軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

165.トレントの倒し方

時刻は夜の十時過ぎ。

カズトが公園でトレントと対峙していた頃、一之瀬と六花は自室にいた。

「ふぁぁ……暇だねぇー」

「そうだね」

退屈そうに欠伸をする六花とは対照的に、一之瀬は床に座って作業に没頭している。

「ナッつん、何してるの?」

「弾のストック創り」

そう言うと一之瀬の手が淡く光る。

光が収まると、そこには一発の銃弾が現れていた。

彼女の持つスキル『銃弾作成』によって創られた弾だ。MP消費によって創られたこの銃弾は、一度使用するまで消える事は無い。なので、彼女は時間やMPの余裕がある時にはこうして予備の弾を創るようにしていた。

「うわぁーすごい便利なスキルだね。錬金術師みたい」

六花はそう言って自分の両手をパンッと合せる。

二度もアニメ化された超有名錬金術師漫画のアレだ。

無論、何も起きない。真理を見た訳でもないのだし、そんなこと出来るわけもない。

「ま、まあ、一度に創れる量には限界はあるけどね。それでもモモちゃんの『影』のおかげで大量にストックできるようになったのはありがたいかな」

ふふんとちょっと得意げに笑った一之瀬は作った弾を足元の『影』に収納する。

彼女の『影』はモモの『影』と繋がっており、そこにある程度物を収納する事が出来るのだ。例の化け物ライフルも『影』の中に収納している。

弾のストックを創ったら、次は新しい武器の開発だ。その為の魔石や素材も『影』の中に収納されている。

「今頃クドウさんも頑張ってるだろうし、私も出来る事をやっておかないとね」

今回、外へ出たのはカズトのみ。正確にはモモ、アカ、キキの三匹がお共に付いているが、それ以外は全員『安全地帯』の中で待機だ。

留守番でも時間は有効に使うべきだろう。

(本当なら、私も一緒に行きたかったけど……)

正直に言えば、一緒に戦いたかった。

だが狙撃スキルとトレントの相性が最悪である以上、彼女に出来る事は無い。

大丈夫だ、モモちゃん達も付いているし、彼の強さならば問題ないと自分を納得させる。

「――と心の中では思いつつも、本当は今すぐにでも駆けつけたくてしょうがないナッつんであった」

「ッ!」

六花の言葉にビクッとなり、新しく創った弾丸が床に落ちる。

「あはは、分かりやす過ぎだってナッつん」

「ひ、人の気持ちを勝手に代弁しないでよ!」

「どう見ても図星じゃん」

「うぅ~~……」

ぷんすかと怒る一之瀬だが、正直全然怖くない。

六花はむしろどこか微笑ましい気持ちになりながら、

「大丈夫だよ、ナッつん」

「え?」

「あのおにーさんなら、間違いなく大丈夫」

確信にも似た強い口調で六花は断言した。

「……なんでリッちゃんはそう思うの?」

「へ? だって“あの”おにーさんだよ? 私達が心配する様な人じゃないって。それに――」

六花が何かを言いかけようとした、その瞬間だった。

ズドンッ!と、凄まじい『音』が外から聞こえた。

「ッ……い、今の音って」

「うん、間違いないねー」

その『音』が何なのか、二人はすぐに理解した。

窓を開け、音のした方角を見つめる。

真っ暗で見えないが、何があったのかを二人は正しく理解した。

「ほら、やっぱり。作戦成功したみたいだね」

「……うん」

そう言って二人は嬉しそうに笑うのだった。

≪経験値を獲得しました≫

≪経験値が一定に達しました≫

≪クドウ カズトのLVが2から3に上がりました≫

頭の中に響くアナウンス。

それが目の前のトレントを倒したことの何よりの証明であった。

「―― 破城鎚(パイルバンカー) 一発か。……まあ、こんなもんだろうな。」

バキバキと折れてゆく目の前の巨木を眺めながら、俺はそう呟く。

本格的な討伐とはいっても、実は戦い方そのものは他のモンスターとそう変わらない。

『質問権』が教えてくれたトレントの倒し方は、強い衝撃や斬撃を与えて幹を折る、高火力で跡形もなく燃やし尽くす、大量の農薬や除草剤でじわじわと弱らせて時間をかけて殺すなどであった。

『火遁の術』で燃やし尽くすって手もあったが、MPがどれだけ必要か分からないし、農薬や除草剤には限りがある。

なので一番確実な手を取らせてもらった。

モモたちのサポートがあれば、俺は万全の状態で『破城鎚』を放つ事が出来る。

だが、トレントとの戦いで最も重要なのはその手前、一番最初にトレントに自分を『敵』だと認識させることなのだ。

――相手に気付かれれば、隠密スキルは意味をなさなくなる。

隠密系スキルの共通の弱点。

俺や一之瀬さんだけでなく、それはトレントであっても例外ではない。

この大前提をクリアしてしまえば、あとは普通のモンスターを倒すのとそう変わらないのだ。

(とはいえ、無数の根が鞭の様に襲ってくるのはちょっとキツかったかな……)

四方八方から襲い掛かる木の根はかなりの脅威だった。

だが攻撃の軌道や威力は、午前中に戦ったスライムクラゲとそう変わらなかったのが幸いした。

あれがいい予行練習になり、俺はトレントの攻撃を躱す事が出来たのだ。

そして至近距離まで接近し、キキの『反射』、モモの『影』、アカのサポートと万全の状態で 破城鎚(パイルバンカー) を喰らわせたのである。

(トレントの総合的な強さはスライムクラゲやデス・ナイトと同等くらいか……)

そのレベルならば『進化』した今の俺ならば問題なく倒せる。

(最初から 破城鎚(パイルバンカー) を使っても良いが、そうなると今度は『木』に意識を集中し過ぎて周囲の警戒がおろそかになっちゃうからなぁ……)

トレントの『認識阻害』は強力だ。

強く意識していないとあっという間に認識できなくなる。

周りに他のモンスターが居なければそれでも問題ないが、あの竜や他のモンスターが跋扈している状況でそれは命取りになりかねない。

周囲を警戒しつつ、トレントを討伐する為には多少の戦闘になったとしても、まずはトレントにこちらを『敵』だと認識させるのが一番なのだ。

「さて、と……どうやら『質問権』の言ってた通りになったみたいだな」

『質問権』が教えてくれたトレントの生態。

それは『親』のトレントが死ねば、根で繋がっていた『子』のトレントも同時に消滅するというものだ。

だからトレントを狩る場合、『親』を見つけ倒すのが一番効率がいいと『質問権』は教えてくれたのである。

「どこもかしこもボロボロだな……」

周囲を見回すと、辺り一面無数の『穴』が開いていた。

モンスターは死ねば肉体は消えて、魔石が残る。

これはトレントにも当てはまる。

そしてトレントは普通の木よりも遥かにデカい。

『親』ならば樹高は数十メートルに及び、その幹の太さも3~4メートル以上もざらにある。無論、『親』には及ばないが『子』のトレントもかなりデカい。

そんな無数の巨木がいきなり消滅すれば、空いた隙間は相当な広さになるだろう。

(これ、トレントを倒し過ぎれば地盤沈下とかになるんじゃないか?)

一瞬そんな考えが頭を過る。

いや……まあ、その辺は後で考えればいいか。

今はトレントを何とかする方が先決だ。

俺は魔石を回収するために、『親』のトレントが居た場所に空いた穴の中を覗いた。何気なく。軽い気持ちで。

そして――吐き気がした。

「……マジか」

穴の底には無数の人骨がひしめいていた。

知らぬ間にトレントに襲われ食われた人々だろう。

どうやらトレントは人を襲って食べるが、骨は消化しないらしい。そんな情報知りたくもなかった。

無数の人骨の中心に極彩色の禍々しい光を放つ魔石が鎮座していた。

(こういう時は、アイテムボックスがあってホント良かったと思うわ……)

穴の中に入らなくても魔石を回収できるんだからね。

流石にあの骨の山に突っ込むのはちょっと気が引ける。

魔石をアイテムボックスに回収すると『トレントの魔石(中)』と表示された。

(にしても、一回の戦闘でレベルが上がるなんてな……)

トレントってもしかしてかなり経験値を稼げるモンスターなのか?

それとも『人間』を大量に襲っていたからその分、経験値が上乗せされているとか……? ……なんとなく後者の様な気がした。

「……すいません。安らかに眠って下さい」

人骨はアイテムボックスに収納できない。ここに放置していくしかないのでせめてもの供養だ。

俺は穴の中の無数の骨に手を合わせて祈った。

「さて、この魔石はどうするか……」

手に持った魔石を見つめていると、『影』からキキが現れた。

「きゅー」

「ん? キキが食べたいのか?」

「きゅっ」

キキはコクコクと頷く。

モモは『影』から出てこない。アカも服に擬態したままだ。

おそらくキキが食べる事に納得しているのだろう。

でも一応確認しておくか。

「モモ、アカ、今回はキキに食べさせていいか?」

「わんっ」

「……(ふるふる)」

『影』から声がして、服が震えた。

どうやらオッケーのようだ。

「んじゃ、はい、キキ」

「きゅー♪」

足元に魔石を置くと、キキは嬉しそうに魔石を食べ始める。

うーん……なんかあの人骨を見た後だと、微妙な気分になるなぁ……。

いや、その辺は余り気にしないでおこう。ちゃんとお祈りしたし。

「きゅっぷい……」

キキは魔石を食べ終えて、小さくげっぷをした。

そしてぴくん、と体を震わせた。

「ん?」

どうしたんだろうか?

キキは背中を地面にこすりつけながらモゾモゾする。

そしてくるりと起き上がると、前脚で地面をポンポンと二回叩いた。

(この仕草……なんか見覚えがあるな……)

これ、アレだ。

モモがシャドウ・ウルフの魔石を食べた時と同じ仕草だ。

てことは――、

「きゅー♪」

キキは嬉しそうに一鳴きすると、俺の肩に乗っかってきた。

「キキ、もしかして何か新しいスキルを覚えたのか?」

「きゅー♪ きゅきゅーん♪」

コクコクと頷くキキ。

顔を擦りつけてきて、キラキラした目で俺を見つめてくる。

凄く褒めてもらいたそうだ。

「そ、そうか。凄いな、キキは。偉いぞ」

「きゅぅーきゅきゅーん」

耳や首のあたりを撫でながら褒めると、キキは嬉しそうに体を震わせた。

いったいどんなスキルを覚えたんだろうか?

「……くぅーん」

すると『影』からモモも顔を出した。

モモが撫でて貰いたそうにこちらを見ている。

撫でますか? 勿論イエス。

「ほら、モモもこっちにおいで」

「! わんっ」

元気よく飛びついてくるモモを全身で受け止め、そのまま体を撫でてやる。

ラブリー、癒されるわー。

ちょっと気分がめいっていたが、モモたちのおかげで回復できた。

「よし。んじゃ、キキの新スキルを確認したら次のトレントを倒しに行くか」

「わんっ」

「きゅー」

「……(ふるふる)」

あ、それとレベル上った分のステ振りもしないとな。

丁度いい経験値稼ぎにもなる。

この一晩で狩れるだけのトレントを狩ってしまうとしよう。