軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

144.それぞれの幕間

時間は少し遡る。

カズトや一之瀬が疲労とスキルの反動で寝込んでいる間、藤田らはクエストの達成のため奔走していた。

二体のネームドモンスターを倒しても、条件が完全に達成されたわけではない。

その二体の討伐に加え、住民百名と魔石百個を確保しなければ市役所の条件は達成されないのだ。

タイムリミット最終日。

動かせる人員全てを動員し、彼らは人数の確保を行った。

「はぁー、どうにか目途はたったか……」

藤田は市役所の外縁部に設置されたバリケードの上に腰かけながら、煙草を吸う。

時刻は夕暮れ。

ようやく住民の確保が完了したところであった。

最終的な人数はそれまで市役所に居た人々も含め百二十人となった。

目標値を大きく上回る人数である。

魔石の方は、蟻のモンスターをしこたま倒しているので問題なかった。

市長による条件達成の知らせを受けて住民たちは湧いた。

これで『安全地帯』は維持される。

しかも次のレベルアップの条件には時間制限が付かなかった。

しばらくはゆっくりと足元を固める事が出来るだろう。

紫煙を吐きだし、藤田は夕暮れに染まる空を見上げる。

「斉藤、豊島、柿崎、田中、泉、熊谷……お前らが守りたかった場所は無事に守り通す事が出来たよ……」

今しがた藤田が挙げた名は、アルパ攻略の際に戦死した市役所のメンバーだ。

清水の同僚や、西野のグループにも多数の死者が出たが、やはり最初から行動を共にしていた者たちの死となると込み上げる感情も違う。

死んだ者の中には家族をこの市役所へ残して来た者も居た。

戦死したと伝えると、泣き崩れ、藤田に掴みかかり殴り倒す者もいた。

本来なら殴られる筋合いはないのだが、それでも藤田は甘んじて受け入れた。

「ままならねぇよなぁ……」

殴られた頬をさすりながら藤田は独りごちる。

せめて亡骸だけでも残された家族の下へ届けたいが、それもまだ済んでいない。

それ以上にやるべき事が山済みだからだ。

本当にクソッ垂れで最悪な世界だ。

「ともかく今後の方針を決めねーとなぁ……」

クエストは達成され、安全は維持された。

では、次はどう動くべきか?

市長や清水らと話し合って慎重に決める必要がある。

地盤を固めるにしても、周囲を探索するにせよ、必要なのはやはり情報だ。

特にティタンやアルパの様な強力なモンスターの情報は、彼らの生存に直結する。

「そろそろアイツにも吐いてもらわねーとな……」

藤田の頭にずっとこびりついて離れない『不安』。

――何故、自衛隊は壊滅したのか?

生き残った自衛隊員は誰一人、口を開く事は無かった。

誰もが青ざめ口を閉ざし、ソレを語ろうとしなかった。

つまりはそれだけの『脅威』が隣町には存在しているという事。

果たして隣町には『何が』居るのか?

それを問いただす為、藤田は親友であり、自衛隊の隊長でもある十和田の下へと向かった。

一方、西野と六花は『安全地帯』の境界ギリギリのところに居た。

「ここで最後だね」

「ああ」

西野は手に持ったポールを地面に突き刺す。

市役所からおよそ半径二百メートルをぐるりと囲むようにこのポールは立てられている。

『安全地帯』と『外』の境界を視認する為の指標だ。

「はぁー疲れたぁー……。戦いが終わっても全然休む暇ないよねー」

「仕方ないだろう、人手が足らないんだ。それにもう少し頑張れば、自由に動ける時間も作れる。それまでの辛抱だ」

「うー……分かってるよぅ」

六花を宥めつつ、西野は今後の事を考える。

市役所の拠点維持は成功した。

これからは藤田らに協力しつつも、当初の目的である逸れた仲間たちを探すつもりだ。

(とはいえ、あと連絡が付かないのは大野だけだ)

アイツならば心配ないと思う反面、はやる気持ちも確かにある。

アルパとの戦いでは、彼らも少なくない犠牲を出すことになった。

もうこれ以上仲間を死なせないためにももっと強くならなければいけない。

(大野を探しつつ、しばらくはレベル上げと情報収集だな……)

アルパとの戦いで痛感した力不足。

藤田らの介入が無ければ間違いなく六花は死んでいた。

あんな思いは二度とごめんだ。

(『指揮官』以外の強さも視野に入れるべきだな……)

カズトや一之瀬のように第二職業を手に入れる事が出来れば戦略も強さも今よりもぐっと上がるだろう。

カズトがどうやってあれだけの多彩なスキルや職業を手に入れたのかはいまだに不明だが予想は付いてる。それに一之瀬が『ガチャ』によって第二職業、そしてスキルを手に入れた事も知っている。

つまりレベル上げ以外にもSPやJP、職業やスキルを手に入れる方法はあるという事だ。

(おそらくカズトさんの持ってるスキルは経験値、もしくはポイント増加のスキルだろうな……)

それならばあのレベルに見合わない多彩なスキルも説明がつく。

他人のスキルを奪う『強奪』系のスキルの可能性も考えたが、それならばとっくに自分達のスキルは奪われている筈だ。

なにより、今まで接した中でのカズトの人となりを考えればそれは考えづらい。

(それにおそらくカズトさんは『アイテムボックス』も持っている。出来るだけ関係をこじらせるような事態は避けたい……)

ホームセンターに籠城していた際、周辺施設の物資を根こそぎ奪っていったのは彼だろう。

となれば、相当な物資を持っている筈だ。

なんとしてもカズトとの繋がりは維持しておきたい。

( 六花(アイツ) の為にもな……)

ようやく親友と再会できた彼女を悲しませるような事はしたくない。

それは嘘偽りのない彼の本心だった。

「おーい、ニッシー、早く戻ろーよ! 私さっさとシャワー浴びたいんだけどー」

ぶんぶんと呑気に手を振る六花を見て西野は苦笑する。

「……ったく、お前は人の気も知らないで」

「ん? なにが?」

「何でもない。いま行くよ」

やれやれ、と。

西野は六花の下へと急いで向かうのだった。

―――渇く。

喉が渇く。

ふらふらと、少年はずっと町をさまよっていた。

見上げれば満点の空。

星の光が瞬き、夜の闇を照らしている。

「ハァ……ハァ……」

震える手で必死に首元を押さえ、ひゅーひゅーと浅い呼吸を繰り返す。

誰も居ないコンビニに入る。

少年は手に持ったペットボトルのふたを開け、浴びるように中の水を飲み干す。

だが、足りない。

水を、缶コーヒーを、お茶を、スポーツドリンクをとにかく片っ端から飲み干してゆくが、『渇き』は一向に収まらない。

一体自分はどうしてしまったというのか?

「みんな……どこに居るんだよ……」

あの時からだ。

少年が仲間だと思っていた少年たちをナイフで刺し、その手を血に染めたあの忌まわしい出来事。

あの時から、少年はずっと何かに怯え、責められていた。

――殺した。

「違うっ!」

――お前は、人を殺した。仲間だった少年たちを殺したんだ。

「違うっ!違う違う違う!」

聞こえてくるのは己を責める声、声、声。

「僕は悪くない……僕は悪くない、僕は悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない」

何度も何度も呪詛のように繰り返される言葉。

爪が食い込み、血がにじむほどに自分の腕を抱く。

渇く、喉が渇く。

ひゅーひゅーと浅い呼吸を繰り返し、涙を流し、姿も見えぬ何かに許しを請う。

どうして自分がこんなに苦しまなければいけないのか?

アレは正当防衛だ。

だから自分は悪くない。その筈だ。

そう何度も自分に言い訳をする。

「誰か……誰か助けてよ……」

少年の精神はあと一歩で『壊れて』しまう限界に達していた。

「……ん?」

ふと、少年の目に何かが映る。

ゆっくりと近づき、ソレを拾い上げる。

それは極小サイズの魔石だった。

「ぁ……」

ごくり、と喉が鳴る。

何故だろう?

少年の目には、この魔石がどんな肉厚のステーキよりも旨そうなご馳走に見えた。

「あぐ……んぐ、んぐ……ごく」

少年は躊躇なく魔石を頬張り咀嚼し、嚥下する。

硬い筈の石を驚くほどあっさりとかみ砕く事が出来た。

まるでそれまで拒絶していた本能や体がソレを『受け入れた』かのように。

「あぁ……あはぁ……」

するとどうだろう?

先程まで体が訴えていた飢えや渇きが嘘の様に引いてゆく。

それどころかこの身体から漲る全能感はどうだ?

「……美味しい……」

食べたい。

もっともっと味わいたい。

視線を向ければ、ゴブリンが居た。

ふらふらとおぼつかない足取りで近づき、背後から一突き。

あっさりとゴブリンを殺す。

≪経験値を獲得しました≫

≪オオノ ケイタのLVが11から12に上がりました≫

アナウンスが鳴り響き、足元に魔石が転がる。

「あぐっ……んぐっ……」

少年は迷うことなく魔石を喰らう。

美味い、美味い、美味い。

全身に力が漲り、それまで感じていた罪悪感が嘘のように引いてゆく。

少年はその全能感に酔いしれた。

「もっと……もっと……」

本能の赴くまま、少年はモンスターを狩り続ける

ゾンビを殺し、ゴブリンを殺し、オークを殺し、レッサー・ウルフを殺し。

殺して殺して、殺して殺しまくった。

モンスターが落とす魔石は少年から罪悪感を取り払い、全能感を与えた。

≪一定量を超える魔石の摂取を確認しました≫

≪一定条件を満たしました≫

≪オオノ ケイタの種族が『人』から『屍鬼』へ変異します≫

≪カオス・フロンティアにおける最初の『変異』を確認≫

≪特典が与えられます≫

≪スキル『嫉妬』を取得しました≫

「はは……あははははは……何だろう? どうして僕は今までこんなに苦しんでいたんだろう? あいつらなんか死んで当然じゃないか」

いつしか自分を責める『声』は聞こえなくなり、罪悪感も消え去っていた。

人を殺した? それがなんだ?

どうして自分は今までそんな『些細な事』に囚われていたんだろうか?

「待ってて……西野君、柴田君、六花、それにみんナ……」

眼鏡のズレを直し、少年は立ち上がる。

メキメキとその体が作りかえられてゆく。

血色のよかった肌はだんだんと青白く。

黒々とした髪は亡者の如き灰色に。

眼窩に浮かぶ光は赤く濁ってゆく。

「僕ハ……マダ生キテルカラ……」

そして、少年だったモノは歩きはじめた。