軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大当たり

巨大魚のえさ場を越えてからさらに二つの道を越えると、空中回廊はそこで終わりを告げ、コースは再び切り立った尾根の上の細い一本道に戻った。

三人は背後に迫る光球を振り切るように、先を急いだ。

「あったよ!」

セラハが前方を指差した。

「チェックポイントの旗!」

確かに、黄色い靄の向こうに、見覚えのある旗が翻っていた。

「やっと二番目のチェックポイントか」

バイヤーがほっとしたように、さらに足を速める。

「よし、次はもっと便利な魔法を引くぞ」

「バイヤーの鬼火の術、すごかったじゃない」

セラハが笑顔でバイヤーを振り返った。

「次も鬼火でいいよ」

「いやだよ、僕は。もっと分かりやすく役に立ちたいんだ」

「役に立ってるじゃない」

セラハはバイヤーを不思議そうに見る。

「ねえ、キュリメ」

「ええ」

最後尾のキュリメも頷く。

「バイヤーがいなければ、私たちは今、もう生きていないわ」

「いや、うーん」

バイヤーは難しい顔で、自分のまとうしわだらけのローブを見た。

「何て言うんだろう。そういうことじゃなくて」

バイヤーがぴったりの言葉を考えているうちに、三人はチェックポイントの旗にたどり着いた。

『リラの第二チェックポイント』。

風に揺れる旗には、拙い字でそう書かれていた。

「あいつ、いないな」

バイヤーが周囲を見まわして、顔をしかめる。

「こっちは命懸けで来たっていうのに」

「じゃああん」

「うわあああ」

はしゃいだ声を上げて、黄のリラがバイヤーのすぐ背後から姿を現した。

文字通り飛び上がったバイヤーを見て、けらけらと笑う。

髪に黄色いリボンを巻いて、実に楽しそうな笑顔だ。

「チェックポイントにようこそー! ずいぶん時間がかかったねー」

「またあなたに会えて嬉しいわ、リラ」

セラハが言った。

「今回はだめかと思ったもの」

「そうでしょう。リラのゲームは難しいからね」

リラは満足そうに頷く。

「でもまだちゃんと三人とも生き残ってるね。すごいすごーい」

リラのわざとらしい拍手に、バイヤーが嫌な顔をした。

「そんな簡単に死んでたまるもんか」

「バイヤー、ローブがぼろぼろだけどどうしたの?」

リラが黄色い瞳をくるくると動かす。

「あーあ。そんなに泥だらけになっちゃって。誰かに踏まれたのかな?」

「見ていたんだろ、分かってるくせに。いろいろと大変だったんだよ」

バイヤーが不機嫌に言い返すと、リラはくすくすと笑った。

「なかなかいいアイディアだったね。鬼火で作った鳥さん」

「他人事みたいに。あんなとんでもない化け物まで用意して」

バイヤーはリラを睨む。

「迂闊に飛び出したら食われていたんだぞ」

「だってそういうゲームだもん」

リラはまるで悪びれずに言う。

「でも、良く思い付いたね。あんなに追い詰められた顔してたくせに」

「魔法はじゃんじゃん使っていいってお前が言ったからな。それでひらめいたんだ」

バイヤーは不機嫌な顔のままで言った。

「だからまあ、そこは感謝してるよ」

きょとんとした顔のリラに、バイヤーは、とにかく、と続ける。

「後ろからお前の作った物騒な光球が迫ってるんだ。早くカードを出せよ」

「ああ、それなら大丈夫」

リラは手を振る。

「チェックポイントではあの子もちゃんとお行儀よく止まってくれているから」

その言葉に三人は振り返った。

光球は、黄色い靄のさらに後方にいるのか、今は見えなかった。

「じゃあゆっくりカードを選んでいいのね」

セラハが微笑む。

「うん」

リラは頷いた。

「まあ、ゆっくり選んでも、どれがどの魔法かなんて分かんないけどね」

意地悪な笑顔でそう言うと、リラは差し出した両手の間から、カードの束をばさりと出現させる。

「さあお待ちかね。次の魔法カードの時間だよ」

「じゃあこれは返すのかな」

セラハは第一チェックポイントで引いた浮遊の術のカードを取り出そうとしたが、見付けられずにローブの袖を覗き込む。

「あれ、落としたのかな」

「チェックポイントに着いたら、前のカードは勝手に消えるから、気にしなくていいよ」

リラは笑顔で言うと、ずい、とセラハにカードの束を突き出す。

「さあ、セラハ引いてよ」

「うん。それじゃあ」

セラハは真剣な顔でカードを引いた。裏返してみて、頷く。

「……風の術だって」

「何かに使えそうじゃない」

ほっとした様子のセラハに、リラは満足そうに言った。

「セラハはカードを引くのが上手だわ」

「どういたしまして。リラもそのリボン、可愛いわよ」

「本当?」

嬉しそうにリボンに手をやるリラに、セラハは笑顔で頷く。

「ええ。すごく似合ってる」

「ふん。カードを引くのに上手も下手もあるもんか」

つまらなそうにバイヤーが口を挟んだが、それでも笑顔のリラからカードの束を突き付けられると真剣な顔をした。

「カードを引くのが下手なバイヤーも、引いていいよ」

「頼むぞ、今度こそすごい魔法」

そう言いながら引いたカードを裏返し、バイヤーは頬を紅潮させた。

「やった、炎の手だ。いいカードを引いたぞ」

炎の手は、五本の指のそれぞれから小さな火の玉を撃ち出す炎の指の発展形で、両方の手から一つずつ、大きな火の玉を撃ち出す魔法だ。

火炎の術のように炎それ自体を作り出す魔法もあるが、それらは厳密には攻撃用の魔法ではない。中等部で習得する炎の手は、火炎の術よりもはるかに凝縮した熱量を有する、破壊の魔法の一つだった。

「あら、バイヤーのくせに、炎の手だなんて。似合わない魔法を引いたわね」

リラにからかわれ、バイヤーはまたむきになる。

「似合うも似合わないもないだろ。僕が引いたカードだ、僕のものだぞ」

引いたカードを大事そうに両手で抱いて自分を睨むバイヤーを見て、リラは目を細めた。

「ああ、本当にバイヤーって面白い。今すぐに殺して魂だけ持って帰りたいくらい」

リラが心から愉しそうに漏らしたその言葉に、バイヤーは目を瞬かせて口をつぐむ。

「さあ、最後はキュリメよ。いいカードが引けるかしらね」

「ええ」

体力がないせいで、一番疲労の色の濃いキュリメが、カードを引く。

裏返してカードを見たキュリメの顔が曇った。

「どうしたの、キュリメ」

セラハが声をかけると、キュリメはその魔法の名を読み上げた。

「…… 龍道(りゅうどう) の術、だって」

「龍道の術?」

バイヤーが素っ頓狂な声を上げる。

「聞いたことないな、そんな魔法」

「私もないわ。キュリメ、知ってるの?」

セラハの言葉にキュリメは首を振る。

「私も初めて聞く名前」

「キュリメが知らないんじゃ、私が知ってるわけないか」

あはは、と明るく笑って、セラハはリラを見た。

「リラ、この魔法って」

「ふっふっふ」

黙って三人の様子を見ていたリラが、こらえきれなくなったように笑った。

「おめでとう、キュリメ!」

リラがそう叫んで両手を掲げると、何もない空中から無数の花びらが舞った。

わー、という歓声もどこからか聞こえてくる。

「え? え?」

キュリメが怯えたように後ずさった。

「何? 怖い」

「大当たりのカードを引いたわね」

リラはにこにこと笑う。

「まさかそれを引き当てるなんて、あなたすごい強運だわ!」

「ごめんなさい、私、この魔法を知らないの」

髪の毛にたくさんの花びらを乗せたキュリメが、少し怯えた顔でリラを見る。

「どんな魔法なのか教えてほしい」

「効果は、使ってみてのお楽しみよ」

リラは嬉しそうに言った。

「大丈夫、すごい魔法だっていうことは約束するから」

そう言うと、黄色いワンピースを翻してふわりと浮き上がる。

「でも、それだけじゃ」

なおも言いかけるキュリメに、リラはウインクしてみせる。

「まあ、試しにバイヤーにでも使ってみればぁ?」

きゃはは、という笑い声を残して、リラは消えた。

後には困った顔のキュリメと、ちょっと羨ましそうな顔のバイヤーが残される。セラハはそんな二人を見て、笑顔で手を叩く。

「さあ、リラが消えたっていうことは、後ろの光球が動き出すっていうことよ。行きましょう」

「……ええ」

「そうだね」

先頭に立って歩き出したセラハの後を、二人も歩き出す。

「次の障害が何かも分からないし、ここで悩んでいたって仕方ないわ」

セラハはそう言って、まだ心配顔をしているキュリメの肩を抱いた。

「とにかく、前に進みましょう」