軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

珍客

デグからは最後に、明日はガレインが来るよ、と言われてその日の補習は終わった。

「ガレインは口下手だから、助っ人を連れてくるってさ」

そう言ってデグは意味ありげににやりと笑った。

帰り道、イルミスが清めたという道は、アルマークには普段との違いは分からなかったが、少なくとも二人の前に黒ローブの男は現れなかった。

翌日の朝。

冬の冷気が入り込んでこられない、暖かい空気に満ちた教室。

アルマークは隣の席のウェンディに、前日までに補習で習ったことを話して聞かせていた。

ネルソンの風切りの術から始まり、レイドーの湯沸かしの術、レイラの変化の術。

バイヤーの薬草に、ノリシュの風曲げの術、ピルマンの姿消しの術、そして昨日デグが教えてくれた物体浮遊の術。

「昨日のデグで七人目なんだけど」

アルマークは言う。

「やっぱりみんなすごいよ。毎日、新しい発見の連続なんだ」

「よかったね」

ウェンディは微笑む。

「毎日、補習に行くのが楽しそうだもんね」

「そう見えるかい」

アルマークは照れ笑いを浮かべる。

「でも、本当に楽しいよ。もちろんイルミス先生の補習も楽しいんだけど、毎日、教えてくれる人が変わって、その人ごとの教え方があって。それを学ぶのがすごく楽しいんだ」

「きっと、教える人が毎日ころころ変わったら混乱しちゃうっていう人もいると思う」

ウェンディは言った。

「だから、今アルマークが補習が楽しいっていうことは、そういうやり方に対応できるあなたがすごいっていうことでもあるんだよ」

「君はいつも僕を褒めてくれるね」

アルマークは感謝を込めてウェンディを見た。

「そのおかげで僕は自信を持てるんだ」

「そんなこと」

ウェンディは首を振る。

「思ったことを言ってるだけだから」

その時、教室にどやどやと数人の男子生徒が入ってきた。

「お、いたいた。アルマーク」

聞き覚えのある声にアルマークは顔を上げた。

「コルエン。ポロイスとキリーブも」

「やっぱり2組は女子が多いな」

コルエンは珍しげに教室を見回しながら、アルマークに近づいてくる。

ポロイスも表情を変えることなくその後ろを歩いてくるが、キリーブだけは落ち着かなそうにそわそわと辺りを見回している。

「おはよう」

アルマークが挨拶すると、コルエンが満面の笑みで手を挙げた。

「よう、アルマーク。お前、ウェンディの隣の席だったのか。それならエストンも連れてくるんだったな」

コルエンが教室中に聞こえるような大きな声で言い、ウェンディが困った顔をして恥ずかしそうにうつむく。

何事かと振り返った2組の生徒たちが、珍しそうにコルエンたちを見た。

「コルエン、声が大きい」

ポロイスが顔をしかめる。

「よそのクラスであまり騒ぐんじゃない」

「そうだぞ」

キリーブがなぜか声を潜めて言う。

「さっさと用事を済ませて帰るぞ」

「キリーブ、どうしたんだい」

アルマークが不審な態度を見咎めてそう声をかけると、キリーブは顔をしかめて首を振る。

「ここは居心地が悪い。女子が多すぎる」

「あれ、でも昨日は」

アルマークが言いかけると、キリーブは慌てて自分の口に人差し指を当てる。

「いい、余計なことは言うな」

その様子を見て、コルエンがくっくっ、と笑う。

「やっぱりキリーブを連れてきてよかったぜ」

「普段はあんなに女子女子言うくせに、後夜祭のダンスでも真っ先に演奏に回っていたからな」

ポロイスもそう言って呆れたようにキリーブを見た。

「大丈夫だ。女子は君をとって食いはしない」

「うるさい」

キリーブはポロイスを睨む。

「お前らと違って僕は繊細なんだ」

「よく言うぜ」

コルエンが笑った。

このまま3組のペースに巻き込まれると、話がずるずると流れていってしまう。

昨日の失敗を繰り返すまいと、アルマークは口を挟む。

「それで、用件っていうのは」

「ああ、そうだった」

コルエンはアルマークの脇に座り込んだ。

「また、黒ローブの男を見たってやつが出てきたんだ」

「えっ」

アルマークは眉をひそめる。

「どこでだい」

「キリーブとエストンも見たっていう、校舎と寮の間の道だよ」

「そういえば、君たち昨日の夜あの道にいたんだってね。イルミス先生が言っていたよ」

「おう、そうなんだよ」

コルエンは悪びれもせず笑顔で頷く。

「試験前に余裕だな、とか嫌味言われちまった」

「だからやめようって言ったんだ」

ポロイスがため息をつく。

「コルエンがどうしてもっていうから、僕らはそれに付き合ったんだ。なあ、キリーブ」

「え? ああ、おお」

きょろきょろと周りを落ち着かなそうに見回していたキリーブが慌てて頷く。

「お前、女ばっか見てんじゃねえよ」

コルエンが呆れた声を出すと、キリーブは顔を真っ赤にして首を振る。

「何を言ってるんだ、お前は。ふざけるな、女など見ていない」

「誰だよ、気になるのは。レイラかリルティか、それともセラハか」

「やめろ」

キリーブは両手で耳をふさいだ。

「僕は何も聞こえん」

「コルエン、よせ」

ポロイスがコルエンをたしなめる。

「授業が始まる前に、話を済ませろ」

「おお。そうだな」

コルエンはアルマークに向き直る。

「お前もその話に興味あるだろ。今日の昼休みにそいつに話を聞きに行ってみようぜ」

「見たっていう生徒か」

アルマークは考える。

「何年生なんだい」

「2年だ」

ポロイスが答える。

「昨日の夜に見たそうだ」

「夜」

アルマークは顔をしかめる。

「どれくらいの時間だい」

「夕食の後、かなり遅い時間らしい」

ポロイスが答える。

「校舎に忘れ物をしたのに気付いて、友達に付き合ってもらって取りに行ったんだそうだ。その帰りに、二人で黒ローブの男を見たらしい」

「そんな時間に」

おかしい。

それならば、イルミス先生が道を清めた後の話だ。

ということは、黒ローブの男は闇とは関係がないのか。

「昼休みに飯を食い終わったら行ってみようぜ」

コルエンの誘いに、アルマークは頷いた。

「分かった、行こう。教えてくれてありがとう」

「よし。決まりだ」

笑顔を浮かべたコルエンが、ポロイスとキリーブを連れて帰っていくと、ウェンディが顔を上げてほっと息をついた。

「突風みたいな人たち」

「ああ、そうだね」

アルマークは微笑む。

「コルエンはいつも賑やかだよ」

「それはそうと、アルマーク」

ウェンディがアルマークを軽く睨んだ。

「また何かやってるんだね」

「あ。いや、その」

アルマークは慌ててウェンディに黒ローブの噂のことを説明しようとしたが、時間が足りなかった。

昨日の昼休みに3組の教室に聞き込みに行った辺りまで話したところで始業を告げる鐘が鳴り響く。

「ええと、だから」

「うん。ありがとう、だいたい分かったよ」

ウェンディは頷いた。

「もし危なそうな話なら、私にもちゃんと教えてね」

そう言って、心配そうにアルマークを見る。

「私も一緒に行くから」