軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

訪問

「はい」

ノックをすると、ドアの向こうでウェンディの声がした。

「僕だよ、ウェンディ」

アルマークはドア越しに声をかける。

「アルマーク?」

ウェンディの声が弾んだ。

「ちょっと待ってね」

ばたばたという音がして、しばらくするとドアが勢いよく開いた。

笑顔のウェンディが顔を出す。

「やあ、ウェンディ」

「どうしたの」

ウェンディは長い睫毛を瞬かせて、嬉しそうにアルマークを見た。

「私に用?」

「うん。実は、ちょっと聞きたいことがあって」

そう言って、アルマークは廊下を見回す。

数人の学生が笑いながら通り過ぎていく。

「ここだと、少し話しづらいことなんだ」

「え?」

ウェンディは一瞬緊張した顔をしたが、アルマークの表情を見て、すぐに穏やかに微笑む。

「何か、私で力になれるといいんだけど」

「うん。きっと君なら知ってるんじゃないかと思う」

アルマークは答えた。

トルクがオルアシュールに連れていかれた、という話は、最初に聞きつけたのがほかならぬフィッケである以上、早晩、ほかの生徒たちの間にも広まってしまうだろう。

だが、アルマークは自分の口からはなるべく人に聞かせたくなかった。

「ほかの人に聞かれないところがいいんだけど」

「それなら談話室に行く?」

ウェンディの提案に、アルマークは首を振る。

「僕もさっきまで談話室にいたんだ。今日は雨だから、だんだん混み始めてきていたよ。今から行ったら、座るところもないかもしれない」

「そう」

ウェンディは頷く。

「それじゃあだめね。座れても、隣の人に話が筒抜けだもの」

「うん」

「そうすると……」

ウェンディは廊下越しに窓の外に目を向ける。

「こんな雨じゃなければ、庭園の方まで行ってもいいのにね」

「うん」

ウェンディと二人で庭園を歩いたらきっと楽しいだろうな、などと思いながら、アルマークは頷く。

「今日はちょっと、そういう天気じゃないね」

「そうだよね。どうしよう」

「ウェンディ、入ってもらえば?」

室内からのんびりとした声がした。

「アルマークなんでしょ。だったら廊下で立ち話なんかしてないで、入ってもらえばいいじゃない」

ウェンディのルームメイトのカラーの声だということが、アルマークにも分かった。

「えっ」

ウェンディが室内を振り返って、困った顔をする。

「それはちょっと」

「どうして?」

カラーの不思議そうな声がした。

「私がいると、お邪魔?」

「そういうことじゃなくて」

ウェンディは、アルマークをちらりと見て、小さな声で、ごめんね、ちょっと待って、と言う。

「あ、うん」

アルマークは頷いて、ドアの向こうのカラーの声と困った顔でやり取りするウェンディを手持ち無沙汰に眺めた。

「だったらいいじゃない」

とカラーの声がする。

「私もアルマークと話したいわ」

「だめよ」

ウェンディが室内に向かって首を振る。

「部屋を見られたら、恥ずかしいもの」

「今更何言ってるの」

カラーの声がからかうような響きを帯びる。

「クラン島で寝起きの顔を見られちゃったって言ってたじゃない」

「カラー」

ウェンディが耳まで真っ赤になって、右手を振り上げる。

「やめて」

「アルマーク、入ればいいじゃない」

ウェンディの剣幕を気にする様子もない、のんびりとしたカラーの声。

「お茶くらい出すわよ。あ、ウェンディの実家から送ってきたやつだけどね」

「もう。あなたは少し黙ってて」

「えー?」

「外で話してくるから」

ウェンディは頬を膨らませて廊下に出てくると、後ろ手にドアを閉めてしまった。

「あ、ちょっとウェンディ」

カラーが室内でまだ何か言っていたが、ウェンディは聞こえないふりをしてアルマークに微笑む。

「ごめんなさい、アルマーク」

「いや、僕の方こそごめん」

アルマークは謝った。

「僕が急に来たからだね」

「ううん。そういうことじゃないの」

ウェンディは首を振る。

「カラーったら、すぐに変なことを言い出すから」

「面白い子だよね」

アルマークは頷く。

「でも、カラーにもあまり聞いてほしくない話なんだ」

「カラー、ああ見えて口は堅いのよ。私のこと以外は、割と」

そう言った後で、ウェンディは顎に手を当てて考える仕草をした。

「どこかいいところがあるといいんだけど」

「ちょっとした椅子があるだけでも十分なんだけどな」

「あ、それなら」

ウェンディが思いついたように両手を合わせる。

「ちょうどいいところがあるかも」

「うん、そこにしよう」

アルマークが言うと、ウェンディはおかしそうに笑った。

「まだ、何も言ってないのに」

「君がちょうどいいところだって言うなら、絶対ちょうどいいところだからね」

アルマークは真剣な顔で言った。

「そこにしよう」

寮の廊下の奥まったところに、古びたソファが置かれていた。

アルマークは、校舎の2階にある、ネルソンがよく座っている古いソファを思い出す。

「寮にもこんなところがあったんだね」

ちょうど、その直前で廊下が曲がるので、ソファは廊下の先からは死角になっていた。

「1年生のとき、よくここでお喋りしたんだけど……」

ウェンディはそう言いながら、ソファに浅く腰かける。

「少し、小さいかな。アルマーク、座ってみて」

「うん」

アルマークはウェンディの隣に座る。するとやはり、肩をぴったりと寄せ合うような姿勢になってしまった。

「やっぱり、1年生の時よりも身体が大きくなったから」

ウェンディが困ったようにアルマークを見る。

「二人で座ったら、狭いね」

ウェンディの睫毛一本一本がはっきりと見えるほどの近さなので、アルマークもさすがにきまりが悪くなり、もぞもぞと身体を動かす。

「うん、そうだね」

ウェンディの方を見ることができず、周囲を見回すとちょうどソファの陰に木の丸椅子が横倒しになっているのに気付いた。

「ああ、いいのがあったよ」

アルマークは立ち上がって木の椅子を手に取ると、ソファから少し離れたところに持っていき息を吹きかけた。

埃が盛大に舞い上がるのに構わず、さらに手で座面の埃を払う。

「僕はこれでいいよ」

「大丈夫?」

ウェンディが心配そうな顔をした。

「お尻が汚れちゃうよ」

「いいさ。そのソファに二人で座ったら、なんだか落ち着かないから」

アルマークは微笑む。

「これで君とちゃんと話せる」