軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お菓子

翌日の放課後。

モーゲンはいつものようににこにことしながら魔術実践場に入ってきた。

「アルマーク。今日は僕の番だよ」

「モーゲン」

アルマークは顔を輝かせる。

「来てくれたんだね」

「うん、来たよ」

モーゲンは頷く。

アルマークはその顔を見て微笑んだ。

「いろいろな人に来てもらったけど、やっぱり君が来ると安心感が違うな」

「またそういうことを言う」

モーゲンは苦笑いすると、実践場の中を見回した。

「まだイルミス先生は来ていないのかい」

「ああ。最近は先生も忙しいみたいだ」

アルマークは頷いて、壁際で座り込んでいるラドマールの姿をモーゲンに見せる。

「イルミス先生が来るまでは、ラドマールは瞑想の時間なんだ」

「なるほど」

モーゲンは頷いて、ローブの袖をごそごそと探る。

「君がそこを探る時は」

アルマークは微笑む。

「何かおいしいものが出てくるときだね」

「さすが、よく分かってるね」

モーゲンはアルマークの言葉通り、焼き菓子の入った袋を取り出した。

「僕は他のみんなみたいに、夕食が終わるか終わらないかの時間まで何も食べずに補習をするなんてことできないからね」

そう言って自分で菓子を二つ食べると、アルマークにも差し出す。

「アルマークもどうだい」

「いや、僕は」

アルマークは首を振る。

「お腹にものが入ると、かえって集中が切れるから」

「いい考えが浮かばない時は、甘いものがいいんだ」

モーゲンは言った。

「君、最近何か試験以外のことで悩んでるでしょ」

「えっ」

意外な言葉にアルマークはモーゲンを見た。

モーゲンは笑顔の陰にちらりと心配そうな表情を覗かせる。

「君が悩んでいることは、いつも大きな何かにつながることが多いからね。僕も簡単に、悩まなくてもいいとか無責任なことは言えないけど」

そう言って、モーゲンはもう一度焼き菓子を差し出した。

「今日は、しっかりと甘いのを持ってきたんだ。甘いものは脳を動かすんだってさ。味は分からなくても、甘さは分かるでしょ」

「ありがとう。それじゃあ」

アルマークは目の前の友人に心から感謝して焼き菓子を受け取った。

口にすると、確かに甘い。

いつもモーゲンがくれるお菓子よりも、ずっと甘い。

「甘いね」

アルマークは言った。

「おいしいよ」

複雑な味はアルマークには分からないが、この単純で素朴な甘さはアルマークにもはっきりと感じ取れた。

「アルマークには、これくらい強い味じゃないと物足りないのかな」

モーゲンは微笑んだ。

「持ってきてよかったよ」

「でも、僕が悩んでるってどうしてわかったんだい」

アルマークの問いに、モーゲンは当然という顔で答える。

「そりゃ、まあね。君のことなら見れば分かるよ」

「さすがだな」

アルマークは苦笑した。

「君には敵わない」

「で、何について悩んでるの」

モーゲンはアルマークを見る。

「悩んでるってことは分かるけど、何に悩んでるのかは分からないから、教えてもらわなきゃ」

「ああ、実は」

アルマークは、モーゲンに黒ローブの男の話をして聞かせた。

ウェンディやコルエンたちと一緒に黒ローブの男に出遭ったこと。

男の求める答えが分からなくて悩んでいるということ。

「試験前だっていうのに、相変わらずいろいろとやってるね」

モーゲンの言葉に、アルマークは苦笑いするしかない。

「うーん、大事じゃないけど大事なものか」

モーゲンは首をひねる。

「いろいろとありそうだけど、そのおじさんの求めてる答えじゃないといけないんだよね」

「うん。どうもそうみたいなんだ」

アルマークは頷く。

「だから、ほかのみんなもいろんな答えを出したんだけど」

そう言って、ラドマールの出した「他人の人生」やポロイスの「誇り」、キリーブの「溺れた時の、ポケットの中の金貨」といった答えを紹介する。

「はー」

モーゲンは感心したようにため息をつく。

「すごいね。僕にはとても思いつかない」

「うん。僕もだ」

アルマークは頷いて、顔をしかめた。

「でも、どの答えも」

「全部違うって言われたんだね」

「ああ」

アルマークは頷いて、真剣な顔をしているモーゲンを見る。

「だから、モーゲンの知恵も借りようと思って」

「僕にはちょっと分からないな」

モーゲンは申し訳なさそうな顔をした。

「僕が貸せるのはお菓子くらいのものだよ」

モーゲンは冗談めかしてそう言うと、思い出したようにラドマールの方に歩いていく。

「あ、モーゲン。瞑想の邪魔をすると怒られるぜ」

しかし、モーゲンは気にすることなく目を閉じているラドマールに声をかけた。

「ラドマール、お菓子持ってきたよ」

「お菓子? そんな物、誰がいると言った」

案の定、ラドマールが目を開けて不機嫌に答える。

「瞑想の邪魔をするな」

「まあまあ。おいしいから」

モーゲンは構わずに焼き菓子を差し出した。

「いらないって言ってるだろう」

ラドマールが苛立たしげに言う。

「だいたい僕は、毎日毒液みたいな薬湯を飲まされてるせいですっかり舌がおかしくなった。ろくに食べ物の味も分からないんだ」

「いいからいいから。おいしいから」

モーゲンが一向に気にせずに、また焼き菓子を差し出した。

「だから、僕の舌は。聞いているのか、ぐむっ」

モーゲンがラドマールの口の中に菓子を放り込み、ラドマールが目を白黒させる。

「何をする」

むせながら、モーゲンを睨んで口を動かしていたラドマールが、不意に目を見張った。

「甘い」

「おいしいでしょ」

モーゲンがにこにこと笑う。

「おいしい」

ラドマールは素直に頷いた。

「この舌で、こんなにはっきりと甘さが分かるなんて」

「そういうお菓子を選んだからね」

モーゲンはそう言うと、右手を上げた。

「じゃあ、瞑想頑張ってね」

「待て、モーゲン」

慌ててラドマールがモーゲンを呼び止める。

「そのお菓子、もう一つくれ」

「いいよ」

モーゲンは気前よく菓子を二つラドマールに渡すと、アルマークのところに戻ってきた。

「気に入ってくれたみたいだ」

「さすがだね」

アルマークは感心してモーゲンの顔を見る。

「お菓子一つでラドマールの心を掴んだ」

「夜の薬草狩りのとき、彼が僕のお菓子をつまらなそうに食べていたのを覚えてる?」

モーゲンの言葉に、アルマークも記憶をたどる。

そう言われてみれば、夜の森での休憩時間に、モーゲンが配ってくれたお菓子をみんなが喜んで食べる中、ラドマールだけがつまらなそうに食べていた。

「あれを見て、絶対においしいって言わせてやろうと思ってたんだ」

そう言ってモーゲンは楽しそうに笑う。

「言わせたよ。僕の勝ちだね」