軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開演

食事を済ませてまた講堂に戻ると、生徒席にはもういつもの見慣れた顔が並んでいた。

「アルマーク、遅えよ」

ネルソンがそう言って笑う。

「さてはさっきまで寝てたな」

「いや、ネルソン」

レイドーが口を挟む。

「遅いのは僕らだよ。アルマークとウェンディは午前中から来ていたんだよ」

「えっ、そうなの? 二人とも物好きだな、同じ歌と踊りを三日も連続で」

ネルソンの言葉にノリシュが呆れた声を出す。

「本当にあんたは。少しは口と脳みそをつなげて喋りなさいよ。二人は昨日の午前中は医務室にいたんでしょうが」

「あ、そうか」

ネルソンは、失敗したという顔をする。

「悪い。二人とも劇でも打ち上げでも元気だったから、すっかり忘れてたぜ」

「いや、いいんだ」

アルマークは首を振った。

「そんなことより、ネルソン。昨日はごめん」

アルマークに急に頭を下げられて、ネルソンはきょとんとする。

「え? なんだ、気味悪いな。やめてくれよアルマーク」

「昨日、君が怪我をしたって聞いたよ。すまない、気付かなくて」

「ああ、なんだ」

そのことか、とネルソンは屈託なく笑った。

「別に、俺から仕掛けたことだしアルマークの謝ることじゃねえよ」

それに、とネルソンは言った。

「俺は怪我したけど、騎士ネルソンは怪我してなかっただろ」

誇らしげな顔。

「魔女を討って、立派に使命を果たしただろ」

「うん」

アルマークは頷く。

確かにネルソンの言うとおりだ。騎士ネルソンは最後まで誇り高く戦った。

怪我をしたことなんて微塵も感じさせなかった。

「だから、その話は終わりだ」

「分かった。ありがとう、ネルソン」

アルマークが頷くと、ネルソンの隣でノリシュとレイドーも顔を見合わせて笑った。

バイヤーと二人で隅っこの席でごそごそしているモーゲンに挨拶して、アルマークとウェンディは並んで腰を下ろした。

少し前方に、今日もアインとフィッケが並んで座っているのが見える。

「なんだかんだ言って、いつも一緒だよね。あの二人も」

アルマークが言うと、ウェンディは頷く。

「うん。仲いいんだね」

「そう言うとアインは嫌がるけどね」

「フィッケ、昨日はすごく泣いてくれたよね」

「今日も泣くかな」

「どうかなあ」

ウェンディは微笑む。

「劇の内容次第かな」

「そうだね」

3組の劇がどうなるのか。舞台裏へ入っていった彼らの表情を見た限りでは、想像がつかない。

「そういえば」

ウェンディがふとアルマークを見た。

「さっきお昼を買う時に、アルマーク、少し驚いた顔をしていたね。誰か知り合いでもいた?」

「ああ」

アルマークは目を瞬かせる。

さすが、ウェンディはよく見ている。

昼にアルマークは、ウェンディと二人で露店の行列に並んでいる時、見覚えのある二人連れが通り掛かるのに気づいた。

商船「星の守り号」の船長コスターと、船員で燐光傭兵団の元傭兵ウィルビス。

コスターは書付を手に忙しそうに歩いていた。

その後ろに、両手に荷物を抱えたウィルビスが追随している。

高等部で買い付けを済ませて、初等部の露店でも覗きに来たのだろうか。

確かに、南はノルク島から北はメノーバー海峡の近くまで船で行き来している商人のコスターとしては、この魔術祭は絶対に外すことのできない商機のはずだ。

今声をかけても、迷惑だろう。

劇が終わった後で、二人を探してみよう。

ダメなら、直接港まで行ってもいい。

父さんや黒狼騎兵団の消息がまた教えてもらえるかも知れない。

そんなことを思いながら二人を見ていたのだ。

「知り合いに似た人がいたんだ」

アルマークは答えた。

ウェンディとのわだかまりは解けたが、それでもかつて傭兵だった人とウェンディを会わせるのはためらわれたし、まだ自分が傭兵の息子だと打ち明けられるだけの覚悟もできていなかった。

ウェンディならきっと受け入れてくれる。

その気持ちは昨日の劇で、確信に近いものに変わってはいたのだが。

「でも、よく見たら全然違う人だったよ」

「そう」

ウェンディは頷いて、もうそれ以上そのことについては尋ねてこなかった。

「今日は二人でお揃いなのね」

二人の後ろから不意に声がかかった。

ひょいっと顔を見せたのはカラーだ。

「あ、カラー」

ウェンディが微笑む。

「ごめんね。よく寝てたから起こさないように出ちゃった」

「いいのよ」

カラーは笑って頷く。

「昨日の夜は私も遅かったから」

「そういえばずいぶん遅かったね。私、先に寝ちゃったんだ。昨日はどこに行ってたの?」

「タスフって覚えてる? 今中等部一年の」

「あ、うん」

「彼がうちの寮まで誘いに来てくれて、アリアと二人で中等部の寮に遊びに行ったの」

「中等部の寮に?」

ウェンディが目を丸くする。

「アリアと二人だけで?」

「うん。まあ談話室で中等部の男子たちとお茶飲んでお喋りしただけだけどね」

カラーはあっけらかんと言う。

「帰りはまたタスフが送ってくれたのよ」

「そうなんだ」

ウェンディは驚いた顔のままで頷く。

「びっくり」

「アルマーク、心配しないでね」

カラーはいたずらっぽくアルマークに話を向ける。

「大丈夫よ、ウェンディは誘わないから」

「中等部か」

アルマークは興味深そうに頷く。

「僕、実はまだ中等部の寮って行ったことないんだ。次はぜひ僕にも声をかけてよ」

「え?」

カラーは一瞬きょとんとした。

その後で、くすくすと笑いながらウェンディの肩を叩く。

「なるほど。そうね、ウェンディ。これは大変ね」

「ちょっと」

ウェンディが顔を真っ赤にする。

「やめて、カラー」

「じゃあ、またね。二人とも仲良くね」

カラーが手を振って行ってしまうと、ウェンディは頬を膨らませた。

「もう」

「タスフって中等部の人かい?」

アルマークは尋ねた。

「うん。あ、アルマークは知らないものね」

ウェンディがまだ頬を少し赤くしたままで答える。

「一学年上で、すらっと背が高くて成績が良くてね。女子に人気がある男子って感じかな」

「へえ」

「アリアはカラーと同じ1組の女子。でもタスフがカラーを誘いに来るなんて意外だった」

「仲が良かったのかい、初等部の頃から」

「うーん」

ウェンディは苦笑する。

「そんなに仲良くは……でも最近、カラーはすごく可愛いから……それもあるのかな」

「タスフって人がカラーを好きってこと?」

「好き……どうかなあ」

「?」

アルマークが、よく分からないという表情で首を傾げたとき、打楽器の音が派手に鳴り響き、舞台の幕がゆっくりと上がり始めた。

「あ、始まるね」

「ほんとうだ」

アルマークは舞台に向き直った。

「3組の劇、題名は何だっけ」

「入口の案内板に書いてあったわ」

ウェンディは答えた。

「未定って」