軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化

レイドーとの訓練を終えたアルマークは、イルミスが自分たちの方を見ていることに気付いた。

その目が意外なほどに優しさを帯びているのに驚き、思わず尋ねる。

「イルミス先生。どうしたんですか」

すると、イルミスはまるで今気付いたかのようにアルマークの顔を見た。

「何がかね」

「今、僕とレイドーのほうを」

アルマークは答える。

「なんだか楽しそうに見ていたので」

「楽しそうに?」

イルミスは眉をひそめる。

「私がか?」

「はい」

アルマークは頷いた。

「なんていうか、すごく優しい目で」

「優しい目」

イルミスは顔をしかめた。

「私がそんな目をしていたか」

「はい」

アルマークは頷く。

「僕とレイドー、そんなにおかしかったですか」

「いや」

イルミスは首を振った。

「別におかしくはない」

それから、レイドーに目を向ける。

「レイドー。今日の君の教え方はよかった。イメージとして掴みづらいことを、目に見える形で示すのは実に効果的だ」

イルミスはやはり、ラドマールへの指導に集中しているようでも、レイドーの指導方法も把握していた。

「ありがとうございます」

レイドーはほっとしたように微笑む。

「よかった。実はうまくいくか心配だったんです」

「見事なものだ」

イルミスは頷いた。

「君の教え方を見ていたら、そうだ」

イルミスは自分の記憶をたどるように視線を宙に向ける。

「昔のことを思い出した」

「昔のこと」

アルマークが反応する。

「それは」

「学生の頃のことだ」

イルミスは呟くように言った。

「人に教えることのとてもうまい同級生がいた。彼のことを思い出した」

そこまで言って、イルミスは首を振る。

「それだけのことだ」

そう言うと、この話は終わりだとでも言うように手を叩いた。

「よし。今日はもう終わりにしよう。外は真っ暗だ。気を付けて帰りなさい」

寮への帰り道。

ラドマールはアルマークと帰りたがらず、いつも一人でさっさと帰ってしまうので、アルマークは補習帰りは一人でこの道を歩くのが常だったが、昨日からはクラスの仲間と一緒だ。

アルマークにはそれも嬉しかった。

昨日のネルソンの笑い声は、夜道に響き渡っていた。

「レイドーは試験の準備は進んでるのかい」

アルマークが尋ねると、横を歩くレイドーは首を傾げた。

「いつもどおりかな」

「いつもどおり」

アルマークは目を見張る。

「さすが、試験慣れしているね。僕にはそんなことはとても言えない」

「緊張したら力は出ないし、下手に力んでも僕の場合はね」

レイドーは微笑む。

「ネルソンみたいにそれを力に変えられる人もいるけど、僕の場合はそうじゃない」

「ああ」

アルマークは、武術大会の試合で、まるでいつもどおりの態度で試合に臨んでいたレイドーの姿を思い出す。

試合自体には負けてしまったが、途中までの落ち着き払った戦いぶりは圧巻だった。

「確かに君の場合は、いつもどおり、が一番か」

「君もそう思うだろう」

レイドーは頷く。

「君のおかげで自信ももらったしね」

「僕のおかげ?」

アルマークは苦笑する。

「記憶にないな」

「まあとにかく」

レイドーは笑った。

「明日はしっかりね」

「レイラの補習か」

アルマークは泉の洞穴の道中での、レイラの自分への辛辣な評価を思い出す。

「うん。頑張るよ」

……とは言ったものの。

翌日の放課後。

アルマークは、目の前に立って厳しい表情で自分を見つめるレイラを見た。

いつか、薬湯を作るときにしていたのと同様、きれいな黒髪を後ろできりりと一つに縛っている。

切れ長の美しい目が、髪を縛っているせいで更に鋭く見えた。

これは本当に厳しそうだぞ。

「あなたを教えろとウォリスが言うから」

レイラは言った。

冷たい表情。

それと同じく冷たい声。

まるで、アルマークが学院に編入してきた当時に戻ってしまったかのようだ。

「色々考えたのよ」

「うん」

アルマークは頷く。

「ありがとう」

レイラは表情を変えない。

「考えたの」

もう一度言った。

「あなたのために、何を教えるのが一番いいかって」

いや。

アルマークは心の中で首を振る。

編入当時と同じだって。

僕はバカだ。

全然、違うじゃないか。

「私には時間がないの。授業の邪魔だけはしないで」

いつか、レイラに投げかけられた厳しい言葉。

厄介者を見るような、苛立った目。

今、目の前に立つレイラもあのときと同じような厳しい表情をしている。

だが、今、何て言った?

僕のために、何を教えるのが一番いいか、だって?

あのレイラが、僕のために一生懸命考えてくれているんだ。

これは、全力で学ばなければならない。

アルマークは覚悟を決めた。

「基礎は大事よ」

レイラは言った。

「もちろん、基礎はとても大事。おろそかにしてはいけない」

それは、まるで自分に言い聞かせるかのよう。

「だけどね」

レイラはそう言ってアルマークを見た。

「大事だからといって、いつまでも基礎ばかりやっていても、前には進めないの。思い切って基礎から離れて、自分の手に余るような挑戦を続けることで、初めて見えてくることだってある」

「うん」

アルマークは頷く。

レイラの魔法の腕前は、アルマークも泉の洞穴で十分すぎるほど目にしていた。

レイラの言葉は、彼女が実践してきたことそのものだ。

レイラ自身がその言葉を信じている。

だからこそ、説得力があった。

「だから今日は、初等部で習う一番難しい魔法を教えるわね」

レイラは言った。

「変化の術」

その言葉にアルマークは一瞬怯んだ顔をする。

それは、初等部の魔法の中でもひときわ高度な魔法。

そして先日、イルミスとの補習で手酷く失敗したばかりの魔法でもあった。

レイラの鋭い目がアルマークを見据える。

「できるわね」

「頑張るよ」

アルマークが頷くと、レイラは首を振った。

「そんな甘い心構えじゃまた失敗するわ」

そして更に厳しい目でアルマークを見る。

「頑張るなんて当たり前。頑張るじゃなくて、やる。必ずやりとげるの」

「分かった」

アルマークは頷いた。

「必ずやってみせるよ」