軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

才能

デグとガレインが自分の指示通りに距離を取ったのを見てとると、トルクはガレインにちらりと目配せをした。

やるぞ。

ガレインは躊躇なく、次の瞬間に杖を振るった。

トルクの目配せ。

意思疎通はそれだけで十分だった。

剛力を誇るガレインらしく、振られた杖は、びゅん、という魔術師らしからぬ音を発する。

それとともに、ばら撒くようにして気弾の術が放たれた。

凝縮された空気の塊が、イディムの足元に一列に炸裂し、アンチュウマソウの葉とともに土が舞い上がる。

「むっ」

イディムが顔をしかめる。

今だ、デグ。

続けて示されたトルクの無言の合図に、デグが遅滞なく反応した。

ガレインの舞い上げた土の中に混じっていた無数の小石が、意志を持ったかのようにイディムの身体に襲い掛かる。

デグ得意の、浮遊の術。

小石がイディムの身体を容赦なく打ち据える。

かのように見えたが、小石は全てイディムに当たる寸前でその動きを止められていた。

イディムが口角を上げると、小石は力を失って地面に落下する。

だが、それで十分だった。

二人の魔法でイディムの視界が遮られていた隙に、トルクの魔法が完成していた。

トルクが杖を振り下ろすと、イディムに向かって光球が放たれた。

「ふん」

イディムが手をかざしてそれを払おうとする。

だが光球はイディムの目の前で三つに分裂すると、それぞれに別々の軌道を描いてイディムを襲った。

光球はイディムの身体に触れた瞬間に爆発を起こす。

どん、どん、どん、と立て続けに爆音が響いた。

「すげえ」

デグが感嘆する。

「爆ぜ玉の術だ。俺にはとても使えねえ」

「網だ!」

爆煙で見えなくなったイディムの方を指差して、トルクは叫んだ。

「三重にかけるぞ」

その言葉に、ガレインとデグがイディムに向かって光の網を放った。

「掴んだ!」

手応えを感じたデグが叫び、ガレインも頷く。

そこにトルクが自分の三番目の網を包み込むように落とした。

「締め上げろ!」

トルクの命令一下、三重の光の網がぎりぎりと引き絞られていく。

爆煙が薄まり、姿を現したイディムの身体には三つの網が絡みついていた。

網は輝きながら、黒いローブを締め上げる。みしみし、とイディムの身体がきしむような音を立てた。

「ふむ」

だが慌てる様子もなく、イディムは網の中で身をよじった。

「これで捕らえたつもりか、我を」

その瞬間、身体からどす黒い霧のようなものが溢れ出す。

それと同時に噴き出す腐臭。

闇の力。

輝くものに反応するかのように、黒い霧は光の網にまとわりついた。

そのまま、光を喰らうかのように、網の中に侵食していく。

すぐに、光の繋がりを絶たれた網がぶちぶちとちぎれ始めた。

「切られた」

デグが呻く。

「俺も、ガレインもだ」

二人の網をぼろぼろに食い破った闇の霧は、そのまま一番外側のトルクの網にも絡みついた。

「デグ、ガレイン。他の魔法を」

トルクはそう言いかけたが、それよりも早くイディムの闇はトルクの網をあっさりと食い破っていた。

「さて」

自由を取り戻したイディムは、首を二、三度捻ってみせるとトルクたちに歩み寄る。

「ちっ」

舌打ちしたトルクはガレインとデグとともに素早く間合いを取るが、イディムにはそれを詰める気は元からなかったようだ。

薄い笑みを浮かべながら、その場で足を止める。

「汝ら三人のそれぞれの魔法を受けて、分かったことがある」

イディムがそう言いながら、腕を挙げた。

「そこの、そう。ぼうっとしたの」

その指が、ぴしりとガレインを指差す。

「名は、何という」

「ガレイン」

ガレインが思わず名乗ると、イディムは頷いた。

「ガレイン。才能は、この中で汝が一番だ」

「え」

意外な言葉に、ガレインは戸惑った顔をする。

「最初の迅雷の術は、芯を食っていた。魔力をあそこまでしっかりと噛ませるのは、教えてできることではない」

イディムはそう言った後で、指をデグに向けた。

「次はそこの、締まりのない顔」

「なんだよ、うるせえな」

デグが顔をしかめる。

「他に呼びようがあるだろうが」

「名は」

「デグだよ、デグ」

「そうか」

イディムは頷く。

「デグ。汝の飛ばした石つぶても、あれだけの数がありながら魔力の張り方に無駄がなかった。その年で、大したものよ」

「浮遊の術は毎日使ってるからだよ」

デグは肩をすくめた。

「慣れだよ、慣れ」

だが普段あまり褒められ慣れていないせいだろう。その頬は少し緩んでいた。

「最後に、リーダー格の汝」

イディムはトルクに指を向けた。

「名は」

「トルク・シーフェイ」

トルクがぼそっと答えると、イディムは頷く。

「トルクか。比較的よく修練された魔法であった。だが」

イディムの黒い目が憐れむように歪む。

「トルクよ。悲しいかな、汝には才能がない」

「あ?」

トルクが目を剥いた。

「何だと」

「才能がないと言ったのだ。汝の魔法を受けて、我は正直なところ」

イディムは眉をひそめてトルクを見やった。

「不憫でならなかった」

不憫。

その言葉にトルクが激しく反応した。

「てめえ」

叫びざま、杖を突き出す。

「なめんじゃねえ」

怒りに震えた杖から、立て続けに気弾の術が放たれた。

「これもだ」

憐れむような表情を変えることなく、イディムが空気の弾丸を手で払いのける。

「ああ、これも。これも」

イディムはうるさそうに空気の弾丸を手で打ち払いながら、トルクを見た。

「汝なりの努力は見てとれる。相当の時間を、地道な訓練に捧げたのであろう。だが、もしも汝と同じ時間だけそこの二人が打ち込んでいたら」

そう言って、デグとガレインを顎で示し、イディムが目を細めた。

「この程度の威力ではなかったであろう」

「うるせえ」

トルクが鬼のような形相で放った風切りの術の衝撃を、イディムはまるで飴細工のように握り潰した。

音が鳴るほどに歯軋りをして杖を下ろしたトルクを見て、イディムは首を振る。

「汝の魔法からは、才能の輝きを感じぬ」

「何言ってやがる」

そう怒りの声を上げたのは、トルクではなくデグだった。

「トルクの魔法が一番厄介だからって、いい加減なことを言って俺たちを混乱させようとしてるんだろ、汚ねえぞ」

「それでは汝は気付いていたか? デグよ」

イディムはデグに顔を向ける。

「汝らが魔法を使ったとき、その足元のアンチュウマソウの色が褪せたことに」

「足元のアンチュウマソウ?」

デグは自分の足元を見る。だがそこに生えるアンチュウマソウの色は、さっきまでと同じ黒のままで、変化はなかった。

「真っ黒じゃねえか。騙すな」

「今はな」

イディムは頷く。

「だが先ほど、汝らが魔法を使っているとき、その足元の草は紫色を呈していた。確かに一目瞭然とまではいかなかった。だが、汝らの魔法に込められた才能の輝きが、その草に染み渡った我の闇の魔力を一瞬とはいえ凌駕したということだ」

そこまで言ってから、イディムは声を落とした。

「トルク。お前が魔法を使ったとき以外はな」

その言葉に、トルクの眉がぴくりと動く。

「汝はリーダーの如く振る舞っているが、その実、魔法の才はこの二人に及ばない」

イディムは言った。

デグが何か叫ぼうとしたが、言葉が見付からずにもどかしそうに顔を歪める。

「才能の欠如。それは決して罪ではない」

イディムは低い声で言った。

「ただ、悲しいだけだ」

「お前に同情される筋合いはねえ」

先ほどの荒ぶった態度から一転、意外に静かな声でトルクは答える。

「才能がねえ、だと?」

トルクは鼻で笑った。

「言われるまでもねえんだ、そんなことは。そんなところはもうとっくに通り過ぎて、俺はここに立ってるんだ」

「それにしては感情を昂らせたように見えたが」

イディムはそう言って微笑み、それから付け加える。

「だが実のところ、才能の差など大した問題ではないのだ」

トルクを見るイディムの目の暗さが増していた。

底なし沼のような、深い黒。

「闇の力の前ではな」

「はっ」

トルクは険のある笑いを浮かべて唾を吐く。

「くだらねえ。結局は自分の闇自慢か」

「そうではない。提案しているのだ」

イディムの声が徐々に粘性を帯び始めていた。

「先ほども言ったであろう」

そう言って、トルクの目を覗き込むように見る。

「トルク・シーフェイ。汝の魂の形は、闇の力と相性が良いと」

「なに」

「才能の差? そんな誤差など一瞬で埋まる。それどころかもっと遥か先まで到達できるであろう」

腐臭。

イディムは優しく微笑んだ。

「闇の力さえ手に入れればな」