軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦い

「その意気は大いに結構」

ヨーログが言った。

「ウォリス。君たちの気持ちは分かった」

そう言って、金髪のクラス委員を見やる。

「良いクラス。そして、良きリーダーだ」

「僕は、彼らをここに連れてきただけです」

ウォリスはそう答えて微笑んだ。

「ウェンディとアルマークの日ごろの行いと、彼らの今日まで築いてきた信頼が、みんなを動かしたんです」

「彼らを衝き動かしたのは確かにこの二人の力だ」

ヨーログは言った。

「だが、君が謙遜をする必要はない。彼らが力を発揮できる場を作ったのは、君の功績だ、ウォリス」

その言葉にウォリスは無言で微笑んだ。

「イルミス先生」

ヨーログは、傍らのイルミスを振り返る。

「彼らに、言葉を」

「はい」

イルミスは頷いて立ち上がると、生徒たちの前に立った。

アルマークとウェンディも振り向いてイルミスを見上げる。

イルミスが前に立つだけで、まるで彼の授業のような厳粛な雰囲気に変わる。

「君たちは、戦うことに決めたと言ったな。それが君たちの総意だと」

そう言って、イルミスは厳しい表情で生徒たちを見た。アルマークたちも緊張した面持ちでイルミスを見つめ返す。

「私はそれを尊重する」

イルミスは静かに言った。意外な言葉に、生徒たちは思わず顔を見合わせる。

「闇の勢力が、アルマークとウェンディだけではなく、君たち全員を標的にすると言ったのだ。君たちが戦う覚悟を決めたことは正しい」

イルミスはそう言って、もう一度生徒たちの顔を見回した。

「だが、誤解してはいけない。君たちに闇の勢力を倒してくれと言っているわけではない」

その言葉に、イルミスの真正面に立っているネルソンが、不満そうに眉をひそめる。その表情をちらりと見やってから、イルミスは続けた。

「戦うことこそが重要なのだ。盲目的に恐れて、闇雲に逃げようとすることこそ、やつらの思うつぼ。知恵を絞り、ときには蛮勇を振るい、戦った先にこそ、活路はある」

イルミスは声を励ます。

「生き残りなさい。全員がだ。そのためには、恐れることなく戦い、打ち破る気概を持つことが必要だ。そして忘れてはいけない。君たちの後ろには、いつも我々がいる。学院長の目がある」

学院長の目、という言葉にウォリスがごく一瞬、顔を歪ませた。だがネルソンが不満そうに、先生、と声を上げた時にはもうその表情は消えていた。

「でも、俺たちはあいつらに勝ちたいんです」

ネルソンは言った。

「あいつらをぶっ倒したいんです」

「ばかね。先生が言ってるのはそんな単純なことじゃなくて」

ノリシュが口を挟む。

「私たちが闇に対抗するための心構えを教えてくださってるんでしょ」

「そうなのかもしれねえけど」

ネルソンが口を尖らせる。

「でも俺は、戦うなら勝つために戦う。生き延びるためじゃなくて」

「それでいいんだよ、ネルソン」

レイドーが穏やかに言う。

「イルミス先生は言っただろ。いざとなったら先生が後ろにいてくださるって。つまり、思い切ってやれってことさ」

「ああ」

ネルソンは愁眉を開く。

「そういうことか。先生、ありがとうございます」

「むやみに何でも頼られても困るが」

イルミスはそう言って、薄く笑った。

「だがまあ、大筋は君の理解で間違ってはいない」

それを聞いてネルソンが嬉しそうに口角を上げる。

「安っぽい英雄願望や薄い共同体意識で、闇と戦うと言っているのならば、私は決してそれを認めない」

イルミスは言った。

「だが、君たちはすでに闇との戦いを経験した。その恐ろしさを身体と心に刻みこんだ。それでもなお、友のために戦うと言う」

その言葉に、ウェンディが頬を紅潮させてイルミスを見た。イルミスはその顔をちらりと見て、言った。

「ならば、私はその言葉を信じるほかない」

ウェンディの目から、ぽろりと涙がこぼれた。イルミスはその隣に立つアルマークに顔を向ける。

「そうだな。アルマーク」

「はい」

アルマークは頷いた。

「僕も疑いません」

その言葉に頷き、イルミスは再び生徒たち一人ひとりの顔を見る。

「私は教師として君たちの覚悟を止める言葉を持たない」

イルミスは言った。

「やってみるがいい。存分に」

「はい」

真っ先にそう返事をしたのが意外な人物だったので、イルミスは表情を緩めた。

「二人のことをしっかりと頼む。モーゲン」

「分かりました」

モーゲンがいつになく真剣な顔で頷く。イルミスは優しい目で彼を一瞥した後で表情を改めた。

「とはいえ、試験もまた君たちを待ってはくれない」

その言葉にネルソンが、うぐ、と蛙が潰れたような声を上げる。

「君たちの気持ちはよく分かった。さあ、まずは目の前の戦いに全力を注ぎたまえ」

学院長室を出ると、アルマークはもう一度クラスメイト達に声をかけた。

「みんな、ありがとう」

そう言って、頭を下げる。

「僕らのために、わざわざ」

「もうお礼はいいよ、アルマーク」

ネルソンが笑う。

「レイラも、お礼は要らないって言ってただろ」

当のレイラは、もうすでにさっさと一人で廊下を歩き始めていた。

「時間は有限よ」

振り返って、レイラは言った。

「同じことを何べんも繰り返している暇があったら、やるべきことをやったほうがいいわよ」

「そうするよ」

アルマークは答えた。

「ありがとう、レイラ。……あっ」

またお礼を言ってしまったことに気付いて、慌てて口を押さえるアルマークを見て、レイラが微かに笑う。

「成長しないわね。そういうところは」

レイラが歩き去った後、アルマークとウェンディはそれぞれクラスメイト達に感謝の気持ちを込めて声をかけた。

ネルソンとレイドーは相変わらずの朗らかな笑顔でアルマークを迎えた。

「モーゲンがちゃんと話をしようって言ってさ。みんな教室に残って色々と話したんだ。俺たちだってやられたまんまじゃ収まらねえからな」

ネルソンは言った。

「そしたら、黙って話を聞いてたトルクのやつが、急に言ったんだ。お前らそんなにやる気なら、学院長室に直接乗り込めばいいだろって」

ネルソンはにやりと笑う。

「トルクにしちゃいいこと言うと思ってよ。それで、おう、そりゃいいな、行こうぜってことになって。女子までみんな、私たちも行くって言い出してさ」

「ノリシュやセラハはともかく、リルティまで私も行くって手を挙げたからね」

レイドーがそう言って、ウェンディと話しているリルティを見た。

「あれはびっくりしたな」

ネルソンは頷く。

「リルティ、クラン島から帰ってから、少し変わったよな」

「彼女の歌が、みんなを救ったからね」

レイドーは微笑んだ。

「少し、自信が付いたんじゃないかな」

「で、結局、ウォリスがみんなの意見をまとめてくれてさ。じゃあ全員で行こうって」

「ウォリスが。そうだ」

アルマークは、ちょうどウォリスがバイヤーと話しながらその場を立ち去ろうとしていたのを見て、そちらに駆け寄る。

「ウォリス。バイヤー。ありがとう」

「ああ。いいんだよ、アルマーク」

足を止めたバイヤーが答える。

「これは僕自身のプライドの問題だからね」

「うん」

「頑張ろう、アルマーク」

バイヤーがそう言って歩き出すと、ウォリスはその後に続きながらアルマークに身を寄せた。

「闇との戦いに、こんなところで負けるわけにはいかないぞ。絶対にだ」

ウォリスは低い声で言った。

「今度は君たち二人が主役だ。ぬかるな」

それだけ言うと、アルマークの肩を叩いてウォリスが歩き去る。

二人を見送ったアルマークの背中をデグとガレインが続けて叩いた。トルクと三人でよくやっている、彼ら流の親愛の情の表し方だ。

「じゃあ、また明日な、アルマーク」

そう言って立ち去ろうとするデグに、アルマークは尋ねる。

「トルクは今日来なかったんだね」

「俺は行かねえって言ってたぜ」

デグは答える。

「お前ら、代わりに行ってこいって言われてさ」

「そうか」

頷くアルマークに、デグはにやりと笑って付け加えた。

「お前らと同じ気持ちなんだから、行く必要ねえだろって」

ぱっと顔を明るくしたアルマークを見て、デグは誇らしげに笑う。

「トルクってかっこいいよな、そういうところが」

ネルソンやレイドーたちが、ノリシュたちと賑やかに言い合いをしながら去っていき、その場にはアルマークとウェンディ、それにモーゲンが残った。

「モーゲン。来てくれて嬉しかったよ」

アルマークが言い、ウェンディが頷く。

「本当に。あなたの顔を見ると、ほっとするの」

「そうかな。いつもの顔が首の上に載ってるだけだけどね」

モーゲンはそう言うと、まるでさっきまでの学院長室の会話など忘れてしまったかのようにのんびりと、大きな伸びをした。

「さあ、帰ろうよ。最後の追い込みの前に、しっかり食べなくちゃ」

アルマークとウェンディは顔を見合わせて、くすりと笑う。

「そうだね」

「帰りましょう」

並んで歩きだしながら、モーゲンは二人をにこにこと嬉しそうに見る。

「二人とも、後で僕の部屋においでよ」

「どうして?」

ウェンディの問いに、モーゲンは得意げに鼻を膨らませた。

「休暇の間に、街でおいしい飴を買いこんできたんだ。少し分けてあげるよ」

「飴?」

アルマークが目を見張る。

「君にしては珍しいな」

「最近、気付いたんだよね」

モーゲンは重大な秘密を打ち明けるように、声を潜めた。

「飴って、長持ちするんだ」

アルマークとウェンディは同時に噴き出した。

「ありがとう、イルミス先生」

生徒たちが去った後の、学院長室。ヨーログが静かに言った。

「素晴らしい話だった」

「学院長には深いお考えがあるのであろうということは分かります」

イルミスは答えた。

「それが、必ずや善のためになるのだろうということも」

イルミスは、椅子に座る学院長の青い目を見つめ、はっきりとした言葉で告げる。

「未熟な私には、学院長のお考えの全てを読み取ることはできません。ですが、私は生徒の成長のため、私の教師としての良心に従って動きます。時にそれが、学院長のお考えに背くことになろうとも」

「もちろんだ、イルミス先生」

ヨーログは答えた。

「そうであってくれなければ、困る」

「それすらも、学院長のお考えの内なのかもしれませんが」

イルミスの言葉に、ヨーログは微笑んで何も答えなかった。