軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モガツキバナ

ラドマールを先頭のモーゲンとフィタのすぐ後ろに並べて、アルマークたちはまた歩き始めた。

「モガツキバナの採取地に着いたら、飛び足の術をかけてあげるわ」

ウェンディがラドマールに話し掛ける。

「気休め程度かもしれないけど、ないよりはマシだと思う」

「飛び足の術も準備してきたのかい」

モーゲンがそう言って驚いたように振り返り、ウェンディが頷く。

「もしかしたら必要かもって思って、昨日の夜に急遽準備したの」

「さすがウェンディ」

モーゲンは微笑んだ。

飛び足の術は、道具に魔力を込めて使う種類の魔法だ。

人の身体に直接作用する魔法は、治癒術などの例外を除き、いったん道具に魔力を込めてそこから効果を伝えることが多い。

魔力の込めすぎなどによる人体への悪影響をできるだけ避けるためだろう。

便利な魔法だが、事前にきちんと道具を準備して魔力を馴染ませておく必要がある。

ウェンディとラドマールが真ん中を並んで歩くと、必然的に、アルマークとザップが最後尾を歩くことになる。

「ザップはモガツキバナを見たことはあるかい?」

アルマークの問いに、ザップは頷く。

「教室で実習前に押し花になったのを見せてもらったよ。黄色くて小さい花だった」

アルマークは微笑む。

「うん。僕も押し花だけだ。実際に生えているのを見るのは初めてだよ」

「えっ」

ザップが不思議そうにアルマークを見る。

「アルマーク、さんは」

「アルマークでいいよ」

言いづらそうに「さん」を付けるザップに、アルマークは首を振る。

「じゃあアルマークは」

ザップは律儀に言い直す。

「去年、モガツキバナを見てないの?」

ザップの疑問は当然だ。

3年生はみんな去年、今年採る薬草を実際に見ているはずなのだ。

「実は、僕は今年この学院に来たんだ。だから去年の薬草狩りには参加してないんだ」

アルマークの言葉に、ザップが、へえ、と声をあげる。

「じゃあ転入生ってこと?」

「うん」

アルマークが頷くと、なぜかラドマールが振り向いた。

「どうかした?」

隣を歩くウェンディに聞かれ、ラドマールはすぐに前に向き直る。

「別に」

「どうして、一年生から来なかったの?」

ザップに尋ねられ、アルマークが答えようとした時だった。

「着いたよ!」

モーゲンが弾んだ声をあげて振り向いた。

「モガツキバナの群生地だ」

「わぁ」

フィタが目を輝かせる。

高い木がなく、ぽっかりと開けた湿地に、月明かりが降り注いでいる。

月からの光が、まるで点々と湿地に散りばめられているように見える。

地面を覆う、きらきらと輝く光の粒。

その粒全てが、一輪ずつの小さな花であることにアルマークも気付く。

「モガツキバナ……まるで月の光みたいに見えるね」

アルマークの言葉にザップも頷く。

「うん。すごいや」

図書館の罠にも利用されたキツネメソウのような蓄光作用のある植物とはまた違い、モガツキバナは、秋の月夜、花を開くその瞬間にだけ強い光を放つ。

「光っているときのモガツキバナには強い薬効成分があるの」

ウェンディが言う。

「さあ、摘みましょう」

湿地の深みに踏み込まないように気を付けながら、アルマークたちは二輪ずつ花を摘む。

摘まれた花は、少しの間それでも光を放っていたが、やがて手の中で輝きを失う。

「なんだかもったいない」

フィタが眉を寄せて残念そうに言うと、ウェンディが笑って頷く。

「そうね。だから必要な数だけ摘んで、後は残しておきましょう。失敗しないように薬湯を作らないとね」

「うん」

フィタが頷く。

ラドマールもウェンディに促され、隅の方に咲いた花をぎこちない手つきで摘む。

「ラドマール、摘めたじゃないか。あと四つ。頑張ろう」

アルマークが声をかけるが、ラドマールは返事をしない。無言でモーゲンに押し付けるように花を渡す。

モーゲンはそれを受け取ってから、アルマークを見て肩をすくめる。

「それじゃあラドマール、足を出して」

全員が摘み終わると、ウェンディが地面に厚手の布を広げた。

「何をするんだ」

ラドマールがそう言って胡散臭そうに布を見下ろす。

「さっきも言ったでしょ。飛び足の術をかけるわ。足が軽くなると思う」

「ふん」

ラドマールは鼻を鳴らす。

「どうだかな」

それでも右足を布の上に差し出す。

ウェンディは跪いて布に指をつき、目を閉じた。

風もないのに、布が一瞬、ふわりと浮いた。

「お……」

ラドマールが目を見開く。

「軽くなったでしょ」

ウェンディは微笑んだ。

「さあ、左足も出して」

ウェンディの飛び足の術のおかげで、ラドマールの歩く速度は格段に上がった。

モーゲンも笑顔で、

「これなら最初のペースで歩けるね」

と頷く。

「次のイリビノタルホグサを採ったらお菓子を食べよう」

その言葉に、フィタが、わあ、と嬉しそうな声をあげる。

自分の歩く速度が足手まといになっていないことに気付いたのか、ラドマールが不敵な表情を取り戻し、その口数が増えてきた。

「僕の国は中原だ。中原にはこんな花は生えない」

ラドマールは前を歩くモーゲンの背負い袋から覗くモガツキバナを指差して、つまらなそうにウェンディに言う。

「中原にも生えている草を教えてくれなければ、国に帰ってから困るじゃないか」

「そうね。困るわね」

ウェンディは優しく頷く。

「ここは南だから、中原の草はあまり生えてないのよ」

「なんでも南が中心なんだ、この学院は」

ラドマールは吐き捨てるように言う。

「世界の中心は中原なのに」

「自分の故郷に誇りを持つのはすごくいいことだと思う」

ウェンディはそう言って微笑む。

「でも、その誇りは胸の中にしまっておくといいわ。そして、本当に大事なときにだけ、そっと取り出すの」

ウェンディはアルマークを振り返る。

「ね、アルマーク」

「そうだね」

アルマークも笑顔で頷いた。

「ウェンディの言うとおりだ」

ラドマールは顔をしかめ、理解できない、とでも言うように小さく首を振った。