軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

準備の算段

台本を手に、みんながそれぞれのグループで賑やかに話し合う中、ウォリスが再び前に立った。

「みんな、いいか。キュリメ以外の全員が出るからには、裏方も全員でこなさなければならないぞ」

ウォリスは言った。

「自分の出番以外のときもぼんやりしている暇はない。音や光、その場面にあった魔法で演出しなければならない。誰がどこの場面で演出を担当するか、事前に決めておこう」

そう言って、ぱらぱらと台本をめくる。

「自分の出番の直前と直後は裏方をするのは無理だからな。それを考えて僕が割り振る。異論はあるか」

無論、誰にも異論はない。

「最初からそのつもりなんだろ。早く決めろよ」

トルクが投げやりに言うと、ウォリスは口許を歪めて笑う。

「トルク。君は劇の中盤、ほとんど出番がないからな。裏方でしっかり活躍してもらうぞ」

ちっ、とトルクは舌打ちする。

「好きにしろ」

「ああ。好きにさせてもらう」

そう答えた後で、ウォリスは改めて全員の顔を見る。

「やることはたくさんある」

そう言ってウォリスは両手を広げた。

「それぞれの場面をどういう演出にするのか。台本に書かれていない会話や動きをどうするのか。全部考えなくてはならない。それも、ほかの場面との整合性を取りながらだ。もちろん、台本に書かれた台詞の暗記は大前提だ」

さっきまでの賑やかさが嘘のように、みんなが静かになる。

なるほど、確かにこれは大変だぞ、とアルマークが考えていると、ウォリスはなおも続けた。

「それに加えて衣装も小道具も作らなければならない。全員が制服のローブというわけにはいかないからな。背景だって魔法での演出だけというわけにはいかないだろう。僕たちの魔法の力を考えても、ある程度は元になる形が要る」

「うへえ」

ネルソンが大げさに顔をしかめる。

「こりゃ時間が足りねえぞ」

「フィーア先生に頼んで、授業時間をある程度劇の準備に割いてもいい許可は得ている」

ウォリスは言う。

「だが、無論それだけではまるで時間が足りない。今日から、残れる者は全員放課後に残ってくれ。準備を進めていく」

そう言って、すっかり静かになった教室を見回す。

「異論は?」

「……仕方ないわね」

そう言ったのはノリシュだった。

「素敵な台本だもの。私たちがちゃんとやりさえすれば、絶対素敵な劇になると思う」

ノリシュは台本を大事そうに胸に抱えると、キュリメを見て微笑んだ。

「キュリメがここまで頑張って作ってくれた台本を台無しにするわけにはいかないもの。頑張るしかないわ」

キュリメが嬉しそうにうつむく。

「そうだな」

ネルソンが頷いた。

「俺は残るぜ。魔術祭まで、毎日だ!」

「毎日あんたに残られるのはさすがにうっとうしいかも」

ノリシュが少し引きぎみに言う。

「お前なあ。そこは素直に嬉しいって言えよ」

「俺たちはそんなにたくさん台詞もないから、裏方に力を入れるよ」

遠慮がちにそう言ったのは、デグだ。

「な、ガレイン」

ガレインも無言でこくりと頷く。

「何でも言ってくれ。出番の多い奴は練習もしなきゃだろ」

デグがそう言ってネルソンを見る。

「すまねえな、デグ。助かるぜ」

ネルソンは片手でデグを拝む。

「みんな残れるんじゃないの? どうせしばらくは森に入ってはいけないって言われてるし」

とモーゲンが言う。

「ちょうどよかったんじゃないかな」

「そうね。みんなで残れば、きっとどんどん進むと思う」

ウェンディが明るい声で言うと、何人かがそれに頷く。

「衣装は私が縫うわ。キュリメ、後でイメージを教えて」

「うん」

キュリメは頷く。

「あと、手伝ってくれる人はいる?」

ウェンディが手を挙げると、つられたように二つの手が挙がる。

「私、やるわ」

「僕も」

リルティとピルマンだった。

「ありがとう。よろしくね」

ウェンディが二人に微笑む。

「絵は、僕とバイヤーが得意だ。木工ならモーゲンの独壇場だね」

レイドーがそう言って二人を見る。

「うん。僕も台詞はそんなにないからね、頑張っていい絵を描くよ」

バイヤーが嬉しそうに言い、モーゲンも、

「どこかで木材をもらってこないとね。明日からは毎日お菓子持参だ」

と言って、大きく頷く。

「この辺りの人を中心に準備を進めていこう。ウォリス、いいかい?」

レイドーがウォリスを振り返る。

「無論だ。みんな、頼む」

ウォリスは頷く。

「リルティ、君は歌の練習もしておくようにな」

「うん」

リルティは恥ずかしそうに頷く。

だが、その表情は少し嬉しそうでもあるように見える。

「トルク。君も演奏の練習をしておけよ」

「そこだけが納得いかねえんだがな」

トルクが顔をしかめる。

「どうして俺がリルティの伴奏をするんだ」

劇中でリルティが歌う曲は、二曲。

一曲目は伴奏なしで歌うが、その歌声に感動したデミガル王が、自ら伴奏を申し出る。

そして二曲目は、デミガル王ことトルクの弾く鍵盤楽器の伴奏に合わせて歌うのだ。

「どうしても何も、君が弾けるからだろう。僕もたしなみ程度には弾くがね。この中で一番演奏が上手いのは間違いなく君だ」

ウォリスの言葉に、トルクは心底嫌そうにため息をつく。

「くそ。めんどくせえな」

「トルクは楽器が弾けるのかい」

アルマークがそっと囁くと、ウェンディは頷く。

「アルマークは知らなかったっけ? 鍵盤楽器を弾くトルク、凄く素敵だよ」

「へえ」

そういえば、とアルマークはかつて森でトルクとともにジャラノンを追ったときのことを思い出す。

ジャラノンの匂いに色をつけて追跡するために獣追いの術を使ったときの、トルクの指の動き。

普段の言動からは想像もつかない繊細な動きだとは思ったが、あれは楽器の演奏で培ったものだったのか。

「それよりもアルマークこそ、大丈夫なの」

ウェンディが声を潜めてアルマークを見る。

「放課後は、イルミス先生の補習でしょ」

「うん。そうなんだ」

アルマークは困ったように眉をしかめる。

「でも僕も出番はあるしね。君やネルソンと練習もしなきゃならないし、モーゲンの道具作りの手伝いもしたい」

「そうだよね」

ウェンディも困った顔でアルマークを見る。

「先生にお願いしてみるよ。魔術祭までの間は、劇の練習に専念させてもらえないかって」

「許してもらえるといいね」

「うん」

ウェンディの言葉に頷いた時。

「武術大会に続いて、魔術祭でも一番を獲ろうぜ」

ネルソンが声を張り上げた。

おう、とか、いいね、という声がクラスメイトたちから上がる。

「魔術祭にも、順番とかあるのかい」

アルマークが尋ね、ウェンディがそれに答えようと口を開きかけたとき、教室のドアが開いてフィーアが入ってきた。

「みんな、盛り上がっているわね」

フィーアは教壇に立つと、生徒たちの顔を見て微笑む。

「でも、そろそろ勉強の時間です。さあ、魔術祭のことはいったん忘れて、授業をしますよ」

はい、と口々に返事をして生徒たちが急いで席に戻る。

それでアルマークは疑問の答えを聞けずじまいになってしまった。