軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

時間は少し遡って。

アルマークたちと別れたザップとフィタ、ラドマールは森の暗い道をひたすらに歩いていた。

分かれ道。

「こっちに行った方が近い」

ザップがランプで、一方の道の先を照らす。

「ラドマール、どうなの」

フィタに尋ねられ、ラドマールはその道の先を指差す。

「小さい闇が一つ、この先にいる。この道はやめた方がいい」

「ここもダメか」

ザップは顔をしかめる。

「こっちならいない」

ラドマールの指差す道は、校舎の方角とは反対だ。

「じゃあ、えーと」

ザップは宙を睨んで頭の中の地図に道を描いていく。

「途中の三本道を右に曲がれば大丈夫だ。行こう」

ザップを先頭に、3人はまた真っ暗な道を歩く。

ラドマールが闇を感じ取れるとはいえ、時折、がさりと茂みが揺れると、3人はびくりと肩を震わせた。

「大丈夫、怖くない」

ザップが声を張り上げる。

「こっちには闇はいないんだ」

「そうだよ、怖くない」

フィタもそれに呼応するように声をあげる。

「道は必ずどこかに通じているもの」

ラドマールは最後尾を遅れないように歩きながら、自分の能力をすっかり信じきっている二人に驚いていた。

正直、さっきは、闇が分かると3年生たちには自信満々に伝えたものの、分かる、というあやふやな感覚があるだけで、実際に何かを確かめた訳ではない。

自分では、これはそうだろう、という自信はあるのだが、それは結局のところ自分の中だけの話で、二人がラドマールを信じられる理由など、本当は何一つとしてないのだ。

ましてやラドマールは、ついさっき闇の力を行使してアルマークを殺そうとしたばかりだ。

それなのに二人は、ラドマールの力を信じている。

ラドマールの指差す先に、闇の魔物がいると信じて疑わない。

どうしてこんなにも、信じることができるのだろう。

自分が二人の立場だったとして、こんなことができるだろうか。

「ここを右だ」

たどり着いた分岐で、ザップがそう言ってラドマールを振り返る。

ラドマールは黙って頷く。闇は、まだ遠い。

「よし、どんどん行こうよ」

フィタがことさら明るい声を出す。

別に普段から気にしていたわけではないが、フィタがおとなしい女子だということはラドマールにも分かっていた。

おどおどしていて、何か言いたいことがあっても黙ってしまう。教室では、いつもそんな風なのに。

「大丈夫、帰れるよ」

ラドマールはフィタのこんな元気な声を聞いたことがなかった。

ザップにしてみたところで、そうだ。

男子の中ではまったく目立たない存在で、だからこそ自分のような厄介者を押し付けられても文句も言えなかったのだ。

それなのに、今は勇敢に先頭を歩いている。

もしも自分が嘘をついていたら。本当は、道の先に闇が待っていたら。

真っ先に餌食になるのは自分なのに。

ラドマールのそんな思いをよそに、ザップもフィタも、実に元気に歩いていた。

先ほどウェンディのかけてくれた飛び足の術の効果はもちろん大きいだろうが、ラドマールにはそれだけではない気がした。

自分が何かを得たように、今夜、きっとこの二人も何かを得たのだろう。

あの3人の3年生のおかげで。

しばらく道を歩いていると、遠ざかっていた闇がまたちらちらと感じられるようになってきた。

このまま歩いたら、まずいな。

ラドマールは先頭のザップに声をかける。

「途中に脇道はないのか」

「どうして」

ザップが振り返る。

「まだ、今は大丈夫だが」

ラドマールはそう前置きして、前方を指差す。

「この先にいる」

「さっきはいないって言ったじゃないか」

ザップが顔をしかめる。

「さっきは感じなかった」

ラドマールは答えた。

「だが近付いてみて、いることが分かった」

ザップは立ち止まって頭をかく。

「この先の曲がり道までは、少し歩くな」

「別に、向こうから近付いてきているわけじゃない。この先にいるというだけだ」

ラドマールは付け加えた。

「その曲がり道までは、出会わずに行けるかもしれない」

「一か八か、か」

ザップが道の先をランプで照らす。

「行ってみるか」

「だめ」

あまりにはっきりとフィタが拒絶したので、二人とも思わず彼女を見る。

「だめ。さっきの分かれ道まで戻ろう。闇のいないところを通ろう」

「でも」

「だめと言ったらだめ。もし闇と出会ったら、それで終わりなんだよ」

フィタの言葉は正論だった。

ザップも毒気を抜かれたように頷く。

「そうだな。仕方ない、戻るか」

ラドマールも何も言わずに頷く。

3人は、またもと来た道を戻り始める。

相変わらず前を行く二人の足取りは軽かった。

だが、ラドマールは自分の足が重くなりつつあるのを感じていた。

今日は体力もないのに、無理に無理を重ねてしまった。

他の生徒にしてみればなんということもない行程も、ラドマールにとっては果てしない道のりだった。

ましてや闇の力を取り込んで、鍛えてもいない魔力を放出してしまってもいた。

ウェンディに飛び足の術をかけてもらっているとはいえ、徐々に限界が近付いていた。

ようやく先ほどの分岐に戻ると、ザップはラドマールを振り返る。

「ラドマール。闇はいるかい」

ラドマールはそれぞれの道の先を見透かす。

闇が一番遠いのは、左の道。最初に自分達がやって来た道だ。

それを伝えると、ザップの顔が明らかに曇った。

「また戻るのかよ」

それはそうだ。

闇を避けて分岐を二つも過ぎた後に、一番最初の分岐に後戻りしようというのだ。嫌にもなるだろう。

「さっきからまるで進んでない」

ザップの言葉に、ラドマールは肩をすくめる。

「僕は、闇のいるところを伝えただけだ。道がどこを通っているのかまでは分からない」

「くそ」

ザップは足元の草を蹴った。

「帰れる気がしなくなってきた」

「それなら自分の行きたい道を行けばいい。闇の位置に関係なく」

「僕は別にそういうことを言ってるわけじゃない」

ザップの目に苛立ちの色が浮かんでいる。

「ふん」

やはり、裏付けのない信頼などこんなものだ。

ラドマールは冷めた目でザップの顔を見た。

少し辛くなれば、簡単にぼろが出る。

「いいじゃない」

そう言ったのは、フィタだった。

「さっきの分かれ道まで戻れば、今度こそ校舎に一番近い道を歩けるかもしれない」

「それはそうだけど」

ザップが口を尖らす。

「またその先で闇がいたら」

「そうしたら、また道を選べばいいでしょ」

フィタはきっぱりと言い切った。

「私は信じるよ。ラドマールが闇を見付けてくれる。ザップが道を見付けてくれる」

そう言って二人の顔を交互に見る。

「私は、二人を信じることしかできないもの」

「分かってる。僕だって分かってるよ」

ザップは焦れたように言った。

「でも、僕は少しでも早く帰りたいんだ」

「それは私もそうだよ。でも」

「違うよ」

ザップは首を振った。

「ラドマールは、もうそんなに長くは歩けない」

意外な言葉に、ラドマールは目を見開いた。

「僕が?」

「君の体力が心配なんだ」

ザップは苛立ったように言う。

「だから、そんなに同じところをうろうろしてばかりいられない」

ラドマールは唖然として言葉を失った。

何も言えないでいると、不意に背中が軽くなった。

フィタがラドマールの荷物を取り上げていた。

「私が背負うわ」

「いや、僕の分は僕が」

「いいの」

フィタは手を挙げてラドマールの言葉を遮る。

「荷物は私が持つ。どうせ私にはそれくらいしかできないから。だから、二人も二人のできることをしっかりやって」

フィタはそう言ってまた二人の顔を交互に見た。

そのまっすぐな強い目に、ラドマールは思わず目をそらす。

「……分かった」

ラドマールは頷いた。

どう強がったところで、足は限界に近い。

フィタに持ってもらうのが最善であることは自分でも分かった。

「すまない」

「僕もいらいらしてごめん」

ザップも気まずそうにそう言って、また先頭に立って道を戻り始めた。

「さっきの分かれ道を校舎の方に曲がれれば、近いはずなんだ」

「闇が分かったら、なるべく早めに伝える」

ラドマールがザップの背中にそう声をかけると、ザップは振り返って頷く。

しばらく歩き、分岐に戻ると、果たして校舎方向への道が開けていた。

それを伝えると、ザップとフィタの顔がぱっと明るくなる。

「よし、行こう!」

「行こう!」

二人が声を揃えて、歩き出す。

現金なものだな。

まるで他人事のようにそう思いながら、ラドマールはそれでも二人の強さに感服しないわけにはいかなかった。

信頼すると言ったら、信頼する。

二人はそれを貫いていた。

やはり、弱いのは僕だ。

ラドマールはそれを痛感しながら、二人の後に続いた。

まだ歩ける。

自分にそう言い聞かせた。

森の闇が、また少し濃くなった。