軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「それじゃあ治癒術からいくね」

ウェンディがそう言って荷物の前に座り込む。

「ええと、裁縫箱、裁縫箱」

そう言って荷物の中を探し始めるウェンディの背中を、アルマークは心配そうに見た。

「針を刺すのかい」

「うん」

ウェンディは小さな裁縫箱を取り出して、アルマークを振り向く。

「もっと大きな傷のほうがいい?」

「まさか」

アルマークは首を振った。

「僕が自分で刺すよ。君は刺さなくていい」

「どうしたの」

ウェンディは針を一本取り出して立ち上がると、アルマークの顔を見る。

「そんな顔をして」

「君の血は、見たくないんだ」

アルマークが本当に嫌そうに首を振るのを見て、ウェンディは微笑んだ。

「ありがとう」

それから、針をアルマークに手渡す。

「気持ちは嬉しいけど、両方ともやってもらうわ。あなたと、私と」

「どうしてもかい」

アルマークは手に持った針を見て、言った。

「ちゃんと治してくれるんでしょ」

ウェンディはアルマークの顔を覗き込む。

「それとも、自信がない?」

「いや。やるよ」

仕方なくアルマークは頷く。

「その代わり、必ず一回で成功させるよ」

「助かるわ」

ウェンディは笑顔で頷く。

「私も痛いのは嫌だから」

「だけど、僕自身の方はなかなか時間がかかるんだ」

アルマークは針を自分の指の腹に刺して血を出すと、手を差し出してきたウェンディにそのまま針を渡す。

「イルミス先生に言われたんだけど、僕は無意識に、傷は時間をかけて治すものだと思ってるみたいで、治すのが……ウェンディ、何してるんだ」

アルマークは目を見開く。

ウェンディが、アルマークから手渡された針を一瞬魔法で熱すると、それですぐに自分の指の腹を刺したからだ。

「痛いね」

苦笑いしながらそう言ったウェンディは、自分の指に膨れ上がった血の玉をアルマークに見せる。

「治す順番は針を刺した順ね。アルマーク、私の順だよ」

「君から治すよ」

アルマークが慌てて手を伸ばそうとすると、ウェンディは身をよじって逃れた。

「だめ。まず自分から治して」

そう言って、厳しい表情でアルマークを見る。

「私の指を治すのは、その後。だから、早くして」

それに反論しかけたアルマークだが、ウェンディの表情を見て、心を決めた。

首を振って、迷いを捨てる。

ウェンディは本気だ。

自分の指を見つめて、息を吸う。

「分かった」

アルマークは言った。

その声が、まるで実戦のような鋭さを帯びる。

「すぐに治すよ」

「うん」

ウェンディは頷く。

「お願い」

真剣な顔で自分の指に手をかざすアルマークの横顔を、ウェンディはじっと見つめた。

「できた」

アルマークはわずかな間に驚くほどの汗を流して、顔を上げた。

「治ったよ」

そう言うアルマークの顎から、真夏のような汗がぼたぼたと落ちる。

「本当に? 見せて」

「ほら」

指をローブの裾で乱暴に拭って、ウェンディの顔の前に傷のない指を突き出したアルマークは、そのままウェンディの手を取った。

「僕の指なんか、別に治さなくたって、しばらくすればどれが刺した傷跡かなんて分からなくなるんだ。でも、君は跡が残ったら大変だ」

そう言いながら、急いで魔力を注ぎこもうとする。

だが、その時アルマークは不意に思い出した。

セラハの顔をしかめた姿。

傷口を乱暴に触られているような感じがして、少し怖かったです。

遠慮がちに発された言葉が蘇る。

いけない。

アルマークはウェンディの白い指の上に膨れ上がっている赤い玉を見つめて、息を止めた。

魔力は、丁寧に、だ。

自分の握っているウェンディの柔らかい手から、その魔力を感じとろうとする。

手に全神経を集中して、ウェンディの魔力の声に耳を傾ける。

聞いてくれるの?

そう声がした。

私の声を。

君は。

アルマークは目を見開く。

「アルマーク?」

その表情にウェンディが訝しげな顔をする。

「大丈夫?」

「あ、いや」

ウェンディの指の上に広がる赤色が、アルマークを我に返らせた。

「すぐに治すよ」

気を取り直して、ウェンディの傷口の上に手をかざす。

もう声は聞こえなかった。

だが、まるで導かれるようにごく自然に、アルマークの魔力はウェンディの傷口に流れ込んでいく。

ウェンディが息を呑んでアルマークの顔を見た。

「治ったよ」

アルマークが顔を上げて、ウェンディの手を大事そうに持ち上げる。

「うん」

ウェンディは頷いて自分の指を咥えた。

そっと差し出した指には、傷口は跡形もなかった。

「よかった」

アルマークはほっと息をつく。

「びっくりした」

ウェンディは小さな声で言った。

「アルマークの魔力、まるで自分の魔力みたいに……何の違和感もなかったの」

「それならよかった」

アルマークは頷く。

「ウェンディ。君の魔力って」

「え?」

「……いや」

アルマークは首を振る。

魔力の声。

それはなんとなく、今は言うべきではない気がした。

「君に急かされたから、今までで一番早く治せたよ」

アルマークはそう言ってウェンディの白い手を見た。

「こんなに早く治せると思わなかった」

「アルマークは本番に強い人だから」

ウェンディはそう言って安心したように微笑む。

「考える時間がない方がいいと思ったの」

「君には敵わないな」

アルマークも微笑んだ。

「でも、本当に勉強になるよ。練習してきたことなのに、まだまだ新しい発見がある」

「役に立ってよかった」

そう言ってから、ウェンディはアルマークの顔をまっすぐに見た。

「本当にどの魔法も上手になってるわ」

「みんなのおかげだよ」

アルマークはそう言ってマルスの杖を手に持つ。

「さあ、最後は変化の術だね」

「最後」

ウェンディの顔にちらりと複雑な表情が覗いた。

「うん。そうだね」