軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

疑問

二人で連れ立っての寮への帰り道。

時折苦しそうに腹を押さえるアルマークに、ザップは呆れた顔で、分かったよ、もういいよ、と言った。

「僕ももう声狩りの術を使ってなんて言わないから、アルマークもその下手な芝居をやめてよ」

「よく芝居だと分かったね」

アルマークは背筋を伸ばした。

「すごいな」

「魔術祭の劇では、あんなに迫真の演技をしてたのに」

ザップはアルマークの顔を不思議そうに見上げる。

「普段の芝居はすごく下手だね。僕じゃなくたって、1年生だって分かるよ」

「そうかなぁ」

アルマークは首をひねった。

それから気を取り直したようにザップの肩を叩く。

「ザップ、今日は残念だったけど、今度二人でおいしいスープのお店に行こうよ。モーゲンが教えてくれたんだ」

「モーゲンが教えてくれたのなら、きっとおいしいんだろうね」

「ああ、間違いないよ。僕がおごるから」

「いいのかい。やった」

ザップはそう言って微笑んだあとで、やはり腑に落ちない顔をした。

「もうあの二人の会話は聞かないけどさ、でもやっぱり不思議なんだ」

「何がだい」

「ミシェルのことだよ」

ザップは言った。

「正直、僕だってミシェルって名前を思い出したのはフィタが口にしたからだ。ミシェルとはお互いに全然話したこともないんだ。それなのに、どうして僕のことをあんなに知りたがってたんだろう」

「遠くで君のことを見て、ずっと憧れてたのかもしれないよ」

「アルマーク」

ザップはため息をつく。

「あのね、僕にだってそれくらいのことは分かるよ。女子が遠くから見つめて憧れるような男子もいるってことは知ってるけど、自分がそういう男子とは程遠いってことくらいはね」

「そうかな」

アルマークはザップを見る。

「君は優しいし勇気だってあるし、いざという時にもちゃんと頭が回る。女子が憧れても不思議じゃないと思うけどな」

「優しいとか勇気があるとか」

ザップは苦笑いする。

「全部、遠くから見たって目には見えないものばかりじゃないか。きっと女子はもっとちゃんと目に見えるものに憧れるんだよ。きれいな顔とか、かっこいい身のこなしとか、あとは武術が強いとかね」

「そういうのが好きな子もいるだろうけど」

アルマークは腕を組む。

「それだけじゃないと思うけどな」

それから、でも確かに、と続ける。

「全然話したこともないんじゃ君の良さも伝わらないか」

その言葉にザップは頷く。

「僕にもしもアルマークの言うような良さがあるとしてもね。ミシェルとは今まですれ違ったことくらいしかないんだ。僕のことなんか好きになりようがないんだよ」

「何か、君が自分でも気付かないうちにしていたんじゃないのかい」

アルマークは言う。

「たとえば、知らないうちにミシェルのピンチを救っていたとか」

「ないない」

ザップは手を振る。

「僕は今日まで、ずっと地味で目立たない学院生活を送ってきたんだ。アルマークたちと夜の森で出遭ったあの出来事が、僕の唯一の大事件だよ」

「そうか……」

アルマークはそれだけ言うとしばらく考えこんでいたが、やがて寮の建物が見えてくると、心を決めたように言った。

「ザップ、ミシェルのことがどうしても気になるんだったら、もう一人、相談してみようか」

「もう一人?」

「うん。君が嫌ならやめるけど、その人に話せば多分解決してくれると思うんだ」

「ウェンディかい? 女子に話すのはちょっと嫌だな」

「いや、男子さ」

アルマークは答える。

「どうする?」

ザップはしばらく悩んだあと、頷いた。

「うん、いいよ。答えが分かるなら」

ドアを開けたアインは、珍しい訪問客を見て口元を緩めた。

「さっそく面白い話を持ってきてくれたのか」

そう言って、部屋を出てくる。

「ここでは込み入った話はできないからな。どこか場所を変えよう」

「僕の部屋に行こうか」

アルマークの提案に、アインは嬉しそうに頷いた。

「君は一人部屋だったな。ちょうどいい」

それから、アルマークの隣に立つ緊張した顔の下級生を見て、目を細める。

「2年2組のザップか。そんなに緊張することはない」

「僕のこと知ってるの」

ザップが目を丸くする。

「知ってるさ」

アインは肩をすくめた。

「この学院に入れるくらいの頭があれば、誰だって初等部全員の顔と名前くらいは簡単に覚えられるだろう。君たちも少しは視野を広げて他人に興味を持ちたまえ」

「あんまりきついことを言うなよ、アイン」

アルマークは先に立って歩きながら、そう言って振り返る。

「相手は下級生だぞ」

「大事なことは、知るなら早いほうがいい」

アインは答える。

「それにこれは、君にも言っているんだがな」

「そうかい?」

アルマークは澄ました顔で前を向く。

「それは気付かなかったよ」

「君は鈍いふりをするのが得意だな」

アインは笑う。

「ところどころ、本当に鈍いのが実に厄介だ」

アルマークの部屋に入った3人は、思い思いの場所に腰を下ろす。

「相変わらず何もない部屋だな」

ベッドに腰掛けたアインは部屋を見回して言った。

「これなら明日すぐにでも北に帰れそうだな」

「物を持つ習慣があまりないんだ」

アルマークは答える。

「旅生活が長くてね。一人で持ち運べるものなんてたかが知れてるから」

「君はまだ長い旅の途中といったところか」

アインはそう言って微笑むと、足を組む。

「さて、それじゃあ教えてもらおうか。君たちの面白い話を」

しかし、ザップとアルマークの話を聞いていたアインの笑顔は、みるみるうちに萎んでいった。

「アルマーク、君は何か誤解していないか」

「え?」

「僕の言う、面白い話というのは、こういうことではなくてだな」

「僕は面白い話なんて一言も言ってないよ」

アルマークは答える。

「君が勝手に期待したんだろ」

「む」

アインが顔をしかめる。

「なるほど。それは君の言うとおりだな」

「あの、二人は」

ザップがためらいがちに口を挟む。

「仲がいいの、それとも悪いの」

「僕の知る限り」

アルマークは答える。

「アインはこの学院の生徒の中で一番頭が切れる。アインに解けない謎はないよ」

「光栄だな」

アインはそう言うと、自分もザップに顔を向けた。

「ザップ。僕の知る限り、アルマークはこの学院で最もおせっかいで世話焼きな男だ」

その言葉にアルマークが苦笑する。

「そうかな」

「そうだとも」

アインは頷く。

「だが、彼のすごいところは、世話を焼くと決めたら、必ず最後まで焼きとおすところだ。そこは」

アインは微笑んだ。

「尊敬に値する」

「ええと、つまり」

ザップは戸惑った顔で二人を見る。

「二人は仲がいいってことでいいのかな」

「他ならぬアルマークのご指名だ」

アインはザップの質問に答えず、言った。

「その程度の謎でいいなら、僕が答えてやろう。アルマーク、確か君は明日まで補習が休みだったな」

「ああ」

「よし」

アインは微笑む。

「明日の放課後、例の場所に集合だ」