軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呼び出し

アルマークが学院長から呼び出しを受けたのは、図書館での事件からさらに数日が経った後のことだった。

フィーアに、放課後学院長室に行くよう伝えられたアルマークは、授業が終わるとすぐに学院長室へと足を向けた。

扉をノックすると、学院長の、入りたまえ、という声。

アルマークが扉を開けると、学院長のヨーログの傍らにイルミスも控えていた。

「アルマークです。お呼びと聞いて」

「うむ。まあ座りたまえ」

ヨーログはいつもと変わらぬ穏やかな笑顔で、アルマークに椅子に座るよう促す。

アルマークが大きな机を挟んで学院長と向かい合うように座ると、ヨーログは改めて口を開いた。

「イルミス先生から聞いたよ。また、いろいろとあったそうだね」

「はい」

アルマークは神妙に頷く。

「先生にはご迷惑とご心配を」

「それはいい」

ヨーログは笑顔で手を振る。

「君の口から聞きたいね。今回のことと、前回のことと」

「前回のこと」

アルマークは尋ね返す。

「というと」

「武術大会の日のことだ」

ヨーログが答える。

「総合優勝おめでとう」

「え、あ、はい。ありがとうございます」

急に祝福されてアルマークが戸惑いながら頭を下げると、ヨーログは笑顔のまま言葉を続ける。

「しかし試合の合間に大変な目に遭ったそうだね」

「ああ」

アルマークは思い出した。

「あの魔術師たちの件ですか」

「命を奪われそうになったのに、もうけろっとして忘れかけている」

ヨーログはそう言ってイルミスを振り返った後で、目を細めてアルマークを見る。

「さすがはレイズ殿の息子だ。胆が据わっている」

「それほどのことじゃないです」

アルマークは手を振った。

一つの戦いの後にはもう次の戦いが待っている。

北の戦場でも、北の旅の道中でも、いつも命はぎりぎりのところで繋ぎ止められてきた。

いちいちこだわってはいられないというだけの話だ。

「話してくれ。君の言葉で」

ヨーログは言った。

「君の身に起きたことを」

「はい」

求められるままに、アルマークは話した。

武術大会の前に現れた謎の少女の警告。

武術大会で出会った宮廷魔術師の指に光っていた指輪。

少女との再会と、寮での闇の魔術師たちとの戦い。

ウォリスとイルミスの助け。

ライヌルの話をしたときだけ、イルミスの顔色がはっきりと変わったのがアルマークにも分かった。

それから、アルマークは今回のモーゲンの噂話を聞いたことに端を発する図書館での一連の事件についても話した。

ヨーログは時折頷きながら、アルマークの話を聞いていたが、聞き終わるとイルミスを振り返った。

「ライヌルとは、また懐かしい名前を聞いた」

「はい」

イルミスは無表情で頷く。

先ほどライヌルの話を聞いたときとは違い、もうそこには何の感情も見られない。

「あ、そういえば」

そこでアルマークはふとライヌルの言葉を思い出す。

「ライヌルさんは、イルミス先生の同級生だったと言っていました」

「その通りだ」

そう頷きながらも、やはりイルミスの表情は変わらない。

「彼が宮廷魔術師になったらしいとは聞いていた」

イルミスは淡々と話す。

「今回、王太子のお付きとして学院に来ていたとは知らなかったが」

「アルマークの話からすると、銅貨や銀貨に闇の紋を施して魔術師に仕立てあげたのは、彼の可能性があるということかな」

ヨーログがイルミスに尋ねる。

「可能性はゼロではないでしょうが」

イルミスの答は歯切れが悪い。

「彼がそうする理由が分かりません。彼は闇の魔術師ではないのですから」

「そうだな。闇の魔術師が宮廷魔術師になれるはずがない。ましてや“光の王子”のお付きになど」

そう言ってヨーログは頷く。

「アルマーク、君は図書館に仕込まれた本についても、ライヌルの仕業ではないかと思っているのかね」

「……はい」

アルマークはイルミスの方を窺いながら、遠慮がちに頷く。

「僕が本を持ったときに現れた黒い染みが、銅貨や銀貨に描かれたものとよく似ていました。それに、あの人と握手した右手が勝手に動いて本を掴んだので……」

「ふむ」

ヨーログはまたイルミスを振り返る。

「イルミス先生の意見は」

「可能性はあります」

イルミスは変わらず無表情のままで答える。

「図書館の本棚の増設自体はずいぶん前の話ですし、光る本の噂は私が学生の頃から語り継がれてきたこの学院の有名な噂の一つです」

「君の頃からあった話か」

「はい。ですから、ライヌルが知っていたとしても不思議ではありません」

イルミスは淡々と言葉を継ぐ。

「その本の隣に罠を仕込んだ本を置いておけば、アルマークが噂を聞いて図書館に来たときに、右手を操って本を掴ませ罠を発動することができる」

「だが、確率としてはずいぶんあやふやな話だ。アルマークが来るかどうかは全くの賭けではないか」

ヨーログは難しい顔をする。

「今回の噂の出所をもう少し特定する必要があるかもしれんな」

「はい」

イルミスは頷く。

「いずれにせよ、ライヌルがそれをしたというのなら、まだその理由が分かりません」

「そうだな」

ヨーログは頷いた。

それから、アルマークに目を向ける。

「アルマーク、こちらに来なさい」

ヨーログに手招きされ、アルマークは机を回り込んでヨーログの隣に立った。

「右手を」

ヨーログに言われて右手を差し出すと、ヨーログは自らの左手をその下にそっと当てる。

「あっ」

アルマークは思わず声をあげて絶句した。

「ほお。これは」

ヨーログが呟き、イルミスも目を見張る。

ヨーログの左手が魔法の輝きを放ち、それによってアルマークの右手が半透明のように透けて見えた。

その手の中で、数匹の黒い蛇が絡み合っていた。

「蛇の呪いだ」

ヨーログは言いながら、アルマークの右手に顔を近づける。

「闇の蛇が、一匹、二匹……全部で三匹おるな。だが、この絡まり方からして本来は四匹の蛇がいたはず……そうか」

ヨーログが顔を上げて、アルマークを見る。

アルマークは青ざめた顔で自分の右手を見つめていた。

「僕の手は……どうなってしまうんですか」

「これは闇の魔術師の挑戦だ」

ヨーログの声は意外なほどに明るい。どこか面白がっているような響きすらある。

「だが心配することはない。君は、もうすでに蛇を一匹殺した」

「えっ」

「君が闇の罠をはねのけたからだ」

ヨーログは言いながら、アルマークの手の上から蛇をゆっくりとなぞる。

「君は闇の魔獣エルデインの罠を生き延びた。それで蛇の呪いが一つ外れたのだ」

ほれ、ここに、とヨーログはアルマークの手の中の蛇のいない部分を指差す。

確かに、そこだけが不自然に空いていた。

「それじゃあ、あと三つ罠があるということですか」

「そうかもしれんな。この学院に、あと三つ隠していったのかもしれん。あるいは、外から来るのかも」

ヨーログは右手から目を離さず、そう答える。

「呪いといっても普段何か害があるわけではない。だが君の右手は、きっとそれらの悪意を引き寄せるだろう」

その言葉にアルマークは困惑する。

「なぜ、僕に。なぜ、こんなことを」

「イルミス先生」

それに答えず、ヨーログが傍らを振り返る。

イルミスが頷いてそっと一本の棒を取り出し、机に置く。

「原因は、これだ」