軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「声狩りの術」

ザップは呟く。

「それって確か、風を使って」

「そう」

アルマークは頷く。

「風で遠くの声を拾って、ここまで運んでくるんだ」

「すごい」

ザップは目を見張る。

「できるのかい」

「練習ではうまくいくけど」

アルマークはそう言いながら、目を閉じる。

「本番、と言っていいか分からないけど、こういう風に使うのは初めてだ」

集中して、魔力を練る。

昨日久しぶりによく寝たせいだろうか。心なしか、魔力が昨日までよりも澄んでいるような感覚がある。

「頼むよ、アルマーク」

ザップは言った。

「君の魔法だけが頼りだ」

僕の魔法だけが頼り。

剣の腕を頼られたことは多々あれど、魔法を頼りにされるのは初めてかも知れない。

アルマークはザップの言葉に奮起した。

「任せてくれ」

そう言いながら、練り上げた魔力で風の球を作る。

よし、これをフィタたちのところに飛ばして声を狩ればいい。

作り上げたばかりの風の球を放つ。

その瞬間。

「きゃあ」

フィタが髪を手で押さえて悲鳴を上げた。

もう一人の女子も思わず目を閉じてフィタに抱きつく。

突然の強風に、二人の頭上の木の枝が大きな音を立てて揺れた。

「あれ」

アルマークは首をひねる。

風の球がほどけ、突風はすぐにやんだ。

「なに、今の突風」

フィタは大きな声でそう言って、目を瞬かせた。

「びっくりした」

隣の女子も、フィタの腕を掴んだままで頷く。

「アルマーク」

ザップがアルマークの肩を掴む。

「何やってるんだよ、フィタを驚かせて声を大きくさせる魔法なんて言わないでくれよ」

「ごめん」

アルマークは首を傾げた。

「おかしいな」

魔力の調子はいいはずなのに。

「魔力の込め過ぎじゃないのかい」

「練習どおりにやったつもりなんだけどな」

そう答えて、もう一度魔法の手順を確認する。

練習どおり、いつもどおりのはずなのに。

その時、不意にアルマークはイルミスの言葉を思い出した。

「君は張り切ると魔力を込めすぎる嫌いがある」

劇で演出を失敗した後の講評での言葉。

そういうことなのだろうか。

自分ではそんなつもりはなかったが、やはり魔力が大きすぎたのだろうか。

「もう一度やってみるよ」

「大丈夫かい」

ザップは不安そうだ。

「フィタたちに怪我させないでくれよ」

「うん。まさかそんなことはないと思う……」

アルマークは、魔力を普段よりもぐっと抑えめにして風の球を作った。

それをそっと手放す。

今度はいい感じだ。

目に見えない風の球は、静かに飛んでいくと、そっと女子二人の周りを回り始める。

「よし……」

この魔法の難しいところは、風を放ってそれで終わりではないということだ。

風の球にまんべんなく言葉を拾わせた後で、自分のところまでその言葉をこぼさないように戻さなければならない。

アルマークは、しばらく風の球を回らせた後、慎重に自分たちのところに戻した。

「戻ってくるよ」

アルマークはザップに囁く。

「うん。……あ」

ザップは耳に手を当てた。

「聞こえる。フィタの声だ」

アルマークの風の球は、二人の女子の声を確かに狩り集めて戻ってきた。

『それでね……が……』

『……なんて……だよ』

しかし、雑音が大きくて肝心の二人の声があまりはっきりしない。

「よく聞こえないな」

ザップがじれったそうな顔をする。

「もう少しで聞こえそうなんだけど」

「大丈夫」

アルマークは頷いた。

「今のでコツはつかめた」

そう言って再度目を閉じる。

雑音が大きいのは、風の力自体が大きかったからだ。

だいぶ抑えたつもりでいたが、まだ魔力がこもりすぎていた。

屋外だからごまかせたが、屋内でこんな風が吹いたらおそらく誰もが不自然に思うだろう。

そう考えると、人の出入りが頻繁にあったとはいえ、屋内の酒場で何度もこの魔法を使って誰にも気付かれなかったモーゲンの凄さがアルマークにも分かる。

風の魔法は苦手だと当時から言っていたが、モーゲンはやはり本番に強い男なのだ。

よし。僕もモーゲンを見習おう。

アルマークは魔力を丁寧に練る。

量は少なく、だが繊細に。

そうして作り上げた小さな風の球を、アルマークはそっと飛ばす。

一つではない。

全部で四つ。

時間差を作って、順繰りに飛ばしていく。

四つめの球がフィタたちのところにたどり着く頃には、一つ目の球が声を集め終わって戻ってきた。

風の球がほどけ、中から声がこぼれだす。

『ねえ、もっと聞かせて』

フィタではない、もう一人の少女の声だ。

『私、もっともっと聞きたいの』

『まだ聞きたいの? 本当に知りたがりだね、ミシェルは』

「ミシェル!」

ザップが声を上げる。

「思い出した。確か、去年フィタと同じクラスだった女子だ」

だがアルマークには、それに答える余裕はない。

残り三つの風の球を、精神を集中して操っている。

『でも、もうないよ』

フィタの困ったような声。

『思い出してよ』

甘えるようなミシェルの声がした。

『お願い』

『でも、昨日までもずっと話していたから、もう本当に』

『何でもいいの。本当にちょっとしたことでも』

ミシェルの声が、少し切実さを帯びる。

『私、知りたいの。ザップのことが』

「え?」

ザップが目を見開く。

「え? え? ちょっと待って」

ザップはうろたえた。

「え、ミシェルが僕のことを、え?」

アルマークを慌てて振り返る。

「ど、どういうことだろう」

しかしアルマークは魔法に集中していて、二人の会話の内容をまるで聞いていなかった。

「あと二つ、風の球が帰ってくるからね」

アルマークはザップの狼狽ぶりを全く意に介さずに言った。

「やり方が分かってきたよ。やっぱり百回の練習よりも一回の実践だね。追加であと三つ飛ばしたから、きっともっとはっきりと聞けるよ」

「いや、アルマーク、そうじゃなくて」

ザップが手を振る。

「ちょっと待って。頭が追いつかない」

そこにまた風の球が一つ戻ってきた。

『ねえ、何か思い出した? ザップのこと』

『うーん……』

『私もフィタにもっと教えるから。彼のこと』

「か、彼って誰だよ」

ザップの声がかすれる。

『それは私も知りたいけど』

とフィタの声。

『ザップの話かぁ……あと、何があるだろう。最近あんまりちゃんと話してないから』

「最近、ちゃんと話してない……」

ザップはがっくりとうなだれた。

そこにまた風の球が戻ってくる。

「ほら、すごくはっきりと聞こえるだろう」

アルマークは胸を張った。

「どうだい。僕だってやればできるんだよ」

「い、いやアルマーク」

ザップは涙目でアルマークを見た。

「ごめん、お願いだからちょっと止めて」