軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

理由

「僕が、誰かだって?」

アルマークは目を見張った。

「モーゲン。君、何を言ってるんだ」

「そのままの意味だよ」

モーゲンは答える。

「僕には君が誰だか分からないから、そう聞いてるんだ」

「頭がどうかしちゃったのかい、モーゲン。君ともあろう男が」

アルマークは困ったように首を振る。

「やっぱりあのパイに何かおかしな成分が入っていたのかな」

「うん。申し訳ないんだけど」

モーゲンは杖を掲げたままで、眉を寄せた。

「僕もあんまり時間がないからね。そういうやり取りはもういいんだ」

モーゲンの声には、確固たる確信が込められていた。

「君はアルマークなんかじゃない。それだけははっきりとしているんだ。恨むなら自分の下手な演技を恨んでよ」

「下手な演技、か」

アルマークは息を吐くと、ゆっくりとモーゲンに向き直った。

「こんなに早く見破られたのは、初めてだな」

手に持つマルスの杖を、モーゲンの方にぐい、と向ける。

「だけどこれは君の記憶の中の彼の姿だよ」

そう言って、にやりと笑った。

アルマークなら決して見せない、下卑た笑顔だった。

「倒れているときに君の頭の中を覗かせてもらったんだ。僕のアルマークの演技は完璧だったはずだ」

「うーん、何て言うんだろうな」

モーゲンは言いづらそうに目を細めた。

「言葉にするのが難しいんだけどね」

「ぜひ聞きたいね。後学のために」

アルマークは穏やかに、だが有無を言わせぬ口調で続ける。

「どうして君がこれを演技と見破れたのか、その理由を」

「そうだなぁ。強いて言うなら」

モーゲンは言った。

「君の喋ることとか、することって、全部僕の予想の範囲内なんだよね」

「なんだって?」

アルマークが怪訝そうな顔をする。

「予想の範囲内?」

「うん、そう」

モーゲンは頷く。

「アルマークならきっとこうするかな、とかこう答えるかな、とか。僕がそう思ったのとおんなじようなことを君はしていたよ」

「君は何を言ってるんだ」

アルマークは苦笑した。

「それなら僕の演技は正しかったってことじゃないか。それなのに、どうして見破れたんだ」

「うん、だからね」

モーゲンはアルマークの顔を嫌悪混じりの表情で見る。

「アルマークはいつも、僕の予想なんて及びもつかないことをするんだよ」

「え?」

アルマークが眉を寄せた。

「戦いになったときのアルマークの凄さは、僕の頭の中なんていくら覗いたって再現できないんだ」

モーゲンは言った。

冬の屋敷。夜の森。クラン島。

戦うと決めた後のアルマークは、凄い。

モーゲンは知っている。

この一年間、それをいつも間近で見てきたのだ。

だから、分かる。

「本当のアルマークはきっと今頃、この森のどこかで何か凄いことをしているよ。でも君からは、彼の凄みをこれっぽっちも感じなかった。だから、僕はすぐに気付いたんだ」

モーゲンは微笑んだ。

「君は、アルマークなんかじゃないって」

「ふん」

アルマークは肩をすくめた。

「何だ、それは。理屈にもなっていない。そんな勘みたいなもので見破られたなんて、不愉快極まりないな」

その顔が、ぐにゃりと歪んだ。

身体も、突然ぎゅっと縮まったかのように細くなる。

「うわ」

思わずモーゲンは声を漏らした。

アルマークの姿をしていたものは、奇妙な形の植物に変化していた。

モーゲンの手の平くらいの大きさの葉っぱが無数に寄り集まって一つの人型を形作ったような、不気味な植物。

その顔に当たる位置の葉っぱが、がさがさと揺れた。

その音に混じって、アルマークの声がする。

「自分の予想通りだから、偽者だ。そんなふざけた理屈で見破られちゃたまらないんだよ」

植物は、人でいえば手に当たる部分から小さな炎を出現させた。

「不愉快だ。本当に、気分が悪い」

「魔法を使えるのか」

モーゲンは目を見張る。

そう言えば、さっきの虫の実の植物を倒すときに、魔法を平然といくつも使っていたということをモーゲンは思い出す。

「当たり前だろ」

葉っぱの怪物は、アルマークの声でせせら笑った。

「ここをどこだと思ってるんだ。緑の魔女ベルデの管理する緑の森だぞ。人間だけが魔法を使えるとでも思ってるのかい。魔女の植物は魔法くらい普通に使えるんだ」

「そうか。凄いんだね」

「見破ったご褒美をやるよ」

葉っぱががさついた笑い声をあげる。

「そおれ」

炎が渦を巻くようにしてモーゲンに向かって伸びた。

モーゲンは杖を突き出したままで、そこに魔力を込めた。

巻き起こった風が、炎を散らす。

「おおっと」

葉っぱの怪物は大げさな声を上げて、飛んできた炎の欠片をかわした。

「危ない危ない。逆に燃やされたらかなわないからな」

そう言うと、また腕を伸ばす。

「次はもっと大きな火を出すぞ。防げるかな」

それに構わず、モーゲンが一歩前に出た。

「僕からも、一つ言ってもいいかな」

「どうぞ」

魔物の発するアルマークの声の中に、忍び笑いが混ざる。

「先に断っておくけど、手加減の相談ならできないぜ」

「そんなことじゃない。僕が言いたいのは、もっと大事なことだ」

モーゲンは言った。

「君、さっきから一体誰の許可を得て、僕の友達の声でそんなくだらないことを喋ってるんだい」

その目が、彼に似合わぬ鋭さを宿す。

「アルマークは、君みたいなくだらないことは絶対に言わない。見破られて不愉快だって?」

モーゲンの持つ杖に、魔力が凝縮していく。

その強さに、葉っぱの魔物は全身をざわめかせた。

「たかが子供のくせに、そんな魔力を」

「不愉快なのはこっちだ。アルマークをばかにするな。今すぐにその声で喋るのをやめろ」

モーゲンが杖を振った。

「ちっ」

葉っぱの魔物も同時に腕を振るう。

同時に放たれた光の矢は、空中でぶつかって衝撃音とともに消えた。

「なかなかやるじゃないか、子供のくせに」

葉っぱの魔物がそう言ったときには、モーゲンはもう次の魔法を放っていた。

立て続けに放たれた三つの光の矢が、魔物の身体を打ち砕く。

「ぐえっ」

無様な悲鳴を上げて、魔物は地面に崩れ落ちた。

「そんな連続で撃つなんて、卑怯だぞ」

「何言ってるんだ」

モーゲンは、まるで落ち葉の絨毯のようになった魔物を睨みつける。

「君みたいにゆっくり魔法を撃っていたら、ボラパの火の蛇なんてとても防げやしないじゃないか」

「ボラパだと?」

モーゲンの言葉に、葉っぱの魔物はがさがさと身体を揺らしてせせら笑った。

「ふん、闇の魔人の名を軽々しく口にするな。魔術師の卵風情が出遭ったこともなかろうに」

「会ったさ。別に会いたくなんてなかったけど」

モーゲンはその時のことを思い出して、ぶるりと震えた。

「アルマークが倒してくれたんだ」

「そんなことがあるわけが」

嘲るような葉っぱの魔物の声は、真剣なモーゲンの表情を見て途切れた。

「何だ、お前」

がさついた声で、葉っぱの魔物は言った。

もうそれはアルマークの声ではなかった。

「何でその歳で、そんな経験をしている。アルマークというのは一体何者だ」

「僕の大事な友達のことで、君に教えることなんて一つもないね」

モーゲンは答えた。

「さあ、僕はもう行くよ。アルマークと合流しなきゃならないんだから。これ以上僕の邪魔をしたら、もう容赦しないからね」