軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

指揮

上空。

グラングは、骸の戦士たちに徐々に包囲されていくアルマークの姿に目を細めた。

「ほら。一人で張り切ったところで所詮はそんなものだよ」

錆びた剣がアルマークの腕をかすめて、鮮血が舞う。

「頑張りたまえ。君が倒れたら君たちのチームは終わりだよ」

そう言ってグラングは低く笑った。

「君のほかには、誰も命を懸けられないんだから」

骸の戦士たちがほとんどアルマークを包囲しかけた時、グラングはアルマークの死と自分の勝利を確信していた。

「さて、ライヌルさんには何て言い訳しようかな」

そんなことを呟いた時だった。

突如、骸の戦士たちの列が真横から崩された。

「あっ?」

グラングは声を上げる。

「どーん!!」

場違いな快活な声。それとともに、霧が揺れた。

予想外の方向からの攻撃に、骸の戦士たちが駆逐されていく。

「なんだと」

グラングは霧の上で思わず腰を浮かせた。

霧の中から現れた三人の少年。その登場が戦況をいっぺんにひっくり返した。

「遅かったじゃないか、ネルソン」

アルマークの会心の笑み。

「まさか」

グラングは目を見開いた。

「あのガキどもが来るのを待っていたとでも言うのか」

そう呟くそばから、骸の戦士たちがネルソンたちの攻撃で倒されていく。

ぎりっ、という歯軋りの音。グラングの顔が歪んだ。

「大丈夫だったかよ、お前ら!」

ネルソンの元気な声。

それとともに、リルティの歌がやんだ。ずっと歌い続けていたリルティは、ネルソンの声を聞くと安堵したように目を閉じた。ふらりとよろけたその身体を、ノリシュが支える。

「おう、リルティ大丈夫か」

「来るのが遅いのよ、ばかネルソン!」

ノリシュの言葉に、ネルソンはいつものようには言い返さなかった。

彼女の顔を真剣な目で見つめて、一言。

「悪い」

それを聞いた途端、ノリシュの目から涙がぼろぼろとこぼれた。

「あんたも怪我してるじゃない」

流れる涙もそのままで、ノリシュは言う。

「大丈夫なの」

「ああ、こんなもん」

ネルソンは肘のあたりの擦り傷をぺろりと舐める。

「舐めときゃ治る」

そう言って、もう一度真剣な顔で繰り返す。

「悪かった、遅くなって」

「悪いと思ってるなら」

ノリシュは乱暴に自分の涙を拭う。

「アルマークたちと一緒に、あいつらをさっさと片付けてきて」

「おう」

ネルソンは自分たちが崩した骸骨たちに向き直った。

何事もなかったかのように骨が再生を始めている。

「デグ、ガレイン。君たちもよく無事で」

アルマークの言葉に、デグが答える。

「ああ。リルティの歌は聞こえてたんだけど、どこから聞こえてるのかがなかなか分からなくってさ」

それにガレインが頷く。

「ネルソンが方向を間違えてよ」

「いいんだ、よく来てくれたよ」

アルマークは微笑む。

「さっそくですまない、手伝ってくれないか」

アルマークはそう言って骨の方へ駆け寄っていく。

「おう。任せろ」

ネルソンが続き、デグとガレインもそちらに駆け寄る。

「三人で、湧水の術を骨に」

骨を前にして、アルマークは言った。

「たっぷり水をかけてくれ」

「おう」

ネルソンが手を突き出す。

「そんなのでいいのか」

三人の手から噴き出した水が骨を湿らせていく。

アルマークはそこにマルスの杖をかざした。

彼らをもとの骸に戻すには手間がかかりすぎる。だが、彼らの動きを止めるだけなら。

凍れ。

魔力を込めるのに遠慮する必要はなかった。

ありったけの力で一気に水を冷却していく。

手から出た瞬間に水が凍りつくのを見て、デグが慌てて自分の手を引く。

「ありがとう、もう十分だ」

そう言ってアルマークはさらに丹念に冷気を込めた。

再生しかけていた骸骨たちが、巨大な氷の棺に閉じ込められた。

「よし」

アルマークは頷く。

「これで時間が稼げる」

アルマークはネルソンたちを連れて仲間たちのもとへ駆け戻った。

「動ける人はみんな力を貸してくれ」

「どうするの」

ノリシュがリルティの肩を抱いたままで声を上げる。

「何でもやるわ」

「僕もやるよ」

その声に、アルマークは目を見張った。

それは負傷していたはずのバイヤーだった。

「ありがとう、ピルマン」

治療してくれたピルマンにそう言ってバイヤーは上半身を起こすと、自分の荷物をまさぐった。

「みんな、これを飲んでよ」

荷物から取り出したのは、たくさんの小瓶。

「これ」

ノリシュが目を見張る。

「みんな、薬湯?」

「ああ」

バイヤーは頷く。

「だいぶ魔力を使っただろ。即効性はないけど、気休め程度の効果はあるよ」

「私も飲む」

そう言って手を伸ばした少女を見て、アルマークは安堵の声を上げた。

「キュリメ。君ももういいのか」

キュリメの傍らでウェンディとセラハがほっとしたように顔を見合わせる。

「ええ。もう大丈夫」

「よかった。ウェンディ、セラハ、ありがとう」

「私はほとんど何も」

アルマークの言葉にそう答えてウェンディが微笑む。

「セラハがずっとやっていてくれたから」

「ウェンディが来てくれて本当に助かったわ」

セラハはそう言って微笑むと、薬湯の瓶を手に取った。

「さあ、私も飲むわよ」

「じゃあ、私も」

ウェンディも瓶を掴む。

「それで、何をすればいいの。アルマーク」

「うん。みんなも聞いてくれ」

そう言いながらアルマークが一呼吸で薬湯を飲み干した。

その速さに、みんなから思わず笑いが漏れる。

「相変わらず飲むのが速えな」

ネルソンが苦笑しながら言った。

「で?」

「ああ」

アルマークは頷いて声を潜める。

「あの骸骨たちを操っているやつを叩くよ」

「異議なし」

アルマークの言葉にセラハが手を上げて賛同する。

「でも、どうやって?」

「どこにいるのか分かればいいんだろ? どうせあの船の上だ」

ネルソンの言葉にアルマークは首を振る。

「いや、幽霊船の上じゃない」

船の場所ははっきりしないが、少なくとも波打ち際よりも向こうだ。

「海からじゃ僕らの動きは見えない」

骸の戦士たちは、アルマークたちの動きに逐一対応してきた。敵には、もっと俯瞰的な目があった。

「じゃあ、どこだよ」

ネルソンの問いに、アルマークは自分の顎を上に向けてしゃくった。

「上だ」

「上?」

ネルソンが目を剥く。

「ああ」

アルマークは頷いた。

「戦いを知らないやつほど、高いところから見たがるんだ」

「つまり、霧の上ってことかい」

レイドーの言葉に、アルマークは頷く。

「敵はきっと魔術師だ。この霧の上から、僕らを見下ろしている」

そう言いながら、アルマークはいつかの父の言葉を思い出していた。

いいか、アルマーク。

自分が戦場に出るつもりもねえくせに、部隊の指揮だけは執りたいって貴族は一定数いる。

父の嘲笑交じりの声が蘇る。

そいつらはな、必ず高いところに陣取る。

少し離れた小高い山の上、丘の上、要は戦場が一望できる場所だ。

そこから戦場の様子を見て、ああだこうだと余計な指示を出して、自分が戦ってるわけでもねえくせに戦ってる気になって悦に浸ってやがる。俺たちはそこに、別動隊をぶつけてやるのさ。

安全だと信じきってたところにいきなり襲いかかられた時の連中の顔。見ものだぜ。

「みんなの力がいる」

アルマークは仲間の顔を見回した。

僕は父さんたちのようにかっこよくは戦えないけれど。

でも、今ここには信頼できる仲間たちがいる。

「反撃だ」