軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後夜祭

アルマークが元来た道を戻って、初等部の校舎の前に着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

校舎の前の、校庭と呼ばれる草っぱらの中心に、ぽっかりと一箇所だけ剥き出しの地面があって、確かにそこは火を焚いたあとのようだとアルマークは以前から思っていた。

なるほど、こういう時に使うのか。

日が落ちて気温が急激に下がり始めた校庭に、暖かい火が焚かれ、その周りにたくさんの学生が集まっていた。

後夜祭が始まるのだ。

「あ、アルマークが来たよ」

駆け寄ってきたアルマークを真っ先に見つけたのはモーゲンだった。

「こっちだよ、アルマーク」

手を振るモーゲンの周りには、ネルソンやレイドー、リルティ、ノリシュ。いつもの仲間がいる。

もちろん、ウェンディもだ。

「お待たせ」

アルマークは言った。

「まだ花火は上がってないね。間に合ってよかった」

「もう終わっちまったぜ」

そう言いながら、トルクがアルマークの背後を通り過ぎていく。

「嘘だよ、アルマーク」

レイドーが笑う。

「大丈夫。花火はこれからさ」

「あいつの嘘もどんどんしょうもなくなるな」

ネルソンが呆れ気味にトルクの背中を見た。

デグとガレインがいつの間にかその後ろを歩いている。

「でもトルクがそうやってからかうのは、アルマークとネルソンだけだし」

ノリシュが言った。

「なんだかんだで二人のことを認めてるんじゃないの」

「めんどくせえ」

ネルソンが舌を出した。

「別にあいつに認めてもらう必要はねえよ」

アルマークは周囲を見回した。

1年生も、2年生もいる。

向こうには、アイン率いる3年1組の姿も見える。

「ウェンディ、やっぱり3組は来てないみたいだね」

「うん」

ウェンディは少し心配そうに頷いた。

「しばらく前に、みんなで講堂に入っていったけど」

「そうか」

アルマークは頷く。

「間に合うといいけどね」

「そうだね」

そう言いながら、ウェンディはそっとアルマークの隣に立った。

「用事は済んだの?」

「ああ、うん」

ウェンディの目が、炎に照らされてきらめいていた。

アルマークは何だかそちらを見ることができずに頷く。

「今日はもう終わったよ」

「それなら、よかった」

ウェンディが微笑む。

「じゃあ、もういなくならないんだね」

「もちろん」

アルマークが頷いたとき。

「さあ、そろそろじゃないかな」

そう言いながら、モーゲンがいそいそと新しい串物を取り出した。

「まだ持ってやがった」

ネルソンが目を丸くする。

「どれだけ買ったんだよ」

「だって、花火に合わせて食べたいじゃないか」

モーゲンは得意げに言う。

「だから、少しあの焚き火で温めてたんだよね」

「さすがモーゲンだね」

レイドーが頷く。

「食べ物に関しては抜け目がない」

「まあね」

モーゲンが笑顔で串をかじる。

「今、食べていいの?」

リルティが目を瞬かせた。

「花火、まだだよ」

「あっ」

モーゲンが愕然とした顔をする。

「しまった。口と手が勝手に」

その時、森の向こうで、どん、という低い音がした。

炎の塊が尾を引いて天に昇っていく。

空高くまで上がった炎が、一瞬で華のように開いた。

大きな歓声が上がる。

「何度見てもすごいな」

アルマークは目を輝かせて花火を見た。

「本当にきれいだ」

「うん」

ウェンディも花火から目を離さずに微笑んだ。

「きれい」

また一つ、空に炎の花が咲く。

「ずっと、この花火が見られるといいね」

ウェンディが言った。

「来年も、再来年も。それで高等部に上がったら」

ウェンディはアルマークを見た。

「一緒に花火を打ち上げるの」

花火がウェンディの顔を横から照らす。

その目が潤んでいるように見えて、アルマークは少し戸惑う。

「うん」

アルマークは力強く頷いた。

そうすることで、ウェンディを少し安心させられるような気がした。

「来年もその次の年も、一緒に見よう」

ひときわ大きな花火が上がり、それとともに大きな歓声が起きる。

モーゲンがどこからか二本目の串物を取り出している。

「立派な魔術師になるまで、毎年見よう」

口に出せば、きっとそうなる気がした。

「うん」

ウェンディが頷いて、アルマークの手をそっと握った。

冬の夜の空気に晒された、冷たい手。

アルマークは、まるで淡雪のようなその柔らかい手を、壊さないように優しく握り返した。

「3年2組は集まれ」

焚き火の近くでウォリスが声を張り上げている。

「ダンスはこの辺りから始めるぞ」

アルマークたちがウォリスのところへ集まると、トルクたち3人が、逆にその輪から離れていく。

「あれ、トルクたちはどこへ行くんだい」

アルマークが言うと、ウェンディは焚き火の陰になっている校庭の反対側を指差した。

「トルクたちは演奏役よ。向こうに楽器があるの」

「そうか。確かにダンスには音楽が必要だね」

アルマークは頷いたが、すぐに疑問を抱く。

「でも、それじゃあ彼らは踊らないのかい」

「いつもそうよ」

ノリシュが答えた。

「照れくさいんでしょ。トルクたちはいつも演奏役」

「そうなのか」

アルマークは焚き火の向こうへ消えていく3人の背中を見送った。

「3年1組はここだ」

アインの声がアルマークたちのすぐ隣からした。

「アイン」

ウォリスが顔をしかめる。

「君たち、少し近すぎやしないか」

「初等部最後の後夜祭だ」

アインはそう言って笑った。

「全力を尽くした仲間同士、クラスの垣根を越えて踊ろうじゃないか」

「ふむ」

ウォリスは顎に手を当てる。

「まあ、みんなが良ければそれで構わないが」

ウォリスはクラスメイトの顔を見回すと、彼らの表情を見て頷いた。

「ま、異論はないようだ。いいだろう」

「そうこなくてはな」

アインは笑った。

それから要領を得ない顔のアルマークを見てにやりと口元を歪める。

「アルマーク、君は初めてだろうから教えておいてやるが、女子のほうが圧倒的に数が少ないからな。曲の切れ目に合わせてテンポよく次の相手を探さないと、あぶれた男同士でばかり踊る羽目になるぞ」

アインの言葉に、アルマークは目を見開く。

「え、相手を替えるのかい」

「当たり前だろう」

アインは顔をしかめた。

「自分の好きな相手とだけ踊れると思ったら大間違いだぞ」

「そうか。そういえば」

アルマークはウェンディを見た。

「僕は、ダンスの踊り方も知らないよ」

「大丈夫」

ウェンディは微笑む。

「最初は私と踊りましょう。教えてあげる。すごく簡単なダンスだから、アルマークならすぐに覚えるわ」

「うん、分かった」

アルマークは頷いた。

「よろしく頼むよ」

そこに、わいわいと大騒ぎしながら駆けつけてきた一団があった。

それを見てアインが顔をしかめる。

「むさ苦しい奴らが来たな」

「あいつら、間に合ったのか」

アインの後ろでフィッケが無邪気な声を上げる。

「やるなあ」

「あぶねえ、間に合った」

先頭を切って駆けてきたのはコルエンだ。

「イルミス先生の話が再開したときはもうダメかと思ったぜ」

「君が居眠りするからだろう」

コルエンの後ろで声を荒げたのはポロイスだ。

「もう終わる空気だったのに」

「わりいわりい」

コルエンは笑って謝る。

「だからその代わり舞台の補修頑張ったろ。それでこうやってなんとか間に合ったわけだからさ」

「間に合ってないわよ。花火が見られなかった」

ロズフィリアがポロイスのさらに後ろから恨みがましい声を上げた。

「コルエン。後であなたの部屋に行くわ。そこで気が済むまで花火を上げることにするわ」

「おい、やめろ」

険しい顔でロズフィリアの肩を叩いたのはクラス委員のルクスだ。

「もうこれ以上、デミトル先生の寿命を縮めるな」

「冗談よ」

「お前のは冗談に聞こえない」

ルクスは首を振ったあとで振り向くと、ついてきているクラスメイトの数を確認する。

「キリーブたちは演奏に行ったな? よし、全員いる。じゃあ3組はこの辺から始めるぞ」

「ルクス、近いな」

アインが迷惑そうな声を上げた。

「もうこの辺はいっぱいだぞ」

「アイン、さっきと言っていることが違うな」

ウォリスが笑った。

「いいじゃないか。せっかく間に合ったんだ。3クラス入り混じって踊ればいい」

「まあ、君がそう言うなら」

アインは仕方なさそうに頷いた。

「ルクス。後夜祭では爆発は勘弁してくれよ」

「するわけねえだろ。こっちがどれだけ絞られたと思ってんだ」

ルクスが顔をしかめる。

「すごいね」

アルマークはウェンディを振り返った。

「みんな一緒だ」

「うん。お祭りだもの」

ウェンディは微笑んだ。

「ほら、始まるよ」

そう言って、焚き火の向こうを指差す。

賑やかな音楽が始まった。