軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

明日は学院の休日だ。

補習も休みになる。

イルミスに挨拶して、アルマークたち三人は魔術実践場を出た。

「明後日はリルティが来る」

ガレインはぼそりと言った。

先程までの饒舌はどこへやら、自分の声に戻ったガレインはまたいつもの無口な少年に戻ってしまった。

「リルティか。何を教えてくれるんだろう」

アルマークは微笑む。

「アルマークは幸せだな」

フィッケが夜道を飛び跳ねるようにして歩きながら言う。

「クラスのみんながそれぞれ得意な魔法を教えてくれるんだろ? 羨ましいぜ」

「ああ、本当に」

アルマークは頷いた。

「みんなには感謝してもしきれないよ」

「俺も2組ならよかったな」

フィッケはそう言って笑う。

「そうしたら俺も毎日教えてもらうのに」

「別に、1組だからって関係ないよ」

アルマークは言った。

「君も来ればいい」

「そうしたいのはやまやまだけどさ」

フィッケは顔をしかめる。

「もしかしたらアインが嫌がるかもしれないからな」

「アインが?」

「ああ」

フィッケは重々しく頷く。

「俺がアインについていてやらないと1組はまとまらないからな。だから俺もそう簡単にはよそに顔を出せないのさ。まあ今回はルームメイトのよしみで特別に来てやったけど」

「そういうものかい」

「ああ。アインはああ見えても抜けてるところがあるからな。俺がしっかり横から支えてやらないと心配だからな」

「アインが……そうだったかな」

アルマークがガレインを見ると、ガレインは肩をすくめて無言で首を振る。

アルマークもガレインに頷き返す。

「分かったよ。じゃあ残念だけど仕方ないね」

「おう」

フィッケはアルマークの返答に満足そうに頷いた。

「ま、俺の力が必要な時は言ってくれ。俺も最近ちょっと予定が狂ったことがあって結構忙しいけど、時間の都合が合えば来てやるよ」

「ありがとう」

アルマークはそう言ってから、ガレインに目を戻す。

「ガレイン、今日はありがとう」

ガレインは無言で頷いた。

「ガレインは今日はもう、俺の声で十日分くらい喋ったからな。当分まともに喋らねえぜ」

嘘か本当か分からないようなことをフィッケが真顔で言う。

「さあ、早く帰ろうぜ。寒くて仕方ねえ」

そう言いながらフィッケが飛び跳ねるようにして先頭に立ったときだった。

道の前方から足音が近付いて来るのが聞こえてきた。

「ん?」

フィッケは顔をしかめた。

「こんな時間に誰かこっちに来るぞ」

道はすぐに右に曲がっていて、その先は見えない。

こんな時間、というのはフィッケの言うとおりだった。

校舎や図書館などから寮へと帰る学生は、まだこの時間でもいないことはない。

だが、寮から校舎の方へ来るのはおかしい。

冬の寒い夜中に、よほど緊急の忘れ物でもない限り、好き好んで真っ暗な校舎や森へ出かける学生などいないからだ。

「フィッケ」

アルマークは声をかけつつ前に出る。

背中のマルスの杖を右手に持ち替える。

「気をつけて。複数だ」

足音は一つではない。二つ。

「なんだよ、まさか魔物は出ないだろ」

そのとおり、イルミスの清めた道に闇の魔物が出るはずはない。

だが、危険は闇だけとは限らない。

アルマークは鬼火を出すと、ふわりと前方に飛ばした。

「うおっ」

突然の光に、道の向こうで相手が声を上げた。

聞き覚えのある声。

アルマークは素早くそちらに駆け寄った。

驚いた表情で立ち止まっていたのは、見覚えのある二人の少年だった。

「コルエン。ポロイスも」

アルマークは呆れた声を上げる。

「こんな時間にどこへ行くんだい」

「なんだ、アルマークかよ」

コルエンが顔をしかめた。

「黒ローブの男探しだよ。今日話を聞いた2年の二人が、ずいぶん遅い時間に見たって言ってただろ」

「それで、これから行こうと言い出したんだ」

ポロイスがそう言ってため息をつく。

「校舎まで行って、何も出なければそのまま帰ってくるつもりだ」

「ポロイスも付き合わされて大変だね」

「なに、勉強の途中には多少身体を動かしたほうがいいんだ」

ポロイスは微笑む。

「キリーブは、さすがに今日は絶対に嫌だと言っていたので置いてきたが」

「あいつが来れば一番面白いんだけどな」

コルエンが残念そうに言う。

「怖がっていたじゃないか。かわいそうだ」

アルマークが言うと、コルエンはにやりと笑った。

「まあいいや。それじゃあな、アルマーク。もし黒ローブの男を見つけたら、ふん縛ってお前の部屋の前に置いといてやるからよ」

「それは要らないけど、気をつけてくれよ」

アルマークはそう言って手を振って二人を見送る。

「アルマーク、お前、大したやつだな」

二人の背中が見えなくなった後、フィッケが感心したように言った。

「コルエンはともかく、ポロイスなんて俺たち平民が相手だと名前も覚えようとしないやつなんだぜ。お前とあんなに普通に話してるのを見てびっくりしたぜ」

「僕に対しても最初はそうだったよ。名前も覚える気がなかったみたいだ」

アルマークは答える。

「その後で何回か話をする機会があったからね。理由は分からないけど、何かが変わったんじゃないのかな。ポロイスの中で」

「ふうん」

フィッケはアルマークの顔を珍しいものを眺めるように見た。

「人間は、そうそう変わらない」

突然アインの声がして、アルマークはぎょっとするが、すぐにそれがフィッケの発した声だったことに気付く。

「アインがよく言ってる言葉だ。俺も、アインが言うならそうなんだろうと思ってたけど」

フィッケはそう言って、にやりと笑った。

「お前は不思議なやつだな。アインがお前のことを気に入ってるのも分かる気がするぜ」

ガレインたちと寮の入り口で別れ、部屋に戻ったアルマークは、朝食の時に取り分けておいてもらった残り物を夕食代わりに食べながら、明日の休日について考えた。

どこで勉強をしようか。

まる一日、部屋でやるか。それとも、日中は図書館にでも行ってみるか。

図書館にも心が惹かれたが、アルマークは、いや、と思い直す。

結局は、余計な気を散らすものがないこの部屋で勉強するのが一番なんじゃないか。

それで、勉強に詰まったら、外の植え込みの陰で剣でも振ればいい。

アルマークはそう決めて、最近すっかり背負うことのなくなった長剣を手に取った。

ずしりとした金属の冷たい感触。

持ち上げただけで、手にのしかかるその確かな重みが、アルマークの筋肉を覚醒させてくれるような気がする。

アルマークはしばらく剣を持ったままその懐かしい重さを感じていたが、やがてまたそっと部屋の隅に立て掛けた。

部屋のドアが遠慮がちにノックされたのは、だいぶ夜も更けてからのことだった。

先日の早朝に、モーゲンが来たときのノックにそっくりの音だった。

また明日の夕食の誘いか何かだろうか。

まさか、コルエンたちが本当に黒ローブの男を捕まえてきたわけじゃないだろうけど。

そんなことを考えながらアルマークはドアを開け、思わず口元を綻ばせた。

「ウェンディ」

「あ、やっぱりもう帰ってたんだね」

ウェンディはほっとしたように微笑んだ。

「どうしたんだい、こんな時間に」

「うん」

ウェンディはアルマークを心配そうに見た。

「勉強ははかどってる?」

「ああ」

アルマークは苦笑いする。

「はかどってる、と言っていいのかは分からないけど」

そう言って、頭を掻いた。

「とにかく全力は尽くしているよ。明日も補習がないから、部屋で一日勉強するつもりでいる」

「分からないところはない?」

ウェンディはアルマークの顔を覗き込む。

「魔法の練習はイルミス先生やみんなが補習で教えてくれるけれど、座学のほうは自力で勉強してるんでしょ」

「うん。自分でやってる」

アルマークは頷く。

「実は、いくつかよく分からないところが、あるにはあるんだけど」

「やっぱり」

ウェンディはほっとしたように声を上げた。

「聞いておいてよかった。明日、談話室で一緒に勉強しない? 夏の試験前みたいに」

「いいのかい」

アルマークは目を見張る。

「君だって自分の勉強があるだろ」

「もちろん、自分の勉強もするけど」

ウェンディは頷いた。

「でも、あなたが心配でそっちに集中できなかったりもするから。一緒にやってくれると私も助かるの」

「ごめん」

アルマークはうなだれる。

「心配ばかりかけて」

「私が勝手に心配してるだけ」

ウェンディは微笑んだ。

「だって、ほら。もしアルマークが落第しちゃったら、私は誰と一緒に闇の魔術師と戦えばいいの」

「そうだね」

アルマークは頷く。

「君と一緒に戦うのは僕の役目だ。誰にも譲らないよ」

「うん」

ウェンディは嬉しそうに頷いた。

「お願いします」

翌日に談話室で落ち合う約束をした後、ウェンディは帰っていった。

アルマークは念の為廊下に黒ローブの男が縛られて転がっていないことを確認してから、そっとドアを閉めた。