軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「蛇の王、か」

船員の一人が顔をしかめた。

「どうして北の傭兵ってのはこう、物騒なあだ名をつけるんだ」

「そのほうが強く聞こえるからだろ」

別の船員がそう言って笑う。

「“可憐な白兎”なんて名前より“黒狼”のほうが強そうだろうが」

「そりゃそうだが」

「まあなんにせよ」

ウィルビスが言った。

「“槍の王”が負けたんだ。“蛇の王”は今、北で一番強い傭兵に最も近いところにいると見ていいんじゃねえかな」

「“槍の王”とやらは、どうやって負けたんだ」

赤ら顔の船員が言う。

「あいつらお得意の一騎討ちでか」

「それはわからねえ」

ウィルビスは首を振った。

「俺の聞いた話じゃ、見た人間が残ってねえんだと」

「残ってねえ? どういうことだ」

「一人残らず死んだのさ」

焚き火の炎が揺れ、ウィルビスの顔が不意に闇に沈む。

「ヒニアス戦闘傭兵団は、蛇骨傭兵団との戦いで、全員死んだんだ」

「全員」

赤ら顔の船員は目を剥いた。

「そりゃ穏やかじゃねえな」

アルマークも思わず目を見開いてウィルビスの顔を見た。

ヒニアス戦闘傭兵団は、その団名にわざわざ「戦闘」の文字を冠することでも分かるとおり、戦闘を必ず貫徹するという戦意の高さを誇りにしていた。

馬上で長大な槍を振るって敵陣を蹴散らす団長の“槍の王”ヒニアスだけでなく、ほかにも強力なエースを擁しているはずだった。

それが、全滅だって。

「だから、ヒニアスが討たれたことは分かっても、どうやって討たれたのかは知ってるやつがいねえのさ」

「うへえ」

ウィルビスの言葉に、赤ら顔の船員が肩をすくめる。

「本当に恐ろしい野蛮なところだな、北ってのは。中原との間にメノーバー海峡があってよかったぜ」

「おい」

その隣の船員が肘で脇腹をつつく。

「あ」

赤ら顔の船員も、目の前に二人も北の出身者がいることを思い出したのだろう。気まずそうに咳払いした。

だが、アルマークにはそんなことを気にしている余裕はなかった。

「それじゃあ北の傭兵たちも大騒ぎでしょうね」

そう言うと、ウィルビスは薄く微笑んだ。

「坊主も北の人間なら分かるだろ。そういう時、あいつら傭兵がどんな行動をするか」

「え」

一瞬、反応が遅れた。

傭兵たちが、どんな行動を。

突如現れた“蛇の王”と彼の率いる蛇骨傭兵団という絶対的強者。

今までの強者の代表格である“槍の王”とヒニアス戦闘傭兵団が全滅という形で敗れ去って、北の傭兵たちは、今、どんな反応を示し、どんな行動をとろうとしているのか。

「分からねえか。坊主もだいぶ南の空気に染まったな」

ウィルビスは穏やかに微笑んだ。

「だが、それは別に悪いことじゃねえよ」

アルマークは戸惑ってウィルビスの顔を見た。

北の傭兵たちも、新たな強者の誕生に慄いているんじゃないのか。

ウィルビスは、二つ、と言った。

「傭兵たちの反応は、大きく分けて二つだそうだ。一つは、“蛇の王”をぶっ潰して自分が王になってやろうっていう盛り上がり」

それともう一つは、と言ってウィルビスは口元を歪めて笑う。

「空席になった“槍の王”の座に、次は誰が座るのかっていう盛り上がりだ」

そうだ。

アルマークは思い出した。

傭兵というのは、そういう人種だった。

ついこの間までは、アルマークもそういう思考回路で生きていたのだ。

とんでもなく強いやつがいる。

なら、俺が倒してやるよ。

とんでもなく強いやつが死んだ。

なら、次は俺がその座に座る。

生きるか、死ぬか。

そういうシンプルな、一筋の矢のような思考回路で。

「冬だっていうのに、今はどこの傭兵団も活発に動いてるらしいぜ」

ウィルビスは言った。

「もちろんその中心にいるのは、蛇骨傭兵団と“蛇の王”だ」

はるか南にいるアルマークが、話を聞いただけで、衝撃を受けたというのに。

北の傭兵たちは少しも臆していないかのようだ。

懐かしい、逞しさとふてぶてしさ。

アルマークが憧れてやまない、傭兵の姿だ。

そしてきっと、その中には父さんと黒狼騎兵団もいる。

「しかし、ますます北との商売は難しくなるな」

船員の一人が言った。

傭兵の話はそこで終わり、そこから話題は商船の船員たちらしい、商売のことに移っていった。

アルマークはそれらの話も興味深く聞いていたが、さすがに世界を股にかける船員たちだけあって話の種は尽きない。

やがて、もう随分遅い時間になってしまっていることに気付いた。

さすがにもう帰らなければならない。

「ウィルビスさん、そろそろ帰ります」

アルマークは言った。

「いろいろと楽しかったです。ありがとうございました」

「おお」

ウィルビスは、自分も今気が付いたように夜空の月を見上げた。

「だいぶ長話しちまったな。知りたいことは少しは知れたかい」

「はい」

アルマークは頷く。

「まるで北に帰ったみたいでした」

「大げさだな」

ウィルビスは笑う。

「次に来るときは、もうこっちは春かもな」

「楽しみにしてます」

アルマークは焚き火から離れると、船員たちに頭を下げた。

「コスターさんにもよろしくお伝えください。皆さんもどうかお気をつけて」

「おう。坊主も立派な魔術師になれよ」

「そうそう。それで、俺たちに魔法具を安く売ってくれよ」

船員たちが口々に言い、笑った。

「はい」

アルマークはもう一度頭を下げて、身を翻した。

アルマークの背中を見送って、船員の一人が言った。

「やっぱりさすがにノルク魔法学院の生徒だな。お行儀がいいや」

「そうだな」

ウィルビスは頷いた。

「北の傭兵の子とは、とても思えねえ」

「え?」

別の船員が振り返る。

「なんだって?」

「なんでもねえよ」

ウィルビスは首を振って、焚き火を離れた。

「さあ、俺はもう船に戻って寝るぜ」