軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遊び

「仕掛けるぞ」

アインの号令一下、三人が素早く散開するのを見て、プラーは楽しそうに笑った。

「お前らから始めるのか、いいぞいいぞ」

そう言って、両手を広げる。

「さあ、来いよ」

返事をする者はいなかった。

代わりにエメリアが叩きつけるように放った気弾の術が、プラーの目の前の地面を大きく抉る。プラーの頭上よりも高く、土が舞い上がった。

「おっ」

プラーが腕で顔を覆う。

左右に回り込んだフィッケとアインが、側面から同時に杖を突き出した。

風切りの術。

舞い上がる土を切り裂いて飛んだ二つの風の刃が、確かにプラーを捉えたように見えた。

「よし!」

フィッケが叫ぶ。

「やったぞ」

「いや」

アインは首を振る。

「だめだ」

プラーがゆっくりと腕を下ろした。

顔をしかめて、ぺっと唾を吐く。

「口に土が入ったじゃんかよ」

まるで緊張感のない口ぶり。感想はそれだけだった。

無傷。

「全然どこも切れてねえぞ」

フィッケが目を見張る。

「風切りの術はどうしたんだ。消えたのか」

「む」

アインは険しい顔で目を細める。

二人の魔法が幻ではなかったことの証のように、プラーの長衣がごくわずかに綻びていた。

「この作戦を考えたのは」

プラーはそう言いながら、アインに目を向けた。

「お前だな、負け犬」

答えないアインを見て、プラーは蔑んだように笑う。

「つまらねえ。頭でっかちのお利口さんが考えそうな作戦だ」

「もう一度だ」

プラーの言葉に構わず、アインはフィッケとエメリアに告げる。

「行くぞ」

「おう」

返事を返したフィッケが駆け出した。飛ぶような速さでプラーの背面に回り込む。

それを見越したように、プラーの前面に立つエメリアが絶妙のタイミングで気弾の術を放った。

舞い上がる土。

アインとフィッケが、側面と背面から同時に風切りの術を飛ばす。

唸る二つの風。避けようのない、必殺の間合い。

だが、やはり風の刃はプラーの身体に届かなかった。

プラーの長衣は、ただの風を受けたようにひらりと揺らめいた。

「歪んだぞ」

フィッケが叫ぶ。

「こいつのところで、魔力が」

「ああ」

アインは頷く。

「僕にも見えた」

風の刃がプラーの身体に届く寸前に、風を束ねていた魔力が歪められ、拡散した。

それとともに切断力を失った風は、ただのそよ風のようにプラーの長衣を揺らして流れ去った。

魔力が歪む。

それがどういうことを意味するのか。

口にしなくても、それは魔術師であるアインたちにとっては自明のことだった。フィッケにすら分かった。

「なんだ、こいつ」

フィッケが改めてその赤毛の少年を見る。

「嘘だろ。そんなにでけえのかよ」

風を束ねていた魔力が、ごく自然に歪み、捩じ切れてしまうくらいの巨大で攻撃的な魔力。

プラーの身体を覆っているのは、アインたち三人とはまるで質の違う凶悪な魔力だった。

ここへ来る道すがら、三人で決めていた作戦は、その分厚い壁に、あっさりと弾き返されてしまった。

「ふん。相手が弱くないことくらい分かってただろ」

自分を鼓舞するように吐き捨てたのはエメリアだった。

「いまさらびびる話じゃない」

そう叫んで杖を放り出すと、真正面からプラーに向かって走り出す。

「待て、エメリア」

アインが叫ぶ。だがエメリアは止まらなかった。

「最初っからまどろっこしくて嫌だったんだ、お前の作戦は」

一直線にプラーに疾駆しながら、エメリアは言った。

「お前ら二人、私を援護しろ」

「ちっ」

舌打ちしたアインが杖を突き出す。それと同時にフィッケの放った気弾の術がプラーを襲った。

気弾の術はまたも当たる直前でかき消されたが、プラーの足元はずぶりと泥に飲み込まれた。

「おっ」

プラーが自分の足元を見てはしゃいだ声を上げる。

「やばい。抜けないぞ」

相手に直接当てる魔法は効果がないと見て、アインは魔法を早くも切り替えていた。

泥掴みの術。

相手の足元をぬかるみにする魔法。

そこに拳を固めたエメリアが迫っていた。

女戦士然とした風貌が、風を受けてさらに凄みを増していた。

「ははっ」

その顔を見てプラーが笑う。

「やっぱりだ。勇ましいや」

その嬉しそうな顔めがけてエメリアが拳を振るった。プラーは上体を反らしてそれをかわす。

びゅごっ、という凶悪な風切り音を伴った拳がプラーの鼻先をかすめていく。

「おう」

プラーのはしゃいだ声。エメリアは止まらない。

続けて、第二撃。

真っ直ぐに打ち抜いたその拳を、プラーが再び上半身を捻ってかわした。

「ちょこまかと」

吐き捨てたエメリアがさらに次の拳を放とうとした時。

「あぶねえ!」

フィッケの叫び声とともに、エメリアの身体が後ろに強く引き戻された。そのせいでエメリアの拳は虚しく空を切る。

「アイン!」

怒りの声をエメリアがあげたのと同時に、さっきまでエメリアの立っていた場所に、巨大な火柱が立った。

「っ……!」

そのあまりの熱量に、エメリアが絶句する。

魔法でエメリアを自分の隣に引き戻したアインは厳しい顔でエメリアを一瞥して囁く。

「危なかった」

エメリアの顔に浮かんだ恐怖の表情を、アインは見逃さなかった。

「君は、こういう戦いは初めてだったな」

低い声でそう囁く。

「僕とフィッケは一度、経験がある。だから、僕らでとりあえず時間を稼ぐ」

エメリアは血の気の引いた顔でアインを見た。

「時間を?」

「ああ」

アインは頷く。

「その間に、恐怖心と折り合いを付けろ」

「あーあ」

天まで焼くかのような火柱の向こうで、プラーが笑った。無邪気さを装いながらも、隠し切れない邪悪な笑み。

「余計なことするなよ、負け犬。エメリアが目の前で真っ黒焦げになるところが見たかったのに」

そう言いながら足を泥から引き抜くと、プラーは腕を軽く振って火柱を消した。

「勇ましい女は最初に殺すのが好きなんだ」

「趣味が悪いな」

アインは答える。

「勇ましい女が好きなら、その拳の一発や二発、受けてやってもよさそうなものを」

「冗談よせよ」

プラーの笑顔に剥き出しの悪意が滲む。

「俺の顔面を殴ることができた女なんて今までに一人だっていやしないよ」

それからプラーは不意に背後を振り返り、次の魔法を画策していたフィッケを見た。

「フィッケ。お前の魔法はしょぼいぞ」

「な、なんだと」

「エメリアの格闘はまだましだった。お前の空気の塊は、全然だめだ」

プラーはそう言うと、アインとエメリアに堂々と背を向けてフィッケに向き直る。

「本気を出せよ、お前の得意なやつを俺にぶつけてみろ」

そう言って手招きする。

「遊びだって本気でやらなきゃつまらないだろ」

「この野郎」

杖を構えようとするフィッケを、アインが冷静に止めた。

「待て、フィッケ。挑発に乗るな」

「でもよ」

フィッケが悔しそうに歯噛みしてプラーを指差す。

「こいつ、俺の魔法がしょぼいって」

「こいつに比べれば、誰の魔法でもしょぼい。気にすることはない」

「なんだよ、つまんねえな」

プラーが歯を剥き出してアインを振り返る。

「負け犬。じゃあお前がやってみるか」

「そうだな」

アインは頷いた。

「僕が遊んでやる」

そう言いながら、手振りでエメリアを遠ざける。

「おう、いいね」

プラーはもうフィッケのことなど忘れたようにアインに向き直った。自分が囲まれている不利など、なんとも思っていないようだった。

「来いよ」

「いや」

アインは首を振る。

「次はお前の番だ」

そう言うと、アインはプラーと同じように両手を広げてみせた。

「お前から来い、赤のプラー」