軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結果

「はじめ」

アルマークの掛け声と同時に、ロズフィリアとレイラがポロイスとコルエンに手をかざす。

レイラはもちろんのこと、先程までは満面の笑顔を浮かべていたロズフィリアも、真剣な表情で魔力を流しこんでいく。

二人の手が光を帯びる。

治癒術。

少し離れた石の上でその様子を見ていたアルマークには、レイラの動きはロズフィリアの動きとまるで遜色ないように見えた。

レイラがコルエンの顔の傷を治療し終え、上半身に手をかざす。

ロズフィリアもポロイスの腕の擦り傷を治した後、上半身に手をかざした。

「二人とも早いね」

バイヤーが感心したように言った。

「レイラもすごいけど、ロズフィリアもさすが学年2位の才女だな。動きにまるで無駄がないや」

「そうだね」

アルマークは頷いて、バイヤーの薬湯を一息に飲み干す。

「動きは早いけど、流している魔力はすごく穏やかだ」

「お」

バイヤーは嬉しそうにアルマークを見た。

「飲んだね。どうだい」

「うん」

アルマークは頷く。

「飲みやすいってことはないね。でも、飲めるよ」

「君の、飲みやすいとか飲みにくいっていう意見は全く参考にならないからな」

バイヤーは難しい顔で腕を組んだ。

「だから、そこはいいんだ。何かこう、かっと熱くなるとか、そういう感じはないかい」

「特にないな」

アルマークは首を振る。

「いつもどおりだ」

「そうか」

バイヤーは少し残念そうな顔をした。

「さっき説明したとおり、即効性を強めるために少し工夫してみたんだけどね。モリフネカサダケの量がやっぱり少なかったかな」

「入れすぎると身体が痺れるやつだよね、モリフネカサダケって」

「うん」

バイヤーは頷く。

「だから、少し慎重に入れてみたんだ。でも、君の身体は頑丈だからもっと思い切って入れても良かったのかもしれない」

「それはあるかもね」

アルマークは真剣な顔で頷いた。

「でも、僕専用に調合していくと、きっと色々な面で他の人には受け入れられない薬湯になってしまうと思うよ」

アルマークは瓶を丁寧にバイヤーに返しながら、言う。

「どうも僕は、味覚の方面についてはてんでだめみたいだから」

「うん。でもまあ、それも一種の才能だよね」

バイヤーは空の瓶を振って笑った。

「細かい違いやほんの少しの差なんて、分かるほうが幸せだとも限らないわけだし」

「たまに君は面白いことを言うな」

アルマークは微笑む。

「でも、僕もそう思うよ。それがどうしても必要な人以外は、繊細で鋭敏な感覚なんて」

そこまで言いかけて、アルマークはレイラとロズフィリアがコルエンたちの足の傷を治療し終えて同時に立ち上がるのを見た。

「終わった」

アルマークが声を上げると、ロズフィリアとレイラが振り向く。

「アルマーク、どっちが早かった?」

そう言ったのは、レイラだ。その額には玉のような汗が浮かんでいた。

「僕には同時に見えた」

アルマークは答える。

「コルエン、ポロイス。君たちは」

「俺にも同時に見えたな」

コルエンが答え、ポロイスも頷く。

「とりあえず、無事に怪我が治っただけで、僕は胸がいっぱいだ。何も言うことはない」

「レイラの勝ちよ」

そう言ったのは、ロズフィリアだった。

レイラが驚いた顔で振り向く。

「終わったのは確かに同時だけど」

そう言って、ロズフィリアが微笑む。その額にもわずかに汗が滲んでいた。

「コルエンとポロイスじゃ身体の大きさがまるで違うもの。同時に終わった時点で、私の負けよ」

ロズフィリアの言葉に、コルエンが納得したように頷く。

「それもそうだな」

だが、レイラは首を振った。

「いいえ、それは違うわ」

ロズフィリアがレイラを見る。レイラはポロイスに目をやった。

「確かに、身体はコルエンのほうが大きいけれど、治すべき怪我の数は明らかにポロイスのほうが多かった」

「確かに」

ポロイスは頷く。

「僕はあの乱反射の魔法をまともに食らったからな。細かい傷なら僕のほうが多かったな」

「俺はさっとかわしたんだ」

コルエンが嬉しそうに言う。

「いったい何をやっていたのよ、あなたたちはこんな夜中に」

呆れたように言ってから、ロズフィリアは改めてレイラを見た。

「でも、そこまで気付いていたのね」

それから、ため息とともに言う。

「変わったわね、レイラ」

レイラが眉を上げると、ロズフィリアはその表情を見て微笑む。

「最初にバイヤーを連れてきたときから、もう以前のあなたじゃないってことは分かっていたわ」

「え?」

「だって、あなたが他の生徒を連れてくるなんて」

ロズフィリアの言葉に、レイラは曖昧な表情で首を振った。

「魔力がないなら、治癒術よりも薬湯だと思っただけよ」

ロズフィリアはそれには答えず小さく頷くと、言葉を続ける。

「治癒術の速度もそうだけど、以前のあなたなら私が負けを認めたところで満足していたと思う。ましてやポロイスの怪我の多さなんて」

「そうね」

レイラはそれは素直に認めた。

「気付かなかった……というよりも、見る気もなかったと思うわ」

「そうでしょう。でも、今日のあなたには全部見えていた」

ロズフィリアは首を振る。

「以前とは、別人みたいね」

「そうかしら」

レイラは首を傾げた。

「でも、ロズフィリア。あなたがそう言うのなら」

レイラは微笑む。

「変わったのかもしれないわね」

その顔にロズフィリアは息を呑んだ。

「トルクが泣いたのも分かる気がするわ」

「え?」

「なんでもないわ」

ロズフィリアは微笑む。

「もう今のあなたは、一人ぼっちのレイラなんて呼べないわね。なんて呼べばいいのか……」

ロズフィリアはレイラの顔をしばらく見つめた後、首を振った。

「もう少し、考えるわ」

「よう、なんでもいいけどよ」

コルエンが笑いながら口を挟んだ。

「結局、この勝負、引き分けってことだよな」

レイラはそれに答えず肩をすくめ、ロズフィリアが苦笑する。

「そうみたいね」

「引き分けだってよ、アルマーク」

コルエンは楽しそうにアルマークに声をかけた。

「勝ったやつがいねえから、お前の治癒術は無しだ」

「え」

アルマークは目を丸くして、それからさっきの話を思い出して頷く。

「なるほど、そうか。そうなるね。それならまあ仕方ないよ」

「残念だったな」

嬉しそうに笑うコルエンの耳をロズフィリアが引っ張った。

「つまらないことばかり言って、あなたは本当に」

「いてて。おい、やめろ」

「レイラ」

ロズフィリアはレイラを振り返る。

「お願いできるかしら。私はうちのクラスの二人からもう少し話をきくから」

「構わないわ」

レイラはそっけなくそう言うと、ロズフィリアに背を向け、アルマークのもとに歩み寄ってきた。

「もうバイヤーの薬湯は飲んだの?」

「ああ、飲んだよ」

アルマークは頷く。レイラはバイヤーを申し訳なさそうに見た。

「ごめんなさいね、バイヤー。急に呼んでしまって」

「いや、こんな機会はなかなかないからね。呼んでくれてありがとう」

バイヤーはそう言って、アルマークの前をレイラに譲る。

「よく分からないけど、君が治すことになったんだろ? さあ、どうぞ」

「ありがとう」

レイラはアルマークの前に立った。

「二人よりずっとひどい怪我」

そう言って顔をしかめる。

「うん、そうなんだ」

アルマークが頷くと、レイラは囁くように言った。

「また、無茶をしたんでしょう」

「どこからが無茶なのか、その境界線が自分でもよくわからないんだ」

アルマークは言った。

「見ていたよ。君もロズフィリアも治癒術が上手だ。僕だったらまだやってると思う」

「無理に褒めなくていいわよ」

レイラがそう言って、アルマークに手をかざす。

「あなたに治癒術を使うのは、これが二度目ね」

「ああ」

アルマークは微笑む。

「そういえば、そうだね」

「じっとしていてね」

レイラの穏やかな笑顔。

その手が光を帯びる。

「うん」

アルマークは頷いて、目を閉じた。