軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウォード

アルマークはしばらく窓から学生たちのはしゃぐ様子を眺めていたが、寮の外にウェンディの姿がないことに気付いた。

見送りをする約束をしている。

まだこの時間には出発していないだろうが、少し心配になり、アルマークは部屋を出た。

ウェンディの部屋を訪ねようとして、廊下の大柄な少年に気付く。

トルクだった。

大きな荷物を抱えて階段を降りようとしているのは、召使いらしき二人の男性だ。トルク本人は小さな革の背負い袋だけを背負っている。

「トルク、君も帰るところか」

アルマークが声をかけると、トルクは、ああ、と小さく呟いた。その顔に笑顔はない。

「あんまり嬉しそうじゃないな」

アルマークが言うと、トルクは、ふん、と鼻を鳴らす。

「もうそんな年でもねえよ」

「そうかな」

「それに、家に帰れば嫌でも現実が待っている。兄や姉が……」

言いかけて、トルクは首を振った。

「お前に言う話でもない」

そして、アルマークに背を向けて階段を降りていく。

「お前も休暇明けから魔法を習えるそうじゃねえか。俺たちの足を引っ張らないように、せいぜい休暇中は瞑想の訓練に精を出すんだな」

そう言い残して、トルクの姿は見えなくなった。

「坊っちゃん、あまり汚い言葉遣いは」

「うるせぇ」

という召使いとのやり取りの声だけは階下から聞こえてきた。

ウェンディの部屋にいくと、ちょうどルームメイトのカラーが荷物を持った二人の召使いと一緒に出てくるところだった。

「ウェンディ? まだお迎えは来てないみたいだったけど。朝から見ないわね」

アルマークはカラーに、道中気をつけて、と声をかけて寮の階段を降りた。

ウェンディはどこに行ったのだろう? 迎えの執事はまだ着いていないのか?

寮の外へ出る途中で、ネルソンやノリシュ、リルティ、ガレイン、デグ、次々にクラスの仲間に出会う。みな一様に笑顔だ。

彼らとその家族に挨拶し、旅の無事を祈り、アルマークは寮の外に出た。

外は相変わらずの人だかりだったが、やはり上から見ていたとき同様、ウェンディの姿はない。

そしてアルマークと同じように、きょろきょろと辺りを見回している一団がいる。

口に髭を蓄えた白髪の男性一人と、比較的若い男女二人の計三人。

もしかしてあれがウェンディのお迎えだろうか。

「あの……」

とアルマークが声をかけると、白髪の男性が慌てた様子で振り向く。

「もしかしてウェンディのお迎えの方ですか」

その言葉に、白髪の男性が大きく頷く。

「はい、左様でございます。ウェンディお嬢様のご学友でいらっしゃいますか。わたくし、バーハーブ家の執事を務めますウォードと申します。ウェンディお嬢様は今いずこへ」

「ウェンディと同じクラスのアルマークといいます。実は寮の部屋にもいなくて、僕も探していまして。ウォードさんたちもまだウェンディに会えていないんですね」

「なんと」

ウォードは後ろの若い男女二人を振り返る。

「お嬢様はこちらにはいらっしゃらぬようだ」

「どちらをお探しすれば」

女性の方が困惑した表情で言う。

「分からぬ。アルマーク殿、ウェンディお嬢様が他に行きそうな場所とは」

「うーん……」

寮以外に行く場所……。校舎、庭園、森。どこも行く必要があるようには思えない。

改めて聞かれると、アルマークはウェンディのことをほとんど何も知らないことに気付く。

「庭園にいたら会ったはずですし、あと行くとしたら校舎か森くらいしかないんですが……」

「そうですか。ではそちらを探しに行くしかありますまい」

ウォードは後ろに控える二人に指示を出そうとする。

「あ、待ってください。どちらも遠いので、もし行き違いになったら大変です。船の時間もあるでしょうし、校舎も森も方向は一緒なので、僕が見てきます」

アルマークは慌てて言った。

「皆さんはこちらで待っていてください。いずれにしてもここに帰ってくるはずですから、皆さんはここから動かない方がいい」

「そうですか。確かに我々は学院の中は不案内ですからな。アルマーク殿、かたじけない」

ウォードはまだ子供のアルマークに丁寧に頭を下げてくれる。

「や、やめてください、ウォードさん。僕はただの平民の子です」

アルマークが手を振ると、ウォードは首を振る。

「滅相もない。このノルク魔法学院の中では貴族も平民もない、皆様が同じ魔術師候補生であるということは不肖このウォードも聞き及んでおります。ましてやアルマーク殿はウェンディお嬢様のご学友。くれぐれも皆様に失礼のないように、と当主のエルモンド様より厳命されておりますれば」

「それは……ありがとうございます」

どう答えていいか分からず、とりあえずアルマークはお礼を言った。

「僕は校舎と森を見てきます。皆さんはこちらで」

そう言って身を翻すと、後ろからウォードの、頼みますぞ、という声が聞こえた。