軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

136.市役所攻防戦 その4

しばらく移動すると西野君たちの姿が見えてきた。

六花ちゃんがこちらに気付き手を振ってくる。

「あれは……西野君のチームじゃないの? どうしてこんなところに?」

驚いた声を上げる清水チーフ。

まあ予定ではもっと離れた場所に居るからな。

驚くのも無理はない。

「彼の仲間に感知系のスキルを持つ子が居るんですよ。ただ待ってるよりもこっちに来てもらいました。ああ、事情はもう話してあるので、先ずは合流しましょう」

「事情って……え? いや、ちょっと待って、どういう事なの? 色々聞きたい事が山ほどあるんだけど……」

「それは後で説明します」

「後でって君ねぇ……」

清水チーフの疑問に関してはほぼスルーする。

全部事情を説明している暇なんてないしね。

今はそれどころではないし、今はなあなあで済ませてしまおう。

全部が終わった後で上手い言い訳を考えればいい……西野君が。うん、頑張ってもらおう。

「……それと二条、いい加減離れてくれないか?」

「い、嫌ですっ。だって離したらまた先輩がどっか行っちゃうような気がして……」

さっきからコイツ、ずっと俺の裾掴んで放さないんだよな。

迷子かよ。

「大丈夫だから、なっ?」

「……」

二条は渋々と言った感じでようやく手を放してくれた。

「クドウさん、お疲れ様でした」

「西野君こそ、ありがとうございます」

色々と皆に上手い事説明してくれて。

一之瀬さん(俺)が持ち場を離れる理由とか、俺が仲間になる事とか、西野君と六花ちゃんが上手く説明してくれたようだ。

事前に説明もしてくれてたみたいだし、すんなり入れ替われた。

本当にありがとう、西野君。

「一之瀬さんは“配置”に付きましたか?」

「ええ、問題ありません」

これも混乱を避ける為に事前に決めておいたやり取りだ。

ちなみに『本物の一之瀬さん』は今も別の場所で待機して貰っている。

一応、念の為にね。嫌な予想が当たって無ければ後ですぐに合流してもらう予定になっている。

「清水さん、二条さん、お待ちしてました。事情はクドウさんから聞いています。ご無事で何よりでした」

「え?」

どういう事?的な視線を送られるが、華麗にスルー。

「その辺も後で全部説明します。それよりも今は作戦をどうするか考えましょう」

「……分かったわ」

納得はしていないが理解はしているのだろう。

清水チーフはそれ以上言及しなかった。

「―――という訳で、清水さんのチームがお二人だけになってしまった以上、お二人には俺たちのチームに加わってもらいます」

「作戦は続行するって事ね?」

「ええ、ここで中止にしては犠牲も時間も全て無駄になりますから」

「……そうね。ええ、その通りだわ」

三方向からの同時攻撃は不可能になったが、西野君チームと市役所チームによる挟撃ならまだ可能だ。

おまけに市役所チームには西野君の仲間が二人加わる予定になっている。

清水チーフのグループのトラブルを受けて、西野君が急遽市役所に待機させていた残りの学生メンバーを市役所チームの方へと向かわせたのだ。

彼らが無事に合流できれば、『メール』でのやり取りが可能となり、ある意味三チームの時よりも連携は取りやすくなるだろう。

「あ、あの……その人たちは大丈夫なんですか?」

二条の問いに対し、西野君は問題ないと答える。

「市役所に待機させてた二人は『戦闘』よりも『逃亡』に特化したスキル構成をしています。隠密行動にも長けてますし……あ、ほら見て下さい」

西野君はある方向を指差す。

その方角からは二本の狼煙が上がっていた。

「一本は市役所チーム、もう一本は俺たちの仲間が無事に合流できた際に上げる手はずになってますから、無事に持ち場に付いたみたいですね」

「ついでに言うと市役所チームはもう持ち場に付いたって訳か。予想よりもだいぶ早くねーか?」

「ああ、やっぱり彼らは優秀だな。俺たちも急いで配置に付いた方が良いな」

柴田君の言葉に頷くように、西野君は素早く指示を出す。

「お二人とも、色々聞きたいこと、言いたい事はあるでしょうが、今は後回しです。構いませんね?」

「……分かった。指揮も君に任せるわ。それでいいのよね?」

「わ、私も……それで構いません」

「ええ、ご理解ありがとうございます」

清水チーフと二条は表情を変え、武器を構える。

頭を切り替えたのだろう。

全員が視線を合わせ頷く。

「みんな! これから敵の本陣だ! 油断するなよ! 絶対に生き延びろ! 俺たちは勝って帰るんだ!」

「「「「「おおおおおおおおおおおっ!」」」」」

西野君の叫びに全員が呼応する。

やっぱり彼の声には力がある。

スキルとは違う、人を引き付ける魅力を彼は持っている。

叫んで敵を呼び寄せないかという心配はしていない。

ここは敵陣、どうせ俺たちの位置は敵にバレてる。

ならば士気の高さを維持する方が大事だ。

地下街への階段が見えてきた。

既に『索敵』にはおびただしい程の気配を捉えている。

そして――その中に一匹、明らかに違う気配があった。

(――居る。間違いなく)

女王蟻アルパ。

ネームドモンスター。

それはすなわちあのハイ・オーク『ルーフェン』と同格の存在って事だ。

否が応でも緊張感は高まる。

「狼煙を上げろ」

「はいっ!」

発煙筒の煙が空高く上がってゆく。

「ニッシー……」

「ああ、今メールも来た。向こうも準備万端の様だ」

「なら……」

「ああ、行こう」

すぅっと西野君は息を吸い、そして――

「突入っ!!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」

俺たちは武器を構え地下街へ侵入する。

即座に無数の蟻達が俺たちを出迎えた。

前だけじゃない。

脆くなった壁を突き破り、四方八方から黒い大軍が姿を現す。

「光源は常に守れ! 明かりが無くなればすぐに全滅するぞ!」

「「「了解っ!」」」

工事で使うライト付きのヘルメット、胸にぶら下げたLEDランタン。

階段付近ならまだ問題ないが、女王蟻が居るのはもう少し先、光が差さない暗闇の中だ。

全員が光源を確保しながら、蟻達を殲滅してゆく。

ちなみに俺や二条は『暗視』のスキルがあるから問題ない。

『影』と『オークの包丁』を使い、一匹一匹確実に仕留めてゆく。

ついでに皆の視界に映らない場所に居る蟻も、アイテムボックスで圧殺してゆく。

それと即席の壁も作っておくか。

多少は向こうの動きを妨害できる筈だ。

地下街だから、消波ブロックや重機などは迂闊に使えば崩落の危険もあるが、その点に関しては問題ない。

新しく取得したスキル『地形把握』がそれをカバーしてくれた。

索敵範囲内の地形が地上、地下を含め手に取るようにわかる。

地盤の脆い場所、頑丈な場所、どこにどう落とせば影響が出ないかがハッキリと分かる。

(……もしかしてアカはこの為に『追跡者』を取らせたのか?)

確かにこの地下街で戦うには『地形把握』程便利なスキルは無い。

アカは「なんとなく」と言っていたが、まさかこれを予期していた?

それとも他にも理由があるのか?

いや、今はともかく目の前の事に集中だ。

≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫

≪経験値が一定に達しました≫

≪クドウ カズトのLVが23から24へ上がりました≫

≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫

≪熟練度が一定に達しました≫

≪スキル『暗視』がLV4から5に上がりました≫

≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫

≪熟練度が一定に達しました≫

≪スキル『地形把握』がLV3から4へ上がりました≫

≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫≪経験値を獲得しました≫

脳内には常に絶え間なくアナウンスが鳴り響く。

殺しても殺しても、いくらでも蟻達は湧いてくる。

(くそっ、ポイントを割り振る暇が無い……ッ!)

レベルも上がったが、それに割く余裕が無い。

ちなみに先程のレベルアップの分は移動中にすでに済ませている。

第四の職業も既に獲得済みだ。

今後の事も考えての職業選択だったが、これだけおびただしい数の蟻を前にすると『駆除人』を選んだ方が良かったかとも思えてくる。

いや、あくまで本命はアイツだ。

その為に下準備をしてきたんだろうが。

「柴っち! 殺虫剤が切れた! 新しいの頂戴!」

「おうっ!」

「清水さん、向こうからも蟻の気配が!」

「分かってるわ! 二条さんは五所川原さんのサポートに回って!」

「りょ、了解です――ってうわあああっ!?」

「ふんぬおりゃああああああああああああ!」

「す、凄い、振り回すスペースが無い場所でこれだけの丸太捌きを……」

「清水さんもそちらへ回って下さい! こっちは俺と六花で何とかします。柴田も彼女達のサポートに!」

「了解っす! おい、五所川原のおっさん! 予備の丸太は?」

「大丈夫だよ、ちゃんとある!」

戦闘は更に激しさを増してゆく。

階段を下り、どれだけ進んだだろうか?

「あっ」と二条が声を上げる。

「こ、この先です! もう少し行った先の中央フロアから女王蟻の気配がします!」

全員の表情が変わった。

西野君が俺の方を見る。

「クドウさん……」

「ええ、間違いありません」

先程から俺の『索敵』も反応している。

この先だ。

この先に女王蟻アルパが居る。

「……ヤバい気配がビンビンするねー」

口調は軽いが六花ちゃんも緊張している様だ。

蟻を倒しながら俺たちは中央フロアに足を踏み入れる。

そこには一際大きな黒蟻が居た。

二条の話の通り、ソイツは他の蟻達に比べて数倍はデカかった。

前脚は異様に長く先端はカマキリの鎌の様になっている。

そして腹部は異様に膨らんでおり、所々にある突起がドクン、ドクンと脈打っている。

これが……女王蟻アルパ。

成程、確かに女王蟻の名に恥じない風格だ。

だがその威圧感は、ハイ・オークやゴーレムに比べると些か劣るように思えた。

アルパの周りには数えるのも馬鹿らしくなるほどのソルジャー・アントと蟻達が控えている。

「ギィィィッ!」

ガチガチと、アルパは牙を鳴らす。

不躾な侵入者である俺たちを威嚇するように。

すると、中央フロアを挟んで反対側の通路から人の気配を感じた。

これは、もしかして……。

「着いたぞ! ここか!」

声が聞こえた。

それは市役所チームの人達だった。

追加で加わった学生二人の姿もある。

「どうやら、彼らも無事にここまで来れたようですね」

「ああ、このまま予定通り作戦を実行しよう」

殺虫剤のストックもまだある。

多少疲労しているとはいえ、この程度であれば問題ない。

順調だ。

このままここでコイツを倒す。

そう思った、次の瞬間――俺の背筋に悪寒が走った。

「ッ……!?」

反射的に後ろを振り向く。

後方に居た西野君と目があった。

「……どうしたんですか、クドウさん?」

「いえ、今……何か……」

『嫌な気配』がした。

目の前の蟻の大軍よりも遥かに『嫌な気配』が。

西野君たちからじゃない。

もっと後ろ、俺たちが来た方向……いや、それよりも更に遠くから―――。

「これは……まさか……」

そして、その直後。

地面が揺れ―――『叫び』が木霊した。

「―――ルルルルルゥゥゥゥウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」

激しい揺れと共に響き渡る怒号。

その場にいた誰もが、蟻共でさえ、意識を、視線を、その声が聞こえた方向へと向けざるを得なかった。

「ッ……こ、これって……もしかして?」

「間違いありません、あのゴーレムでしょうね……」

「嘘っ、まさかここに向かって……!?」

あの巨体に襲われたら、この地下街など簡単に崩落してしまうだろう。

学生たちに動揺が走る。

「落ち着け皆! 戦線を崩すな!」

「で、でも……」

「大丈夫です! 音の響きからして、奴が現れたのはかなり遠くです! ここが狙われる可能性は低いでしょう」

「ほ、本当に?」

「ええ、間違いありません」

「よ、良かった……」

二条はほっと胸をなでおろす。

他の学生たちも安堵の表情を浮かべる。

「……」

だが俺と西野君は皆に動揺を悟られないように顔を見合わせた。

「クドウさん……」

「ええ、嫌な予想が当たりました」

何故なら『嫌な気配』がした先は。

ヤツの声が聞こえた方向に在るのは。

―――市役所だ。

そして―――

「うわぁー……本当にカズトさんと西野君の予想通りになったなぁ……」

市役所から少し離れたビルの屋上。

そこに彼女はいた。

視線の先にはゆっくりと動くゴーレムの姿がある。

『もしも敵が『安全地帯』を破る手段を持っていた場合、主要戦力が居なくなった 市役所(ココ) へ攻めて来るかもしれない。可能性は低いけど、念のため一之瀬さんはここに居てほしい』

「――て言ってたけど、まさかホントに当たるなんて……」

はぁーとため息をつくも、次の瞬間には彼女の目には鋭い光が宿っていた。

「ま、仕方ないか。ここまで来たらやるしかないんだし―――行こうか、みんな」

「わんっ!」

「……!(ふるふる)」

「きゅうー!」

彼女の声に、傍に控えた仲間も声を上げる。

「私達の新しい 力(スキル) ―――アイツに見せてあげよう」

そして彼女も戦場へ――。