軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次の魔法

「王太子の、双子の兄」

アルマークは目を見開いた。

南の大国ガライ王国の、次期国王の双子の兄だって。

目の前の、今剣を打ち合ったばかりのこの少年が。

「嘘だろ」

と言いかけて、すぐに口を閉じる。

ウォルフ王太子と、ウォリス。

アルマークが自分でもウォリスに言った、その生き写しのような顔。

それが、ウォリスの言葉が真実である何よりの証拠であるように思えた。

それでも聞かずにはいられなかった。

「それが本当なら、なぜこんなところに。それに、君の姓は確か」

アルマークの言葉を、ウォリスは手を挙げて制した。

「君の質問には答えた」

きっぱりとした口調でそう告げる。

「でも」

アルマークが言い募ると、ウォリスは表情を変えずに小さく頷く。

「君の言うとおり、今の僕はウォリス・モズヴィルだ。僕には王族としての記憶などほとんどない。3歳で養子に出されたからな」

だから、とウォリスはアルマークを見て薄く微笑む。

「別にかしこまる必要はない。今まで通りで構わない。このことは他言無用だ」

「なぜ、養子に」

「それは質問の範囲外だ」

ウォリスは有無を言わせぬ口調でアルマークの言葉を遮る。

黙りこむアルマークを見て、ウォリスは少し笑い、久しぶりに楽しかった、と言う。

「武術もたまにはやってみるものだな。君ほどの相手であれば楽しい」

「それならもう一回やるかい?」

アルマークは水を向けてみたが、ウォリスはあっさりと首を振る。

「武術大会の番外編だと言っただろう。武術大会は一回勝負だ」

「そうだね」

アルマークもすぐに引き下がる。

「でも、なぜ僕にこんな話をしてくれたんだい」

「君が聞いてきたんだろう」

「それはそうだけど」

ウォリスには別に答える義務はなかったのに、答えてくれた。

その理由が知りたかったが、

「この話はこれで終わりにしよう」

すげなくそう言って、ウォリスは武術場の出口に向かって歩き出す。

しかし、途中でふと振り向いてアルマークを見た。

「だが、まあ君という人間は信用できると思った。だから話した」

「それは……ありがとう」

何と答えていいか分からず、アルマークがそう礼を言うと、ウォリスの目が不意に厳しくなった。

くるりと背を向けて、最後に冷たい口調でこう言い残していく。

「でも、思い違いをするな。僕は君という人間は信用したが、君という存在を信用したわけではないからな」

奇妙な言葉。

君という人間。君という存在。

アルマークは戸惑った。

「それはどういう意味だい」

アルマークの問いかけに、ウォリスは首を振った。

「分かる時が来れば分かる」

去っていくウォリスの最後の自嘲めいた呟きは、ぎりぎりでアルマークの耳にも届いた。

「そんな時が来るかどうかは知らんが」

翌日から、またいつもの日々が始まった。

昼間授業を受けた後、夕方はイルミスの補習で霧の魔法の練習をする。

アルマークも今ではかなり順調に霧を出せるようになっていた。

「補習が終わった後の疲労感はどうかね」

アルマークが一通り霧の魔法を終えると、イルミスがそう尋ねてくる。

「以前はかなり不思議な疲れがありましたが、最近はそうでもありません」

「そうか」

イルミスは頷く。

「魔力の使い方がだいぶ身に付いてきたな」

「そうなんでしょうか。自分ではよく分かりません」

アルマークは苦笑いして首を捻る。

イルミスはそんなアルマークの様子を見て、口を開いた。

「今日は次の魔法を教えよう」

唐突なイルミスの言葉に、アルマークの顔が輝く。

「いいんですか」

「思った通り、君の覚えはとても早いからな。一段飛ばし、二段飛ばしも織り込んでいく。次は……」

イルミスが試すようにアルマークの顔を見る。

「灯の魔法だ」

アルマークの顔がさっと曇る。

「灯の魔法……ですか」

「怖いかね」

アルマークが初めて試し、火柱を出してしまった苦い記憶の魔法。

「はい」

アルマークは素直に頷く。

「でも、やりたいです」

「そうか」

イルミスは自分の右手を胸の高さまで上げた。

と思ったときにはその手の上に小さな炎が現れていた。

「すごい」

アルマークは目を輝かせた。

「こんなに自然に出せるものなんですね」

その目を見て、イルミスは頷く。

「どうやら恐れよりも好奇心の方が強そうだな」

アルマークが炎から目を離してイルミスの顔を見る。

イルミスはわざと炎を揺らめかせながら言葉を続ける。

「霧の魔法のときは不安そうだった。灯の魔法と聞いてもっと不安がると思っていたが」

「もちろん不安です。でも」

アルマークは改めてイルミスの手の上の炎を見つめる。

「僕にとってこの炎は、クラスのみんなの魔法の象徴みたいなものなので」

「象徴」

イルミスが片眉を上げる。

「はい」

アルマークは頷く。

この学院に来てから、魔術実践の授業以外でも、灯の魔法はアルマークたちと共にあった。

リルティと夜の森にハンカチを探しに行ったとき。

ウェンディやネルソン、ノリシュと庭園の迷路に行ったとき。

遅くなった帰り道でたまたまクラスメイトの誰かと一緒になったとき。

試験が終わった日、庭園に花火を見に行ったときのモーゲンもそうだったか。

さまざまな場面で、クラスメイトたちが事も無げにこの炎を出した。

その明るい炎で、アルマークの足元も共に照らしてくれた。

アルマークにはそれができない。

いつもランプ頼りだった。

実は、それが少し悔しくもあった。

「使えるようになりたいです。灯の魔法」

「そうか」

イルミスは頷く。

「霧の魔法よりは少し難しいぞ。それに、危険だ」

「はい」

アルマークは頷く。それは重々承知だ。

「分かっています」

「覚悟はあるようだ」

イルミスは微笑んだ。

「では、教えよう」