軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「剣、か」

イルミスが答えるよりも先に、ヨーログが楽しそうに口を挟んだ。

「なるほど、そういう考えもあるかもしれんな」

「ええ」

イルミスも頷く。

「大筋では間違っていない気がします」

「そうだとすると」

アルマークが言う。

「どんな罠なんでしょうか」

「さて」

自分から話を振っておいて、イルミスはすげなく首を振った。

「推論はあくまで推論だ。それに捉われすぎれば、外れていたときに致命的な過ちを犯すことになる。魔術師に必要なことは」

「あるがままを、見ることですね」

「そうだ」

アルマークの言葉に、イルミスは苦笑混じりに頷く。

「推論は推論として、大事にすればいい。備えにもなるだろう。だがその場になれば、起きている事象そのものをあるがままに見て、対処するしかないのだ。それが、魔術師というものだ」

「はい」

3人は頷く。

「イルミス先生。そろそろいいかな」

ヨーログが笑いを含んだ声で言う。

「私からも彼らに聞きたいことがいろいろとあってね」

「失礼しました」

イルミスは喋りすぎたことを恥じるように一歩後ろに下がる。

「さて、立ち話もなんだ。3人ともそちらに座りたまえ。気楽に話そう」

ヨーログは、アルマークたちに机の向かいの椅子を示す。

「夜の森であったことを聞かせてもらおう。君たち3人の口からね」

「はい」

アルマークたちは椅子に座ると、夜の森での出来事をヨーログに話した。

2年生たちとの薬草採集。

ラドマールの闇の小箱。

森の魔笛。

2年生たちとの別れと、ボラパとの戦い。

そして先生や2年生たちとの再会。

アルマークが中心に喋り、ところどころでウェンディとモーゲンが補足する。

「なるほど」

机の上で手を組んでじっと聞き入っていたヨーログは、そう言って頷くと、大きな声を上げた。

「素晴らしい絆だ」

学院長の突然の大声に、3人は驚いてヨーログを見る。

ヨーログは満面の笑みで3人を見返した。

「君たちは出会ってわずか半年でこれだけの強い絆を築いた。私のような年寄りの半年と、君たちのような若者の半年は、時間の密度がまるで違う。だが、それにしてもだ。随分といろいろなことがあったのだろう。いろいろなことを乗り越えてきたのだろう」

「いや」

アルマークが首を捻る。

あまりにまっすぐに誉められて、3人は照れたようにお互いに顔を見合わせた。

「乗り越えたって言ってもね」

モーゲンが言う。

「僕の場合は、とにかくその場その場で必死だっただけだから」

「私だって」

ウェンディも言う。

「二人がどんどん先に行ってしまうから。それについていくだけで精一杯だったもの」

「僕らが先に?」

アルマークとモーゲンは顔を見合わせて首をかしげる。

「ウェンディが一番優秀じゃないか」

「学校の成績とか、そういうことじゃなくて」

アルマークの言葉にウェンディは首を振る。

「冬の屋敷でも、武術大会でも、二人ともすごく眩しかった。早く私も追い付かなきゃって焦った」

「僕は生まれてこの方、自分が眩しいほど輝いた記憶はないけどなぁ」

モーゲンは笑いながら言う。

「アルマークがどんどん先に行っちゃうっていうのには、同意するけど」

「何言ってるんだ」

アルマークも言い返す。

「僕の方こそ、自分の有り合わせでどうにか取り繕うことで必死だった。君たちは分かってないんだよ。自分たちの魔法がどれだけ素晴らしいものか」

「僕の魔法なんて」

そう言いかけるモーゲンをウェンディが遮る。

「モーゲン、あなたじゃなければボラパの魔法は防げなかったわ。私にはとても全部は防ぎきれなかった」

「何言ってるのさ。ウェンディの治癒術と飛び足の術。あれこそ僕にはとても真似できないよ」

「二人の魔法がなければ僕は死んでいた」

アルマークが言うと、二人が同時にアルマークを見る。

「そもそもアルマークがいなかったらボラパとまともに戦うことすらできなかったんだ」

「そうだよ。私たちは必死でアルマークのフォローをしただけなんだから」

ふふふ、というヨーログの笑い声で、3人は話を止める。

「アルマーク」

ヨーログは言った。

「君が話をまとめたまえ」

「はい」

アルマークは頷いて、両隣の二人を見る。

「学院長先生。この二人がいなければ」

そう言ってヨーログを見るアルマークの顔は誇らしそうだった。

「今ここに僕はいません」

「うむ」

ヨーログが頷く。

「アルマーク、それを言うなら僕の方こそ」

「私だってあなたがいなかったら」

モーゲンとウェンディが同時に言うと、ヨーログは今度は声をあげて笑った。

「どうやら、まだまとまらないようだ」

「君たちの話を聞いて安心した」

ヨーログは満足そうに言った。

「仲間との信頼と友情。それはいかなる闇の力にもひけをとるものではないぞ」

「はい」

アルマークは頷く。

「残る蛇はあと一匹だ。アルマーク。先ほど、最後の罠の内容についての話も出ていたが、どんな罠があるにせよ、君のマルスの杖と仲間の力で見事蹴散らしてみせたまえ」

「はい」

「頑張ります」

「もちろんです」

アルマークの返事に、モーゲンとウェンディの声が重なった。

ずっと気になっていたことを、アルマークがイルミスに尋ねる。

「先生、ラドマールは大丈夫ですか」

「ん? ああ」

イルミスは頷く。

「心配は要らない。彼は君たちが想像しているよりも遥かに強靭だ」

「そうですか」

「よかったね、アルマーク」

ほっとした顔のウェンディに頷き返してから、アルマークはイルミスにさらに尋ねる。

「ラドマールの持っていたあの小箱なんですが……街で占い師にもらったと言っていたと聞きましたが」

「確かにそう言っていたな」

「実は、月影通りに行ってみたんです」

アルマークの言葉に、イルミスが眉を少し上げる。

「でも、占い師がたくさんいすぎて、それらしい相手は見付かりませんでした」

「そうだろうな」

イルミスは驚く様子もない。

「ラドマールは、その占い師に二度会ったと言っていた。フードをすっぽりとかぶって、顔も見えなかったそうだ。いずれの日も、学院の休日」

そこで言葉を切ってアルマークを見る。

「あっ」

声を上げたのはウェンディだった。

「もしかして、休日なら」

そう言ってアルマークの顔を見る。

「そうか」

アルマークも頷いた。

「そういうことか」

アルマークは一人きょとんとしているモーゲンに説明する。

「モーゲン、月影通りの路地には流しの占い師がたくさんいただろう」

「うん、いたよ。全然当たらない星読みのおじいさんとかね」

モーゲンは答える。

匙と言われたことをまだ根に持っているようだ。

アルマークはそれに構わず続ける。

「あれだけ入れ替わりが激しいところなら、学院の生徒だって、変装すればいくらでも占い師のふりはできる」

「あっ」

モーゲンもようやく気付いて声を上げた。

「それってやっぱり」

「結論は急がない方がいい」

ヨーログが穏やかに制した。

「イルミス先生の言うように、あるがままを見る心構えを忘れてはいけない。ただ、その推論も心に留めておくといい」

「分かりました」

ウェンディが頷く。

ヨーログは、今日の話はこれで終わりにしよう、と言うと椅子の背もたれに身体を預けた。

「とにかく、3人ともご苦労だったね。今日は帰ってゆっくり休みなさい」

「はい。ありがとうございます」

頭を下げて3人が退出しようとすると、イルミスがアルマークを呼び止めた。

「念のため、もうしばらくは飲んでおきなさい」

そう言って差し出された、魂のずれを治す薬湯を、アルマークは苦笑いして受け取った。

「はい。もう僕はこれくらいでないと、飲んだという気がしなくなってきました」

「順調だね」

廊下から聞こえる3人の楽しそうな笑い声が、徐々に遠ざかっていくのを聞きながら、ヨーログは呟くように言った。

「順調すぎるほど順調だ」

「私には闇の狙いがいまひとつ分かりません」

イルミスが硬い声で応じる。

「まるで、罠がアルマークたちの成長を促しているような気にさえなります」

「当たらずも遠からず、といったところか」

ヨーログは頷く。

「この私にもぼんやりとしか見えないところがある。相手の特性によるものだろうが」

いずれにせよ、とヨーログはイルミスに微笑んでみせる。

「連中とこちらの目的が今のところ合致しているのなら、それに乗ってやるまでだ。連中はこちらを利用しているつもりなのだろうが、こちらもせいぜい利用してやるとしよう」

「闇の意図を逆に利用してやるのは一向に構いませんが」

イルミスは抑えた声で答える。

「子供たちの純粋な心まで利用するのはいかがなものでしょうか」

「マイアさんも同じことを言っていたな」

ヨーログはそう言って低く笑う。

「試練を与える側は気楽なものだ。受ける側はいつだって命懸けだと」

その深い青色の瞳が、イルミスを捉えてきらめいた。

「責めはいずれまとめて受けるとしよう。だが今はまだその時ではない。すまないが、もうしばらくこのへぼ星読みに付き合ってくれたまえ」