軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聞き込み

「いや、だからさ」

フィッケは口を尖らせた。

「エストンが話してたんだよ。3組のほかの貴族のやつと二人でにやにや笑いながら、オルアシュールにトルクが連れていかれたって」

「それはいつのことだい」

アルマークに尋ねられ、フィッケは即答する。

「一昨日かな」

「一昨日は、君、朝からアインたちとクラン島に行ってたじゃないか」

「あ、そうか」

真顔で頷くフィッケを見て、デグが首を振ってアルマークを見る。

「な。わけわかんねえだろ」

「俺もそう思う。フィッケに」

ガレインも頷いてフィッケを見上げる。

「昨日より前の記憶をたどってもらうのは無理だ」

「なんだよ、お前ら」

フィッケは二段ベッドの上段から覗かせていた顔を不機嫌そうに引っ込めた。

「もう話してやらねえぞ」

「あ、フィッケ」

アルマークが声を掛けようとすると、ガレインがその肩に手を置く。

「心配ない」

ガレインは無表情で言った。

「フィッケは、じっと黙っていることなんてできねえから」

「そうか。君がそう言うなら」

アルマークは頷く。

ここはガレインとフィッケの部屋だ。

予想通り、雨のせいで退屈そうに寝転がっていたフィッケを捕まえて、エストンから聞いたという話を聞き出そうとしているところだった。

「フィッケ。聞いた日はもういいから、聞いた内容をもう少し詳しく教えてくれないか」

アルマークがそう声をかけると、フィッケが顔を出す。

「詳しくって言っても、大したこと聞いてねえぞ」

「だからそれを話せって」

そう言いかけるデグを、アルマークは手で制した。

「フィッケの聞いた範囲でいいんだ」

そう言って、フィッケの顔を見上げる。

「ありのままを話してくれればいい」

「ありのままって言ってもな」

フィッケは自信なさそうな顔をする。

「ええと、エストンが最初に、そういえば見てしまったんだけどね、みたいなことを言って、それを聞いた隣のやつが」

フィッケはそこまで話したところでアルマークを見た。

「あの隣のやつって誰だったっけか」

「知るかよ」

デグが鼻を鳴らす。

「誰に聞いてんだよ」

「誰だったかな」

フィッケは眉を寄せる。

「うーん」

「フィッケ。それは後で思い出せばいいよ」

アルマークは助け船を出した。

「今は、まず詳しい話の内容を」

「いや、待てって」

フィッケが眉間にしわを寄せて目を閉じる。

「俺、そういうの気になりはじめるとだめなんだよ。あれ誰だっけな」

「な」

また顔を引っ込めたフィッケを見て、デグが呆れた顔でアルマークを振り返った。

「わけわかんねえだろ」

「フィッケの独特のテンポなんだろうね」

アルマークは腕を組む。

「きっとアインならうまく聞き出せるんだろうけど」

「アインになんか相談したら」

デグが肩をすくめる。

「帰ってきたトルクにどやされちまうぜ」

「アインはだめかい」

「だめに決まってる」

デグは言った。

「トルクとアインは仲悪いんだ。ありゃ一年の頃からかな」

そう言ってガレインを見る。

「ああ」

ガレインは頷く。

「仲が悪いって言うか、トルクがアインのことを好きじゃねえ」

「そうか」

アルマークは頷いた。アルマークにはよく分からない彼が来る前からの人間関係が、まだ時折こうして顔を見せることがあった。

そういう時は、アルマークはあまり踏み込まない。

「3組の貴族の生徒といえば」

アルマークはベッドの上段に声をかける。

「僕の思いつくのは、ポロイスとかキリーブとか」

「キリーブ」

フィッケがその名を口にしながら顔を出した。

「キリーブだったかな」

「もうキリーブでいいよ」

デグが心底面倒そうに言う。

「それより、肝心なのはエストンの野郎がなんて言ってたかだろ」

「キリーブは、小柄でいつもコルエンやポロイスと一緒にいる生徒だよ」

アルマークが補足すると、フィッケは声を上げた。

「あ、じゃあキリーブじゃないな!」

そう言って顔をしかめ、アルマークを見る。

「キリーブってよく喋るやつだろ。あいつはそこまでお喋りじゃなかったな」

「お喋りはお前だろうが」

デグが諦めたように呟く。

「誰でもいいよ、相手なんてよ」

「ゼツキフ」

ガレインの声に、フィッケが目を見開いた。

「ガレイン。なんだって?」

「ゼツキフ」

ガレインはもう一度言った。

「お前の見た3組の生徒は、ゼツキフだろ」

「そうだ、ゼツキフだ!」

フィッケが晴れ晴れとした表情で叫んだ。

「ゼツキフだよ、ゼツキフ。ああ、すっきりしたぜ」

「さすが、ルームメイトだな」

アルマークはガレインの肩を叩いた。ガレインは無言で頷く。

「で、ゼツキフが何だって?」

アルマークはそう言ってフィッケを見上げた。

「だんだん思い出してきたぜ」

フィッケはにやりと笑う。

「寮の廊下ですれ違った時だ。エストンがゼツキフに、言ったんだ。そういえばトルクをオルアシュールで見たよって」

「うん」

「そしたら、ゼツキフがこう言ったんだ」

フィッケは口を突き出した。

「オルアシュールだと? あんなところに、子供が行くことはないだろう」

フィッケらしくない気取った口調。どうやらゼツキフの口調を真似しているつもりらしい。

「それで、エストンは」

アルマークがそれには構わず尋ねると、フィッケは顎を引いて澄ました顔を作る。

「僕はたまたま通りがかっただけだが。彼は大人に挟まれていったよ。実に惨めなざまだったな」

今度はエストンの口調の真似だったらしい。

「ってさ」

「あの野郎」

デグが目を怒らせる。

「自分こそ、ネルソンに惨めに負けたくせしやがって。トルクの武術大会の勇姿を見なかったのか。あんなやつ、トルクの手にかかりゃ」

「落ち着け、デグ」

アルマークはデグの肩を叩いた。

「武術大会でトルクに負けたのは、フィッケだっただろ」

「あ」

デグがようやく気付いた顔をする。

フィッケの顔がまた二段ベッドの向こうに消える。

「フィッケ、悪かったよ。そういうつもりじゃなかった」

デグが謝ると、またフィッケはにゅっと顔を出した。

「思い出しちまったよ。あの突き、すげえ痛かったんだぜ」

「そうだろうな」

デグは頷く。

「俺たちも練習で何度も吐きそうになったからな」

「君とトルクの試合はとても良かった」

アルマークが言った。

「どちらが勝ってもおかしくなかったよ」

「お、おう」

アルマークに褒められて、フィッケの表情が緩む。

「まあな」

「エストンの話は、それで終わりかい」

「ああ」

フィッケは頷く。

「俺が聞いたのはこれだけだぜ」

「そうか。ありがとう」

アルマークはフィッケに微笑んだ。

「参考になったよ」

「おう」

フィッケは笑顔で手を振る。

「わかんねえことがあったら、いつでも俺かアインに聞けよ」

「ああ。そうするよ」

アルマークは頷いて、部屋の外に出た。

デグとガレインが付いてくる。

「どうするんだ、アルマーク」

デグが尋ねる。

「あれだけじゃ、何にも分からねえ。エストンの帰りを待つか」

「僕は、オルアシュールがどんな場所なのかよく分かっていないんだ」

アルマークは答えた。

「重罪犯の監獄とは聞いたけど。それ以上のことは何も知らない。君たちもだろ?」

「あ、ああ」

デグが頷く。

「そりゃ、まあ」

「だから、分かる人に聞いてみようと思うんだ」

重罪犯の監獄というのなら、そこには王家が深く関わっているのだろう。とすれば、知っていそうなのは。

「ウェンディに聞いてみるよ。部屋を訪ねてみる」

アルマークは言った。

ガライ王国有数の大貴族であるバーハーブ家の令嬢であるウェンディなら、そこがどういう場所なのか、聞いたことがあるかもしれない。

「なるほどな」

デグが納得したように頷く。

「さすがアルマーク」

「君たちも来るだろ」

「いや」

デグは首を振った。

「俺たちは部屋で待ってるからよ。分かったら教えてくれ」

「え?」

アルマークは目を瞬かせる。

「来ないのかい」

「トルクのことは心配だけど、そこまで野暮じゃねえ」

デグはガレインの肩を叩いた。

「な」

ガレインが頷くのを見て、アルマークは首を傾げた。