軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇ましき者

「勝者、アスル」

猿の声が響いた。

そこに駆け寄ったコルエンが、ポロイスが握ったままの剣をそっと取り上げると、意識のないポロイスはそのまま地面に崩れ落ちそうになった。

その身体をとっさに支えたコルエンに、アスルが静かに声をかける。

「面白き勝負であった」

アスルの口調には、ポロイスへの敬意が込められていた。

「こういう勝負が続くのであれば、我には不満はない」

「こいつは不満だろうけどな」

コルエンはぐったりとしたポロイスの顔を見た。

「また、目を覚ましたら真面目に悩むんだろうな。どうして勝てなかったのかって」

そう言って、口元を緩める。

「勝てなかった理由なんて、一目瞭然なのによ」

「一目瞭然」

アスルがその言葉を聞き咎めた。

「では、汝にはその理由が分かるのか」

「当たり前だろ」

コルエンはアスルに目を向ける。

「こいつは、くそがつくほど真面目な奴なんだ」

そう言って、ポロイスから取り上げた剣をゆっくりと肩まで振り上げる。

「最後に何でこいつが剣を振り上げたか、分かるか?」

コルエンの問いに、アスルは微かに首を傾げる。

「この剣が、斬るための剣だからだ」

剣を下ろして、コルエンは言った。

「だから、斬るために馬鹿正直に振り上げたんだ。余計なことをせずにそのまま真っ直ぐあんたの胴を突いていれば」

そう言って、ポロイスの剣のかすった跡の残るアスルの鎧を見た。

「こいつの勝ちだった」

「ふむ」

アスルは頷く。

「なるほどな。道理だ」

「負けは負けだゾ」

猿が口を挟んだ。

「気持ちはわかるがナ」

「分かってるよ」

コルエンは意識のないポロイスの肩を担ぎ、身を翻す。

「こいつだって、そんなことで勝ちにしてほしいなんて思っちゃいねえだろう」

「次の相手は、汝か」

「ああ」

アスルの問いに、コルエンは背中で答える。

「ちょっと待ってな。すぐに戻る」

ポロイスの肩を担いで歩く先で、キリーブが自分のローブを地面に敷いて待っていた。

「大丈夫なのか。怪我は」

「怪我は、ねえな」

コルエンは答えて、そこにポロイスを横たえる。

「魔力の使いすぎだ」

「そうか」

キリーブは、ほっと息をつく。

それから、青い顔でコルエンを見上げる。

「とんでもないことになったじゃないか」

「なってねえよ」

コルエンは答える。

「まだ、一つ負けただけだ。俺とお前で勝ちゃ何の問題もねえ」

「そこだ」

キリーブが声を引きつらせる。

「僕に、勝てだと」

「そうするしかねえだろ」

コルエンの言葉に、キリーブは顔を歪めて地面を蹴った。

「ああ、くそ。本当に嫌なんだ、ばかの尻拭いは。どうせこうなると分かっていた。だから止めたのに」

そう言いながら、コルエンに背を向け、森の方へと大股で歩き始める。

「勢いだけで突っ走るやつは、本当に度し難い。人を臆病者扱いしておいて、そのくせ結果が出てから僕に責任を押し付けてくるんだ。こっちはそうなるからやめろととっくに警告したにもかかわらずだ。しかも、こういう輩は自分がばかだと気付かない」

「おい、どこへ行くんだ」

コルエンが笑顔で呼び止める。

「そっちは森だぞ」

「どこへも行くものか」

キリーブは振り向きもせずに答えた。

「コルエン、次はお前があいつと試合するんだろう。でかいことを言うからには勝つんだろうな」

「ああ」

コルエンは答える。

「勝つさ」

「ふんっ」

キリーブは肩を怒らせた。

「僕はお前の勝負なんか見ている暇はないからな。ちゃんと勝っておけよ」

そう言いながら、足を速める。

「お前はどうするんだ」

「決まっているだろう」

キリーブは叫ぶように言った。

「勝つ方法を考えるんだ。僕があの化け物みたいなやつにどうやって勝つのか、それを考えるんだよ。ばかなお前らと違って、こっちは頭を使うんだ。だから、一人にさせろ。だがそもそもお前が負けたら意味がないんだからな。きっちりと勝って、勝利を僕に報告した後で、今までの非礼を詫びて死ね」

「誰が死ぬか」

コルエンは笑って答えた後で、キリーブの背中にもう一度声をかけた。

「それでこそキリーブだぜ。じゃあ、先に俺が勝っとくからよ」

「ふん」

茂みの陰に消えたキリーブを見送って、コルエンはポロイスの身体から胸当てを外すと、手早く自分の身体に纏う。

それから、剣を握って二三度振ると、アスルの方へと歩み寄った。

「待たせたな」

「もう良いのか」

アスルの問いに、コルエンは頷く。

「ああ」

「もう一人の姿が見えぬようだが」

「逃げたのカ」

猿の言葉に、コルエンは肩をすくめる。

「あんたに勝つ方法を考えに行くってよ。あいつは大丈夫だ」

そう言って、にやりと笑う。

「ああ見えて、土壇場で逃げるやつじゃねえ」

「そうか。まあ、良い」

アスルは鷹揚に頷くと、手振りでコルエンと猿を下がらせる。

「少し、足元を 均(なら) そう」

「あ?」

コルエンの怪訝そうな顔に構わず、アスルは膝をつき、地面に右手をかざした。

その瞬間、アスルの身体の中で狂暴な魔力が渦巻いた。

かざした手から放たれた青い光が、地面を縦横に走る。

その直後、爆音。

「うお」

光が爆発し、草や木が舞い上がった。爆風がコルエンたちの髪や服を派手に揺らす。

「審判に許可を取レ、そういうことをするときハ」

猿が不機嫌そうに言った。

立ち込める土煙が晴れると、ちょうど試合をするのに十分な広さの地面の、草や低木が全て剥ぎ取られ、凹凸のない平らな土が剥き出しになっていた。

離れた森を歩くアルマークやセラハたちの耳にも届いた地響きの正体が、これだった。

「勝負は、あそこでやろう」

アスルはそう言って平らになった地面の中央を指差すと、そちらに足を向ける。

「よいな、パグフス」

「まあいいだろウ」

猿は頷く。

「足元は平らであるに越したことはなイ」

「ちっ」

コルエンは舌打ちして、自分の身体の奥底から湧いてくる震えを抑えた。

「本当に化け物じゃねえか」

アスルが、魔法でなら三人を一瞬で殺せると言ったのは嘘ではなかった。

地形を一瞬で変えるほどの魔法を使っても、それはまだアスルの全力ではないように見えた。

「そうこなきゃ、だぜ」

コルエンはにやりと笑った。

アスルが平らになった地面の中央でコルエンに手招きする。

「来い」

「分かってるよ」

そう答えて歩み寄ったコルエンに、猿がちらりと目を向ける。

「お前モ、名乗るカ」

「いや」

コルエンは首を振った。

「俺はポロイスとは違う。剣に自分の誇りを乗っけたりはしねえ」

そう言ってから、ふと思い直したように目の前のアスルを見る。

「だがまあ、名前だけは伝えとくぜ」

そう言って、さらりと自分の名を口にする。

「コルエンだ」

「うむ」

アスルは頷く。

「青のアスルだ。さあ、勇ましき者よ」

アスルは薄く笑った。

「面白き勝負をしよう」