作品タイトル不明
142.エピローグ 仲間と共に
意識が覚醒する。
俺はゆっくりと目を開いた。
「あ、目が覚めましたか?」
すぐ目の前に一之瀬さんの顔があった。
それと後頭部に当たるこの柔らかな感触。
……これってもしかしなくても膝枕でしょうか?
なんとなく目で訴えると、一之瀬さんは顔を逸らす。
「あ、いえ、これはその……流石にそのまま地面に横にしておくのは酷いかなと思っただけで……あ、でもよく考えたら、私の膝の方がアレですかね……あはは」
「……そんな事ないですよ」
何というか、凄く元気になりました。
ありがとうございます。
「わんっ」
「きゅー」
「……(ふるふる)」
足元へ視線を向けると、モモたちが居た。
目が覚めた俺を見て安心した様な表情を浮かべている。
「モモ、アカ、キキ……みんな無事だったんだな」
「なんとか勝てましたね……」
「はい……」
ステータスを見れば大量のSPとJP、そして『進化先』なる項目が追加されていた。
そういえばレベルが上限に達したとか言ってたな……。
俺もモモやキキみたいに進化できるって事だろうか?
僅かに動く指先で『進化先』の項目をタップする。
ズラッと十以上の進化先が記載されていた。
ハイ・ヒューマン、エルフ、ドワーフ、小人、鬼人、蜥蜴人、巨人、獣人等々……。
ざっと見ただけでも、十以上の種族が記載されていた。
どれもゲームでよく見る様な種族ばかりだ。
モンスターが居るならこういう亜人種もどこかに居るんじゃないかと思っていたが、まさかこういう形でお目にかかるとは思わなかった。
「……もしかして、『進化先』の項目を見てるんですか?」
「……という事は一之瀬さんも?」
一之瀬さんはこくりと頷く。
というか、ステータス欄のパーティーメンバーの項目を見れば一目瞭然だった。
パーティーメンバー
モモ 暗黒犬 Lv1
アカ クリエイト・スライムLV1
イチノセ ナツ LV30
キキ カーバンクルLV1
一之瀬さんのレベルが30になっていた。
それだけじゃない。
モモは暗黒犬に、アカはクリエイト・スライムに、キキはカーバンクルにそれぞれ進化していた。
全員、ゴーレムを倒したことでかなり経験値が入ったのだろう。
「……相変わらず、お前ら見た目は全然変わってないな」
「わふーん」
「……(ふるふる)♪」
モモの頭を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らす。
アカも撫でてやると嬉しそうに震えた。
「きゅー」
キキもわたしもなでてよー、と体を擦りつけてくる。
唯一、キキだけが少し見た目が変わったか。
額の宝石の形状が六角形に変わっている。とはいえそれだけだから、ほぼ誤差みたいなもんか。
「人間も進化できるみたいですね。はは、ホントにゲームみたいですねこの世界は」
「みたいですね……」
「ちなみに一之瀬さんは何を選ぶおつもりで?」
「えとえと、まだ保留です。その……クドウさんと話し合って決めようかなって思って、はい……」
「そうですね。戦いも終わったんだし、じっくり考え――あっ」
そこまで言いかけて、俺はハッとなる。
一之瀬さんはビクッと震えた。
「そ、そう言えば西野君たちは!? 彼らはどうなったんですかっ?」
「だ、大丈夫です、落ち着いて下さい。さっきリッちゃんからメールがありました。無事にアルパを倒したみたいですよ。それに藤田さんやクドウさんの同僚も無事みたいです……」
「そうですか……良かったぁ……」
一時はどうなる事かと思ったが、どうやら向こうもうまくいったようだ。
思いっきり脱力すると、一之瀬さんがぎゅっと手を握ってくる。
「……クドウさん」
「……はい」
「本当に……本当に良かったです……」
ぽたりと、雫が頬に当たる。
「私……怖くて……死んじゃうんじゃないかって……もう二度と、クドウさんやリッちゃんに会えないんじゃないかって……」
戦いの最中に一之瀬さんは死を覚悟していた。
その反動が解けて、一気に感情が溢れてきたんだろう。
「だから、こうしてまた……クドウさんと話が出来て、モモちゃん達に触れて……本当に、本当によかったです……うぅぅ……」
「大丈夫、大丈夫です……俺は死にませんし、一之瀬さんも殺させません。ずっと一緒に居ますよ」
「ヴぁい……」
ちょっと重い発言だったかなと思ったが、一之瀬さんは泣きやんでくれた。
あーもう、顔ぐっちゃぐちゃじゃないか……。
ハンカチで顔を拭いて、ついでに鼻もかみなさい。返さなくていいから。
「……少しだけ休んだら、皆に合流しましょうか」
まだまだやる事は一杯あるけど……とりあえず今は少しだけ休ませてもらおう。
体を撫でまわすモモやキキ、アカの感触と一之瀬さんの温もりを感じながら、俺はしばし目を閉じるのであった。
その後、何があったかを簡単に語るとしよう。
結論から言えば、市役所はクエストを達成した。
ネックとなっていたのはネームド二体の討伐だったので、残りの二つの条件に関してはさほど問題ではなかった。
タイムリミット最終日、市役所は総出で住民の確保を行い人数を確保。
魔石に関しては、蟻を倒して得た魔石が大量に在ったので問題なかった。
とはいえ、失ったものも多い。
今回の戦いで市役所の主要メンバーと西野君のグループに多数の死者が出た。
自衛隊の生き残りが加わるので、戦力自体は維持できるだろうが、それはあくまで数字上の話だ。
残された者たちの悲しみはそう簡単に癒える事はないだろう。
死んだ者たちの遺体の回収も済んでいない。
それよりも拠点の整備の方が優先されているからだ。
「……本当に今のこの世界は命の価値が軽いよなぁ……」
昨日まで普通に話していた人が次の日には居なくなる。
そんな事も日常茶飯事になってしまった。
それでも、人は逞しく生きている。
廊下の窓から外を見れば、ゴーレムが残した瓦礫の山が広がっていた。
陣頭に立つ上杉市長の指示の下、瓦礫の撤去作業が行われている。
『町づくり』の『防衛機能』や『ごみ処理機能』である程度は撤去できるだろうが、それでも量が量だ。全てを何とかすることは出来ないだろう。
(俺のアイテムボックスももう収納限界だしな……)
瓦礫を片っ端から――もちろん人目を忍んで――収納していたら遂にアイテムボックスの収納量が限界に達したのだ。
ずっと収納量の底が分からなかったが、今回で遂に限界量を知る事が出来た。
条件を達成したことで、市長の『町づくり』のレベルは上がり、安全圏は維持、拡張された。
次のスキルアップの条件は、再び魔石と住民の確保のようだが、タイムリミットの制限は付かなかった。
なので、しばらくは地盤を固めるためにもスキルのレベルはそのままにしておくそうだ。
まあ、正しい判断だと思う。
レベルを上げてまた制限時間内にネームドの討伐とか提示されたらそれこそ地獄だしな。
廊下を歩く。
するとなにやら声が聞こえてきた。
「ちょっと藤田さんっ! 市役所内は禁煙にしましょうと昨日決めたばかりじゃないですか!」
「い、いやでも十香ちゃんよー……別に今の世界で煙草くらいでそんな――」
「規則は規則です! 上に立つ人がそんなでは周りの者に示しがつきません! ほら、これは没収しますっ!」
「ああっ」
「あはは、そーいちろーかっこわりー」
「なはは、そーいちろーかっこわるいのだ」
「うるせえ!お前ら少しは黙ってろ!」
「士織と士道に汚い言葉を使わないで下さい!真似したらどうするんですか!」
見れば、藤田さんと生徒会長さんが言い争いをしていた。
そう言えば何故、藤田さんと連絡もつかず、更に生徒会長さんと一緒に戦場に現れたのか?
その理由も判明した。
ある意味では予想通りだったが、俺と別れてから藤田さんと自衛隊員は強力なモンスターに襲われたらしい。
足止めを喰らっているところに偶々通りかかったのが、生徒会長とあの双子だった。
――本当は自衛隊を手駒にするつもりで近づいたのだろう。
俺にはあの生徒会長が善意で人助けをするとは思えなかった。
だが彼女にとって予想外だったのは、そこに藤田さんが居た事だろう。
「まさか藤田さんとあの生徒会長さんが親子だったとはなぁ……」
驚きの事実である。
藤田さん離婚歴があるとか言っていたが、まさかその子供があの生徒会長さんと双子だったとは思いもしなかった。
更に上杉市長も彼女の知り合いだったらしい。
それこそ生徒会長さんが赤ん坊のころから知っている仲だったらしく、流石の彼女も実の父親や育ての親の様な上杉市長にスキルを使うのは抵抗があったらしい。
市役所へたどり着いた後、二人に説得されて彼女は折れた。
共に戦う事を了承し、戦場へ駆けつけたというのが事の顛末であった。
世の中って狭いね。
「と、十香ちゃん、その辺にしてあげたら? 藤田さんも反省しているんだし」
「清水さん、そうやって甘やかしては駄目です。この 男(クズ) がそうやって昔、私や母さん、それにけん爺――じゃない、上杉市長にどれだけ迷惑をかけたと思っているんですか?」
「おまっ、親に向かってその口の利き方は――」
「はぁっ?」
「……すいませんでした」
どうやら藤田さんは若いころは相当ヤンチャしていたらしい。
未だに言い争いを続ける 父娘(おやこ) を横目にしながら、俺はその場を通り抜けていった。
藤田さんと上杉市長が居る限り、彼女が何かをしでかすという事は無いだろう。
むしろ、今ではなんだかんだ文句を言いつつも積極的に彼らに協力している気配もある。
いい方向に転がったと考えるべきだろうな。
(そう言えば、結局ティタンは何でココを狙っていたんだろうなぁ……)
それだけが未だに謎であった。
西野君はティタンはこの周辺で何かを守っている存在じゃないかと予想を立てていたが、結局その理由は分からずじまいだ。
ま、もうティタンは倒したんだし、あまり深く考える必要もないか。
階段を上がり屋上の扉を開ける。
抜けるような蒼穹が広がっていた。
キョロキョロと周囲を見回せば、お目当ての人物がフェンスの隅で縮こまっていた。
向こうもこちらに気付いたようで、軽く手を振ってくる。
「お疲れ様です、もう体は良いんですか?」
「ええ、もう大分良いですよ」
西野君たちと合流した後、俺と一之瀬さんは二日ほど寝込んでしまった。
緊張が解けた影響やスキルの反動の所為だろう。
仮眠室のベッドで目を覚まし、西野君から事の顛末を聞いたのである。
俺は一之瀬さんの隣に腰を下ろす。
しばらくは無言で二人して空を見続けた。
やがてどれだけそうしていたのだろう。
「「あの……」」
綺麗に俺たちの声はハモッた。その後に「どうぞどうぞ」という部分までぴったりと。
それがおかしくて、俺たちはくすくすと笑った。
「クドウさんからどうぞ?」
「ええ、ありがとうございます」
俺は自身のステータスプレートを開く。
その中の一番最後の項目――『質問権』。
ティタンを倒した際、獲得したボーナススキル。
指先で触れると、画面が変化する。
―――『質問内容を入力してください』―――
その文章の下には、文字を入力するスペースがある。
「質問権ってスキルを何回か試してみました」
「……どうだったんですか?」
一之瀬さんは興味津々といった様子でこちらを見つめてくる。
「スキルや職業に関しては色々と分かりましたね。あとはこの世界の簡単な成り立ちくらいですか……」
質問権は全てに対し明確に答えてくれるわけではなかった。
ただ、スキルや職業、そして世界の成り立ちについてはある程度判明した。
どうして世界にモンスターが現れたのか?
そもそもこの世界は一体何なのか?
質問を入力すると、返ってきた答えがこれだ。
――この世界は、二つの世界が融合した新たな世界である、と。
二つの世界。
俺たちが今居る世界と、モンスターが居る世界が一つになって、このおかしな世界は誕生したらしい。
「元に戻す方法や、モンスターの殲滅方法なんかも入力したんですが、答えは表示されませんでした」
今の俺では質問出来ない内容なのか、それとも―――『答え』が存在しない質問だったのか……。
どちらにせよ、俺たちがこの世界を生き抜かなければならない事には変わりなかった。
正直、心のどこかで元の世界に戻す方法があるんじゃないかと思っていただけに落胆は大きい。
ただこれから先生き延びるための 道標(ガイドブック) は手に入った。
『質問権』を過信するつもりはないが、それでも重要なカードになるだろう。
「……これからどうするんですか?」
一之瀬さんが訊いてくる。
「そうですね……しばらくはここに留まろうと思っています」
色々調べたいこともある。
それに世界がこうなってからずっと張りつめた日々を送っていたのだ。
少しくらい休んでも罰は当たらないだろう。
「まあ、集団での生活もありますから、その……一之瀬さんにはきついかもしれませんが」
「そ、そんな事ないですっ!」
ぶんぶんと一之瀬さんは首を横に振る。
そしてぎゅっと俺の手を握った。
まるでここが私の居場所だ、と主張するように。
「は、離れませんからっ! ずっと一緒に居るって言ってくれましたよねっ」
「……勿論じゃないですか」
何を当たり前のことを。
その気持ちに応える様に、俺は一之瀬さんの手をぎゅっと握り返した。
「……あぅ」
よく見れば、一之瀬さんの顔が真っ赤だった。
たまらず彼女は顔を逸らす。
「……」
それを見て俺もなんか妙に気恥ずかしくなってしまう。
お、おかしい。何でこんなに胸が高鳴ってんだ?
それに顔が妙に熱いし……あれ?
「…………」
「…………」
ど、どうしよう?
お互い無言の中、勢いよく屋上の扉が開かれた。
「あーナッつんとおにーさんみーっけ!」
「わぉんっ!」
現れたのは六花ちゃんとモモだった。
更にその後ろには西野君や柴田君の姿も見える。
「もー二人とも、サボってないで手伝ってよー!まだまだやる事一杯あるんだから!」
「そ、そうだぜ! というか、テメェ二人きりだからって一之瀬に何かいやらしい事でもしてんじゃねーだろうなっ!」
「落ち着きなよ、柴田君。気になる女の子が心配なのは分かるが、そんな乱暴な口調は――」
「べ、別に気になってなんてねーしっ!適当ほざいてんじゃねーぞ、おっさん!」
「柴田、お前……」
「に、西野さんもなんっすか、その反応はっ!」
どかどかとやってきた彼らを見て、俺と一之瀬さんはくすりと笑う。
そしてゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ、行きましょうか一之瀬さん」
「はい、クドウさんっ」
笑いあい、支え合える仲間が居る。
だからこそ、俺は今日もこのモンスターの溢れる世界で生きていくのだ。
何よりも大切な仲間と共に。