軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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気が付くと、レイラは元の森にいた。

闇の魔術師ライヌルが作り上げた、異空間の森に。

自分の身体を見る。

見慣れた高さ。

こちらも元の、三年生の身体に戻っていた。

手には、杖。

その先端に赤黒い血がこびり付いているのを見て、レイラは微笑んだ。

ああ、すっとしたわ。

それから、上空を見上げる。

太陽はまだ高い位置にあった。

ウーベの作った、過去を擬した世界では二日くらいの時間を過ごしてしまったが、どうやら現実にはほとんど時間は経っていないようだった。

そこでレイラはようやく、彼女の傍らに、リルティが倒れているのに気付いた。

「リルティ」

そっと抱き起こす。

怪我はないようだ。ちゃんと息もしている。

だが、まだ目を覚まさない。

ウーベが気になることを言っていた。魂を奪ったとかなんとか。

「よくもやったわね、レイラ」

その声に、レイラは顔を上げた。

怒りに震える魔女が、そこにいた。

美しい妖艶な顔も、その形相と、何より鼻から流れる赤い血のために台無しになっていた。

「杖で私の顔を殴るなんて。こんな屈辱、初めてだわ」

「リルティの魂を返しなさい」

レイラは言った。

「この勝負、私たちの勝ちのはずよ」

「あなたたちの勝ちですって?」

ウーベは恐ろしい形相で、レイラを睨みつけた。

「そんなちっぽけな魔力と未熟な魔法しか持たない小娘二人に、この紫の魔女ウーベが負けたですって?」

「そうよ」

レイラは頷く。

「あなたは、私たちに負けたの」

「認めないわ、そんなこと」

ウーベは身をよじった。

その身体から凄まじい魔力が湧き上がる。

「この私に舐めたことを言うんじゃないよ」

前に立つレイラの黒髪までが煽られて揺れるほどの魔力。

だが、レイラは表情を変えなかった。

「こけおどしね。大きいだけで、その魔力には何の魔法も乗せられはしない」

その言葉に、ウーベは歯軋りした。ぎりっという音が、レイラの耳まで届いた。

「約束通り、石に戻りなさい。紫の魔女ウーベ」

レイラはきっぱりと言った。

「あなたの負けよ」

ウーベはなおも凄まじい形相でレイラを睨んでいたが、レイラも一歩も退かなかった。

ついにウーベは諦めたようにその表情を緩めた。

「……分かったわよ」

拗ねたように言うと、よろけるように後ろに二歩下がる。

びくん、とリルティの身体が跳ねた。

「ほら、返したわよ」

そう言ったウーベの身体が、紫の花弁に変わり始めた。足元に、無数の花弁が積まれていく。

「そうね、レイラ。私の完敗だわ」

ようやくウーベは負けを認めた。

「持っていきなさい、私の石を」

「ええ」

レイラは頷いた。

「そうするわ」

「でも私、最後に気付いたのよ」

ウーベはそう言って、笑いを含んだ目でレイラを見た。

「あなたがウェンディに抱く嫉妬心のわけを」

唇を真横に伸ばして、にいっと笑う。

「あの狼。おかしな男の子。あなた、あの子が」

ウーベはそう言いかけたが、レイラの怪訝そうな顔を見て、低く笑った。

「まあ、いいわ。もし次にあなたに巡り合うことがあったら、きっとあなたの魂は今よりも遥かに素晴らしい味になっているわね」

「知らないわ」

レイラは肩をすくめた。

「誰にも、私の魂は触らせない」

「気高いのね」

ウーベは紫の花の中に沈むようにして、消えた。

「好きよ、そういう女の子」

最後に、そう言い残して。

リルティが目を開けると、レイラの心配そうな顔が目の前にあった。

「……レイラ」

「リルティ」

レイラがほっとしたように息を吐いて表情を緩めた。

「よかった」

「ごめんなさい、レイラ」

上体を起こすと、少しめまいがした。

「紫の魔女は」

「これよ」

レイラが差し出した紫の宝玉を見て、リルティは「ああ」と吐息をつく。

「よかった。さすがレイラ、勝ってくれたのね」

そう言って立ち上がろうとして、ふらりとよろける。

「まだ寝ていなさい」

レイラはリルティの肩を押しとどめた。

その力が強くて、リルティは尻もちをついてしまう。

「ごめんなさい」

レイラは慌ててリルティの華奢な身体を支えた。

「人の心配をすることに慣れていないの。あまりやり方が分からなくて」

レイラはそう言って顔を伏せた。

「まだ時間はあるわ。少し休んでいて、リルティ」

そんなどこか自信なさげなレイラを、リルティは不思議そうに見た。

「どうしたの、レイラ。あなたのおかげで勝てたのに。何だか、少し悲しそう」

「悲しそう?」

レイラは虚を突かれたように目を瞬かせた。

それから、小さく頷いて、目を伏せる。

「そうかもしれないわ。少し、嫌なことを思い出したから」

ウーベによって、力任せに開かれた古い傷。その痛みがまだかすかに残っていた。

「レイラ、私ね」

リルティは草の上に座ったまま、レイラを見上げた。

「かくれんぼが始まったと思ったら、一年生に戻っていたの。でも、学院にあなただけがいなくて……何が何だか分からないうちに、両親が亡くなったっていう手紙が届いて」

リルティはその辛さを思い出したように、眉を寄せた。

「両親のいない世界なんてって絶望したときに、ウーベの声がしたの。あなたの魂をいただくわって」

魂をいただく。

相手を絶望させて、その魂を抜き取るのがウーベの常套手段なのだろう。

レイラも父の幻影によって、心の古傷を抉られ、絶望させられかけた。

それに打ち勝てたのは、レイラの心の強さと、それから。

「あなたの歌が聞こえたわ」

レイラは言った。

「私も絶望しかけたけれど、あなたの歌が支えてくれたのよ」

「歌」

リルティは目を見開いた。

「聞こえたの?」

「ええ」

レイラは頷く。

「声までは聞こえなかった。でも確かに、私に届いていたわ」

リルティはそれを聞くと、立ち上がった。

「リルティ」

レイラが彼女の身体を支えようとしたが、リルティはよろけることなく歩き、草の上に落ちていた何かを拾い上げた。

「これ」

リルティの手にしたそれを見て、レイラは目を細めた。

「何かしら。黒い布?」

「そう見えるよね」

リルティは恥ずかしそうに笑った。

「これ、ハンカチなの」

「ハンカチ?」

レイラは目を見張った。

「ずいぶん使い込んだのね」

「入学の時に、両親がくれたものなの」

リルティはその布を大事そうに握りしめた。

「このハンカチに私の歌が込められていたの」

「あなたの歌が」

「ええ」

リルティは頷く。

「一度、森でなくしたことがあって。アルマークが一緒に探してくれて、見付かったんだけど」

「アルマークが一緒に?」

その名前に、レイラは少し複雑な気持ちで頷く。

「相変わらずいろいろやってるのね」

「その後、授業で歌わせの術を習ったときに、彼に言われたの。失くしても大丈夫なように、君の大事なハンカチにも歌わせの術を込めておけばって」

リルティはその時のことを思い出すように微笑んだ。

「それ、いい考えだと思って。それからは定期的に歌わせの術を込めていたの」

「……そう」

アルマーク。

レイラはその少年の穏やかな笑顔を思い出す。

アルマークはこの戦いに何も関わっていないはずなのに、なぜか彼のおかげで勝てたような気になってくる。それが少し気に入らなかった。

「かくれんぼの前に真っ暗になったときに、何かの目印になるかもと思って、こっそりそこに置いたんだけど」

リルティは手の中の黒い布切れを見た。

「ウーベに魂を抜かれるときに、強く念じたの。お願い、歌って。レイラに私の歌を届けてって」

「届いたわ、確かに」

レイラは頷いた。

「ありがとう、リルティ。あなたの歌のおかげであの女に勝てた」

「そんな。私のおかげだなんて」

リルティは首を振る。

「でも……教えてほしいな」

リルティは遠慮がちに、恥ずかしそうに言った。

「レイラがどんな風に勝ったのか」

「そうね」

レイラは紫色に輝く宝玉に目を落とした。

「帰り道に話してあげる。私がどうやってあの女に無様な鼻血を出させたのか」

「は、鼻血?」

リルティは目を丸くした。

「やっぱりレイラはすごい」

「すごくなんかないわ」

レイラは首を振る。

私一人の力じゃ勝てなかった。

リルティやアルマークはもちろん、アインやウェンディ。マイアさん。ヴィルマリー先生の授業も。みんな、私が勝つための力になってくれた。

「すごいのは、この学院のみんなよ」

そう言って微笑むレイラを見て、リルティは不思議そうに目を瞬かせた。