作品タイトル不明
125.キキのスキル
巣穴から現れた四体のソルジャー・アント。
「ギィィィ……」
「キシッ……」
「ィィ……」
「ギギッ……」
先程の攻防を見ていたのだろう。
奴らは一定の距離を保ちながら、こちらを警戒している。
手下をぶつけて戦力を測る。
ショッピングモールでダーク・ウルフが使ってたのと同じ手法だな。
群れを成すモンスターは戦法も似通って来るのだろうか?
「でも、アイツほど頭は良くないみたいだな」
お前たちの居るそこは、既にアイテムボックスの効果範囲内だ。
再び周囲を覆い尽くすように消波ブロックを展開する。
「「「「ッ!?」」」」
ソルジャー・アントたちは頭上に現れた消波ブロックに驚く。
いや、蟻だから表情は無いんだけど、多分驚いているんだと思う
直ぐに飛び退こうとする者、手を振り上げブロックを防ごうとする者。
反応は様々だが―――遅い。
「――『操影』」
足元から展開した『影』がソルジャー・アントたちの動きを阻害する。
土煙で見えないようにしていたからな。
気付かなかっただろ。
「潰れろ」
商店街に再び轟音が響き渡る。
≪経験値を獲得しました≫
「四体の内、仕留めたのは二体だけか……」
死んだ二体は頭や胸の部分を潰され、そのまま息絶えた様だ。
打ち所が悪かったな。
「ギ……ギィィ……」
「ギギギ……」
残る二体の内、一体は消波ブロックに両足を潰され身動きを取れないでいる。
もう一体は片腕と左足首から下を失っていた。
こっちは直ぐに飛び退こうとした個体だな。
どうやら『操影』で絡みとられた部分を即座に斬り捨てて離脱したらしい。
十分に距離を取ってるし、四体の中では多分こいつが一番賢そうだ。
「じゃあ、先ずはこっちだ」
身動きの取れなくなったもう一体に止めを刺す。
再び消波ブロックを頭上に出現させ圧殺する。
≪経験値を獲得しました≫
「これで残るはお前だけだな」
「ギ、ギィィ……」
残った手で剣を構えつつも、ソルジャー・アントは動揺を隠しきれていないようだ。
まあ一瞬で仲間を三体もやられればそうなるか。
『危機感知』の反応でも分かっていたが、コイツら一体一体の強さは精々ホブ・ゴブリンと同程度だろう。
オークやシャドウ・ウルフ、ましてやあのデス・ナイトほどの強さは無い。
(アイツら、初見でもアイテムボックスの攻撃に対処してきたからな……)
それが出来ない時点で、その程度のモンスターだという事だ。
基本的には数で圧倒するタイプのモンスターなのだろう。
「まあ、だからと言って油断はしないけど」
常に周囲には警戒しているし、既に手は打ってる。
≪経験値を獲得しました≫
朦々と立ちこめる煙の中、天の声が響く。
どうやら仕掛けが上手くいったらしい。
「ギィィィイイイイイイイイイイイイイッッ!」
ソルジャー・アントが叫ぶ。
モモやハイ・オークの様な物理的な破壊力がある『咆哮』じゃない。
自らを鼓舞する為のものでもない。
これはおそらく……。
「仲間への呼びかけか……」
SOS、仲間の救援信号。
勝ち目も無いし逃げるかとも思ったが、どうやら向こうはまだ諦めていないらしい。
援軍を呼び、再び数で押しつぶす気なのだろう。
「意味ないけどな」
いくら叫ぼうとも、地面に空いた巣穴から新たな蟻が現れる気配はない。
「ギ? ギィィ……?」
ソルジャー・アントもそれを不審に思ったのだろう。
しきりに周囲を見回している。
「ッ……! ギィィ!」
そして怒気で体を震わせる。
ようやく気づいたか。
周囲に漂う土煙。
それがただの煙じゃないという事に。
「気付いたか? これはお前たちの苦手な殺虫剤の煙だよ」
ここへ来る前に、燻煙殺虫剤をいくつかすぐ使える状態にしてアイテムボックスに収納しておいたんだ。
そしてお前らが巣穴から出てきた後、巣の中にぶち込んだ。
アイテムボックスは効果範囲内であれば、好きな場所に出し入れする事が出来るからな。
その結果は上々。
大量にぶち込んでおいたから、煙だけで何体かやられたらしい。
さっき入った経験値はその分だろう。
「援軍は現れないよ」
仮に現れたところで経験値の足しになるだけだ。
少なくともコイツらよりも更に『上位種』でもない限りはな。
「終わりだ」
「ギ……ギィキイイイイイイイイイイイイイ!」
もはやこれまでと悟ったのか、ソルジャー・アントは剣を構え突っ込んできた。
破れかぶれの突撃か。
俺は即座にアイテムボックスを使おうとするが、その前にキキが動いた。
「きゅー!」
「……キキ!?」
一体何をする気だ?
キキの額の宝石が淡く光った。
直後、俺の眼前に透明な膜が出現する。
「これは……?」
僅かに光を放つ扇状の薄膜。
これはまさかバリアーか?
いや、多分違う。
俺のスキルが―――『予測』が、これはバリアーとは別種の物だと告げている。
「これは……まさか……」
ソルジャー・アントは構わず突っ込んでくる。
奴にはこの薄膜が見えていないようだ。
ヤツの振り上げた剣が薄膜へと激突し―――そして跳ね返った。
「ッ!?」
突然の出来事に狼狽えるソルジャー・アント。
その結果に、俺は理解した。
これは―――反射だ。
キキの発生させた光の膜。
これは敵の攻撃を反射することが出来るのだ。
「キキ、お前こんな凄いスキル持ってたのかよ……」
「きゅー♪」
キキは、『すごいでしょー。ほめてー』と体を擦り寄せてくる。
「ははっ、後でいくらでも褒めてやるよ」
でもその前に、先ずはこっちを片付けよう。
攻撃を反射され体勢を崩したソルジャー・アントに向けて、俺は包丁を振りかざす。
≪経験値を獲得しました≫
≪経験値が一定に達しました≫
≪クドウ カズトのLVが21から22に上がりました≫
レベルアップを告げる天の声。
「ふぅー……とりあえず、これで一段落かな……」
周囲にはもう蟻の気配はしない。
巣穴に居た奴らはとっくに死んだか、逃げたのだろう。
俺はソルジャー・アントたちの魔石を回収する。
リストには『ジャイアント・アントの魔石(小)』と表示された。
次に俺はステータスを確認する。
「ステータスオープン」
クドウ カズト
レベル22
HP :240/240
MP :64/67
力 :168
耐久 :164
敏捷 :369
器用 :340
魔力 :35
対魔力:35
SP :62
JP :30
職業
忍者LV7
狩人LV7
影法師LV5
よし、ちゃんとSPが60ポイント、JPが30ポイント入ってる。
これで『忍者』か『狩人』のどちらかをLV10まで上げることが出来るだろう。
ようやく上位職と第四職業が解放される。
やっぱりこの瞬間はちょっとワクワクするな。
「っと、でもここじゃ流石に拙いよな。一旦離れるか……」
かなり派手にやらかしたし、いつ誰が来てもおかしくない。
『索敵』に反応はないが、長居は無用だ。
俺はバイクをアイテムボックスから取り出し、その場を離れようとする。
そして、
その瞬間、
―――不意に、辺りが暗くなった。
「えっ」
ざわりと、背筋がざわめく。
心臓が握り潰されるような 威圧感(プレッシャー) 。
辺り一帯が暗くなる。
それは別に太陽が雲に隠れた訳でも、急に夜になったわけでもない。
ただ、巨大な『何か』が出現したことで、周囲に影が差しただけだ。
地面が揺れる。
舗装されたアスファルトが、周囲の建物が。
ソイツの出現に合わせるように崩壊してゆく。
「ッ……ふざけんなよ……」
よりにもよって、このタイミングで“お前”が出てくるか。
『索敵』が。
『危機感知』が。
『敵意感知』が。
俺の中の全てが警鐘を鳴らす。
ゆっくりと、俺は後ろを向いた。
ソイツ(・・・) は、そこに居た。
「ゥゥ―――ルルルルルゥゥゥゥウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」
ビリビリと大気を震わす怒号。
叫びと共に、巨大ゴーレム――ティタンが姿を現した。
「ッ……キキ、アカ、逃げるぞ!」
俺は即座にバイクのエンジンをかける。
(いや、ちょっと待て……?)
即座に逃げようとして、不意に俺はある考えが浮かんだ。
―――これは、ひょっとしてチャンスなんじゃないか?
俺は肩で震えるキキを見る。
キキの能力――― 反射(リフレクション) 。
敵の攻撃をそのまま反射するシンプルにして強力な力。
もし……もし仮にだ。
この力が、コイツにも有効だとすれば――。
相手の力を利用し、相手を自滅させることが出来るのならば。
今この場でコイツを――ティタンを倒す事が出来るかもしれない。