人公です。エロゲ主人公が居ます」
「容赦のない人だとは思ってましたが、ここまでとは……」
と六花ちゃん、一之瀬さん、西野君の順に感想。
ねえ、ちょっと酷くない? 俺、君らの為に頑張ったんだよ?
そこまで引かなくても良いじゃん。それにみんな割と似たような事してるよね?
「冗談ですよ」と西野君は茶化したが、一之瀬さんと六花ちゃんは微妙に目を逸らしていた。
「ですが、助かりました。正直、俺も会長には悩まされていたので」
「まあ、こちらと連携とまではいかずとも、足を引っ張る様なことはしないでしょう。その辺は安心しても良いかと」
「……助かります」
頭を下げる西野君。
かなりほっとした様子だ。何があったかは聞かないが、色々あったんだろうな。
「ちなみに今彼女はどこに?」
「自分の家に帰しました。『追跡』のマーキングはしておいたので、位置はいつでも把握できます」
本当は『安全地帯』に入った時に、ここに来たいとごねられたが、指を鳴らす仕草をするとすぐに大人しくなった。
「何から何まですいません……」
「そんなに畏まらなくていいですよ。ほら、アレです。『困ったときはお互い様』ってやつですよ」
「……そう、ですね。なら俺も、その借りを返せるように頑張ります」
そんな感じでこの場での話し合いはお開きとなった。
市役所への報告は少し休んでからだ。
流石に疲れた。
ただのトレント掃除のつもりで外に出たのに、まさかのネームドとの遭遇戦になったからなぁ……。
「はぁー、しんど……」
「わんっ」
「きゅー」
部屋に戻り、ベッドに寝そべると、『影』からモモとキキが姿を現す。
どうやら一緒に寝たいらしい。
仕方ないなぁと手招きすると、二匹ともは布団の上で丸くなった。
「みんなもお疲れ。今日もありがとな」
「わんっ」
「きゅー」
「……(ふるふる)」
天井を見上げ、今日一日の出来事を思い出す。
スライムクラゲ、知性ゾンビに、竜、そして最後は蔦の化け物か……。
信じられるか? これ全部一日で起こった出来事なんだぜ?
密度が濃すぎてハゲそうだ、ホント。
「ふぁぁ……」
すぐに睡魔が襲ってきた。
あっという間に俺の意識は沈んでいった。
そして、翌日――というか、数時間後。
事態は急転する。
「……なんだアレ?」
目が覚めた俺は窓の外の景色を見てそう呟いた。
蔦だ。
巨大な太い蔦が、空中に張り付いていた。
(……もしかしなくても、あれって――)
「クドウさんっ!」
「おにーさんっ」
そんな俺の思考を遮るように、バンッとドアが開き、パジャマ――というかジャージ姿の一之瀬さんとタンクトップにホットパンツ一枚の六花ちゃんが入ってくる。
「あ、二人ともおはようございます」
「お、おはようございます」
「おはよー……って、呑気に挨拶してる場合じゃないっしょ。アレ、あれ見てって!」
六花ちゃんは窓の外に映る巨大な蔦を指差す。
「ええ、どうやら向こうは随分と手が早いようですね……」
まさか昨日の今日でもうここまで来るなんて。
大きさといい、感じる気配といい、間違いなくあの蔦のモンスター――『ペオニー』だ。
『安全地帯』の中には入れないのか、透明な壁に張り付くようにその蔦を伸ばしている。
更に何度も蔓を鞭の様にしならせ、『安全地帯』の見えない壁を叩きつけている。やはりモンスターなので、中には入って来れないようだ。
「デカすぎて縮尺が狂って見えますね……」
「手前のビルより高い場所に張り付いてるじゃん。……ありえないでしょ、あれ」
二人とも余りの規模の大きさに、あきれ果てている。
「……西野君は?」
「ニッシーは真っ先に市役所に向かったよ。あれ見て、向こうでもパニックになってるだろうからって」
行動が早いな。
なら俺たちもそっちに向かうとしよう。
というか、『索敵』を通じて、市役所の方から混乱の気配が伝わってくる。
(パニックになってるな……)
昨日の竜に続いてこれだ。
仕方ないと言えば、仕方ないけど……。
下手したら暴動どころじゃ済まなくなるかもしれない。藤田さんたちが上手く治めてくれていればいいけど大丈夫だろうか?
(というか、アレは何だ……?)
市役所の方も気になるが、それ以上に俺は外の景色が気になった。
『安全地帯』の見えない壁に張り付く巨大な蔦――ではない。
その遥か後ろ――山の景色の中に一本の巨大な『柱』のようなモノが見えるのだ。
(動いてる……よな?)
巨大な柱は少しずつだがゆっくりと動いているように見える。
いや、巨大すぎる為にゆっくりに見えているのかもしれない。
(まさか――)
俺はすぐに『望遠』を使い、その仔細を確認する。
結論から言えば、それは『柱』ではなかった。
それにはいくつも細い『枝』が存在していた。
更に雲に隠れた先端には巨大な『葉』や『赤い花』のような物も見え隠れしていた。
もはや考えるまでも無い。
アレがペオニーの本体だ。
「隣町からここまで移動して来たって事か……」
あり得ない話じゃない。
『花付き』――上位種のトレントは自分で移動が出来るし、実際に俺もその目で見た。
ならば、その更に上位の存在である『ペオニー』が自力で移動できない道理はない。
ないが――……、
(デカすぎるだろ……)
蔦の長さや大きさからして本体は相当なデカさだと予想していたが、想像以上だ。
もしアレが本体だとすれば、樹高数百メートルはあるぞ?
ティタンの身長はおおよそ十メートル近くあったが、アレはその数十倍だ。
もしかしたらスカイツリー並みの高さがあるかもしれない。
あり得ないだろ。
規模が違う、違いすぎる。
――あんなのどうやって倒せばいいんだ……?
頭を抱えながら、俺たちは市役所へ向かった。